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 巨体を誇るその白亜の建造物の前に、縁のない眼鏡を掛けた青年は立っていた。
 青年と言っても、名簿に金居という名で記された彼の正体は上級アンデッドたるカテゴリーキング、ギラファアンデッドが化身した姿であり、厳密には人間ではないのだが。

 彼の眼前に立つ病院には、まるで内側から食い破られたかのような形でその中身を晒す穴がいくつか散見できた。既にこの場所で何かの争いがあった様子だが、距離や闇夜によって濃度を増した影によって、人間よりも余程優れた金居の視力を以ってしても壁を破られた大まかな部屋の様子しか認識できなかった。
 だが、病院の一階は灯りが点き、また微かだが中で人の話す声が聞こえていた。その他には目立った様子もないことからして面倒な争い事が起こっているわけではなさそうだ。となれば、乃木怜治が放送前の約束を守り、情報を持った参加者をここに集めてくれているだろうか。
 その中にはひょっとすると、今は後方で待機している同盟相手の狙う標的――世界の破壊者ディケイドの情報を持つ者もいるのかもしれない。

 いや、仮に情報を握る者がいなくても、金居からそのディケイドの存在を知らせるだけでも十分に意味がある。世界を破壊する悪魔のことを知れば、参加者達は破壊者を警戒し、場合によっては自分から討伐に向かってくれるかもしれない。そうなれば労せずして金居は競争相手である他の参加者や、討つべき大敵であるディケイドを消耗させることができるという寸法だ。

(もっとも――うまく話ができれば、だがな)

 ふと金居はおよそ二時間前の戦闘にて、取り逃がした仮面ライダーの存在を思い出す。
 金居達が仕留めた同行者からの呼び名を名簿と照らし合わせると、乾巧なる人物であることはわかっている。交戦した彼には既に金居が殺し合いに乗っているということが露呈している以上、彼の口から他の参加者へとその情報が渡り、金居を警戒している者がこの病院内に居たとしても何ら不思議ではない。

 さらに言えば、金居をこの病院へと誘った取決め――その相手である乃木怜治という男もまた、油断のならない相手だった。彼は殺し合いを阻止し主催者を打倒するという目的を掲げていたものの、その言動を見るにただの善人ではないことは明らかだった。交流は決して長い物ではなかったが、主催である大ショッカーへの反逆も善意や良心によるものなどではなく、独自の目的があること、そしてそのためには手段も選ばないだろうことは容易に想像が付いた。

 金居がそんな乃木を警戒しているように、乃木の方もまた金居を警戒している可能性は十分に考えられる。何と表現すれば良いかわからないが、あの男にはどこか自分に近い物を感じていたため、ある種の確信とも言える感覚が金居の中にはあった。

 ……もっとも、間違いなく強敵である乃木と事を構えるなどあの時点ではどうしても避けたかったが、今は状況が違う。こちらのスタンスが露見しているなど抗戦もやむを得ない場合には乃木や他の参加者にダメージを与えて離脱すること、いや、ひょっとすると全滅させることも可能かもしれない。そう思えるほどの力が――最強の太陽すら葬り去る暗黒の暴威が、今の金居の手の内にはあった。

「……ま、何もなく、穏便に事が運べばそれが一番だがな」

 この、世界を懸けたバトルロワイヤルにおいて、間違いなく今後に重大な影響を与える行動を前に今一度思考を巡らせた金居は、そうわかり切った結論を呟いた。

「行くぞ――サガーク」

 デイパックに身を潜めた、自立した意志を持つ変身アイテムにそう呼びかけた金居は、眼前にそびえる大病院の自動ドアを目指し、歩みを始めた。

「――遅かったじゃないか、金居」

 扉が開いた瞬間、互いに最初に目についた長身痩躯を黒衣に包んだ男が、わざとらしい笑みを浮かべて両腕を広げた、どこか芝居染みた物言いで金居を出迎えた。

「状況が状況だからねぇ……心配したよ?」

 まるで気持ちの籠らぬ言葉を投げて来た乃木怜治に、「それはすまなかったな」と同じく感情を込めず、適当な挨拶を金居は返す。
 乃木の口にしたように、待ち合わせの時刻は本来22時――だが金居が実際に扉を潜ったのはそれより10分近く遅れていた。
 穏便に事が運べばそれが一番だとはわかっていても、都合良く事態が動くことばかりを期待するのは愚かなことだ。故に金居は先の戦闘で使用した自分達の変身の制限が全て解けるまで、病院に足を運ぶのを待っていた。そのために、待ち合わせした時刻に遅れたと言うことだ。

「――とはいえ、この程度の遅刻は誤差の範囲だろう?」

 答えながら金居は、ロビーにいる人影を一瞥して行く。

 人数は確認できた限りで九人、その内知っている顔は乃木の他に三人。乃木と共に情報交換を行った葦原涼に、金居と同じ世界の住人である橘朔也。後は名前を知らないが、放送の直前に姿だけは確認した、乃木よりさらに長い黒コートを纏った短髪の男――五代の元同行者だ。
 紅渡から伝え聞いた、紅音也と名護啓介の特徴に合致する人物は見当たらない。これなら、いざという時には存分に同盟の力を活かせるだろうと金居は胸を撫で下ろす。

(橘朔也か……こいつには、まだ金居としての名と顔は知られていないはずだが)

 本来は敵対関係にある彼の存在を厄介に思いながらも、まだ自分が最後のカテゴリーキングであるとは看破されていないはずだと金居は判断――できなかった。

(……明らかに警戒されている、か)

 一瞥の間に、金居は部屋中から感じる自身への警戒の念――中には敵意すら織り込んだ視線から、のんびりと情報交換を行う当初の目的を早々に妥協することを決めた。

 だが、それでも足を踏み入れた瞬間攻撃されると言う羽目には陥らなかった。ひょっとすると、金居を警戒していた乃木に言い含められただけかもしれないとも考え直す。
 いつまでも居座っていてはどんな目に遭うかわかったものではないが、それが可能な状況であるならまずは最低限の対話を試みようと判断した金居は、乃木に声を掛けた。

「それにしても、随分と集まったもんだな」
「ああ。どうやら事態は我々の想定を超えて深刻なようでね……ここに集まった者の多くは、何度か全滅の危機も潜り抜けて来たそうだ。それだけの精鋭がなおもこうして徒党を組む必要に追われるほど、この地には危険人物が闊歩しているらしい……まったく、恐ろしい話だよ」
「……無能な輩は仲間に引き入れないと言っていたな。ということは、ここにいる者達は皆、おまえが有能だと判断したということか?」
「――有能な者だけかと言われれば、無論例外はいるがね」

 ちらり、と乃木が部屋の隅に縮こまっていた女を見やった。明らかに緊張した面持ちの女は他の面子と比べると場馴れした様子だとは言えず、確かに浮いた存在にも見える。

「だが、考えを改めたよ。共に手を取り合い、大ショッカーを打倒しようと言う同志が多いに越したことはない。先に言ったように、この地はどうにも恐ろしいのでね」
「なるほどな。確かに、仲間は多いに越したことはないだろう」

 要するに、あんな女でも何らかの利用価値があるのだろうと金居は見当付ける。少なくとも橘のような正義の仮面ライダー達と協力するには、乃木と言えども彼女のような弱者を軽々と切り捨てるわけにもいかないのだろう。

「……そう。大ショッカーの言いなりの駒となるような、愚か者でもなければね」

 剣呑さを帯びた声と視線を浴びせられたが、金居は怯んで出遅れると言う隙は作らなかった。

「――その大ショッカーの幹部を名乗る者が吐いたと言う、情報を得た」

 今にも詰め寄ろうとしていた乃木が、金居の言葉に機先を制されたように身を強張らせる。
 これには乃木だけではなく、他の者達も虚を突かれた様子だった。

「――何?」
「アポ――」
「――アポロガイストのことか?」

 そこで、乃木のすぐ後ろに立っていた青年が、どこか尊大な様子で口を開いた。
 直前に、同じことを言葉にしようとしていた女のことは無視して、乃木が青年を振り返る。

「……そうか。門矢士。君は、この殺し合いに参加した大ショッカーの幹部を知っていたな?」
「ああ。俺達の旅を何度も邪魔してくれた、迷惑な奴だったな」

 ここに来てすぐも一度襲われた、と門矢士なる青年が続けるのを見て、金居の脳裏にまさかと閃く物があった。
 そんな金居の内面の機微など考えもしない様子で、士はずけずけと訊いて来る。

「……それで? 奴にどうやって、何を吐かせたって言うんだ?」
「いや……言わなかったか? 口を割らせたのは俺じゃない。奴を倒したと言う参加者と偶然出会って、彼らから警告されただけだ」

 予定していた通りの偽りを述べながら、金居は乃木に注意を払いつつも、士を見て続ける。

「世界の破壊者、ディケイド」

 意図的に切り出した名に、目の前の青年の双眸が微かに見開かれるのを、金居は確かに見た。

「奴を破壊しなければ、殺し合いの結果に関わらず……全ての世界が滅びると、な」
「……悪いが、まるで信憑性を感じられないね」

 だが金居の宣告に、乃木は呆れたように肩を竦めさせていた。
 金居も手放しで信じて貰えるとは思ってはいなかったがために、説明しようと言葉を続ける。

「おまえ達からすればそうだろうな。だが俺の世界には、ディケイドと似たような存在がいる。地球の支配種族を決するべく、その代表たる怪人が争う場に、勝利すれば世界を滅ぼす死神が紛れ込んでいるんだ。儀式のような戦いを成り立たせるためのリスクのようなものだろうが、今回のそれぞれの世界を懸けた戦いにも、仮に同じような役割を担う者がいたとしても、俺はそれほど妙だとは感じなかった」
「待ちたまえ。君の世界でそうだからと言って、これもそうだという根拠にはならないだろう?」

 少し呆れた様子の乃木が人差し指を立てると、それを勿体ぶった所作で左右に揺らす。
 だが金居はその様子を凝視はせず、再び病院内にいる者達の反応を探っていた。
 橘や短髪の男は、驚愕を含んだ視線を士へと向けていた。疑わしげな視線を金居へと向けるパーカーの少年もいたが、ほとんどはその脇の女と同じく、士へと視線を集中させていた。
 その中で唯一、片袖のないコートの男がニヤついていたが、まあこれはどうでも良い。
 この反応で実質答えは得られたような物だと判断した金居は、もう少し茶番に付き合うべきかと乃木に小首を傾げてみせた。

「……何故だ? 大ショッカーの幹部から得た情報があり、そこで警告された存在と近似の例があるなら、それから説得力を感じることはそこまで奇妙なことか?」
「いやいや。まず前提として、私は大ショッカーの言うことを、一切、信じてはいない。今の話が本当なら、なおさら信用を無くしたよ。ディケイドが本当にそんな物騒な存在なら、普通はこんな場所に放り込む前に始末しないかね? こんな首輪を付ける余裕があるのだから」

 そう乃木は、自らの首に嵌まった銀色の円環を示す。

「先も言ったが、この殺し合いにおいて、俺の世界で言う死神――ジョーカーの役割をさせることが目的かもしれんぞ?」
「ただでさえ殺し合いを強要などと舐めた真似をした上で、そんなゲーム染みたふざけたことをする時点で、大ショッカーは信用できないと言っているのだよ……それと同じくらい、奴らの口車に乗った君の愚かさも、ね」

 ぱちん、と。乃木が指を鳴らした音が、綺麗に響いた。
 それが合図だったのか。金居から見て右手の廊下、その最初の診察室から、茶髪の青年が姿を現す。
 その見知った顔に、金居は苦虫を噛み潰した心地になった。

「――よう」

 金居を視線だけで射殺さんと睨むのは、二時間前に取り逃がした参加者――乾巧だった。
 そんな乾から金居へと伸びた敵意の視線を背にした乃木は、愉快げな様子を隠そうともせずに金居に語り掛けて来ていた。

「既に彼から、君が五代雄介なる人物を操り、天道総司を殺めたことは聞いていたのだよ……まあ、せめて話ぐらいは聞いてやろうかと思ったが、結局は大ショッカーに良いように騙され他者の殺害を煽動するだけとは、些かがっかりだよ」
「――サガーク」

 乃木の勝利宣言になど、付き合ってやる必要はない。
 この展開は十分予想済みだった。故に金居は打ち合わせ通り、ポケットに手を突っ込んで、そこにある切り札を握り締めながら、デイパック内のサガークの名を呼ぶ。
 デイパックの口の一つから銀の円盤が飛び発つより早く、金居は重心を前に傾けていた。

 こうなることは織り込み済みだったが、事前の打ち合わせでは想定していない事実が一つ、目の前にあった。
 それは――ディケイドが今、金居の間合いの中で、その身を無防備に晒していること。

「――はぁあああっ!」

 一瞬の間に人間を模した金居の姿から本来のギラファアンデッドへと戻ったその両手には、ヘルタースケルターと呼ばれる異形の双剣が顕現し、握り込まれている。
 その切っ先が唸りを上げて、裂帛の気合と共に門矢士の喉元へと迫っていた。
 首輪の制限が働いているのかは知らないが、人間の姿をした門矢士――ディケイドの反応は、上級アンデッドの至近距離からの奇襲に万全な備えを望むには、あまりに遅過ぎる物であった。

「――彼は大ショッカーを潰すのに、非常に有用な人材でね」

 だがそんな千載一遇の好機は、火花を上げて阻止される。

「貴様如きに殺らせるわけには行かん」

 ヘルタースケルターの刃を阻んだのは、毒々しい紫をした、左腕と一体化した巨大な剣。
 全身を同色の甲殻で覆い、両肩にはカブトガニを思わせる装甲を纏ったその怪人は、乃木の立っていた場所に忽然と現れていた。

 やはり、人間ではなかったか――この何らかの虫に似た怪人こそが乃木の正体だと悟った時には、敵は彼の右に立っていた士を庇う、その巨大な刃を生やした左の腕を翻していた。
 少々不意を衝かれたといえ、カテゴリーキングであるギラファアンデッドが、あっさり押しやられるほどのパワー。戦慄を覚えながらも何とか体勢を立て直した時点で、既に乃木は右のレイピアを思わせる細身の剣で追撃を放って来ていた。
 何とか左の刃で受けるが、ギラファアンデッドの怪力で以ってしても容易には止まらない。視界の半分を奪うほど大量の火花を散らし、ようやく突きの勢いを完全に殺し切る。
 だが身体を捻り切ってしまい、俊敏な回避など望みようもないギラファアンデッドの頭上へ再び乃木の大剣が振り翳される。脳天へと振り下ろされた断頭台の一撃を右の剣で受けたが、これまた止め切れず、刃の噛み合う不快な音と共にギラファアンデッドの額から生えた右角の先端に乃木の左腕が喰い込んだ。そして踏み込みに堪え切れず、身体が後方に投げ出される。
 仕掛けた時点でデイパックから離れ、仲間達の元へと合図を送りに行ったサガークが小さな隙間から潜り抜けた自動ドアの扉が完全に開き切る前に、ギラファアンデッドがそのガラス戸を粉々に破砕し、病院の外まで放り出されることとなった。

「ぐっ……!」

 ガラスに飛び込んだ程度で、強固な甲殻を全身に纏ったギラファアンデッドが傷を負うことなどはない。だが目の前を零れ落ちた緑色の滴から、自慢の角が欠損している事実を悟る。
 あの刃は、十分に上級アンデッドを脅かす威力を秘めている。そう認識しながら体勢を整え無事着地したギラファアンデッドへと、既に乃木が変身した怪物は追撃を仕掛けて来ていた。

「金居ィッ!」
「――ッ、ハァッ!」

 予想に違わぬ強敵に、ギラファアンデッドは双剣を構え、全力で迎え撃つ覚悟を決める。
 同時に、左の刃の柄との間に握り込んだ石を通じて、忠実な僕へと命を飛ばしていた。

 ――自らの窮地を救え、と――



 サガークが戻って来る前から、紅渡は既にゾルダへの変身を完了していた。
 金居の向かった病院から聞こえたガラスの破砕音に、激烈な勢いで交わされる剣戟の響き。金居が彼の望んでいた穏便な情報交換に失敗したことは、無言のままの五代雄介が腰にベルトを出現させた挙動からも明らかだった。

「――二人はいた? サガーク」

 それでも渡が次の行動を起こすのにサガークを待ったのは、彼から確認せずにはいられない重大な懸念がその胸の内にはあったからだ。

 父音也と、師である名護啓介。同じ世界の出身である彼らの安全を護ることは、渡にとってこの戦いにおける最重要事項の一つだ。彼らを巻き込み、傷つける恐れのある行いなど渡にはできなかった。

 果たしてサガークは、王の問いに首を振った。
 そんな様子に、安堵とも、落胆とも付かない感情を覚えたことに戸惑いながら、渡はデッキから一枚のカードを引き抜いていた。

「――やるのか、キング?」

 念押しするどこか固い声は、渡の協力者である相川始の物だ。あるいは彼には、先程渡の内を走った戸惑いが見抜かれているのかもしれない。
 例え、自分の身内がいなくとも――仮面ライダーである彼らと、完全な決別を迎えることになる引き金を自ら押す覚悟があるのかと、言外に尋ねられている気がした。

「――無論です」

 だが、それに対する渡の返答は一つしかない。
 最後には仮面ライダーに倒されるべき悪が――今頃になって、彼らとの対立を忌避する理由がどこにある。

《――FINAL VENT――》

 自分達の世界を救うため、異世界の参加者を皆殺しにする――その決意を改めて固めた若き魔王は、敵を殲滅するための手札を切った。

「――絶滅タイムだ」



 互いの刃が擦過するたび、激突によって生じた小さな花火が、カッシスワーム グラディウスと、相対するギラファアンデッドの姿を夜の中で照らし出す。
 背後ではまだ、仮面ライダー諸君が戦闘態勢に入るための「変身」の掛け声も出さず何かを言い争っている。気楽な物だと苛立ちすら覚えながら既に何合切り結んだのかを、億劫に感じたカッシスワームは数えていなかった。
 だが一々手数を数えることは面倒でも、互いの斬撃が激突し、弾き合うたびにその手応えでわかる。目の前の怪人は、このワームの王たる者が直々に相手をしてやるだけの価値があると。

「イィェアッ!」

 カッシスワームの叫びと共に振り下ろされた大剣と、ギラファアンデッドが頭上に構えた鋏が激突し、互いに牙を立て合った得物同士が甲高い絶叫を上げる。だが使い手同様尋常なモノではない刃物達は幼子のように悲鳴を訴え、澎湃と流す涙の如く大量の火花を散らし続けようと、その実ロクに損耗しないまま次々と衝突を繰り返す。
 だが双剣が噛み合うたびに、大きく体勢を崩すのは決まってギラファアンデッドの方だった。それも当然だと傲岸に受け止め、カッシスワームは左右大小の剣を揮い、苛烈な攻めを続ける。
 そもそもはあの天道を倒したと言うライジングアルティメットの方を警戒していたために、金居を相手に無駄に変身するつもりはなかった。だが自分の他に奴との交渉に使えそうな人材が見当たらなかったため、結局は自身が最前線に立ち、そしてその位置関係から応戦せざるを得なくなっただけだが、今は正解だったかとも思う。金居の単純な戦闘力は、クロックアップなどの互いの特殊能力を度外視すればあの間宮麗奈、ウカワームすら凌ぐ勢いだ。下手に仮面ライダー諸君に応戦させていては、本命の前にこちらの戦力を消耗させていた可能性が高い。

 その上で、カッシスワームはやはり自らの方が優位に立っていることを微塵も疑わなかった。
 互いの剣技は大凡同等。だが単純な膂力で以って、現在はこちらが優勢だ。こちらは制限故に使用できる確信はないが、これまでに修得した必殺技も、クロックアップや、その最上位のカッシスワーム固有能力たるフリーズも温存した上で、だ。
 おかげで難なく病院から追い出し、門矢士やフィリップなど、対大ショッカーへの有効な駒を巻き込まず戦うことができている。経過は今のところは上々か。

 横薙ぎに繰り出した左の大剣を、ギラファアンデッドが渾身の力を込めた左の鋏で迎撃する。カッシスワームの攻撃は弾かれ軌道を逸らしたが、ギラファアンデッドの左腕もまた、衝突の威力によって天へと跳ね上がる。それに引きずられ、空足を踏んだ隙を逃さずカッシスワームが繰り出した右の刺突は、遂にギラファアンデッドの防御を突破して、その胸板を抉るに至る。

「グァ……ッ!」

 マスクドライダーの装甲に匹敵しかねない強度を誇った黄金の甲殻を貫き、緑色をした体液に切っ先が濡れるのをカッシスワームが感じたと同時、ギラファアンデッドが全身に伝播した衝撃によって宙を舞う。被弾箇所の違いによるダメージの差故か先のように受け身も取れず、尻から地へと落ちたギラファアンデッドはさらに無様に後方へと転がり、俯せに倒れ込んだ。
 その姿を見て、警戒のし過ぎだったかと嘆息したカッシスワームはゆっくりと姿勢を正し、左腕を胸の前で構えた。

「――これで終わりにしてやろう」

 念じると同時に、カッシスワームの身体からタキオン粒子の塊が、左腕へと収束して行く。
 寝かせていた大剣を振り被ろうとした瞬間。カッシスワームはギラファアンデッドとの攻防によって身体の向きが変わったおかげで、病院から見て西方、ギラファアンデッドの遥か後方で出現した緑色の巨人の顕現を目視することができた。
 牛のような角を生やした、どこか機械的な身体を銀色の装甲版で覆った巨人が砲身と一体となった両腕をこちらに――否、病院へと向けたところで、カッシスワームは叫びを上げていた。

「――新手が来るぞっ!」

 警戒を促すとほぼ同時、巨人が装甲を展開し、内部の無数の砲門を晒した時点で、カッシスワームは右腕を構えていた。それは時間逆行すら超えたクロックアップである、フリーズ発動の所作だが――それによって世界に生じる変化は何も、ない。

(……使用できない、か)

 この不快な首輪による制限か、はたまた以前にはなかった能力を得た代償か――フリーズによる時間停止が発動しないことに歯噛みしたと瞬間、鋼の巨人ともいうべき怪物の全身の砲門が火を噴き、唸りを上げていた。
 淡い緑の光条、無数の砲弾、ミサイルの群れが距離を詰めようと道中の大気を蹂躙しながら飛来して来るのを、カッシスワームは周囲とは隔絶された時間流の中で眺めていた。

 固有能力たるフリーズは使えなかったが、成虫ワーム全般が有する通常のクロックアップは発動することができた。そのために周囲よりも遥かに加速した時間流へと身を置いたカッシスワームには、逆に外界の様子は全てがスローモーションに見えたということだ。
 このまま地面に這い蹲っている、醜態を晒したままのギラファアンデッドにトドメをくれてやっても良いが、クロックアップに制限が掛かっている可能性は極めて高い。余計な行動の間に、未だ病院内に残っている大事な手駒を失うことだけは避けたいと考えたカッシスワームは、タキオン粒子を迸らせた左腕を、新たに生まれた星空のような火線の群れへと振り上げていた。

「――ライダースラッシュッ!」

 技名の宣告と共に、刃の形に収束されたタキオン粒子が夜空を駆ける。虹色の三日月は目にも止まらぬ速度で天に昇り、もはや線ではなく面と化して押し寄せていた弾幕を容赦なく引き裂いた。
 さらに月牙は一筋ではなく、二つ、三つと後に続き、次々と誘爆の花を空に咲かして行く。
 かつてある仮面ライダーから習得したこの技の内、飛ぶ斬撃を連射する型で圧倒的な砲撃の暴風雨を迎え撃とうとしたカッシスワームだが、如何せん数が多過ぎる。何割かは撃墜できたものの、やはり死と破壊を撒き散らす牙達の大部分は、無防備な病院へと驟雨の如く覆い被さろうとする。他より弾速が圧倒的に優れるビームが病院の二階部分を貫通したのを見て、カッシスワームは次のライダースラッシュの体勢に入ろうとしたが、唐突にクロックアップ空間から弾き出されるのを感じた。

(――やはり制限かっ!)

 感覚としては、加速した状態でほんの数秒程度しかクロックアップを維持できなかった。他の能力と併用した反動なのか、最初からこの程度しか維持できないのかはカッシスワームにはまだ判断がつかなかったが、いずれにせよ疎ましいことだと内心毒吐く。
 だが、過半数を残したとはいえ、この自分ができる限りのフォローはしてやったのだ。これで死ぬならば所詮その程度の有用性しかなかったのだろうと考えた時には、標的に達したのか迎撃されたのか、爆発の音が連続してカッシスワームの背を叩いていた。

 そのいずれかを確認すべく振り返るべきか、眼前の敵手の隙を窺おうとしたカッシスワームは――猛烈な勢いで地を蹴って自身へと迫る、ヒトガタをした金色の闇に気づいた。



 二体の怪人によって戦端が開かれるよりもほんの少し前、志村純一はGトレーラー内で海東大樹の協力を受け、無事にG4システムを装着することに成功していた。

「よし、急ごう海東さん! もたもたして手遅れになるなんて、俺は考えたくもない!」

 監視用にと乾から譲り受けたカイザポインターを手の中で弄んでいた海東は、「そうだね」とあまり感情の籠っていない声で、G4のマスクを被りながらの純一の呼びかけに頷く。

 目前に迫った金居達との決戦、そこで眠らせておくにはG4という戦力はあまりに惜しいという主張は、Gトレーラー組の誰からともなく出た意見だ。特に病院で金居を待ち受けるのであれば、予めGトレーラーに待機させた者とで挟撃を仕掛けることは有効な手段と考えられた。
 そこでG4の装着員を名乗り出たのが、自分が第一発見者だからと理由を付けた純一だった。
 当然ながら純一としては、ある程度戦力として期待しているG4を今後他者に奪われる理由を作るまいとした行動だった。一度装着して、自身の戦力だと言うことにさえしてしまえば、後は愛着があるなどの言い訳で他者に渡す機会を減らすことができるかもしれない。
他にも単純な理由として、今後に備えG4を使った戦闘に慣れておきたいと言うこと。また別の思惑と合わせ主戦場となる病院から離れることで、己の損耗を防ぎたいという目的が純一にはあった、のだが。
 単独行動は危険だと主張した海東が、純一に同行を申し出た。何でも奴はかつて同系統のG3-Xなるシステムに関わった経歴を持つらしく、G4についても力になれるからだそうだ。
 別に、G4の装着が一人では困難だという問題も抱えていたため同行自体は構わないのだが、純一を警戒しているこの海東という青年の目的が監視であることは明白であった。可能ならば隙を衝いて金居達より先に始末しようかとも思ったが、最終的にそんな機会に恵まれるよりも早く金居が病院を訪れたことが確認できてしまった。

それ故、海東に促されるがままG4を装着し、半ば開き直った心地で純一は戦場に向かおうと逆に自ら海東に告げていた。

「……あれは?」

 その時、開け放たれたコンテナの扉、それに縁取られた外の景色の異変――病院の西側だけ、夜空に散りばめられた星々の密度が大幅に増している様子に、海東がそんな声を漏らした。

「どうやら、本当に急いだ方が良さそうだね……変身」
《――KAMENRIDE DIEND――》

 コンテナから飛び降りた海東が取り出した拳銃にカードを挿し込んだかと思うと、そんな妙にハイテンションの電子音が流れる。そのまま銃を天に向け空砲を海東が放つと、十枚の透き通った青のプレートが銃口から吐き出され、それが何かの仮面のようなアイコンを形作った。
 同時に海東の周囲に三体の人型をした虚像が出現したかと思うと、目にも止まらぬ速さで一度縦横に疾走した後、それが最後に海東自身へと吸い寄せられ、全身を黒いスーツが覆った。
 最後に空に浮かんでいたプレートが顔面に突き刺さるように降りて来ると、上半身を包んだアーマーとそこに走る二本の線の内側を除いて、スーツが一瞬でシアンに色付く。

(これが、仮面ライダーディエンドか……)
「……行こうか、志村さん」

 独白する純一、否G4にそう言葉を掛けたディエンドは、先程二人で降ろしておいたトライチェイサーへと跨った。
 同じようにコンテナから降りたG4も、近場に移動させておいたオートバジンへと歩み寄る。

(……急ごうと言いながら先行しないのは、俺が戦場に行かない可能性を見透かして、か)

 互いに変身した今になってからこの男と積極的に戦うつもりなど、元々純一にはない。
 乾巧のようにこちらを信じ切ってくれているのならともかく、この男のように純一にも警戒の念を怠っていない相手との戦いは無駄な消耗を招く恐れがある。それよりは彼らを煽動し、まずは金居やライジングアルティメットと潰し合わせ、漁夫の利を得る方が効率的だろう。逆に海東や乃木辺りも純一を利用し消耗させようと考えているかもしれないが、それは立ち回り次第で十分に覆せる。何しろここには、利用し易いお人好しどもが大勢集まっているのだから。
 そして、そのために――神経断裂弾という対未確認用特殊弾頭を主武器とし、未確認に近い存在であるクウガに対する切り札であるG4装着者として戦術的価値を高め、最前線での戦いを強いられるグレイブよりも周囲から護られる理由を作るために、G4の装着員を他人に渡さなかったわけでもあるのだから。

 むしろ懸念は、総勢十名を超える仮面ライダーや怪人を相手に、ライジングアルティメットが本当に対抗できるかということだ。戦闘力は聞き及んでいるが、それでも石を破壊しようと考えている者が多く存在しているため、ライジングアルティメットが易々と突破され、ここにいるメンバーが余力を残したまま金居の持つ石が壊されるといった展開は避けたいところだ。
 無論、迎撃に変身手段を消費した彼らを、自身の温存しておいた変身能力を駆使して後から仕留めて行くだけでも構わないが、可能であるなら強大な戦力を支配下における石は是非とも欲しい。最悪の場合でも、乃木を筆頭とした厄介な連中との戦いを有利に運べるようダメージを蓄積させるだけの戦闘力があって欲しいとは思うのだが……

(……いや、後ほんの少しで答えは出る。過度に心配する必要はない)

 そう考えた純一は、G4のマニュピュレーターを使い、オートバジンのエンジンを入れた。

 ――遠く離れた地で、ほぼ同時刻に始まったもう一つの死闘。その存在と――それが自分達に及ぼす影響にまだ、気付かぬままに。

 オーバーテクノロジーの粋を凝らした二台のバイクは、その驚異的な加速性能で瞬く間にトップスピードに到達し、戦場へと駆けて行った。



 ギラファアンデッドの奇襲からカッシスワームによって救われた門矢士だったが、生憎安堵を覚えるには未だ程遠い状況だった。
 理由は周囲から押し寄せる視線の群れ。配慮もあるが、好奇や疑惑、警戒の方がずっと多いことには、もう慣れたつもりだったが――それでも、痛い物は、痛い。
 ふと、慣れているからという理由で自らの痛みを忘れることができる男のことを、士は本当に強いのだと思った。

「……門矢」

 外から剣戟の音が響き始めた時、口を開いたのは秋山蓮だった。

「奴の言っていたことは、本当か?」
「――だとしたら?」

 下手な返答であることはわかっている。今はそんなやり取りをしている場合ではないと理解はしている。それでもつい、いつもの調子で士は答えてしまっていた。
 不機嫌な様子とはいえ否定しなかった、その事実に彼との間で緊張が微かに高まったことを、士は敏感に感じ取った。乾巧や橘朔也もまた、そんな士の態度に動揺を見せているようだった。

「――それは、今話すようなことかっ!」

 そんな空気を払拭したのは、ロビーに反響した葦原涼の一喝だった。

「誰にだって面倒な事情ぐらいある。だが今はそれを言及している時じゃないだろう、秋山!?」

 先程強いと心中で評した男の、まるで自分を庇おうとしてくれているかのような物言いに、吹き込んで来る夜風よりも冷えていた士の心に、微かに熱が蘇ったように感じた。

「……そうだな。今は葦原の言う通り、詮索は後にして、まずは戦わなきゃいけない時だ」

 そこで涼に続いたのは、ヒビキ。彼は全員に語り掛けながら士の横へと歩みを進めて来る。

「それにさ、皆。自分の仲間は、金居と門矢、どっちかって考えたら……信じるべきはどっちかなんて、俺は揺らがないよ」
「ヒビキ……」

 思わずその名を呼ぶと、彼は「シュッ!」という掛け声と共に二本指の敬礼のようなポーズを取り、いつものように爽やかな笑顔を士に向けてくれた。

「……確かにな。今は、おまえ達の言う通りか」
「――新手が来るぞっ!」

 様子を見た蓮が頷いた直後、病院の外から乃木発した警告が届き、全員の顔に緊張が走る。
 ヒビキや涼の言う通り――今は背中を預ける相手を疑っているような場合では、ない。
 それぞれが一瞬で戦いに臨む構えを取った戦士達は、異口同音に一つの言葉を紡いでいた。

「――変身っ!」

 隣でヒビキが変身音叉を鳴らした静かな音を聞きながら、士は手に取ったカードをディケイドライバーへと挿入し、展開していたバックルを力強く閉じた。

《――KAMEN RIDE DECADE――》
《――Stading by――》

 ディケイドライバーにカードを読み込ませたのと同時に、変身の認証コードを入力し終えたことを告げるファイズフォンの音声が後方から聞こえて来る。変身音叉を額の前に構えたヒビキの身体が紫色の炎を思わせる気に包まれる一方で、士の周囲に現れた九つのエンブレムを軸に生じた九人の虚像が士の身体へと吸い寄せられて行き、黒の装甲へと変化する。直後、バックルから飛び出した七枚のプレートが仮面に覆われた士の顔へと飛来する。

《――Complete――》
「――はぁっ!」

 プレートと仮面が一体化し、その全身がマゼンタに彩られたと同時に、ヒビキが逞しい右腕を振るって身に纏っていた炎を四散させる。そうして鬼の顔が顕になると同時に、巧の肉体を守護するフォトンストリームの経路が構築され、ソルメタル製の装甲が発生する。

 各々変身を終え、ディケイドが、ファイズが、響鬼が――仮面ライダー達が、今一堂に集う。

 それを見届けたかのようにライドブッカーから三枚のカードが吐き出され、導かれるようにディケイドの翳した右手へと収まる。
 握り込まれたのは、響鬼の力が込められたライダーカード。ブランクから復活した絵柄は、失われた九つの力の、その内の一つを取り戻したことを意味する。
 おそらく剣崎一真や小野寺ユウスケと言った、他の仲間達の存在に因るところも大きいが、それでもヒビキが自分を信じてくれたということは、士の心にカード以上の新たな力を生んだ。

「……これはっ!?」

 正義の名を背負いし救世主達が並び立った時、その勇壮な揃い踏みを乱すかのように、緑色の何かが過ぎ去り、少年の焦燥を孕んだ疑問の声が生じた。
 既に攻撃を受けてしまったのかと焦ったディケイドが振り仰ぐと、それは杞憂であったようで皆無事な姿だった。ただ、フィリップがメモリを手に戸惑った声を上げていた。
 彼の手に収まっていたのは、彼が今唯一所持する、志村純一から譲り受けた姉の遺品であるタブーメモリではなく、ダブルへの変身に必要なサイクロンのメモリ……だがそれは左翔太郎がいなければ、二人で一人の仮面ライダーである彼らは変身できないはずではなかったのか?
 どうしたことかとディケイドが思考を巡らせるよりも早く、病院全体を揺らす強烈な衝撃が頭上から駆け抜ける。
 一階の天井、つまり二階部分の床が抉り取られたことで作られた歪な窓には、本来の星空とは異なる獰猛な光の群れの姿が映し出されていた。

「――っ!」
《――ATTACKRIDE BLAST――》
《――NASTYVENT――》
《――Burst Mode――》

 無駄口を叩く間もない。頭上から降り注がんとする火の雨を迎撃せんとディケイドがカードをドライバーへと挿し込み、同じくナイトもカードをバイザーに読み取らせ、そしてファイズがファイズフォンへとコードを入力し、各々の武器を真上に掲げる。

「セイヤッ!」

 音撃棒・烈火の先端から火炎弾を放つ響鬼の気合と共に、天から落ちてくる星空にも等しい苛烈さを以って、地上から眩い輝きが放たれた。

 ――こうして、開戦の鐘は鳴らされることとなった。



108:進化 投下順 109:ライダー大戦 Round Zero~WARBREAK'S BELL(後編)
時系列順
105:やがて訪れる始まりへ 葦原涼
秋山蓮
乾巧
橘朔也
志村純一
日高仁志
矢車想
乃木怜治
門矢士
海東大樹
フィリップ
鳴海亜樹子
094:Dを狩るモノたち/共闘(後編) 五代雄介
相川始
金居
紅渡