Kamen Rider: Battride War(7)   ◆.ji0E9MT9g





当たり前のことではあるが、少し前まで病院の一部であった白い壁によりかかりながら戦況を観察していたフィリップたちにも地の石を巡る乃木たちの戦いは視認できていた。
乃木の変異した――というより本来の姿――であるカッシスがギラファアンデッドを打ち倒したときには、フィリップは――それを横で同じく見ている二人が、その状況にいたく渋い顔を浮かべているのすら気にせずに――その溢れる喜びを声に出さずにはいられなかった。

しかし、喜んでいられたのも、ほんの数舜のみ。
今まさに危惧していたモンスターがギルスに襲い掛からんとする状況を見るまでの、短い間だった。

「クッ!こんなタイミングでモンスターに邪魔されるなんて……!」

三対一という危機的状況を考えずとも、ギルスに変身している葦原涼の体力は既に限界を迎えているはずだった。
突然の奇襲を受けたことも相まってギルスという戦士がそのすぐ後ろに倒れる乃木ごと彼らに捕食されるのは最早時間の問題だった。
ギラファを倒すという大義を成し遂げてくれた二人を見殺しには出来ないと、そう逸る気持ちをフィリップは遂に抑えられなくなって。

「矢車想!頼む、葦原涼の援護に行ってくれないか、ここは僕が何とかしてみせるから」
「葦原のことなら心配いらない。あいつにはまだ〝価値”があるからな」
「――〝価値”だって?」

ただ目の前でモンスターに打ちのめされ続けるギルスを助けたい一心で懇願するフィリップに対し、やはりキックホッパーは冷静に返す。
そして浮かんだフィリップの疑問に対し、溜息を交えながら先ほどと同じ鏡を指さした。
そこには、未だ三体ものモンスターが蠢いているのがはっきりと視認できて。

「――恐らく、俺たちの誰かが葦原たちを助けに行くのを待っているんだろう。俺が行けばお前も亜樹子もあいつらの餌、お前が動けばお前が餌。つまり葦原は俺らのうち誰かを誘き寄せる餌として利用価値があるから遊ばれてるってとこだろうな」
「そんな、そんな事って……」

そういう価値があるうちはあいつらも葦原を食ったりはしないだろ、と冷静に続けるキックホッパーに対し、フィリップは反比例するかのように胸の中が熱くなっていくのを感じる。
ふと、自分も随分あの半人前探偵に影響されたものだと改めて実感しつつ、フィリップはしかし思う。
もしも、葦原涼が自分たちのうち誰かを誘き出すための餌だというのなら、乃木怜司にその価値はあるのだろうか、と。

もちろん、これは彼に対する侮辱ではない。
ただ、同じ役割を持つ人質など二人もいらないのは、こういった状況では当たり前のことである。
むしろ、片方を殺すことでこちらの動きを扇動できるのなら、乃木怜司が持つだろう役割は――。

「やめろォ!」

そう思い至ると同時、思考の渦に沈んでいたフィリップを呼び戻すかのようなギルスの悲痛な叫びが響く。
一体何事かとそちらを顧みれば、ついにギルスがその膝を地に着き、それによって生まれた隙に緑、そして金の二体のモンスターがギルスを超えて横たわる乃木にゆっくりとその歩を進めていた。

「矢車想!」
「……」

このままでは彼が食べられる、と焦りを隠せないフィリップに対し、キックホッパーはただ無言で返す。
ワームであるあいつを助ける必要などないだろう、だからじっとしておけ。
そう言外に伝えるかのような圧迫感を伴う沈黙を受けながら、やりきれない思いを胸にしかしフィリップは再びギルスを顧みた。

そこには、その身から赤い血を散らしながら、尚も立ち上がりモンスターたちに立ち向かわんとするギルスの姿。
それに、自分を助けるため、何度もエターナルに打ちのめされても立ち上がった自身の相棒の姿が重なって。
彼が目の前で戦っていたら自分はどうするだろうと、そう考えてしまった。

――きっとその時点で、フィリップの心に、冷静な選択肢など残されてはいなかったのだろう。
ついに乃木怜司にモンスターの魔手が伸びんとする寸前、フィリップは、ようやく覚悟を決めるかのように、勢いよく息を吐いた。

「矢車想、亜樹ちゃんのこと、頼んだよ」

そんな、ありきたりな言葉だけを残して。
フィリップは真っすぐ駆け出していた。
ただひたむきに身体一つになっても敵に食らいついて悪を倒さんとする、仮面ライダーの下へ。

「ちょっと、フィリップ君!」

亜樹子は思わず――その心の中にはここで呼び止めなければ自身の壁が減ってしまうという邪な考えが含まれているが――叫ぶ。
しかし、そんな亜樹子に対し、キックホッパーは静かにその手で彼女を静止させて。
ようやくその重い体を起こしながらどこか落胆したかのように大きく溜息をついた。

「――やはりあいつは、俺達には眩しすぎる。」

――BAT
――SPIDER

後方で行われているやり取りなど露知らず、フィリップはその手に抱いた二つのガジェットに、ギジメモリを挿入する。
すると今まで時計とカメラを模していたそれらがまるでそのまま蝙蝠と蜘蛛のような形態に変形し、今まさに乃木怜司に襲い掛からんとする二体のモンスターに襲い掛かった。
二体のメモリガジェットによる超音波と糸による攻撃でゼールたちは面食らったようだったが、次の瞬間にはまるで彼を嘲るような鳴き声を発した。

――かかった、と言わんばかりに。
刹那、フィリップから見て右側の鏡面より、三体のモンスターが飛び出してくる。
きっと数秒の後に、自分は彼らに食い殺される。

こんな状況で、こんな無鉄砲。
褒められた行動ではないなんて、わかりきっていたはずなのに。
そんな言葉や思いが次々に沸いてくるが、しかしその実、フィリップは自分の行動に後悔はしていなかった。

(だって、半人前でも、僕は仮面ライダーだから……、そうだろう?翔太朗)

きっと放送で自分の死を知ったら、彼はいたく怒り、悲しむだろう。
それを想像するのはもちろん辛いが、こんな状況で助けられる命を見捨てるような行為を取れば、その時点で自分は彼の相棒を名乗れなくなる。
それだけは、決して嫌だった。

(翔太朗、僕の好きだった、街をよろしく頼むよ……)

そうして、覚悟を決めたようにその瞳を閉じて――。

――CLOCK UP!

電子音声とともに発生したインパクトと、来るべき瞬間がいつまでも訪れないことに、思わず目を開いた。
ふと見れば、自身に襲い掛かろうとしていたゼールたちは、壁に衝突したようで煉瓦とガラス片の中でまるで芋虫のようにのた打ち回っている。
状況に理解が追い付かぬまま、フィリップはふと目線を動かし、この状況を作り出しただろう張本人を発見する。

「矢車、想……」

自身のすぐ後ろで驚いたような声をあげたフィリップを振り返ることすらせずに、代わりと言わんばかりに今までで一番大きな溜息をつく。
それを受け、乃木を襲わんとしていたモンスターたちも、今は食欲を満たすより先にこの敵を倒すべきかとキックホッパーを囲った。
五種類五体のモンスターを前にして、しかしキックホッパーは冷静そのもののまま、しかし怒りに震えるかのような声で呟いた。

「――今、誰か俺を笑ったか?」

こうして、地獄を彷徨い続けるバッタが、ついにその進軍を開始したのであった。

――元々、彼はフィリップも乃木も助ける気など毛頭なかった、それは紛れもない事実である。
だがフィリップが死を目前に迎えているのに浮かべた安らかな表情を見たとき、そしてゼールたちの鳴き声を聞いたとき、彼は自分が無性に馬鹿にされているように感じたのだ。
何故かはわからない。誰にも、きっと彼自身にも。

そして生まれた苛立ちを思い切り誰かにぶつけるため、という理由は、彼には十分戦いに赴く理由たり得た。
苛立ちと共に彼は腰のクロックアップスイッチを押し、通常とは異なる時間軸に突入する。
そして一瞬の間にフィリップに追い付いたキックホッパーはそのまま、鏡より飛び出し彼に襲い掛からんとする白い体色のモンスターを蹴り飛ばしたのだ。

そのモンスター――正式な名称はネガゼールという――が後方より続いた二体のモンスターごと無様に壁に激突すると同時に、世界は通常の速度に戻ったというわけだ。
矢車想という男が動いた理由など、フィリップには理解どころか見当もつかない。
しかし、それでも彼が今モンスターを留めていてくれているというのは、紛れもない事実。

ならばこの状況を善しとしない手はないと、フィリップは一言だけ礼を残して駆けた。
――亜樹子にはもちろん何らかの対処を施しているのだろうと、そう疑いもせず。

「何でいきなり行っちゃうのよ……、私聞いてない……」

そんなやりとりの遙か後方で、亜樹子は一人ぼそりと呟いた。
やはりあの男はただイカレているだけなのだ、頭のおかしい奴なのだと心中で毒づくが、その苛立ちをぶつける相手はどこにもおらず。
そうして、置き去りにされた亜樹子は、結局は所在なさげに壁に凭れ掛かるしかなかった。




「――ウオォォォォッ!!」

雄々しい雄たけびを上げながら、ギルスは自身の下に残った最後の黒と金の体色のモンスター、ギガゼールに対峙する。
フィリップを襲おうとしていた三体のモンスターと、更に乃木に襲い掛かろうとしていた二体のモンスターをもキックホッパーが請け負ってくれたおかげで一対一の状況を作り出すことに成功する。
だが、それでも相手の持つ槍によるリーチの差を埋める手段が――パーフェクトゼクターは乃木が手に持ったまま気を失っているが、その重さ故結局意味はないだろう――ない現状、苦戦していることに変わりはなかった。

しかしそれでも、諦める理由にはならない。
あの矢車がモンスターを五体も引き受けてくれたのだ、自分がこんなところで手こずる訳にはいかなかった。
一瞬の沈黙の後、モンスターがギルスに向け突貫してくる。

向かってくるというのなら、叩き潰すだけだ、と再度ギルスが吠え――。
――ギルスの背中を超えていった小さな恐竜のようなガジェットが、モンスターに攻撃したことで激突を回避する。

「葦原涼!無事か!?」

聞き覚えのある声に振り返れば、そこにはフィリップがいた。
なるほど彼が言っていた護身用のガジェットを飛ばし自分を支援してくれたというわけか、と納得し礼を言うより先に、ほぼ反射的にギルスは叫んでいた。

「フィリップ、俺のことはいい!それより地の石を、五代のことを頼む!」

それだけを言い残して、ギルスは再びモンスターへと猛進していく。
そしてそれを受けたフィリップも、彼がこの状況で地の石の破壊という大任を自分に任せた意味を理解し、ただ一心に駆け抜けた。
地の石を破壊し、五代の、眩い笑顔を取り戻すために。

――そうして、少し走った後、フィリップは金居のものと思われるデイパックの中身が散乱しているのを発見する。

「草加雅人……」

その中で、目についた唯一見覚えのある支給品であったカイザドライバーに対して、彼はやはり草加雅人という男が金居に殺されてしまったらしいことを認識する。
しかし、彼には悪いが、今はその死について物思っている場合ではない。
そして改めて暗がりを探し、発見する。闇の中でなお妖しく光る、地の石を。

「これを壊せば五代雄介が……」

意を決し、近くに落ちていた手頃な岩を手に取り、力を込めて振り下ろそうとして。
――瞬間、真横から発生したインパクトに大きくその身を弾き飛ばされたことでそれを防がれる。
どうやら突如発生した衝撃波をファングが身を挺して庇ってくれたようだ。

短い悲鳴と共にファングが病院の壁にぶつかりそのまま動かなくなったのを見てその威力に戦慄を覚えるが、瞬間聞こえてきた声に、その意識を呼び戻す。

「……チッ、余計な邪魔が入ったか」
「カテゴリーキング……」

瓦礫の中から重い体を引きずりだすかのように這い出したその黄金の怪人を見て、フィリップは思わず握り拳を作る。
そこにいたのは、五代雄介を操り、先ほど乃木怜司と葦原涼の必死の攻撃によりその身を沈めたはずのギラファアンデッドその人であったのだから。
アンデッドの耐久性の恐ろしさを改めて実感するフィリップだが、暗がりでもわかるほどその身に数多の生々しい傷が刻まれていることで、彼らの攻撃は決して無意味でなかったのだと悟る。

だが、そうやって正義による成果を実感できたのもそこまでだった。
なぜなら、どれだけ傷だらけだろうとギラファはその身を強靭な甲殻に包んでおり、また自分はファングという唯一の護身さえ失った、生身の人間なのだから。
恐らく彼がどれだけ弱っていようと、力の籠っていない剣の一振りで、自分の命はたやすく刈り取られる。

それは、変えようのない事実であった。

「――どうやら思っていたよりも仮面ライダーというのはタフらしい。君が逃げるというのなら深追いはしないよ?俺としてもこんな戦場とはさっさとおさらばしたいんでね」

どんどんとその身を死の恐怖によって固くしていくフィリップに対し、ギラファはまるで友人に話しかけるように気安く話しかける。
その言葉には、恐らくこれ以上の戦闘になるかどうか、また自分がそういった手段を持っているかどうかを見極めるという目的が含まれているのだろうが、生憎自分には今のギラファにすら対抗する術は何もない。
故に彼の言葉通りその足を仲間たちの下へと向かうため、つまりは逃げるためのものへとしようとして。

「そう、それでいい。その地の石だけ置いて行ってくれれば俺は君の命を取りはしない」

――その言葉に、足を止める。
自分が、今ここでこの場を離れ彼に地の石を与えるという意味。
それはつまり、今この場で戦ったすべての仮面ライダー、いやすべての殺し合いに反発せんとする者の思いを無碍にすることを意味する。

あぁ、やはりこれもあの半人前の探偵のせいか、と自嘲して、しかし死の恐怖を前に、この場を離れる選択肢が自分の中から失せているのを、フィリップは確かに感じた。
地の石をただで渡すこと、それはつまりあの彼の、海東大樹ですら宝と認めた彼の笑顔を失うことを意味する。
それでは、駄目なのだ。それはきっと、この身が亡びるよりも辛いことなのだ、と彼は思った。

『――フィリップ君』

笑顔と共に自身に向けられた笑顔を思い出して、フィリップは、その足を確かにギラファと地の石との間に置く。

「変身手段すらなく、まともな戦いすら望めない状況で、なおも俺に楯突こうとするとはな、そこまで死にたいのか?」

そのフィリップの覚悟に対し、嘲笑するかのような笑いをあげるのはもちろんギラファである。
よろめきつつもなお確かに双剣を構えたギラファに対し、しかしフィリップはもはや恐怖など抱いていなかった。
むしろ沸き上がってくるのは善良な仮面ライダーを利用し、そして他者の命などどうとも思っていないこの怪人への怒りのみであった。

「――その目、あの男と同じだ」

そんなフィリップに対し、ギラファは興味深そうに呟く。
あの男、というのが誰なのか、フィリップには確信が持てない。
だがそれでも、きっとギラファの言う男もまた一人の仮面ライダーとして悪に立ち向かったのだろうとそう思った。

「……まぁいい。それなら――死ね」

先ほどまでの柔和な態度から一変、殺意を隠そうともせずにギラファは突撃する。
それに対して咄嗟の判断で懐からバットショットとスパイダーショックを取り出し放つ。
時間稼ぎ程度にはと考えたが、二体のメモリガジェットがそれぞれ放った超音波と糸は、ギラファのバリアで容易に防がれてしまう。

何か手はないかと辺りを見渡すが、見つかるのは足元の一切のツールを持たないカイザギアのみ。
だがもちろんのこと、草加雅人、乾巧の両者がどちらも常人が使用すれば死に至るといっていたベルトを使う気など毛頭起きはしない。
しかし或いは彼にただ殺されるくらいなら相打ち覚悟ででも、などという考えさえ浮かんだ、その時。

「あれは……!?」

不意に暗夜の中で輝く見覚えのある〝それ”が目に入った。
まるで、「俺を使え」とそうフィリップに言っているかのようにさえ感じて、彼は迷わず〝それ”の下に駆け出していた。

「――何?!」

狼狽えた様子のギラファをさえ無視して、フィリップは遂に〝それ”を掴む。
多くの〝仮面ライダー”が使用したそれは、本当に多様な目的で用いられた。

ある者は、愛する街の人間にも、愛する娘にさえ存在を知られぬまま町を泣かせる悪と戦い続けるために。
ある者は、かつて愛した街を壊しそこに住む住民すべてを不死として、その街の新たな希望となるために。
ある者は、奪われた自分の愛する街を、そして信頼できる相棒を取り戻すために、そして相棒を亡くしても尚愛する街を守るために。

――ロストドライバー。
失われた左側のメモリスロットを寂しく思いつつも、しかし今の状況でこれほど心強いものもないと、フィリップはドライバーを腰に装着する。
次いで慣れた手つきで懐から取り出すのは――迷う必要などどこにもない――運命の、自身の最初の(ビギンズ)メモリ。

――CYCLONE!
「変身!」
――CYCLONE!

ロストドライバーがそのメモリの名を復唱すると同時、フィリップの姿は一瞬で緑の戦士へと塗り替えられる。
パージした緑の結晶がその身を完全に異形のものへと変貌させ、変身の完了を告げるようにその瞳が赤く輝いた。
フィリップ自身がかつてその名を付けた、大地を、自然を守るため戦う戦士、仮面ライダーサイクロン。

その名を象徴するかのように吹いた一陣の風にマフラーを靡かせて、彼はその右手を真っすぐギラファへと向けた。
そして告げるのは、街を泣かせる悪人たちに、〝仮面ライダー”が投げかけ続けるあの言葉。

「さぁ、お前の罪を数えろ。カテゴリーキング!」
「自身の種の繁栄を望むことの……何が罪だというんだ!」

その言葉を境に、彼らの戦いの火蓋は、幕を開けた。
先ほどまでと同じく手負いと思えないほどのスピードで突貫するギラファに対し、しかしサイクロンは思う。
――遅い。

変身したためか、それともこの姿に対して自分が抱いている安心感のためか、今のフィリップには先ほどまでと違ってギラファの攻撃が手に取るように見えた。
剣筋を縫うように躱す彼は、まるでそのままそよ風のように優雅ですらあって。
思わずといった様子でギラファが呆気に取られた隙に、そのまま渾身の後ろ回し蹴りを背面に浴びせる。

ぐぅという情けない悲鳴と共に床を転がったギラファに対して、サイクロンは必殺の構えをとる。
彼にはこれ以上この男をのさばらせておく理由など何もなかった。

――CYCLON!
――MAXIMUM DRIVE!

ダブルと同じく右腰に備え付けられたマキシマムスロットにメモリを装填すると同時、ガイアウィスパーが野太い声で叫ぶ。
瞬間全身に力が満ち、更に溢れ出したエネルギーが周囲に疾風を巻き起こした。
それを右手に収束させると、そのままサイクロンは自然と手刀の形を取った。

あぁ、翔太朗が今これを見ていたら、このマキシマムにどんな名前をつけるのだろうか。
最後の力を振り絞り立ち上がったらしいギラファがそのまま双剣を手に突進してくるのに合わせ駆け出しながら、サイクロンはそんなことを考えていた。
決して余裕なわけではない、どころか、きっと今自分は一人きりでこんな強敵に立ち向かうのが怖くてたまらないから、少しでも相棒のことを考えて気を紛らわしたいのだろう。

ならば、叫ぼう。彼の相棒として、それが少しでも悪を倒すための力となるのなら。
自分が放つのは手刀。彼がつけるだろう技の名前など、とっくのとうにわかっている。
仮面ライダーが放つ手刀、それにつけるべき名前は――。

「――ライダーチョップ!」
「シェアァァァ!!」

――一閃。
夜の闇を照らすように交差した彼らは、そのまま少しの距離を走って静止する。
そのまま、どちらも数舜の間動くことはなかった。

刹那の後、その体を大きく崩したのはやはりギラファアンデッドだった。
それを振り返り見つつ、サイクロンはその身に確かに届かんとしていた刃を思い出していた。

彼が万全であったなら。きっと考えるまでもなく、自分と彼とで立っている勝者は変わっていただろう。
恐るべき敵であり、同時に許されざる悪であったが、しかしサイクロンは今この時ギラファを悪く言うつもりにはなれなかった。
彼が貶される要素など、少なくとも自分と彼の戦いのどこにあるというのだろうか。

彼というアンデッドは自身の種を繁栄させることのできる唯一の王として、最後まで全力で抗いぬいた、誇り高い一人の勇士であったのだから。

110:Kamen Rider:Battride War(6) 投下順 110:Kamen Rider:Battride War(8)
時系列順
五代雄介
葦原涼
秋山蓮
乾巧
村上峡児
橘朔也
相川始
金居
志村純一
日高仁志
矢車想
乃木怜治
野上良太郎
紅渡
門矢士
海東大樹
フィリップ
鳴海亜樹子




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最終更新:2018年02月10日 13:24