Kamen Rider: Battride War(5)   ◆.ji0E9MT9g





時刻は、数分前にさかのぼる。
コンプリートフォームという、文字通りの完成形と化したディエンドに対し、レベル3というこの場で園咲霧彦も乾巧も成し得なかった境地に達したRナスカが超高速で接近する。
一息のうちに目前まで達したナスカに対しディエンドは通常の形態の数倍の威力を誇るようになったディエンドライバーから銃弾を発射する。

しかしナスカはそれを手に持つナスカブレードの名を持つ剣で両断、そのままディエンドの強固な装甲にその刃を突き立てんと――。

「甘いよ、五代雄介」

瞬間、急速に加速したディエンドが後ろに飛びのいたことで空振りに終わる。
ディエンドが用いたのは、海東大樹本人が持つ驚異的な身体能力にディエンドのスペックを兼ね合わせただけの、単純な脚力による行動。
しかし元の形態の時点で、強力なライダーであるリュウガを翻弄できるそれが、コンプリートフォームになったことによってより強化。

故にその鈍重そうな見た目と反した更なる高速移動を可能としたということだ。
常に合理的な判断を下し続けるナスカにもこれは読めなかったのか、それとも何か合理的な判断をしたうえでの空振りなのかはわからないが、どちらにせよ攻撃を外したナスカもまた同様に後ろに飛びのいた。

(全く以て、このコンプリートフォームの力は素晴らしい!……が、このままじゃ埒が明かないのも事実。ここは思い切って……)

一方で激しい一進一退の攻防を繰り広げながら、ディエンドは自身のコンプリートフォームへの満足感と、この状況の打開策のことを考えていた。
目の前のナスカの能力は確かに凄まじい。
各世界を代表するライダー諸君や、先程見たナイトの強化形態程度では、かなりの苦戦を強いられる相手であるのは間違いないだろう。

だが、先程までの理不尽な暴力と比べて、随分とスケールダウンしたのもまた事実。
ライジングアルティメットフォームとの激闘を何とかやりすごしたディエンドにとって、この程度の敵でこのコンプリートフォームをもってすれば、絶望などするはずもなかった。
とそうして自身を鼓舞しながら、彼は1枚のカードをドライバーに装填する。

――ATACK RIDE……

「これは躱し切れるかな?」

――BLAST!

ハイテンションな電子音声とともに放たれたのは、通常のディエンドのものと比べても一つ一つの威力も、また弾幕の綿密さも増したディエンドブラストだった。
並の怪人、どころかそれぞれの世界に存在する上位怪人ですらダメージを如何に減らすかを最優先で考えるだろうそれを前に、しかしナスカは加速。
追尾し続ける弾丸の雨を前にしても、その足は止まることを知らず。

そしてその正確かつ高速で行われる疾走に、やがて弾丸はそれぞれの身をぶつけ合い、空中に大きな花火を散らし消滅する。
そのままの勢いで、次はお前だと言わんばかりに止まることなくナスカはその足を再びディエンドに向け――。
しかし機械的な判断故のその行動をこそ、ディエンドは見抜いていた。

――KAMEN RIDE……
――PSYGA!

この場に何度も響いた電子音声がもう一度鳴り響くと同時、高速で移動し続けるナスカの前に突如現れ出でたのは白と青のライダー、サイガだった。
クロックアップ対策にカブトの世界でも用いられたそのライダーは、その高度なシステムでもって高速移動をそのまま追うのではなく、補足。
突如意識外から浴びせられたその弾幕に大したダメージを追わないまでも、さしものナスカもその足を止めざるを得なかった。

だが、究極の闇を超える存在と化したナスカはすぐにその脅威を認識。
左の掌を翳し巨大なエネルギーをサイガに向け、発射。
そのエネルギー弾を避けるという思考を持たない愚かな傀儡はその炎に飲み込まれ――ない。

「――ッ!?」

僅かながら驚いたような声を漏らしたナスカは、しかし目の前にいたはずのサイガが金色のカード状に変形したのを確認して、状況を把握。
つまりは、自分の思考ルーチンを読み切ったディエンドの小癪な罠だったのだと、そう理解した。

――FINAL ATACK RIDE……

「ちょっと眠っててもらうよ、五代雄介」

ディエンドは、ライジングアルティメットの思考パターンを、もはや完全と言っていいほど把握していた。
この戦いで最初に召還したコーカサスがクロックアップスイッチを押した瞬間に対処された時は戦慄したが、今思えば逆にあの一瞬を逃せばライジングアルティメットにコーカサスが主の下に行くのを阻止できなかったゆえの行動だったのだろう。
ディケイドがゾルダの下に行くときや、先程自分が志村を抱え離脱したとき阻止しなかったのは、自分たちが離脱したのが主のいる病院と方向が異なっていたからというだけなのだろうと、そう今なら判断できた。

自分も、そして十中八九間違いなく士もそこまで考えての行動ではないから、全く以て運が良かったということになる。
……また同時に、主である金居の命令なのか、彼は自分にはダメージ足り得ないような攻撃でも受けるのを拒んでいた。
恐らくだが、ナイトサバイブの必殺技、疾風断程度であれば、拘束を一瞬で振りほどき逆にミラーモンスターごとナイトを殺害するのも僅かなダメージと引き換えにすれば容易ですらあったはずだ。

つまり、彼の思考パターンは常人とは全く異なる機械的な思考だからこそ、少し策を用いればこのトリックスターの異名を持つディエンドには簡単に対処できたのだ。
とはいえライジングアルティメットフォームであったならこんな簡単にはいかなかったのだろうが、と思いつつディエンドは自身の強化ディメンションブラストの威力が高まっていくのを感じ。
同時に相対するナスカがその場から動かずその掌にエネルギーを溜めているのを確認する。

なるほど、逃げられないと知ったうえで、この僕に勝負を挑んでくるか。
例えそうであっても負ける気はしないとディエンドは不敵に笑い、ナスカはただその力を高め続け。

――DI・DI・DI・DIEND!

そして両者ともに相手にその力の全てを解き放って。
――恐らくは両者ともに、直撃の寸前生じた紫の閃光に、気付くことなく――。
一瞬でその周囲は圧倒的な力によって、爆風にすべてを包まれたのだった。



「ぐっ……、一体何が……」

予想外のエネルギー量に吹き飛ばされ、無防備な姿を見せたまま、海東大樹はそう一人呟いた。
ディエンドコンプリートフォームと、Rナスカの実力は少なくともあの時点で自分の負けは考えられないほどだったはずだ。
実際、先程のインパクトの際感じたのは力で押し負けたというより何か別の介入が入ったように感じられたのだ。

と、混乱する頭を整理しながら立ち上がると、自分の身からディエンドの鎧が消失していた。
どうやら、ダメージだとかではなく、予想外のインパクトに自分がディエンドライバーを手放してしまったのが原因のようだ。
お宝であるドライバーを手放すなんて、僕らしくないねと溜息をつきながら、彼は辺りを見回す。

それにはもちろんディエンドライバーの発見という要素も含まれていたが、暗がりである現状、大樹はそれより先に確認すべきことがあるとその足を進めて。
そして、無事発見に成功する。
俯せに倒れたまま動かない、五代雄介を。

「全く、僕が自分のお宝よりも他人を優先するとは。感謝してくれたまえよ、五代雄介」

言いながら、大樹は五代の体を拘束する。
気絶などありえようはずもない彼がこうしておとなしくなったのは、この場での制限によるものなのか、それとも仲間の誰かが地の石の奪還、及び破壊に成功したのだろうか。
ともかく、もう僕の役目は終わりかな、とそう一息ついて、五代がもう誰も傷つけないようにと、その横に座ろうとした、その瞬間。

「――誰だッ!」

感じたのは、闇に紛れこちらを伺う気配。
様々な世界で泥棒を繰り返して身についた、咄嗟の本能による危険察知能力だ。
先程のインパクトはまさかこいつが、と思いつつ油断なくデイパックからグレイブバックルを取り出す。

「隠れていないで出てきたらどうだい、君がそこにいるのはわかっている」

言いながらグレイブバックルにカードを装填し、言外に最終警告だと告げる。
これで出てこなければ、戦闘になるぞ、と。
グレイブへの変身待機音が鳴り響く中、影はゆらりと蠢いて……。

「――俺だよ、大樹」

その影はささやくように呟く。
それは先ほどまで聞いていたはずの声ではあるが……、しかし彼とは違う存在でなければ、口にできないはずのセリフだった。

「……兄、さん?」

呟くと同時、彼は警戒を解いてしまっていた。
そんなこと、普段の彼ではありえなかっただろう。
例え士やユウスケ、それに死んだはずの夏美が目の前に出てきても、ワームである可能性を考えディエンドライバーで発砲すらしたはずだ。

なれば、何故。
答えは簡単だ、それはつまり、目の前にいる〝彼”と話す時、大樹は幾多の世界で恐れられたトレジャーハンターでも、通りすがりの仮面ライダーでもなく。
ただ一人、どんな世界のどんなところにだっている、一人の〝弟”になってしまう、ただそれだけの理由だった。

しかしそれでも、きっと一瞬思考する時間が与えられたなら、彼はすぐさまトレジャーハンターとしての勘を取り戻せたはずだった。
だが、もう遅い。
自分を呼ぶ懐かしい声に気を取られたその瞬間に、彼の胸は、夜を一瞬で照らすような紫の閃光に貫かれていたのだから。

「……がふっ」

自分のミスを、元の世界に置き去りにし切れなかった甘さを実感しながら、彼は冷たい地面の上に倒れ伏した。
あぁ、もうわかっている。
自分がどこでミスを犯したのかも、誰が、本当の意味で究極の闇だったのかも。

遠のき行く意識を必死に繋ぎ止めながら、大樹は最後の力を振り絞って顔を上げる。
そこにいたのは、フィリップの撮影した情報そのままの、白と赤で染められたジョーカー(鬼札)。
まさかあなただったとは、と声にすらならぬ思いを目だけで必死に訴えるが、そんな自分などお構いなしにジョーカーはその姿を偽りの皮で覆う。

――自身の兄と、同じ笑みを浮かべながら。

「ありがとう、海東。お前のお陰でこいつを易々と手に入れることができた」

――志村純一。
湧き上がる悔しさと、怒りと、そして――。

(別の世界でも〝あなた”はやはりそうなのか……)

そんな複雑に絡み合う様々な感情をごちゃまぜにしたまま。
世界を股にかける怪盗は、遂にその意識を深い闇に沈めていったのだった。

【海東大樹 脱落】
【志村純一 復帰】
【ライダー大戦 残り13人】




目の前で海東大樹という男が確実に死んだのを確認しながら、その下手人、志村純一はニヤリと笑った。
その肌にはアンデッドの証である緑の血が流れていたが、しかしそんなものを気にする様子もなく、彼は死人と化した大樹からグレイブバックルを剥ぎ取る。
その作業を行いながら、それにしても自分の思う以上に事が進んだな、と志村は思う。

ライジングアルティメットとの戦いにおいてまず志村が抱いたのは、G4は自分の期待以上の素晴らしいものであるという実感だった。
グレイブやオルタナティブゼロ、或いは村上の持つオーガすら圧倒しかねないような鎧、G4。
それを着用しての闘いは、正直なところ自身の元より持つ耐久性と併せてまず間違いなく死はありえないと、志村をもってそう考えさせるに足るものだった。

そのはずだというのに、ライジングアルティメットはそれを容易く超えてきた。
その実力は、この志村純一を以て「真の力を発揮しても勝てない」と考えさせるのに十分なもので。
それを認めるのにはかなりの精神的苦痛が伴ったが、しかし地の石を自分のものとすればいいのだと考え直すことで自分を何とか保った。

だが、そんな化け物と戦う愚策を、志村が取り続けるわけもなく。
適当なところで脱落したように見せかけようと、GM-01スコーピオンの弾丸を徐々に外していき、慣れない射撃を用いる戦闘の最中緊張が切れてしまったのだという風を演出しようとした……、のだが。
そう決めて間もない一撃目で、ライジングアルティメットの力で思いがけない脱落を余儀なくされたというのが実際のところである。

自分が手加減などしていない、的確に狙ったはずの一撃で、だ。
返された弾丸は先ほど言ったように跳弾をするような角度で放たれていたが、刹那の判断で身を少し捩ったことで最低限のダメージに留めることに成功。
一か所貫通したくらいでは、アンデッドの頂点に立つ自分は死なない、が、それでも本当に一時的に行動を阻害される。

この時点で志村としては敗北もいいところなのだが、しかし彼にとって幸運が二つあった。
それは、海東大樹が何故か自分を兄と呼んだこと。
呼んだ理由はわからないが――といっても彼はもう死んだのだから知る必要もないが――それによって集中を乱し、あの邪魔な海東を殺害することに成功する。

そしてもう一つの幸運は……。

「ありがとうジョーカー、お前のお陰で俺は今も生きられるんだ」

そう、時刻が十時十五分を回ったこと。
その時刻は西側において志村の元いた世界における最強のライダー、仮面ライダーブレイドキングフォームがその姿を現した時間。
それによって倒れ伏すだけだった志村に本能的にジョーカーへの衝動が沸き起こり急速に回復の速度を速めつつ、その身を真の姿へと変化させた。

偽りの姿でも十分高い回復力が真の力を発揮したことでより加速したことで、取りあえず動ける程度には傷を回復する。
また、G4は破壊を免れないかと思いきや、この場での制限なのかきれいにパーツごとに機能を残したまま辺りに散らばってくれた。
装着するタイプの変身と身体変化するタイプの変身は同時並行で使用できないということなのだろうか?

ともかく、そして起き上がった後はその湧き上がる殺人衝動に身を任せつつ、先程得た情報を駆使し海東を殺害。
無防備な五代雄介を手に入れ、奪われたグレイブバックルも回収できた、というわけである。

「だが、このままこいつを見張っていてもライジングアルティメットは俺のものにはならない、か。全くどうするかな」

そう、例えこいつがそのままライジングアルティメットに変身できるからと言って、彼の近くにいればその力が手に入るわけではない。
故に考える。
地の石の下に向かうか、他者に石が渡った時のデメリットを考えてここで始末してしまうか、と。

(まぁ、答えは一つ、だな)

だが、アルビノジョーカーである彼の強欲さは迷わず地の石を手に入れることを決断、近くに落ちていた割れたガラス片――元は病院の窓だろうか――にオルタナティブゼロのデッキを翳し、そのままバックルに叩き込んだ。
幾つかの虚像と志村が重なり、そのまま一つの像を結んだとき、そこにいたのは最早生身の人間ではなく。

黒のボディに金のラインの走った戦士、オルタナティブゼロであった。
そのまま彼は走り出す。
ただ自分の限りない欲望を、果たすためだけに。

邪魔者から解き放たれ究極の力をその手に収められるかもしれないという昂ぶり故に、彼は一つ大事なことを見逃している。
彼の胸ポケットを貫いた神経断裂弾によって、そのまま胸ポケットに収めていたSEAL(封印)のアドベントカードを破壊されているという事実を。
それによってそのカードが鏡の中に封じ込めていた主なきモンスターがその空腹のままに自分を襲うかもしれないという事実を、彼は見逃してしまっていた。

(待っていろ、愚かな人間ども……。この俺が、すべてを支配する、その時を、な)

そんな事には一切思い至らぬまま、彼は走る。
愚かな人間に格の違いを見せつけ、全てを支配するために。
……さて、ここで少し腑に落ちない読者諸君がいるだろうから、一つ説明せねばなるまい。

――『何故、志村純一はジョーカーの衝動を受けて変身してもその理性を失っていないのか?』という疑問への答えを。
諸君らはきっとここまでの物語を見てきて、こう思ったのだろう、『相川始はキングフォームの影響でジョーカー化すると理性を失うのだから志村もそうであるはずではないのか』と。
そう思っていないのなら読み飛ばしてもらっても何ら問題はないが、この疑問に対する明確な答えは、もちろん用意してある。

だが、少しだけ寄り道をさせてほしい。
それは、まず根本的な質問として、『逆に何故元々ジョーカーである相川始がその姿になると理性を失うのか』という点である。
基本的な話として、ジョーカーは元々原初のバトルファイトにおいては文字通りすべてを破壊するバーサーカーであった。

それは、現代のバトルファイトにおいて『相川始』という人間として生きる彼を見て多くのアンデッドが驚愕している点からも明らかだろう。
また、諸君も知っての通り、彼は現代のバトルファイトにおいて、またこの殺し合いにおいても人間などという脆弱な種を守るため戦っている。
彼自身は自分のことを破壊者として自嘲する節はあるが、その時点で最早古代のバトルファイトにおけるジョーカーとその性質が大きく変わっているのは疑いようもない事実だろう。

さて、ここで問題になってくるのは、彼を変えた要因である。
それはヒューマンアンデッド、彼が現代のバトルファイトにおいてジョーカーに最初に封印されたアンデッドとなり、自ら彼に心を与えたのだ。
それ以降彼は徐々に人の心を学び、自分を〝相川始”としていたいと考えるようになり、次第に自分の本来の姿、ジョーカーを忌み嫌うようになる。

実際彼はこの場に連れてこられるまで、栗原親子と出会ってから一度も自分の意思でジョーカーに変身したことはない。
それほど彼は心を愛し、それを失い暴れるジョーカーという獣を忌み嫌ったというわけだ。
さて、長々と話してきたが、ここで伝えたいのはつまり、彼のジョーカー化による暴走は彼の生み出したイレギュラーすぎる状況にのみ起こるある種の奇跡なのだということだ。

例えば生物には、一切それを発散しなくても生きることのできる欲求が存在する。
人間にとっての性欲などは、まさにそれに値するといって過言でないだろう。
我々は定期的に自身の性欲を発散しなくても死ぬわけではない。

だが、覚えはないだろうか、そう考えあまりに溜め込んでしまったために、精神的な苛立ちが激しくなり、また一度性欲に捕らわれたとき平常よりも歯止めが利かなくなる経験に。
……あまり深く言及するのもよろしくないので、わからない方はそういうものなのかと思っていただければ幸いである。
ともかく、始にとってのジョーカーは果たさなければストレスのたまっていく本能であり、発散すべき原始的な欲望なのだ。

しかしそれを無理やり抑え込むことによって、外部的要因――キングフォーム――によってそれを無理やり引き出されたときそれまで抑えていた分が吹いて出て、暴走してしまうということである。
それを踏まえたうえで話を元に戻すと、志村はその欲望を溜め込んでいるだろうか?

答えはもちろん、NO、だ。
この場に来てからももちろん、元の世界においてもその姿を晒すことに躊躇いはなく、むしろ誇りすら感じている。
なれば、それが強大な力によって無理やり引き出されても、暴走などするはずもない。

なぜなら彼は、ジョーカー化という原始的な欲求を、我慢することなく〝発散”しているのだから。
それこそが、彼ら二人のジョーカーを分ける唯一の違い。
そしてそれが、彼らをそれぞれアンデッドとして生きるのみか人間として生きることができるかを分ける、最も大きな違いだった。




時間はまたしても遡る。
此度語られるのは病院であったものの残骸の中で繰り広げられるこの戦いの諸悪の根源である金居から地の石を奪う戦いだ。

「ガアァァッ!!」

絶叫と共にギラファアンデッドに組みかかるのは、一見すると怪人に見間違えられそうな仮面ライダー、ギルスだった。
その腕よりはやした生態的な爪、ギルスクロウでギラファを切り崩さんとするが、ギラファの持つ双剣に容易く凌がれる。
お返しと言わんばかりに剣の片割れ、ヘルターで反撃を浴びせんと振りかぶるが。

「――させると思ったか?」

横より瞬時に現れた紫の怪人、カッシスワームグラディウスがその剣を受け止める。
思わず舌打ちを漏らすギラファだが、しかしそのまま攻撃を食らうほど愚かではなく、強引にその身を振るって二人の敵を振り払う。
ギルスはともかくカッシスワームであれば容易く押し返せるはずのそれは、ライジングアルティメットに与えられた規格外のダメージによってその力を阻害され、思うように動けない。

ゴロゴロと地面を転がったギルスに対しギラファはその双剣よりエネルギーを放つが、それは横より飛び出したカッシスの体表に吸収され、ダメージにはつながらない。
この戦いが始まってから幾度となく繰り広げられた光景、それは互いに相手を押し切るだけの力がないという事を表しているのだろうか。
いや、違う、とカッシスワームは頭を振る。

ギルスはともかく、自分もギラファも万全の状態であるなら相手を倒す能力は十分に備わっているはずである。
だが自分はライジングアルティメットに受けたダメージの大きさ故、残念ながらギラファとの一対一では最早押し切られる可能性のほうが高い。
だがそんな自分に対して、ギラファはこの戦いを耐えていればいずれ最強のしもべが現れ敵を一瞬で薙ぎ倒してくれるというわけだ。

無理をして自分たちを倒す必要がない以上、圧倒的に状況アドバンテージに差があると言う他ない。
流石にもう一度ライジングアルティメットが現れれば、悔しいが自分は呆気なく死ぬとそう判断せざるを得ないだろうと、そう確信できる。
なれば、やはり自分もギルスも一切のリスクなしで勝てるはずもないか、と一つ溜息をついて、カッシスはデイパックより一本の大剣を取り出した。

ギルスの攻撃が一切と言っていいほどギラファに届いていない現状、自分が持つより彼が持つほうが有用だろうと、そう考えて。

「葦原涼!これを使え!」
「これは……!」

そう言いながら投げ渡されたそれを危うく取り漏らしそうになりながら受け取ったギルスは、驚嘆の声をあげながらその黄金に輝く大剣、パーフェクトゼクターを構える。
明らかにギルスの体積に見合っていないそれは彼のパワーを以てしてなお持ち上げるのに苦労しているようだったが、カッシスはそれを見てやはりかと漏らす。
自身を一度殺したこともある強力無比な武器、パーフェクトゼクター。

それをどんなマスクドライダーでも扱えるなら、あの天道がライダーフォームで使用しない手はない。
つまりそれは、各ライダーでいうハイパーフォーム相当の形態でなければ使用に支障をきたすということを意味している。
もちろんギルスはそういった装甲には遠く及んでいないし、どころかライダーフォームよりも防御力が低いように見える上、それもあながち間違いではないだろう。

しかし少しでは済まないような無理をしなければこの目の前の強敵には傷ついた自分とギルス程度では勝ちを望めるわけもない。
そのためとはいえ自身の手に入れた最強の武器を一旦でも手放すのは惜しかったが、しかしそれもすべて勝利のためと、無理やり飲み込む。
改めてパーフェクトゼクターを構えたギルスと並び立ったカッシスに対し、ギラファは二人より幾分か余裕を以てしかし油断なく双剣を構え。

三者は、再び激突した。

110:Kamen Rider:Battride War(4) 投下順 110:Kamen Rider:Battride War(6)
時系列順
五代雄介
葦原涼
秋山蓮
乾巧
村上峡児
橘朔也
相川始
金居
志村純一
日高仁志
矢車想
乃木怜治
野上良太郎
紅渡
門矢士
海東大樹
フィリップ
鳴海亜樹子




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最終更新:2018年02月10日 13:22