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闇を齎す王の剣(2) ◆o.ZQsrFREM






「……次から次へと、邪魔ばっかしやがって」

 邪魔者を始末させようと差し向けた二体のカテゴリーキングと激しい攻防を繰り広げるクウガを見て、レンゲルはそう苦々しく毒吐く。

 ダグバの変身したブレイドとの戦いに水を差しただけでは飽き足らず――本当の意味での邪魔者――獲物にすらなり得ない雑魚の始末すら妨害し、そのくせ牙王自身とは積極的に戦おうとしない獲物の一匹の行動に、彼は不愉快さを隠そうともしなかった。

 ダグバもダグバで、先に自身と戦っていたと言うのに後から来たクウガの方にばかり気を向けている――『王』と紅渡の時と同様、自らを無視する二人への苛立ちが大きくなりつつあった。

 だがそこでレンゲルは、ブレイドがクウガに襲い掛かるわけでも、自分に向かって来るわけでもないということに気づいて、その気配で動向だけは把握していた究極の獲物の方へと振り向いた。

「……クウガと戦っている、金色の方――」

 レンゲルが振り返るのを待っていたかのように、構えも解いたブレイドは言葉を発した。

「スペードのキング、だったよね?」
「あぁ、そうだな」
「他のスペードのカードも、君が持っているの?」

 その声に、愉悦と興味の色を感じ取って。
 その対象が自身ではなく、装備品のカードであるということへの大いなる不満と、それを餌にすればやる気になるだろうという期待が鬩ぎ合ったが、それもまた一瞬の攻防。

「――あぁ」

 レンゲルの首肯に、ブレイドは突如、背負っていたデイパックへと手を潜らせた。
 そうして引き抜いた何かの機械を、左腕に装着してから――改めて、剣を構えた。

「そうなんだ――じゃあ、行くね」

 先程よりも増した威圧感に、彼の挙動を見守っていた牙王もまた、レンゲルの仮面の下で獰猛な笑みを浮かべ応じる。

「――来いっ!」



「――お待たせしました!」

 廃墟にて未だ続く戦いから帰還した、仮面ライダーキバ・ガルルフォーム――桐谷京介の無事を知らせる声に、一条は胸を撫で下ろす。

「早くしないと――ユウスケさんが、一人で戦っています!」
「わかっているわ――でも京介くん、ちょっと待って」

 今にも飛び出して行きそうだったキバを呼び止めた小沢は、アビスのデッキを彼が手にしたガルルセイバーに翳す。するとどう言った理屈か、鏡のように彼女の姿を映した刀身からベルトが現れて、その細い腰に巻きついた。

「――変身!」

 掛け声と共に小沢はデッキをベルトに挿入し、異形の鎧が彼女にオーバーラップする。

 鮫の意匠を持った水色の仮面ライダー――アビスへと変身を遂げた小沢澄子の横に並び、一条もアクセルドライバーを腰にしていた。

 ――ACCEL!!――

「変……身っ!」

 この手に取り戻した、照井竜の遺志の結晶――アクセルメモリを、ドライバーへと挿し込む。一条は赤く発光するアクセルドライバーのスロットルを握り込み、手前に捻った。

 ――ACCEL!!――

 轟くエンジン音と共に、ガイアウィスパーが再び、正義の戦士の名を叫ぶ。
 真紅の粒子が一条を覆い込み、次の瞬間には仮面ライダーアクセルへと、一条薫を変身させていた。

 遂に護るための力を取り戻した二人の刑事は、疾風の如く走り去るキバの背中を追い、戦場を目指し駆け始めた。
 いずれも、人間を遥かに超えた脚力を持つ仮面ライダーだ。十秒も経たぬ間に、彼らにとって再びのE-2エリア、五つの異形の交錯する戦場に到達する。

 クウガはレンゲルが召喚しただろう二体の怪人を相手取っていた。以前はさらに二体、加えてレンゲル自身を入れた五対一でも渡り合っていたクウガだが、前回よりもやや苦戦しているようだ。その原因が、単にダメージ故にやや精彩を欠く彼の動きによるものか、数が少ない方が呼び出された怪人も本来の実力を発揮できるからなのか、レンゲルの装着者がより強い戦士に変わっているからなのか――あるいはその全てによるものなのかは、アクセルには判断が付かなかったが――

「――離れて、小野寺くん!」

 ――STRIKE VENT――

 判断を付けるよりも先に、アビスが動いていた。

 三人の中で最も足の遅い――加えて装着者自身の身体能力でも劣るアビスだが、唯一の飛び道具を有していた。彼女の元に、再びガルルセイバーから鮫の頭部を模したような形の籠手が召喚される。

「このっ!」

 大きく振り被って繰り出した右手の先端から、勢い良く水流が射出される。極めて短いながらも、断面だけなら一つの河川程もある大量の水が高速で撃ちつけられたのだ。二体のカテゴリーキングの屈強な体躯もその運動量には敵わず、抵抗も数秒の間に周囲の瓦礫ともども押し流されて行く。

 ――Blizzard――

 跳躍して水流の直撃をかわしたクウガが彼らの横に着地するよりも早く、そんな電子音が廃墟に響いた。
 ブレイドと武器を弾き合って距離を取ったレンゲルがカードをラウズし、クローバーの刃の先から猛吹雪を発生させた。襲い来る洪水に対して放たれたブリザードは、瞬く間にそれを氷結させて、レンゲルの身を護り切る。

 ――Absorb――

「――それも、スペードのカードだね」

 水流を凌ぎ切ったレンゲルが、また別のカードをラウズしたことに身構えたアクセル達とは異なり、無造作に構えたままのブレイドは彼にそう言葉を掛けた。

「ああ、そうだぜ」

 見せびらかすように一枚のカードをブレイドの方に翳すレンゲル。一方で、ラウズしたにも関わらず何も起こらなかったことへの戸惑いに四人の仮面ライダーは襲われていた。

 だが、困惑している場合ではないと、アクセルはクウガへと向き直る。

「小野寺くん……俺達が、レンゲルの方を抑える」

 いつの間にか、あの二体の怪人はその姿を消していた。
 敵は再び、ブレイドとレンゲルの二人のみ。

「一条さん……」
「君はその間に、第零号を倒してくれ――頼んだぞ!」
「――っ、はいっ!」

 心底から、納得しているわけではないようだが。
 それでも力強い声音で頷いたクウガは、足を撓ませてブレイドの方へと跳躍した。

「おぉりゃぁあああああああああああああっ!」

 天からの激烈なロッドの打ち込みをブレイドはその剣で受け流し、持ち堪えた次の瞬間には斬撃を繰り出すが、瞬発力に優れた青のクウガが易々と刃に捉われることはなかった。一瞬で敵の間合いの外まで跳び出したクウガは長いロッドを何度か旋回させ、ブレイドに対峙する。両者は激突を繰り返し、アクセル達の元から離れて行く。

「テメェ……ッ!」
「たぁっ!」

 度重なる横槍に憤りを隠せない様子のレンゲルに、真っ先にキバが襲い掛かった。
 だが見もせずにレンゲルが構えた錫杖によってガルルセイバーは受け止められ、次いで鬼蜘蛛のような仮面がキバを振り向いた時、悪寒を感じたアクセルは既に駆け出していた。

 大振りに一閃された錫杖、その先端に備え付けられていたクローバーの刃がキバの鎧を上から下に蹂躙し、さらにそこに込められていた力がその身を吹き飛ばす。

「うわぁああああああああああああああっ!?」

 大きく弾き飛ばされたキバの身体をアクセルは受け止める。幸いキバの鎧を貫通されてはいないようだが、見ただけでわかる重い一撃だった。音撃戦士として鍛えた京介でも、無防備に受ければ大ダメージは必至だろう。
 レンゲルは錫杖を旋回させて穂を肩先に預けると、自らが吹き飛ばした相手を見やった。その口から苛立ちが漏れるのを、隠そうともしていない。

「何度も何度も、次から次に邪魔ばっかりしやがって……」

 ――SWORD VENT――

 レンゲルの憤怒の声に被せるように、そんな音声が響き渡る。
 アクセルの手の内のキバが、ダメージにも手放さなかったガルルセイバー――その鏡のように磨き抜かれた刀身から、三度アビスへと装備が飛ぶ。
 鮫の牙が連なったかのような双刀を振り被り、彼女は自身を操っていた仇敵へと、気合と共に突進していた。

「やぁああああああああああっ!」

 だが、彼女の太刀筋は拙い。京介よりもずっと、戦いに慣れていないのだろう。
 当然のようにレンゲルに迎撃される彼女の援護に行かなければ――何とか立てたキバを置き去りに、アクセルは駆け出したが……ユウスケにああ言ったものの、果たして照井に比べ、仮面ライダーアクセルとしての戦いに慣れていない今の自分がまともにやり合ったところであの強敵を下せるのか。脳裏を過ぎったその不安を晴らすかのように、一条の内を巡る地球の記憶がとある光景を彼に示す。

(――そうか!)

 そして一条も、アクセルの仮面の下で思い出す。正義の仮面ライダーと呼ぶべき、二人の男のことを。
 一人は本来の仮面ライダーアクセル――照井竜。最期の瞬間まで誰かを護り抜くという使命に殉じた、同じ警察官としても尊敬の念を抱かざるを得ない人物。
 もう一人は――言うまでもない、五代雄介。

 二人の男の雄姿が、一条の脳裏に蘇る。その二つを知る一条だからこそ、選べる選択肢がそこにある。

 ――ACCEL MAXIMUM DRIVE――

 叫びと共にアビスが剣を振り下ろす間に、アクセルはベルトのレバーを握り締め、次にドライバーのパワースロットルを何度も捻りながら、レンゲル目掛け突撃する。

「おぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 まさに目の前では、アビスが強烈な刺突を受けて装甲を抉られていた。だがレンゲルは後退する彼女に追撃を仕掛けず、赤いオーラを纏ったアクセルの方を向いていた。
 これで良い。敵の注意を自分に向けることで、結果的に二人を護れる。
 レンゲルは当然、明らかに大技の体勢に入ったアクセルを放置せず、錫杖を叩きつけて来た。ラウズカードを使わなかったのはそんな余裕はないという判断からだろう――そうなると踏んだ、一条の読み通りに。

 一撃目を胸に受け、体勢が崩れ掛けた。それでも力強く地を踏み持ち堪えると、相手が二撃目の準備に入るついでにクローバーの刃を掠めさせて行き、それだけでも肩口の装甲が少し削れる。続いた横殴りの一撃を脇で受け、いよいよ装甲が貫通された。だがそこで刃を咥え込んでそれ以上の侵攻を許さず、一条自身が切り裂かれるのを防いでくれた。

(――ありがとうございます、照井警視長っ!)

 胸中でこの力を託してくれた恩人に礼を述べながら、新たなアクセルは度重なる攻撃にも決して歩みを止めなかった。
 どんな攻撃だろうと、来るのがわかっていれば耐えれば良い――紫のクウガのように。
 まともにやり合っても、敵の実力が遥かに上で、徒に消耗するだけなら――乾坤一擲、全力を注ぎ込んだ捨て身の技で一気に勝負を着ければ良い。
 その一念で遂に迎撃に耐え切ったアクセルは、その場で身体を捻りながら跳び上がった。

 本来の間合いの長さを捨てて零距離から放たれた、焔のように赤いエネルギーを纏った後ろ回し蹴りが、咄嗟に後退しようとしたレンゲルの胸板に叩き込まれた。

 レンゲルは数メートル向こうへ飛んだが、手応え――いや足応えから直撃ではなかったことを悟って、アクセルは臍を噛む。敵はこちらの蹴りに見事に相対速度を合わせて後退することで、その威力を軽減させていたのだ。
 だが、威力を落とそうと仮にも必殺技が命中したのである。レンゲルといえども確かに消耗したらしく、一瞬だけ姿勢を崩したのをアクセルは見逃さなかった。

 しかしアクセルもまた、アクセルグランツァーを浴びせるまで張っていた集中力の糸が僅かに緩んだその瞬間、それがプツリと切れてしまっていた。結果、ここまで蓄積されたダメージに屈し、思わず膝を着いてしまう。

 直後――

「――ガルル、バイトッ!」

 狼の遠吠えと共に、背後で何者かが跳び上がる気配をアクセルは感じた。
 何者かなど、考えるまでもない。決死のアクセルが与えたダメージの生んだ好機、それを逃すまいと追撃を仕掛けたキバだ。

 だがレンゲル――牙王は既に一度、その技を受けている。その上で実力の劣るアクセルの捨て身の一撃を受けた経験から、今度こそそれを許さない強力な技で迎撃されてしまう。そうなると、空中で身動きの取れないキバは恰好の的だ。

 彼を援護しなければ――そう思ったアクセルだったが、激痛によって始動が遅れる。

「……させないわっ!」

 だが代わりに、レンゲルの行動を阻止せんと飛び掛かった者がいた。
 二刀を振り被ったアビスの猛襲は、レンゲルからすれば容易に対処できるものだろう。そのことはアビスも織り込み済み、それでも十分だった。

「――チィッ!」

 さすがに、凶器を手に躍り掛かって来るアビスのことを完全に無視するのは、レンゲルにもできなかった。またラウズカード使用を試みていた体勢からレンゲルラウザーが翻り、再び水色の装甲に深い傷を刻む。だが強烈な一撃に弾き飛ばされながらも、アビスの仮面の下で小沢澄子はあの勝気な笑みを深めていたことだろう。

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 アビスを傷つけられた怒りを込めて、キバの絶叫が地に落とされる。

 満月を背景にした孤影を撃墜しようと、黄金の影がそこへ伸びる。コーカサスゼクターの突撃はしかし、その下から大顎を開いたガタックゼクターによって胴体を挟み込まれて、在らぬ方向へと逸らされて行った。

「ブチかませ、京介っ!」

 ゼクターの援護を見届けたキバットの声を合図に、彗星のようにキバが降下を開始した。

 もはやラウズカードを使う暇もない。以前一太刀浴びた経験から、半端な防御も無駄と判断したのだろう。レンゲルは天から降って来る刃から逃れようと身を翻す。
 だが青い弾丸はそれさえ追尾するように、物理法則を無視して動いた。自らを追尾して来る剣に観念したかのように、レンゲルが激突の寸前にキバへと向き直る。
 ――違う、諦めたのではない。下手な防御が意味を成さず、迂闊に逃げても追尾されるなら、ギリギリでその太刀筋を見極め、回避しようと言うのだ。

 アクセルが敵の思考に気づいた瞬間、青き迅雷が廃墟と化した市街地に突き刺さった。

 まさに落雷のような凄まじい音と衝撃を伴った着地と斬撃――しかしレンゲルは、未だ健在だった。

 錫杖で着地したばかりのキバを容赦なく打ち据えたレンゲルだが、その一撃は先程までに比べれば鋭さを欠いていた。見ればその右半身の金の装甲とその下の濃緑のスーツが、先の一撃によって切り裂かれている。その下の牙王の身体自体は薄皮一枚程度しか痛手を被っていないようだが、それでも確かに刃は届いていた。

 着実に、こちらの攻撃は効果を上げている。奴が完全にガルル・ハウリングスラッシュを回避し切れなかったのも、アクセルグランツァーのダメージと無縁ではあるまい。

 それでも、消耗の度合いはこちらの三人も同じだ。依然として奴は三対一でもこちらを圧倒するだけの力を見せている。

 ――Lightning Blast――

 奴が態勢を立て直す前に、さらなる大技で叩みかける必要がある。電子音が響いたのは、そう考えたアクセルが立ち上がろうとした、まさにその時だった。



 リーチと移動速度、その二つで勝るためにブレイド相手に優位に立っていたはずだったクウガが、その有利を手放してしまったのは戦場に少年の悲鳴が響いた時だった。

「――京介くんっ!?」

 だがクウガが前にしていた相手は、宿敵の晒した隙に一切遠慮せず打ち込んで来ていた。

「余所見はダメだよ、もう一人のクウガ」

 そんな叱責と共に襲い掛かったブレイラウザーの切っ先を、クウガは咄嗟にかわすことができた。後少しで胸板を抉っていただろうそれをクウガはぞっとした思いで見ながら、ドラゴンロッドを旋回させる。
 クウガは自分が場を離れたその直後に届いた苦戦の様子に気を取られ過ぎていた。その隙を突かれた焦りから、咄嗟に敵を牽制しようとした、そんな程度の一撃だったが――究極の域に達した霊石を持つ者を相手には、あまりに杜撰な行動だった。

 ――不安定な体勢から繰り出した甘い一撃を、ブレイドは左手で掴み取った。

 ただの牽制打と言ってもあっさり受け止められたことに驚きはしたが、所詮相手は片腕。いくら腕力が低下した形態と言えど、両手なら押し切れる――そう判断をしたクウガが、両腕に力を込める前に、ブレイラウザーの柄尻が腹部に叩きつけられていた。
 一度だけとはいえ究極の形態へと変身を遂げたことで強化された再生力――その働きで塞がっていた、レンゲルラウザーによって与えられた刀傷が再び開く。鮮血を零すクウガ、その両腕から、痛みによって一瞬だけ力が抜けていた。

 握力の緩んだその一瞬を見逃さず、ブレイドはドラゴンロッドを奪い取る。

 ドラゴンロッドがただの鉄屑に戻る前に、ブレイドはそれを持ち主へと叩きつけた。声もなくタイタンフォームへと超変身を遂げ対処を試みたクウガだったが、鋭い打ち込みに思わず体勢を崩し、鎧の上をさらにブレイラウザーが擦過する。それでも微かな切り傷で済ます硬度を鎧は持ち合わせていたが、その脳天にドラゴンロッドが叩き落とされた。
 寸前、クウガのモーフィングパワーの残滓の失せた青の棍は折れた銃身に戻り、クウガの頭部に超人の腕力で叩きつけられたことで、さらに半ばからへし折れる結果になった。これではもはや、ドラゴンロッドにもタイタンソードにも変えることはできないだろう。

「――うぉりゃあっ!」

 だが武器を失ったことを嘆く前に、たかが鉄の棒で打ち据えられただけで一切ダメージを受けずに済んだクウガはその幸運に拳を握り込み、眼前の宿敵へと繰り出していた。
 しかし強固な代わりに重い鎧を着込んだ紫のクウガの動きは、他のフォームと比べると機敏さに欠けていた。それはブレイド相手でも同じことで、彼は首を振るだけで悠々と拳を回避してしまう。さらに装甲に覆われていない剥き出しの二の腕へと、ブレイラウザーが叩きつけられる。腕を斬り落とされこそしなかったが、その表面を切り裂かれ、クウガの行動をまたも激痛が縛ろうとする。痛みによる拘束を振り払って、棍棒の如く腕を叩きつけようとしたクウガだったが、側転してブレイドはそれをかわした。

 仕掛けたその時だけは、ブレイドとレンゲルの二人と同時に渡り合っていたクウガ――ユウスケだったが、それもフォームチェンジに牙王が対応するまでの話だった。そもそもの技量の面では牙王にもダグバにもユウスケは大きく劣り、しかもダグバは身体能力でもユウスケと互角以上なのだ。変身者の間で開いたこの差が、武器を使った戦闘で諸に出た。
 それでも、変身している形態への経験値だけは、本来の姿であるクウガに変身しているユウスケがずっと上のはずだったのだが――ダグバは既に、おそらく正規装着者と比べても大きくは見劣りしないほどにブレイドに馴染んでいた。こちらが圧していた時は気にもしなかったそんな事実が、無性にユウスケを苛立たせる。

(――誰かを護るための力が、こんな奴に……っ!)

「ねえ、もう一人のクウガ」

 怒りを闘志に変えようとしたクウガへと、ブレイドの仮面の向こうからダグバが言葉を投げる。

「今は君との遊びより、牙王の持っているカードに興味があるんだけど……」
「――ふざけるなっ!」

 何を考えているのか知らないが、これ以上好きにはさせない。
 その怒りのままにクウガはマイティフォームへと超変身し、数歩後退った。
 そうして右足に炎を纏わせながら、後退した分助走したクウガは思い切り地を蹴って、己が身体を一本の矢として敵に放つ。

「おぉおおりゃぁああああああああああああっ!」

 悪を砕かんと言う裂帛の叫びと共に、古代の勇者は彼我の距離を詰めて行く。

 必殺の蹴りをしかし、ブレイドは避けようという素振りすら見せない。

 ――Beat――

 そう迎え撃つようにカードをラウズするも、コンボですらない技に打ち負けはしない。クウガはさらに力強く叫びを上げながら、ブレイドへと距離を瞬時に消失させる。

 ――Mach――

 だがブレイドはマイティキックの当たる寸前、もう一枚のカードをラウズした。

 それはコンボにはならない、前のカードとは繋がりのない二枚目だったが――足の裏がその身体を捉える寸前、ブレイドの姿が高速移動の霞となってクウガの視界から消える。

「――っ!?」

 超高速で身を捌きマイティキックから逃れたブレイドは、アンデッドの力を込めた拳をまたもクウガの腹部に叩き込んでいた。
 声にならない悲鳴を上げて、叩き落とされたクウガが身を捩る。その顔面に容赦なく、ブレイドの爪先が突き刺さった。

「後で、究極の力でたくさん、僕を笑顔にしてね」

 そうダグバの声が聞こえるが、蹴り飛ばされて視界が塞がった上に激痛に襲われているクウガには答えることなどできるはずがない。

 ――Kick――
 ――Thunder――

 ――Lightning Blast――

 何とかクウガが起き上った時には、そんなコンボ成立を知らせる電子音が耳に刺さった。
 自分が狙われているのかと一瞬身構えたクウガだが、実際にブレイドが狙っていたのはアクセル達との戦いで消耗したレンゲルだった。

 レンゲルもまたブレイドが仕掛けようとしていることに気づいて、レンゲルラウザーのカードトレイを展開し、こちらもコンボで対抗するか、リモートで相手のコンボを崩すかの対処を図ろうとした。
 だがその目論みを潰したのは、闇を裂いて飛来した銀の光条だ。

 既にカードを読み取り、一時的にその用途を済ませたブレイラウザーを――あろうことか、ブレイドは投げつけていたのだ。

「な……っ!」

 飛来した剣にレンゲルは掌を浅く裂かれ、彼が既に手に取っていた物もトレイに残っていた物も関係なしに無数のカードが散逸する。

 そうして驚愕していたレンゲルへと、稲妻を纏ったブレイドの蹴りが一本の矢となって突き刺さっていた。
 咄嗟に武器で受け止めたレンゲルだったが、必殺技の威力に体力を消耗していた両腕が持ち堪えられず、ガードごと蹴り抜かれる結果となる。

 醒杖の柄部分を装甲に減り込ませながら、レンゲルは遥か後方へと射出されていた。

 自らの蹴りが捉えた相手が地面に叩きつけられ、過剰ダメージに変身が解除されるのをまるで見ようともせず、ブレイドは実に楽しそうに散らばったカードを物色していた。

「これはクローバー、要らない。ハート、これも要らない――あ、揃った!」

 そう無邪気に喜ぶ声が響くが、クウガもアクセル達も、痛みに縛られて動けなかった。何者の邪魔も受けず、実に楽しそうに六枚のカードを選別したブレイドは、左腕の装置にその中の一枚を挿入する。

 ――Absorb Queen――

「――っ、超変身っ!」

 痛みを圧して叫ぶが早いか、電子音が響いた時点でクウガはドラゴンフォームに超変身し、ブレイドへと飛び掛かっていた。
 ユウスケの本能が、訴えていた――ブレイドを今止めなければ、大変なことになると。
 アクセルも、アビスも、キバも。彼らが任せろと言っていた、見事にその役を果たしたレンゲルとの戦いで受けたダメージで動けない。それなら、自分が何とかしなければ!

 だが……痛みによって動きの制限されたクウガの手はちょうど、ドラゴンロッドがそこにない分だけ、ブレイドに届かない。

 ――Evolution King――

 ……そうして。終わりの文言が、遂に紡がれた。

 二枚目のカードが腕の機械にラウズされた瞬間、跳び掛かっていたクウガの姿をも黄金に染め上げるほどの眩い光を伴って、十二枚の輝くカードがブレイドを中心に展開され――その身体と融合して行く。

 左右の脛に、膝に、腿に、右の下腕部と両上腕部、そして左右の肩へ――次々と紋章が刻まれる一瞬の過程が、何故かゆっくりと引き延ばされたようにクウガには感じられた。

 顕現したのは、黄金の鎧にその身を包んだ三本角の重厚な騎士。
 それはあり得なかったはずの、十三体のアンデッド全てと融合した奇跡の存在。
 全ての生命を狩り尽くす死神、ジョーカーアンデッドと同質の力を有する者。
 BORADが誇る、ライダーシステムの究極形態――本来の歴史ならば今頃、正規装着者の変身した姿をユウスケが目にしていたはずの――仮面ライダーブレイドキングフォームの威容だった。

 虚空より生じた、紺碧の鍔を持った黄金の大剣がその左掌に掴まれ、動き出すのを見て、未だ宙にあったクウガは反射的にタイタンフォームへと超変身していた。
 だがそんな変化に構わず、黄金の大剣は振り上げられた。

「――うぇいっ」

 ――そんな、何の気負いもない一閃で。

 鉄壁を誇ったはずのタイタンフォームの装甲が、紙のように容易く切り裂かれていた。

 その奥の肉体に届いて血を噴き出す、斬撃の痕にクウガ自身が戦慄するよりも先に――ブレイドの右下腕部、獅子の紋章が黄金の輝きを見せた。
 次の瞬間、振り抜かれた剛拳がクウガの顔面を捉え、拉がせていた。

「――っ!?」

 猛烈な勢いで、クウガの身体は瓦礫の山へと叩き込まれる。行先にあったコンクリ塊や木材を次々と砕くことになったが、そんなものはブレイドの拳に比べれば何の意味もない激突だった。
 そのあまりに強烈な衝撃に、クウガは現実感すら消失していた。上下の区別を見失い、まるで四肢が脱落したかのようにまったく身体を動かせなくなっていたのだ。
 その身体が色を失い白く変わり、二本の角が短く縮んでいることに気づく余裕もなく。

 小野寺ユウスケの意識は、僅かな――本当に僅かな、そして惨劇が展開されるには十分過ぎる時間、そのダメージによって拘束された。



 ――――そうして、主賓が静観せざるを得ない態勢に入ったことで。

 ――魔王による殺戮の宴が、幕を開けた。




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時系列順
一条薫
ン・ダグバ・ゼバ
小沢澄子
浅倉威
桐矢京介
牙王
小野寺ユウスケ