Kamen Rider: Battride War(6) ◆.ji0E9MT9g
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「頼む、矢車想!彼らと共にカテゴリーキングを倒してくれないか!」
「断る……、俺はワームと一緒に戦うつもりはない」
「そうだよフィリップ君!お兄ちゃんの闘いは、お兄ちゃんの意思で決めるの!」
「亜樹子ぉ……」
「お兄ちゃん……!」
目の前で気色の悪い世界を展開するキックホッパーと亜樹子に対して、フィリップはその焦燥の思いをより一層加速させた。
キックホッパー、矢車想にはこの戦いを一瞬で終了させかねない強力な能力、クロックアップが備わっている。
だというのに、彼のやることといえば亜樹子と――ついでに――自分を守るというだけの保守的な役割。
亜樹子は自分が守って見せるからと説得をしても、彼は「俺は亜樹子を守るだけだ」と譲らない。
それに加えて、矢車が一言言うたびにそれに便乗し会話を阻害する亜樹子のこともあり思うように会話が進まないのだ。
(亜樹ちゃん……、照井竜が死んでしまって心の在りどころを彼に求めてしまったのだろうか……)
自分がこの殺し合いに呼ばれる前、照井竜は――彼自身にはきっと一切の下心はないのだろうけれど――亜樹子を花火大会に誘った。
自分は、少し前の禅空時事件の際に彼に指摘されたほど色恋には疎いが……しかしそれでも照井竜という存在に対する亜樹子の思いは――そして同時に竜から亜樹子への思いも――、十分伝わってきた。
そんな彼が死んでしまって、その時すぐそばにいてくれた矢車という男に陶酔してしまったのか、と思うと彼に亜樹子を責める気は毛頭も起きなかったのだ。
「……ともかく、君がそう言うなら僕だけでも彼らの援護をさせてもらう。ガジェットを駆使すればサポートくらいは……」
「やめとけ」
やり場のない思いを抱きつつ、フィリップはしかし自分だけが戦場へ向かいサポートに徹するのなら問題ないのではと提案する。
だが、またしても矢車はそれを否定する。
流石に自分も現在進行形で苦しんでいる五代を放っておいて地獄だなんだの話を聞くつもりはないと声を荒げかけて。
無言で、しかもそれすら気だるげにキックホッパーは虚空を指さす。
戦地とは全く違うそこには何も――。
「なっ……!」
いや、いる。
何匹とも数えきれないようなシカのようなモンスターが、鏡の中で蠢いている。
これが秋山蓮の言っていたミラーモンスターか、なるほどこれなら生身の自分が闇雲に行動するのはまずいというのも頷かざるを得ない。
と、そこまで考えるが早いか、キックホッパーが自分の口をそっと塞いだ。
「静かにしろ、あいつらが何に反応するのかは知らないが、音に反応するならむやみに騒ぐのはまずい」
「矢車想、君は最初からあれに気づいていたのか?なら何故皆に知らせなかった?」
「あいつらはあいつらの光を求めている。なら俺も、自分のほしい光を掴むための努力をするだけだ」
「お兄ちゃん……、カッコいいよ……!」
「亜樹子ぉ……!」
……二人のよくわからない漫才はおいておくとして、しかしフィリップは驚愕の念を抱かざるを得なかった。
ミラーモンスターがここまで近かったこともそうだが、キックホッパーがあの目まぐるしい状況下でそれにいち早く気づいていたとは。
単なる責任放棄にしか見えなかったそれは、むしろ誰よりも冷静な判断で成されたのだという事実にフィリップは何より驚いていた。
「何故、彼らは襲ってこないのだろう」
「変身している俺がいるからだろうな、或いは、ゼクト製のライダーに何か痛い目でも合わされたのか、或いは全く違う別の何かが……」
気だるげに、しかし的確に根拠の整った自分の考察を述べるキックホッパーを前にして、やはり彼もまた一人の仮面ライダーであったのだとフィリップは彼への評を改める。
だが、どちらにしても今自分には何もできないという事実は変わらない。
この歯がゆい状況を、自分はただ享受するしかないのだ。
(翔太朗……、君がいてくれれば……)
思いは、この場にいない相棒の下へ。
こんな情けないことばかり考えていては相棒に愛想をつかされると思いつつも、フィリップにはそうやって自分の非力を呪うほかなかった。
◆
「シャァッ!」
ガキン、と鋭い音を立てて火花を散らすのはカッシスのレイピア状の武器とギラファの兄弟剣の一つ、スケルターだった。
空いた左側を見逃さんとパーフェクトゼクターを振るうギルスだが、やはり重いのかギラファが剣を少し掠らせた程度でその剣先は全く見当違いの方向へ向いてしまう。
それを横目で見ながらカッシスは剣を振るおうとするが、瞬時にギラファが飛びのいたことでそれを失敗する。
「おいおい、どうした乃木、随分と辛そうだな?」
「黙れェ!」
安い挑発だが、乃木にはもはやいつもの調子で皮肉を返す余裕すらなかった。
ライダー諸君は、自分を叩きのめしたライジングアルティメットを複数でとはいえ足止めするという仕事を果たしているのに、自分は金居に一向に有効打を与えられない。
それが、自分たちは仮面ライダーに及ばないような存在だといわれているように感じて。
ワームという種そのものが人間より上位に位置すると確信している乃木の精神を逆撫でするのである。
「待て、乃木!中途半端な攻撃じゃさっきまでと同じだ。同時に攻撃するぞ!」
しかしそんな乃木を咎めたのは、共に戦うギルスだった。
一人一人の力では敵わずとも、二人の力を合わせれば或いは、と。
だが、
「お前がもっと強ければもう決着はついているのだがね」
「何ッ!?」
予想だにしていなかった乃木の感情的な言葉に困惑する。
しかしそれを受けて、この場で一人だけ場違いなほどに金居は嗤った。
「フフ、どうやらそいつの化けの皮が剥がれてきたようだぞ?葦原」
「金居ィィ!」
いつもならば問題なく躱せた筈の下らない発言すら、今の乃木には見過ごせず。
思い切り駆け出した彼は、そのままガタックより奪った能力であるライダーキックを発動する。
高まりゆくタキオン粒子をこの苛立ちごとギラファに浴びせんとして。
しかしその足は、難なくギラファに受け止められた。
「なっ!?」
「甘かったな、乃木。これでチェックだ」
ギラファが発生させたバリアで大幅に威力を削られたか、と思うが、もう遅い。
カッシスのその剛脚は、ギラファの腕にがっしりと捕まれ、最早自分の意志では満足に動かすことすら叶わなかったのだから。
そして、ギラファはそのまま――乱打。
カッシスは悲痛なうめき声を漏らすが、むしろその声はギラファを喜ばせるだけだった。
「調子に乗るなよ……ライダースラッ――!」
「調子に乗るなはこっちのセリフだ」
そんなギラファの様子に対しカッシスはその右手を鮮やかな紫に染め上げる。
だがその力を解き放つ前にギラファの拘束が解かれ思い切り押しのけられたことで、その力のやり場を失ったまま病院の床を無様に転がった。
「乃木!」
そして受けたダメージのあまりの大きさ故立ち上がれない様子のカッシスに対し、駆け寄ろうとするギルスを前に、降ってくる声が一つ。
「待てよ、葦原。そいつに助ける価値はあるのか?」
――敵対するギラファの声である。
まるで言っている意味が分からないとばかりにギラファを睨み付けるギルスだが、しかしそれに対しギラファは大して動じた様子もなく語り始める。
「なぁ、葦原。お前たち仮面ライダーが俺に楯突く理由は痛いほどわかる。
俺が、地の石で五代雄介という善良な仮面ライダーを操り、自身の欲のためだけに彼に殺害の罪の片棒を担がせているのが気に食わない……だろ?
それは実に明瞭な理由だ。納得は出来なくとも、理解は出来る。俺の世界に元いた仮面ライダーやお前や乾巧がそういった人種なのは痛いほど理解しているからな」
そこまで一息に言い放って、いきなり語調を低くし、未だ地に伏したままのカッシスを指さしながらギラファは続ける。
「だが、そいつはどうだ?俺の持っている地の石、それをそいつは本当に破壊するつもりなのか?」
「何が言いたい?」
ギルスのその言葉に、ギラファは引っかかった、と笑いつつも、それを悟られないように話を続けた。
「この戦いが終わって俺を無事に倒せたら、その時、こいつは地の石を、ひいては五代を手に入れてお前たちを殺すつもりなんじゃないかってことさ。
元々そいつは、お前が東京タワーに向かった後、自滅したいなら勝手にさせるだけだ、だの無能な者は仲間に引き入れるつもりはないだの言っていたんだぜ?
何とそれは殺し合いに乗っている、俺と同じ考えだ。そんな物騒な思想を、そいつは持っているってことさ」
殺し合いに乗っている俺、という言葉を強く強調しながら、ギラファは続ける。
その言葉に、ギルスは一瞬カッシスを訝しむ様な目で見やる。
その時点で、ギラファの作戦は成功したも同然だったが、一つ息をついて、ギラファはなおも続けた。
「なぁ、葦原。俺と組んでそいつを潰せ、とは言わない。ただ、態々そいつを助けてやる義理はないんじゃないか?
どうだ?ここからはバトルファイト……、いやバトルロワイアルとして全員敵という形式を取るってのは――」
「――ふざけるなよ」
意気揚々と話を続けるギラファに対し、文字通り水を差すようにそれを妨げたのは、やはりギルスだった。
カッシスへの疑心を持ちつつも即答された言葉に、ギラファは思わず言葉を詰まらせてしまう。
「確かにこいつは、内心じゃ俺たちを利用しようとしているのかもしれない。だが、今は俺たちと共にお前を倒そうとしている。
そして俺は、お前が気に食わない。それだけで一緒に戦うには十分だ」
「だがそいつは俺から地の石を奪って殺し合いに乗るかもしれないんだぞ?」
「――その時は俺がこいつをぶっ潰す!」
感情的もいい所な反論を受けて、思わずギラファは苦笑する。
こいつは、底知らずの馬鹿だ。
きっと、利用されきってボロ雑巾のように捨て去られるその瞬間まで信じたいと願ったモノを信じ続けるのだろう。それを後悔などする事もなく。
溜息を一つ吐きながら、こんな猛獣を一瞬でも説得できると考えた自分が愚かだったと考え直して、ギラファはギルスを打ち倒す態勢に入る。
元々ライジングアルティメットが十二分にその能力を発揮できるだけの時間を稼ぐために始めた話だ。
決裂に終わろうが何も損はない、とそこまで考えて。
「――同時攻撃、だったな?葦原」
「……乃木」
いつの間にか態勢を立て直したカッシスが、ギルスの横に並び立っていた。
流石に長話が過ぎたか、と考えつつカッシスを確実に葬り去るため一旦ライジングアルティメットを戻そうかと考えて。
(――いやよく見ろ!奴は足を引きずっている!あれではまともな攻撃など出来ようはずもない!今の奴はただの強がりで立っているだけだ!)
自身が先ほど与えたダメージが確かな形として表れているのを視認してそれをやめる。
カッシスの右足、特にその膝の付近は固いはずの甲殻が剥がれかけ止めどなく血があふれだしていた。
これではまともな反撃など望めようはずもない、ライジングアルティメットに頼るまでもないだろう。
そしてそれは横に並び立つギルスにも一瞬で伝わる。
立っているのもやっと、という状態のカッシスに思わず声をかけようとして、あの乃木という男が自分と力を合わせるといった意味を考えてそれを噤んだ。
飲み込んだ多くの言葉の末にやっと吐き出した「わかった」、という短い言葉に、満足げにカッシスは鼻を鳴らして。
そうして二人は腰低く構え、それを迎え撃たんとギラファもまた軽薄な笑みをやめる。
恐らくは本気で対処せねば自分でも危うい。
ふとイタチの最後っ屁という諺を思い出しつつ、追い詰められたカッシスの行動に一切の油断は許されないとそう判断したのである。
「――!」
最初に動いたのは、カッシスだった。
彼はその右手をそこに触れたもの全てを塗りつぶすような黒に染め上げて。
次の瞬間、高まったエネルギーをそのままギラファに向けた。
それにより放たれるのは、先程の戦いでも使用したライジングアルティメットの必殺技、暗黒掌波動。
無論、並の怪人どころか高い耐久力を誇る上級アンデッドでも戦闘不能は免れない一撃だ、だが。
「甘いぞ乃木ィ!」
ギラファは動じることなくその身の前に自身の固有能力であるバリアを張ることで対応する。
それによって弾かれたエネルギーの塊は病院の床を砕き、辺りに粉塵を舞わせた。
「今だ!行けェ、葦原涼!」
「ウオォォォォ!!」
――KABUTO POWER!
――HYPER BLADE!
電子音声が響くと同時、暗黒よりギルスが黄金の剣を構えて空中へと飛び出すのを視認する。
恐らくはこの状況を利用してギラファに大技を決める算段なのだろう、だが。
その程度の単純な攻撃にやられるようでは、カテゴリーキング最強の名を語ることなどできはしない。
「その程度の攻撃で、この俺を倒せると思うなよ!」
この程度の単純な攻撃で自分を倒そうなど考えが甘すぎると言わんばかりにギラファは空中で身動きの取れないギルスに対して双剣よりエネルギーの刃を放つ。
まともな防御態勢すら取ることができずにそれはギルスに見事命中、彼の悲痛な叫びとともに大きな火花を散らした。
深い闇に阻まれよく見えないが、恐らく吹き飛ばされたギルスはもう戦闘など叶うまい。
なれば、後はこのまま暗黒掌波動を放つカッシスの体力が尽きたとき、自分の勝利は確定するのである。
乃木怜司という強敵にしては呆気ない終わりだな、とギラファが再び笑みを浮かべたその時だった。
――目の前を覆いつくしていた闇が、突如現れた紫の疾風によっていきなり切り開かれたのは。
「金居ィィィ!!」
「何ィィィ!?」
あれほどの攻撃を足に受けながら何故こいつがここまでのスピードで動けているのか、とギラファにしては珍しく素っ頓狂な感想を抱く。
そして次に目につくのは、その手に持つ黄金の大剣、何故だ、それはさっき葦原と共に落ちたはずでは。
様々な疑問が沸き上がる中、それすらをも切り裂くようにカッシスは眩い光を放つ大剣を大きく振るって。
「ハイパーブレイド!」
そんな掛け声とともに、カッシスはギラファの巨体を持ち上げ、そのまま振り切り――。
諸悪の根源である男は、ついにこの場で初めての敗北を喫したのだった。
そして、その光景を目に焼き付けながら、カッシスは確信する。
自分は勝ったのだ、と。やはりワームは人間やアンデッドなどという存在と一線を画すような高次の存在なのだ、と。
やはり自分の主張は間違っていなかった、いや、間違っているはずなどなかったのだと胸中でつぶやいて、やっと彼らしいいつもの調子を取り戻す。
だが、喜んでいられるのもそこまでであった。
傷ついた右足が限界を迎え、ついに曲がるべきでない方向にその関節を曲げたのだ。
それによって否応なしにその身を大きく崩し最終的には仰向けに横たわりながら、しかしカッシスは考える。
(ただでさえ傷ついた体にクロックアップとパーフェクトゼクターを使用したことによる反動……、こうなって当然、か)
元々ライジングアルティメットとの戦いで大きく傷ついたこの体に、無視できないほどの足への執拗な攻撃。
元来から身についた能力とはいえ、そんな状態で足を酷使するクロックアップを使用した上、反動の大きいパーフェクトゼクターによる必殺技の使用を断行すれば、この惨状も当然か、とカッシスは案外冷静に思考していた。
(まぁ、この俺がここまでやったんだ。後は任せたぞ?仮面ライダー諸君……)
その脳裏に今回の活躍で善良な仮面ライダー諸君からの信頼が得られるだろうというような冷静な思考は存在していたのかどうか。
ともかく、カッシスワーム、乃木怜司という男はこの戦いを巻き起こした諸悪の根源に大打撃を与える大金星を上げて。
そのまま、深い眠りについたのだった。
【乃木怜司 脱落】
【ライダー大戦 残り人数12人】
◆
「グッ……!」
静かにその肉体を擬態した乃木怜司のものに変異させながら眠ったカッシスの一方で、ギルスはうめき声を上げながらその重い体を起こした。
一体何が起こったのか、ギルスには皆目見当もつかないが、しかしあの瞬間、自分が空中より叩き落されるあの瞬間にカッシスが何らかのアクションを起こしただろうことだけはわかっていた。
「そうだ……乃木は……」
瞬間、沸き起こるのは、乃木への心配、そして金居との戦いが終息したのかどうかという関心だった。
そして少しあたりを見渡し、濃い緑の血に染まった乃木を発見する。
「――乃木ィ!」
慌てて駆け寄るが、血の池に転がるズタボロの乃木からか弱いながらも呼吸の声が聞こえたことで、とりあえずは胸をなでおろす。
しかし、安堵してばかりもいられない、この戦いの本来の目的である地の石の奪還、及び破壊を成し遂げなければ乃木の献身は一切の無駄と化してしまう。
そんなのは、絶対に嫌だった。
そうして乃木を呼吸しやすいように気道を確保させたうえで、ギルスは辺りを注視し、遂に発見する。
こんな状況を生み出した真の諸悪の根源、地の石を。
(さっきの戦いで乃木が金居のデイパックを破壊してくれていたのか……、抜け目ない奴だ)
と同時に辺りに散らばる雑多な支給品を見て、乃木の抜け目なさを再実感する。
それに恐ろしさではなく頼もしさを感じながら、ギルスはその闇に埋もれてもなおも輝きを放つ青の鉱石に近づいていく。
例え傷ついた体であろうと、変身をしている以上この石を破壊することは造作もないはずだ。
(これで、全て終わる……。五代の、四号の呪縛も、これで……)
ダメージを負った体を引きずりながら遂に石の前に辿り着いたギルスは大きく腕を振りかぶる。
まるで、今までの五代の恨みをもその一撃に込めるかのように。
そして、次の瞬間ギルスは迷いなくその拳を石へと真っすぐ振り下ろした。
――地の石が辺りを反射する鏡でもあるという事実に、気づかぬまま。
「――GUAAA!!」
「なにッ!」
刹那、その緑の剛腕を受け止めたのは、地の石に反射された世界より吐き出されてきた鹿のようなモンスターだった。
あまりに唐突なその出現に、思わずギルスは素っ頓狂な声をあげ、鏡より出現するモンスターの勢いに大きく弾き飛ばされてしまう。
――ギルスが知る由もないが、彼らは数時間前、自身たちが契約を交わした主がそのデッキ毎契約を破棄してしまったために野良と化した、ゼールの名を持つ群体型のミラーモンスターであった。
その体には東京タワー崩落の際刻まれた無数の痛ましい傷が刻まれ、空腹も相まって一定の戦闘力を有する仮面ライダー相手では通用しそうもない。
それならば、同じく傷ついた仮面ライダーなら?あるいは、変身のできない無力な者なら、元の世界と同じようにこの空腹も満たすことができるのでは?
幸か不幸か、主から餌を与えられるだけだった畜生たちは、この場においてその種族を大きく減少させることにより生き残るための知恵を身に着けたのだ。
そして戦いを最初より観察していたゼールたちは傷ついたギルスと、容易に食すことができそうな生身の人間――乃木――が現れたことでその空腹を満たすために数時間の沈黙を破り行動を開始したということだ。
そんなこととは露知らず、突如出現した新たな敵に対し、困惑を隠せないながらも傷ついた体を押して、ギルスは意図せず地の石の前に立ちふさがったモンスターに対峙する。
敵は黒と紫の体色をしたモンスターと金色のモンスター、それに銅と緑の体色をもつモンスターが各一体ずつ。
それぞれ名をギガゼール、メガゼール、マガゼールと言った。
相手も傷ついているとはいえ、満身創痍のギルスに比べれば幾分かマシ、故に三対一では押し切られる可能性が高い。
だが、それでも。
「――ウゥ、ウオオォォォッ!!」
ギルスの戦意は、収まるところを知らず。
邪魔をするならお前たちごとぶっ潰すだけだと言わんばかりに。
目の前に存在するモンスターと遜色ないような咆哮をあげて戦闘を再開した。
最終更新:2018年02月10日 13:23