Kamen Rider: Battride War(4)   ◆.ji0E9MT9g





時は、ライジングアルティメットの剛腕によりファイズがその身を遥か遠くまで吹き飛ばされている最中に巻き戻る。

(嗚呼、俺ここで終わっちまうのかな……、天道、霧彦、真理――)

そんな最中、ファイズはふと思う。
あとどのくらいで、この身を包むファイズの鎧が限界を迎えるのだろうと。
どちらにせよ、もうそれも遠い未来の話ではない、恐らくはあと数秒で何本かの大木をなぎ倒しながら、自分の命は燃え尽きるのだ。

(やっぱ俺なんかじゃ力不足だったのかもな……お前らのでっけぇ夢を叶えるには)

そう考えて目を瞑る。
せめて最期くらいは、いい夢を見ていたい、と。
だが。

――妹がくれたスカーフだ。これを、乾君……君に、洗濯してもらいたいんだ
――お前の街も護ってやる。お前の妹だって死なせやしない。お前の好きな風を、世界中に吹かせてやる

霧彦が託したスカーフを受け取って、そんな大言壮語を吐いたのはどこの誰だった?

――俺の夢は、人間からアメンボまで、世界中の総ての命を守り抜くことだ

そんな自分の数倍は世界の役に立つだろう男の思いを背負って見せると言ったのはどこの誰だった?
脳裏によぎるのは、未だ自分が成し遂げていない友の夢。
彼らがまるで、こんなところで死んだら承知しないぞと言っているかのように、それは巧の脳に響き続ける。

(あぁ、わかってる、そうだよな。お前らの夢を背負っておいて、こんなとこで諦めるわけにはいかねぇよな――!)

グググ、とファイズの中に湧き上がる闘志。
何かをしなければ、この身は尽きる。
いや、この身だけならばまだいい、だが自分には、友から託された夢を叶えなければならない使命があるのだ、こんなところで倒れているわけにはいかない――!

しかしそんな思いも虚しく、彼の身は受け身すらとれぬまま大木に激突、その鎧ごと中の巧を――。

「ぐっ……」

――否、巧は……、どころかファイズの鎧をすら残したままで未だ健在。
一体何が、痛む頭を押さえながら、辺りを見渡した、その時まで。
ファイズは、自分のその現状を作り出した存在に、気づくことすらなかった。

「――バジン?」

その、衝撃により最早何の役にも立ちそうもない鉄塊と化した相棒を、その目にとどめるまでは。
それを目にした瞬間、ファイズの脳裏にはこの状況に至るまでのすべてが鮮明に映し出された。
ファイズのサポートマシンであるオートバジンは、もとより戦場にファイズを確認した時点で一時的な主たるG4の指示を待つまでもなく戦闘形態に移行。

その高度なAIで以てファイズの吹き飛ばされる方向を計算しファイズを先回りしつつバーニアで徐々に減速。
それでもなお殺しきれないスピードの影響を、一手に引き受け、衝撃の一歩手前でファイズより早く大木に接触し、その結果――。
自身は鉄塊と化したという訳だ。

「バジン!?お前何やって……!」

しかし一瞬のうちの献身など、ファイズにはわかりようもない。
それ故の疑問だったが、オートバジンはただウィウンと何とも形容しがたい機械音で答えるのみ。
しかしそれは巧にとって、まるで別れを告げる悲しげな声にも聞こえて。

「何で……何で俺なんかの為にまた仲間が死ななきゃなんねぇんだよ!」

ファイズは叫びながら大木に寄り添うように項垂れる愛機を揺さぶるが、しかし最早それは機械音すら返してはくれなくなっていた。
オートバジン、心を持たないはずの機械ですら、自分のために死んだ。
真理、木場、霧彦、直也、天道……そしてバジン。

心通わせた仲間たちが、次々と死んでいく。
こんな、化け物で、しかもその寿命すら既に尽きかけようとしている、自分を残して。
真理たちの死ももちろんだが、ようやく再開できた仲間、その存在を易々と奪われた事に対する怒りは、やるせなさは、凄まじく。

――辛くなったら、誰かに荷物を持ってもらえばいい……お前だって、今までみんなが背負うはずだった物をたくさん背負ってきただろ? 今更罰は当たらない

そんな時、脳裏にフラッシュバックするは、あの全てをお見通しとでも言いたげなムカつく、しかし天道たちと同じ瞳をした男の言葉。

(背負ってもらう……?俺の果たせない夢を俺は――)

と、その時だった。
前方の空に急速に集まりゆく暗雲の群れを見たのは。
ただごとではすまないかもしれない、と心では思いつつも、しかしそれに向かう以外の選択肢を持っていない自分を、確かに感じて。

「やってみるか、俺に何かが、出来るうちくらいは」

呟きつつ目前に眠るバジンに触れる。
きっと今を逃したら、もうこの愛機には二度と言葉をかけることは叶わないだろうと、そう感じて。
しかし自分に臭い言葉は似合わないし、歯が浮くようなセリフは苦手だ。

だから、何も言わない。
それが自分たちらしい別れなのかもな、と思いつつバジンからファイズエッジを抜いて、ファイズは駆けた。
夜を、その身に走る赤き粒子で照らしながら。

その胸に、先程までとは違う新たな思いを抱きながら。




「ディケイドの味方をするとは……、彼は存在するだけで世界を崩壊させる、破壊者なんですよ?」
「だったらどうした」

ウェザーの心底から理解が出来ないといった様子の疑問に対し、ファイズは短く答える。
瞬間手首を大きくスナップし、ファイズエッジで切り掛った。
舌打ちとともにエンジンブレードでその一撃を受け止めるウェザーだが、その一撃で悟る。

この男は、すでに満足に戦うこともままならない満身創痍だ、と。
だが、故に余計に引っかかってしまう。
なぜそうまでして、世界を滅ぼす悪魔のことを守ろうとするのだろうか?

そんな募る苛立ちとともに放たれた斬撃をしかしファイズはいなしつつ、いまだ倒れ伏すディケイドに声をかける。

「おい、門矢ァ!んなとこで呑気に寝てるんじゃねぇ!」

ピクリ、とディケイドがその指に力を籠める。

「お前、俺に言っただろ、俺の背負った夢を、誰かに託してもいいって!」

ディケイドがその両の手を、確かに地につけ力を籠める。

「確かに俺は、もうすぐ死ぬ!けど、けどなぁ!」

ディケイドがよろめきながらも片膝を立てる。

「けどやっぱり、あいつらの夢は、簡単には渡せねぇ、けど、けど……ぐあっ!」

必死の思いで言葉を紡いでいたファイズだったが、もはや人外故の回復能力をも失いつつある現状、ウェザーとの能力差は明白。
故に軽々とその身を打ち上げられるが――。

――無様に地面を転がる寸前でディケイドがそれを受け止めた。

「ったく、無茶しやがる」
「――門矢」

お互いその体を自分で支えきれないとばかりによろめき、肩で呼吸をする
だがそうなっても未だ、闘志は一切の衰えを見せず。
そしてそれが、ウェザーにはこの上なく苛立たしく感じられて。

「――何が、夢ですか、馬鹿馬鹿しい」

気づけば、そんな構う必要のないはずの言葉に、応じてしまっていた。

「そんなもの、呪いと同じです。そんなものを抱くから、皆、しなくてもいい後悔をする。味わわなくていい挫折を味わう!」

胸中に思い返すは、自分の大人になってからの初めての外界での友達、襟立健吾のこと。
彼は内気な自分にも明るく接し、外の世界の、そして友情の素晴らしさを教えてくれた。
だが、そんな彼はファンガイアとの戦いの最中、その指を負傷し、ギタリストへの夢を困難なものにしてしまった。

あの時の彼の絶望は、きっと自分にとって深央を失ったそれにも匹敵しただろう。
いや、結局のところ彼は戦士としての道を見つけそれに打ち込むことでその絶望を和らげることができたのだから、自分のもののほうがずっと――。
――今はそんなことを言っている場合ではないか。

大事なのは、健吾のその絶望は、彼が夢を抱いたからこそのものだということだ。
彼がギタリストの夢を抱かなければ、彼は深く絶望することもなかったはずだ。
そんな代償を背負う必要のあるものを、誰かに託すなど、そんな無責任なことは、渡には考えられなかった。

「――なるほどな。確かにお前の言うとおり、夢は呪いに似ている」

しかし目の前の愚者の考えを完全に否定したと、そう思っていた渡に思いがけない言葉をかけたのは、なんと他でもないディケイドだった。
仲間が必死になって伝えようとした言葉を拒絶するかのようなその言葉に、思わずそこにいる誰もが呆気にとられる。

「――きっとこの世の中には、夢に挫折して最初には思っても見なかったような人生を歩む奴の方が多いだろう。それを最期の瞬間まで後悔し続ける奴も、もしかしたら少なくないのかもしれない」

ディケイドは、ポツリポツリと、まるで赤子を諭すかのように言葉を漏らす。
それはウェザーに対して放った言葉のようでもあり、同時に横にいるファイズにも放たれている言葉のように感じられた。

「だが、それでも人がいつの時代も夢を抱くのを諦めないのは、きっとそれを抱くだけで、それを叶えようと行動するだけで、その結果に関係なく自分をより成長させると知っているからだ」

ディケイドのその言葉を受けて、ウェザーはほぼ反射的に思い出す。
自分という存在は、確かに愛する深央という女性を亡くしたことで深い絶望を味わった。
しかし、果たして本当にあの家を、あの部屋を出て自分は失うことしかしなかったのか?

恵さん、嶋さん、名護さん、健吾さん、そして深央さん。
彼ら彼女らと会えたことは、自分が外の世界を知りたいと、自分を変えたいと、自分という存在がどうやって生まれたのか知りたいと、そう〝夢”抱いたからではないのか。
と、そこまで考えて。

脳裏に横切るは、自分の手の中で最愛の人が崩れ落ちるその瞬間。
その命を自分が刈り取ったのだという、確かな、そして深い絶望だった。
――危ないところだった。

こいつは破壊者なのだ、耳を貸しては足を掬われる、そうに決まっている。
――そうに、決まっているのだ。

「そしてその夢がもし道半ばで途絶えるとしても。それを正しいと思う者が一人でもいるなら。その夢を誰かが継いでくれるなら、きっと、夢を抱いた事実は無駄にはならない」

そんな渡の思いも知らずに、ディケイドは言葉を紡ぐ。
――紡ぎ続ける。

「こいつは、それをたくさんやってきた。叶えられない誰かの夢を、代わりに叶えようと、必死に戦ってきた。それは、決して呪いの連鎖なんかじゃない。こいつが繋いできたのは……、〝希望″だ」

そのディケイドの言葉に、一番驚いているのは、他でもないファイズのように見えた。
それを脇目でチラと見やりながら、ディケイドは不敵に笑う。

「夢という希望は、誰かに受け継がれ、より大きな希望になる。だから、夢を抱くことは、決して無駄なんかじゃない!……知ってるか?夢ってのはな、時々すっごく熱くなって、時々すっごく切なくなるもの、なんだぜ」
「……あなた、一体何者なんですか?」

長々と告げたディケイドに対し、ウェザーは最早そんなありきたりな質問しか思いつかなかった。
この目の前に立つ男は、果たして自分が一人で敵うような相手なのか、そんなことを考えてしまうほど、目前の戦士は大きく見えて。
そしてその言葉を待っていたとばかりに、ディケイドは告げる。

自分という存在が、いくら破壊者と罵られようと持ち続ける、唯一無二のアイデンティティを。

「――通りすがりの仮面ライダーだ。……覚えておけ!」

高らかに宣言したディケイドの手にライドブッカーより飛翔するは、4枚のライダーカード。
それは、ファイズとして世界に認められた巧の信頼を勝ち得たことで、ファイズの能力を取り戻したことを意味する。
ヒビキに続き、巧という男までもが自分を信じてくれた事実を噛みしめつつも、ディケイドとファイズは戦闘態勢に入る。

相対するウェザーは吠える。
まるで、ディケイドの言葉に対し抱いてしまった自分の思いすら、すべて無かったことにするかのように。
ウェザーはそのまま勢いに任せるかのように雷撃を放つがそれをダブルライダーは同時にそれぞれ左右に飛ぶことで回避する。

それまでいた場所に雷撃が落ちるのを視認すらせず、彼らは同時にウェザーに切り掛った。
息の合った連携攻撃にさすがに一本しかないエンジンブレードでは攻撃を受け止めきれず、ウェザーは後退を余儀なくされてしまう。

――ATTACK RIDE……BLAST!
――BURST MODE

その隙を逃す気はないとばかりにディケイドはライドブッカーを、ファイズはファイズフォンをそれぞれ銃の形に変形させ、光の弾丸を連射する。
これは堪らないといった様子のウェザーだが、しかしただでやられているわけもない。
雄たけびとともに突風を発生させ弾丸を防ぐと同時にダブルライダーの態勢を崩し、そのまま彼らの前方に巨大な竜巻を発生させた。

「おい門矢、なんかいい手はないのかよ?」

弱った体でなくとも致命傷は間違いないだろうウェザーの規格外の攻撃に関して、ファイズはディケイドに一抹の希望を託す。
言外に、「ヒビキにやったような奴はないのか」と尋ねるように。

「いい手ならあるぜ。――とっておきのがな!」

そして、得られた答えは、予想以上。
見せびらかすように彼が掲げたカードの絵柄を確認する前に、ディケイドはそれをドライバーに投げ込む。

――FINAL FORMRIDE……
――FA・FA・FA・FAIZ!

「な、おいそれって……」
「あぁ、ちょっとくすぐったいぞ!」

ディケイドライバーから放たれた音声に抗議しようとするファイズを無視し、ディケイドは彼の背中を軽く撫で上げる。
それを受けファイズの体は問答無用でその身を大きく変貌させた。
関節など人体の構造など知ったことかといわんばかりの無茶な変形を終えて、そこにいたのは最早ファイズではなく。

そこにあったのは巨大な――ゾルダのそれすらはるかに上回る――大砲としか形容しようのない超大型の銃、ファイズブラスターだった。
眼前に迫る全ての生命を刈り取らんとするその暴力的な突風に対し、しかしディケイドは焦ることなくファイズブラスターのトリガーを引く。
それによって放たれたのは、まるでファイズがその必殺技、クリムゾンスマッシュを放つ時に現れるような、円錐状のポインター。

風の塊よりはるかに小さいはずのそれはしかし、迫りくる暴風を確かに受け止めていた。
そしてそれによってウェザーが一瞬でも狼狽したのなら、ディケイドにはそれで充分。

――FINAL ATTACKRIDE……
――FA・FA・FA・FAIZ!

すかさず『切り札』をベルトに叩き込み、次いで放たれるは電子の必殺宣告。
気合いと共にトリガーを引き絞れば、それと同時放たれるのは先ほどのものとは比べものにはならないほど巨大で強力な閃光。
それはまるで先ほどまでの脅威が嘘のように易々と巨大な竜巻を突破し、その先にいるウェザーにまで、威力の衰えを感じさせない勢いで到達する。

「うわあぁぁぁぁ――!」

次の瞬間、彼の絶叫すら容易く飲み込んで。
ウェザードーパントは、ファンガイアの命運を握る若き王は、予想だにしなかった破壊者とその仲間との信頼の前に、敗れ去ったのだった。



「――ぐっ」

気づけば、地に付していたのは自分だった。
目の前にある最早利用価値のなくなった壊れたウェザーメモリに気をやることすらせず、渡は歯噛みする。
ディケイド、世界の破壊者の異名は伊達ではない。

ゾルダに続き、あの大ショッカー大幹部アポロガイストの真の力を容易に打ち倒したウェザーをも敗れ去るとは!
自身の持つ強力な変身能力を二つも失ったことに苛立ちを隠そうともせず、渡は変形を解き人型に戻ったファイズと共に自身に歩み寄る悪魔をにらみつける。
――まだだ、まだ諦めるわけにはいかない。

ファンガイアの未来を託された自分がこんなところで倒れるわけにはいかないのだ。
どうしようもなく痛む体に鞭打って、渡は立ち上がる。
その背中に、愛する人間の、ファンガイアの未来が掛かっているのだと、そう自分を鼓舞しながら。

「……お前、まだ立てるのか」
「何を言っているんですか、ここまでは小手調べ。本当の闘いはこれからです。――サガーク」

明らかに強がりだと自分でもわかっている。
それでも、目の前の悪魔だけは、なんとしても破壊しなくては。
熱い使命を胸に、渡は自身の現在一番信頼できる下僕の名前を呼ぶ。

自身が一度王と認めたものならばいつでも無条件に従うそれは、自身を呼ぶ声に即座に答え、ベルト状に変形する。
同時に渡はその手に持つジャコーダーをサガークにセットし冷たく呟いた。

「変身」

――HENSHIN

サガークが渡の言葉を復唱すると同時、その身に透明のステンドグラスのようなものが纏わりついたかと思えば、次の瞬間にはそれは多色に彩られる。
そこにいたのは、ファンガイアの王でなければその身に纏うことすら許されないまさしく王のための鎧、サガ。
今の状況で渡が持ちうる、まさしく最強の切り札だった。

そしてそのまま自身の言葉通り本当の闘いを始めようとして。
――サガは、ディケイド達の後方、自身の視線のその先で起きている事象に、その目を奪われる。
幸い自分が疲労故呻いただけだと思われたのか二人が後方を確認する様子はない、故に離れるなら今しかない。

ディケイドを一時的とはいえ見逃す事実と、視線の先にある〝それ”を、天秤にかけて。
数舜の思考の後、結局は確実に破壊できる確証のないディケイドに固執するよりも〝それ”を手にすることで後々のディケイド討伐や他世界の人間を効率よく狩れる可能性を優先する。
そうと決まってからの、彼の行動は迅速だった。

「その命、一旦預けます。ディケイド」

抑えようのない名残惜しさを感じながら、サガはジャコーダーを振るった。
ディケイドにでもファイズにでもなく、彼らの足元を目がけて。
思わず回避行動を取る彼らを尻目に、その威力故に生じた火花が収まるより早く、サガはその場より姿を消していた。

「逃げ足の速い奴だ」

その腰にライドブッカーを戻しながら、ディケイドはごちる。
あれだけ自分を破壊すると意気込んでおきながら、まさかサガへの変身そのものが逃走へのブラフだったとは。
次に音也に会った時を思うと気が重いな、などと思いながら仲間への援護のため、その足を先ほどまでのライジングアルティメットが暴れていた場所に向けようとして。

「――ぐッ!」

巧が鋭いうめき声と共に倒れこみ変身を解除したことによって、それを中断する。
――その場に蹲った巧の体から、信じられないほどの量の灰が、吐き出されるその瞬間を、目の当たりにした為。

「巧ッ!」

余裕を装う暇もない。
まさか先ほどの闘いか、それよりも前のライジングアルティメットの攻撃で、すでに限界を迎えていたのだろうか。
そう考えてしかし、巧の体からオルフェノク特有の青い炎が出ていないことに気づく。

それはある意味喜ばしく、そしてまたある意味では、下手をすれば死ぬよりも残酷な……。
数秒の時を経て、巧の身から落ちる灰は止まる。
巧は自分の両手を確認し、それらが問題なく人間の形をしていることに安堵するが、その横でディケイドは絶句せざるを得なかった。

「巧、お前――」
「――わかってる、俺の命はもうヤバいとこまで来てる」

そう告げながら、しかし巧の表情は数時間前見たあの取り乱していた彼と同一人物と思えないほど冷静で。
まるで、今自分が残された少ない時間の中で何を成さねばならぬのか、何をしたいのかわかっているかのように。
それを痛いほど痛感して、士はそれ以上その話題についての追及をやめる。

数瞬流れた沈黙の後、口を開いたのは巧だった。

「さっき、言いかけたよな。あいつらの夢は、って」
「あぁ、それがどうした」
「あいつらの夢は、簡単には渡せねぇ。それはあいつらが信じてた人間に会うまで、絶対譲れねぇ。……けど」
「……けど?」
「――俺の夢なら、俺の判断で誰かに託しても構わない、だろ?」

そういう巧は、覚悟を決めたような顔をして、しかしどこか物悲しげだった。
まるで彼がそのままどこかに消えてしまいそうに見えて、士は返答を迷い、しかし少し考えて短く肯定を返す。

「だからな、まず手始めに、お前に俺の夢を託す。俺の、世界中の洗濯物が真っ白になるみたいに、みんなを幸せにするって夢を」

言われて士は、自分の言った「誰かの夢を背負う」ことの大変さを思い知る。
しかし、今更弱音を吐くわけにもいかないなと、息を吐いて。

「わかった。お前の夢は、確かに俺が背負う。だが……」
「――わかってる。俺だってただで死ぬつもりはない。ただもう本当にいつ死ぬかわからないからな、誰も俺の夢を聞いてもくれないのは、辛いって思っただけだ」

言いながら、巧は立ち上がる。
その体を僅かに引きずりながら、しかし確かな足踏みで、まだ戦うためにその体を動かしていた。
こいつには、何を言っても止まらないだろうし、止める気もないと考えながら、しかし士は一つだけ浮かんだ疑問を口に出さずにいられなかった。

「なぁ、一つだけいいか?」
「あん?」
「――なんで、この俺に大切な夢を託す?世界の破壊者かもしれない、俺に?」

それは、彼の中でどうしようもない疑問だった。
確かに自分は数々の世界を巡る中でいくつもの世界を代表するライダーと交流し、彼らの多くは自身を破壊者と知りつつ自分を信じてくれた。
しかし巧と会ってからの交流がそれに相応するかと言われると、流石の士でも疑問を抱かざるを得なかったのだ。

「――それは、正直俺にもよくわかんねぇ。けど、もし一つ理由があるとするなら……」
「するなら?」

――お前が何となく俺に似てるからだよ。
と、そんな臭い言葉が喉の先まで出かかって、らしくないと巧はそれを飲み込んだ。

「……やめた。こんなこと言っても何にもなんねぇ、それより早くあいつらの所に――!」

言葉を下手に切り上げながら、巧は眼を見開く。
対する士も有耶無耶にされた会話にイラつきつつその視線の先を見やり――。
――そこにあった惨状に言葉を失うしかなかった。

110:Kamen Rider:Battride War(3) 投下順 110:Kamen Rider:Battride War(5)
時系列順
五代雄介
葦原涼
秋山蓮
乾巧
村上峡児
橘朔也
相川始
金居
志村純一
日高仁志
矢車想
乃木怜治
野上良太郎
紅渡
門矢士
海東大樹
フィリップ
鳴海亜樹子




タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2019年05月26日 11:19