Kamen Rider: Battride War(2)   ◆.ji0E9MT9g





「これでまず障害は消えた。次はあなたです、ディケイド」

その手に持つ巨大な大砲、ギガランチャーを構えなおしながら、ゾルダはつぶやく。
自身のこの戦いで絶対果たさなければならない使命は、世界の破壊者ディケイドの殲滅であり、それ以外の参加者の殺害やライジングアルティメットのパワーの解明など、ついででしかない。
そう考え、未だギャレンを葬った弾丸を放った硝煙が残る銃口を、ライジングアルティメットと対峙する戦士たち、その中でもディケイドに向け、発射。

そうしてゾルダは、新たなファンガイアの王として世界の滅亡を防ぐための第一歩を――。

「――!門矢さんッ!危ないッ!!」

ディケイドの横にいた、謎の黒い戦士に防がれる。
と同時に弾丸はライジングアルティメットへと到来、その身を爆風が覆った。
狙いを外しあまつさえ味方に当ててしまった事に思わず舌打ちをするゾルダだが、しかしその黒い煙の中から何らダメージを受けた様子のないライジングアルティメットが現れたことで、ひとまずは安心する。

並の仮面ライダーならば変身を解除しそのまま戦闘不能に持ち込めるゾルダの弾丸を受けまるで無傷の“それ”に僅かに畏怖を覚えつつも、しかし一旦は仲間であるという事実に胸をなでおろす。

(しかしいつまでも金居の思い通りにさせておくわけにもいかない。この戦いが終わり消耗した彼なら始さんとの二人がかりで何とか……)

と、そんな事を考えつつ、ゾルダは装填の必要ない大砲をディケイドに向かって放ち続ける。
彼もその手に持つ銃を駆使し何とか応戦しているが、やはり我がギガランチャーの火力には遠く及ばないようで、少しずつジリ貧になっていくのが目に見えた。
爆風との距離が詰まっているのである、そうどんどんまるで彼が段々と自分との距離は狭めているかのように――。

(――いや違う!まるでじゃない、本当に奴は僕に迫ってきている!)

そう、錯覚などではない事実ディケイドはその足をこちらに向け全力で走っている。
あくまで自分が狙いなら、それに応えようというのか、ならばむしろ都合がいい、自身の手で直接殺すチャンスなのだ。

(来るなら来い、ディケイド。僕が、キングである僕がお前を破壊してやる)

それは、目の前のディケイドが、真にライダーを破壊する破壊者となった際かつての友に放った言葉に似ていた。
破壊者を殺し、世界を救うという目的を果たすため、自分こそが破壊者の名に相応しく醜く変貌している事に、若き王は気付いているのか、いないのか。




「――!門矢さんッ!危ないッ!!」

怒声とともに既に臨戦態勢にあった所を押し倒されたディケイドは、それに対し一言いう前に、辺りを支配した火薬のにおいに顔をしかめる。
と同時に今自分の状況はかなり危機一髪のところで、目の前のG4がそれを助けてくれたのだ、ということに合点がいくのにそう時間はかからなかった。

「すまない、志村、助かった」
「いえ、とんでもありません!仲間を助けるのは至極当然のことですから!」

暑苦しい言葉を述べるG4を押しのけながら、ディケイドは周囲の状況を大体把握する。
無傷のライジングアルティメット、未だ健在のゾルダ、倒れている橘、消えた響鬼……。
響鬼はどこへ行ったのか、橘は死んでしまったのか、一抹の希望が見えた瞬間に断ち切られたことに戦慄するディケイドだが、同時にゾルダの放った弾丸を迎撃することで意識を現実に引き戻す。

その速度と威力に思わず息をのむが、休む間もなくゾルダはその銃口を自分に向け続ける。

「狙いは俺ってわけかよ!」

絶叫しながらも横に大きく駆けながらライドブッカーをブラストモードにしてエネルギー弾を放つディケイドだが、敵の殺意もなかなかのものでその銃口は決して他者のもとに向くことはない。

「アポロガイストが君のことを随分吹聴したみたいだからね、おめでとう士。これで君は晴れてこの場でも世界の破壊者として疎まれることになったわけだ」
「あぁ、これでやっと俺らしくなってきやがった」

ライジングアルティメットに弾丸が依然全く効かないことへの八つ当たりなのか、ディエンドはディケイドに皮肉を漏らす。
それに対し同じく皮肉で返しながら、しかし内心ではディケイドはゾルダへの対処を真剣に考察していた。

(奴の狙いが俺である以上、ここは向かうのが最適……、だが残されたこいつらは……)

また一つ弾丸をエネルギー弾で打ち消しながら、ディケイドはチラと未だライジングアルティメットに対しあくせくと対処を試みる三人を見る。
三人ともが戦闘においては文句のないエキスパートであることも手伝って、防戦一方ながら未だディケイド抜きで応戦できていた。
しかし、それも長くは持つまい。誰かの緊張が一瞬でも切れたその瞬間、彼らはファイズを葬ったその剛腕によって闇に落ちるのだ。

(どうする、ここを任せたばかりにあいつらが死んでしまったら――)

脳裏に蘇るは、この場で死んだ仲間、夏美、一真、北條のこと。
彼らは、自分がしっかりしていれば、助けられた命なのではないのか。悔やんでも仕方がないとそう何度も飲み込んだはずの思いが、また反芻される。
もしここで自分がいなくなったばかりにまた誰かが死んでしまったら――。

「何してる士、早く彼を倒してきてくれたまえ」

とうとう堂々巡りを始めたディケイドの思考に瞬間水を差すかのように割り込んできたのは、自分にとって一番付き合いの長い海東大樹、戦士ディエンドだった。

「そうだ門矢、いつまでもこんな音が響いていたんじゃうるさくて戦いに集中できん」
「行ってください門矢さん!ここは必ず俺たちが持ちこたえて見せます!」

次々にライジングアルティメットとの攻撃をかわしながら戦士たちが声を上げる。
それを受けて、ヒビキや葦原に続き、秋山や志村が――少なくとも今は――自分を仲間として受け入れていることを感じる。
そうだ、それならば、彼らのことも信じてみよう。

そうでなければ仲間など、信頼など生まれないのだから。

「わかった、あいつは俺が破壊してきてやる。――だからお前らも、絶対に死ぬなよ」
「おいおい一体誰に言ってるんだい?僕は君よりずっと前から、通りすがりの仮面ライダーなんだよ?」

砲撃手ゾルダの方へ蛇行しつつ駆けながら、ディケイドは“仲間”へと言葉を掛ける。
ディエンドはいつもの調子で、ナイトは鼻で短く息を吐くことで、G4は強いうなずきで、それに応える。
それを確認するが早いか、瞬間ディケイドは最早振り返ることもなくそのスピードを上げる。

(全く、仮面ライダーってのも楽じゃないな。これなら破壊者の方がよっぽど簡単だぜ)

心の中で愚痴りながら、しかしディケイドの内心はその実、晴れやかだった。
なぜなら自分は、“仮面ライダー”なのだから。
善を助け悪を挫く、そんな正義のヒーローの名を、胸を張って名乗ることが出来るのだから。

(刻んでやるぜ一真、夏海、俺の物語ってやつを、な)

そしていよいよギガランチャーの弾丸を避けるのが難しくなったその時に。
彼は、一枚のカードを握りしめた。




当たり前のことだが、強化形態、あるいはそれに匹敵する能力を持つライダー二人を含めたとしても、たった三人で強靭無比の能力を誇るライジングアルティメットの相手をするというのは、無謀としか言いようがないことだった。
しかしそれでも何とかなっているのは、G4の持つ特殊銃、GM-01スコーピオンに込められた特殊弾――神経断裂弾――による効果が大きかった。
無論、それはこの場では制限されているのかあるいは元々連射性を優先しているのかライジングアルティメットの強固な体表には大きなダメージを与える前に回復されてしまうのだが。

ベルトを狙えばあるいはその行動を止めることが出来るかもしれないが、しかしそれでは五代雄介を奪還するという当初の目的が潰えてしまうことになる。
全く以て厄介な相手だと舌打ちしながら、明らかにスコーピオンを持つG4に対する攻撃が苛烈化しているのを受けて、ディエンドはカードを自身のドライバーに装填する。
ライジングアルティメットに対抗できる銃が一つしかないのなら、それを増やせばいいのだ、とニヒルに笑って。

「行ってらっしゃい」

――KAMEN RIDE……
――G3!

ディエンドがトリガーを引くと同時、そこから放たれるは多数の影。
それが一斉にオーバーラップしたかと思えば、中心でそれは重なり戦士を象る。
そして現れたのは、G4を幾分か軽量化したような戦士、G3。

彼の手に握られているのはそう、GM-01スコーピオン。
G4へ剛腕を振るわんとするそれの膝に向けスコーピオンの弾丸をまるでロボットのように的確に打ちこまむと同時、ライジングアルティメットは僅かに体制を崩す。
そしてG4の驚異的な能力と志村純一の類稀な戦闘センスを以てすればその一瞬で十分。

G4はガードを固めた腕を解きつつライジングアルティメットの闇を込めた掌を打ち抜き、暗黒掌波動と呼ばれる彼の必殺技を、見事に封じることに成功する。
そしてその隙を逃がすナイトではない、初めて怯んだそれを目掛けて剣を一閃。
肘で難無く受け止められるも、続く二撃目は厚い体表を掠った。

「ガァァ……」

無敵のライジングアルティメットが、吠えている。
それに対し戦士たちは希望を抱く。
これならば、勝てはしなくとも変身制限まで持ちこたえる位なら、と。

しかしライジングアルティメットも甘くはない、ものの数秒で今までのダメージを完全に治癒、今度はスコーピオンを持つG3へその波動を放たんと手を向ける。

「させるかっ!」

しかしそうはさせじと叫びつつG4とG3は同時に神経断裂弾を放つ。
狙いは的確、放たれた二発の弾丸はその伸ばされた肘に真っ直ぐに向かって。

「――ッ!」

だが刹那、ライジングアルティメットが体を大きく360度捻ったその瞬間に。
戦況は、全て覆ることとなった。

「……!」
「ぐあっ!」

ディエンドやナイトには、一切知覚すらできないスピードで放たれたそれは、一瞬でG4とG3の元に着弾。
G3は無残にもその身を貫かれたことによってカードに姿を変え、G4はその場に倒れ伏した。

「志村さん!」

思わずG4に駆け寄りそのまま彼を抱え離れていくディエンドを尻目に、ナイトは冷静に状況を把握する。
今二人を貫いたのは、ライジングアルティメットの能力である暗黒掌波動ではない。
なれば一体何を用いたのか、最早答えなど決まっている。

G3とG4が同時に放った神経断裂弾としか、考えられまい。
つまりライジングアルティメットが持つ反則的な超感覚能力と身体能力によって、二発の神経断裂弾を掴み、その勢いを殺さず、どころかその勢いを増して返したのだ。
全くもって常識を超えたという形容詞をいくつ使えばこいつについて表現できるのか、とそう考えて。

(だが、それが出来るなら最初からやっても可笑しくはない、二人が同時に放つのを待っていたのか、それとも……)

残された五代の、必死のSOSであったのか、と思考するが早いか、最早完全に回復したライジングアルティメットが地を震わせながら迫ってくる。
ディエンドもいない今、単身でこの魔人に挑むのはナイトには不可能。
そう、単身では。

――TRICK VENT

またも電子音声が辺りに鳴り響き、ナイトと全く同様の姿をした影が三つ現れる。
これがナイトの持つ――アドベントが最早使用できないことを踏まえると――最後の、この場での有効な手札。
蓮としては以降必ず敵にまわる戦士たちを前にしてこの札はあまり切りたくなかったのだが……いいや、贅沢など言っている暇はない。

まず大事なのは、この場を生き延びることなのだから。
同時に切りかかったナイトは究極の闇の剛腕に捉えられるその寸前に離脱する。
逃げ遅れた、一人の分身を除いて。

同等程度の力を持つ龍騎サバイブの攻撃を受けてもある程度は耐えることのできた自身と同等の防御力を持つはずのそれが、いとも簡単に戦闘不能となったのを見て改めて規格外のその実力に驚愕する。
だが、しかしそれすら押し殺してナイトは再び剣を振るった。
三つもの強力な剣劇を受けながら、しかしそれがどうしたと言わんばかりにライジングアルティメットはその腕を薙ぎ払う。

次の瞬間、同時に吹き飛ばされた三人のナイトのうち、一人がライジングアルティメットの拳から放たれる闇にのまれ消滅する。

「うおおおおおおおぉぉぉぉ!!」

しかしそれを見ても、ナイトの戦意は一切萎えることはない。
何故なら、今もずっと、彼には、自分が戻るべき唯一の理由が見え続けているのだから。

(恵里、俺は必ずお前の元に戻る、そしてもう一度お前の笑顔を見る。その為なら俺は、俺は――)

全ては、無愛想な自分に初めて純粋な愛情をくれた、あの優しい笑顔の為に。
まだ、死ねない。
記憶の中で笑う一番美しい彼女の記憶が、何度もリフレインし、その度に、思いはどんどんと強くなっていく。

一途な愛を胸に、残る二人のナイトが今度はタイミングをずらし波状攻撃を仕掛ける。
一見ライジングアルティメットの攪乱に成功したかに思えたが、しかしそんなナイトの思いを踏みにじるかのように、次の瞬間には一人のナイトが持つ剣は叩き折られ、その仮面を拳が貫いていた。
怒声と共に最後の、本物のナイトが剣を振るうが、しかし最早食らうまでもないとばかりに躱され逆にその首を掴まれる。

「ぐあぁッ!」
「――ッ!」

うめき声をあげるナイトを気にもせず、ライジングアルティメットはその驚異のパワーで以て易々とナイトを持ち上げる。

(俺は、ここで死ぬのか……)

ギリギリと強まっていくライジングアルティメットの込める力と、それに比例して薄くなっていく思考を感じながら、秋山蓮は自分の死期を悟っていた。
何故、海東が離脱した時に、トリックベントの分身を用いて自分も逃げることをしなかったのか。
そんな事をぼんやりと考えるが、しかしその答えは、彼にとってあまりにも、あまりにも――。

――蓮!

(こんな最後にまで出てくるなよ、城戸……)

脳裏に浮かぶは、自分が死んでも構わないと考えるほど愛した女性の笑顔、ではなく。
忌々しいほどに眩しい、一人の男の笑顔。
嗚呼。認めねばならないだろう、自分がこんな絶望的な状況で、なぜ自分の果たすべき使命すら投げ出して究極の闇と戦ったのか、その理由を。

――秋山さん!

その忌々しい笑顔と、目の前の男の笑顔を、どこか自分の中で重ねてしまっていたという、その事実を。
眼の前のライジングアルティメット――いや、今だけは五代雄介と呼ぼう――のような存在に、あの誰よりも戦いを嫌った男がなってしまったら。
そう考えてしまった時点で、殺し合いなど関係なく、あるいは、この命を捧げる覚悟を決めた愛を、果たせなくなる可能性があったとしても。

彼の中から、逃げるという選択肢など、その笑顔を見捨てるという選択肢など、消え失せてしまったのであった。

(どんなに御託を並べても、結局願いは生きて叶えなければ意味がないのにな……、恨むぞ城戸、俺は自分が思っている以上にお前のことを――)

その時、まるで鏡が割れるかのようにナイトの鎧が消失する。
今まで以上に急速に消えゆく命を確かに感じながら、しかし彼の表情は、どこか晴れやかですらあって。
そうしてその命が尽きる、まさにその瞬間。

彼はついに――誰にも聞かれぬ思いであることを知りつつも――その忌々しい笑顔を、どこか望んでいた自分がいたことを認めた。
そして、その笑顔を浮かべる男と、殺し合いなどという状況で会わなければよかったのにと、真剣に思い悩んだ自分がいたという事実も。
しかしだから、だからこそ、願おう。

殺し合いでしか想いを表現できなかった自分から解き放たれるその瞬間くらいは、自分の正直な思いを伝えても誰も文句は言うまいと、そう信じて。

(城戸、お前はなるべく……生きろ……)

――グキッ

鈍い音が、彼が首の骨を折られた音が、辺りに響く。
愛に生き、その思いを誰よりも強く抱き続け戦い続けた男がしかし、その最後にようやく自分に芽生えた友情という感覚を認めた、その瞬間に。
彼の命は呆気ないほどあっさりと、まるで虫けらのように、いとも容易く刈り取られたのだった。

【秋山蓮 脱落】
【ライダー大戦残り人数 13人】

ドサッと、その肉体が地面に落とされると同時、五代は、否ライジングアルティメットはその身を生身の人間の物に戻しながらもまるで何事もなかったかのようにその歩みを再開する。
変身制限を迎えてしまった事は、彼にとって懸念すべき事態でもなんでもない。
例えこの身が朽ち果てようと、地の石を持つ主人に自身のすべてを捧げるのに、変わりはないのだから。

と、変わることない機械のような思考ルーチンを終えながら、その虚ろな目で以て新たな戦場をその目に写す。
その眼の先にあるのは、自身の主人、ギラファアンデッドが二人の怪人と戦闘をする姿。
彼の念じた〝近くの参加者をキングやジョーカーと協力して殺せ″という指示に従うなら、それが一旦成された今自分が成すべきことは、主人の元に戻りその脅威を取り除くこと、そして新たな指示を授かることだ。

合理的な判断で以てその既に常人離れした足を主のもとに早めようとした瞬間、一閃。
突然の奇襲を持ち前の超感覚で以て躱しながら、その先にいる人物を視認。

「へぇ、これでも避けられちゃうか、手加減なしのつもりだったんだけどな」

シアンの鎧を身に着けた、戦士ディエンド。
彼の放つ弾丸は自分をこれ以上変身させまいと、これ以上罪を重ねさせまいとするものなのだろう。
――そんなこと、不可能であるというのに。

容赦なく体の中心部を狙い続けざまに放たれる弾丸は、しかし研ぎ澄まされた感覚と尋常ではない身体能力で以て難無く回避される。
ディエンドの放つ弾丸はより熾烈に、より正確にこちらに当ててこようとその精度を高めていくが、しかし、それならそれでこちらにも手段はある。
無駄のない動きでポケットから自身の切り札を取り出すと同時、そうはさせじとディエンドの弾丸が飛来するが、何のことはない。

目の前に倒れる秋山蓮の死体を盾にすることでそれをやりすごし、彼の肉体をディエンドの弾丸が貫くより早く、自分の変身を完了する。

――NASCA

首筋のコネクタに刺されたそのメモリの名を、ガイアウィスパーが高らかに宣言する。
瞬間のみ青を象ったその肉体は、瞬きの間にその身を赤く染めた。
Rナスカドーパントと化した彼はディエンドとの距離を無にせんと一気に加速。

しかしただでその接近を許すほど、ディエンドも愚かではない。

――ATACK RIDE……
――BARRIER!

瞬間、突如出現したエネルギーの壁が、Rナスカの進行を防ぐ。
それならばといわんばかりにナスカはその掌から光弾を乱射するが、いずれもエネルギーのバリアに阻まれディエンドには届かない。
そしてディエンドは、その一瞬の隙を無為にするほど愚かではなく。

――G4,RYUGA,ORGA,GRAVE,KABUKI,CAUCASUS,ARC,SKULL
――FINAL KAMENRIDE……
――DIEND!

アタックライドバリアの効果が切れるとほぼ同時、ディエンドの切り札も、その準備を完了する。
シアンの鎧をより一層強固にし、その胸には八つの世界の仮面ライダーのライダーカードが、まるで彼の力を証明するかのように飾られていた。
彼こそは、世界を股にかける怪盗ライダーディエンド、その完成形たるコンプリートフォームだった。

「さぁ、第二ラウンドの始まりだ」

ディエンドが、不敵に告げる。
そう、戦いはまだ始まったばかり。
この戦いが始まってからまだ、三分しか経過していなかった。




秋山という男を犠牲にしながら、なぜディエンドが戦いの場を離れたのか、その理由は数十秒前に巻き戻る。

「志村さんッ!」

眼の前に倒れる黒い鎧を見つけた男に対し、なぜ自分が成さねばならぬはずの戦いを放棄してまで呼びかけているのか、それはディエンドの鎧を纏う海東大樹自身にも全く分からないことだった。
見ればその相当に厚いはずの装甲の左胸部装甲の、丁度左胸あたりに見事な穴が開いているのが確認できた。
銃弾が突き抜けていればまだいい。

もしもその硬い装甲が災いし背中側までを貫ききれていなかったのなら……。
最悪の可能性を思い浮かべながら意を決しその体を裏返そうと伸ばした手を、しかし掴み止めたのは倒れ伏すG4その人だった。

「何やっているんですか、海東さん……。私のことなんていいですから、早く秋山さんの援護を……」

握られている手に感じる力は、彼が手加減しているのを考慮してもあまりにも弱弱しく。
ディエンドが少しでも力を込めれば、簡単に振り払えそうな程度でしかなかった。

「そんな事を言うな志村さん、早く傷を見せてくれ、今ならまだ間に合うかもしれない――ッ」

自分が何をしているのか、ディエンド自身にも最早よくわかっていなかった。
何故、この男にここまで執着しているのか、言動や行動がいくつか怪しいから?
いや、違うだろう。その答えをもう、自分は知っているはずだ。

しかし知っていてもなお……、海東大樹という男にはそんな自分の感情を純粋に受け止められるだけの覚悟が、足りなかった。
必死の剣幕でG4の装備を外さんとするディエンドに対し、しかしG4は弱弱しくその手を払いのける。

「いえ、もう手遅れです。どうやら、背中側まで貫通せずに、中で跳弾したようです……、私はもう、助からない」
「そんなことを言うな、頼む、僕にあなたを助けさせてくれ、目の前で死なないでくれ!」

最早、いつものように皮肉で状況を茶化す余裕すらなかった。
思ったままのことを、そのまま口にする。
そんないきなり様子が一変したディエンドに対し、G4は呆気に取られたか、口にする言葉を選別しているのか答えはしない。

すると少しの間の後、口中の血を飲み込んだような音と共に、G4はまるで最後の力を振り絞るかのように蠢いた。

「海東さん、頼みます。私の分まで戦って……下さい。仮面ライダーの力で、みんなに、希望を……」

言い切った瞬間、G4の首がガクンと垂れる。
その手に伝わるのは、変わることない鉄の冷たさ。
しかし、一つ明らかなことが、ある。

それは彼が、志村純一が、死んだという、たった一つのシンプルな答えだけだった。

【志村純一 脱落】
【ライダー大戦残り人数 12人】

110:Kamen Rider: Battride War 投下順 110:Kamen Rider:Battride War(3)
時系列順
五代雄介
葦原涼
秋山蓮
乾巧
村上峡児
橘朔也
相川始
金居
志村純一
日高仁志
矢車想
乃木怜治
野上良太郎
紅渡
門矢士
海東大樹
フィリップ
鳴海亜樹子




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最終更新:2018年02月10日 13:19