対峙(前編) ◆.ji0E9MT9g


「小沢さん、ヒビキさん……そんな……」
「蓮……嘘だろ」
「草加、お前……」
「亜樹子……すまねぇおやっさん……!」

死者の名前が呼ばれる度、この場に集まった参加者の顔が陰っていく。
前回の放送から更に18人という驚くべき数を減らした参加者を思いながら、名護は口にはしないものの、少しの安堵も覚えていた。
自分の弟子であり最高の仲間、仮面ライダーキバである紅渡が未だにその名前を呼ばれていないため。

リュウタロスも敵対する牙王の名前だけが知り合いの中で呼ばれたことに多少喜びの声を上げていたが、しかし周りの雰囲気に合わせてそれを大きく口にはしないようだった。
以前までの彼であれば周囲など気にせず大声で喜んでいたであろうことを考えると、大きな成長であったが、しかしそれを確認してくれるものはこの場にはいない。
ともかく、死者の放送が各々に生じさせた衝撃は大きかったものの、比較的この場ではまともに放送を聴ける自分が放送の内容を的確に覚えておくべきだと一層意識を集中させ――。

『――失礼。まことに急ですが、今回のあなたの出番はここまでです』

その言葉と共に現れた男に、この放送が始まってから初めて動揺を見せた。




放送が終わってからも、数分の間そこにいる誰も声を上げなかった。
18人。
6時間で死ぬには、あまりにも多すぎる数字。

あるものは死者との思い出に耽り、あるものは名も知らぬ死者への黙祷を捧げていた。
その中でやはり重い口を最初に開いたのは、この場を仕切る名護であった。

「……皆、辛いのは分かるが、今の放送でわかったことを話し合いたい」

その言葉に翔太郎は沈んだ瞳を向け、先ほどまであれほど明るかった真司たちも見るからに気乗りをしない様子だった。
その気持ちは痛いほど分かる。
翔太郎にとっての鳴海亜樹子の存在が、翔一にとっての小沢が、真司にとっての秋山がどれほど大きい存在か、名護にだって察しはつく。

しかしだからといってここで足を止めては、ヒビキを始めとする死んでいった全ての仮面ライダーに申し訳がたたないではないか。
しかしそうはいってもいきなり意識を切り替えるのは酷か、と名護は自分から切り出す。

「先ほどの放送にいた、放送の中断を宣言した男。俺は奴を知っている。ビショップと言って、既に元の世界で倒したはずだが……ともかく主催に協力しているらしい」

その言葉に反応する者はいない。
最早貴重な主催の戦力の把握であるはずだが、やはり今の放送で失われた命はあまりにも大きかったらしい。
しかしその空気の中で、名護にいち早く気付き対応したのは、彼の弟子である総司であった。

「……それなら僕も。最初に放送してた三島って人、多分普通の人じゃないと思う、何か感じたんだ」
「私もそう思います……、それと、その……なんとなくあの人は総司さんと同じ感じがしました」

自信なさげに呟いた総司に続いたのは意外なことに麗奈であった。
その事に驚きを示したのは、もちろん名護だけでなく。

「え、てことはあの正人って奴もねいてぃぶ?だってことー?」
「そう、いうことになるのかな?」

素朴な疑問を述べたリュウタに総司はそう返す。
彼とて自分がネイティブであることは知っていても、他人がどうかまではわからないのだろう。
そう言う意味で言えば、ここに至って麗奈の感覚は非常に頼りになる。

大ショッカーに普通の人間がいるはずもないか、と一同が納得する中、次に声を上げたのは翔一だった。

「……俺、もしかしたら大ショッカー首領っていうのが誰か、知ってるかもしれません」

確信は持てない様子ながらもそう言った翔一に、一同の注目が集まる。

「それは本当か、翔一君!」
「多分、ですけど。あのバルバって女の人の後ろにいた奴らと前戦ったんです。それに、『人は人を殺してはいけない』って言葉にも、何か聞き覚えがあって」

彼の言葉に、名護も、翔太郎も目を見張っていた。
このチームのムードメイカーであるだけかと思われた翔一だが、変身制限の更なる一面や、主催の首領を知っているなど、情報においても大きく貢献している。
決して翔一を軽んじていたわけではないが、ここまで色々と役立ってくれるなどとは思いもよらなかった。

「それで……、翔一君、その首領っていうのは結局誰なんだ?」
「はい、……俺も名前は知らないんですけど、そいつは何か皆が言う分には、人間を作った奴なんじゃないかとか、何とか」
「それって、神様ってこと!?」
「まぁ、そういうことになるんですかね」

思わずといった様子で大声を上げる総司に、翔一は困ったようにそう返す。
彼の様子からして嘘をついているわけでもないのだろうが、あまりにも突飛すぎる発言に一同は言葉を失ってしまう。
そんな空気の中、堪らずといった様子で立ち上がったのは三原だった。

「神様が相手なんて、そんなの……そんなの勝てっこないじゃないか!」

その言葉には動揺も含まれていたが、何より不安が大きいようだった。
世界の滅亡など大ショッカーの妄言だと言う名護たちの言葉を信じて三原なりに頑張っていたというのに、相手が神ではその言葉を信じざるを得ないではないか、と。
しかしそんな三原に対して、やはりこの場に似つかわしくない表情を浮かべるのは翔一だ。

「うーん、勝ち目ってのはどうかわからないですけど。一度そいつが人間を滅ぼそうとした時、俺、そいつを蹴り飛ばしたんです。だから皆さんもそこまで気負う必要ないと思います」
「蹴り飛ばした……って神様をか!?」
「えぇ、まぁ」

真司の衝撃に対し、へへ、と気恥ずかしそうに笑う翔一を見て、今度こそ全員が絶句した。
事もあろうに、彼は神を一度蹴り飛ばしているらしい。
なんと罰当たりな、とも思うが。

「……いや、こんなふざけたゲーム開く奴だぜ、俺たちの信じる神様とは、腐っても別人に決まってる」
「そうだな、俺も、俺や人々が信仰する神がこんな命を弄ぶことを進んでするなど考えたくもない」

ずっと黙っていた翔太郎の言葉に、名護も合わせる。
今までファンガイアの魂を捧げていた神が、こんな殺し合いを開くような親愛に欠けた存在などと、口が裂けても言いたくはなかったし、考えるのもごめんだった。

「――進んでじゃ、なかったら?本当に神様でもどうしようもなく世界が壊れようとしてて、それを防ぐための必死の手段だったら?」

しかしそんな名護の言葉に、水を差したのはまたも三原だった。
もちろんその可能性には名護も思い至っている、しかしそれを今議論するのは、士気の低下に繋がりかねないと、意図的に避けていたのだ。
しかし触れられた以上は反論せねばなるまいと――。

「……そんなわけ、ないよ」

しかしそんな三原に名護より早く反論したのは、総司であった。
俯きながら吐き出された否定に、流石の三原も苛立ちを隠しきれず。

「なんでそんなこと言い切れるんだよ!?神様が関わってるんだぞ!どうしようもない可能性の方が高いじゃないか!」
「そんなわけないよ、だって……」
「だって、何だよ!言ってみろよ!」
「――だって、それなら僕を参加させる理由がないもの」

そう言った総司の瞳には、覚悟が満ちていた。
その目に見つめられて三原は一瞬怯むが、しかし今度は翔太郎が疑問を口にする。

「おい、それどういうこったよ総司。お前が参加する理由がないってのは」

言われて、総司は一瞬だけ俯いて、しかし今度は名護を見ることなく、真っ直ぐに前を見据えて。

「だって僕は最初、自分の世界を崩壊させるために殺し合いに乗ってたんだもん」

えっ、と誰かが呟いた。
一歩分、総司から物理的に離す一同を尻目に、総司はしかし堂々と息を吸い込んだ。

「……僕は最初、世界全体から見放されてると思ってた。僕を受け入れてくれた唯一の存在のひよりも僕から離れていって、僕には本当にどこにも居場所がなくなったって思ったんだ」

ぽつりぽつりと吐き出す彼は、しかし以前までと違って憑き物が落ちたような顔をしていた。
そのままぎゅっと拳を握って自分の目の前に掲げ、月明かりに照らす。
その拳に込めた思いがなんなのか、誰にも分からなかったが、しかし総司は満足げに笑って。

「だから、この殺し合いに最初に連れてこられた時、僕はまず全部の世界を壊して、最後に自分も死ぬことを考えた。そうすれば、僕を拒絶した世界も、何もかも否定できると思ったから。……そんな存在、神様からすれば絶対に邪魔でしかないよね?」

そう言って悲しげに笑うが、それに笑みを返せる存在は誰もいない。
だが、とそれに異論を唱えるのは、やはり三原だ。

「……でも、結局総司さんは殺し合いに乗るのをやめたんだろ?それに結局ガドルって奴とかネガタロスって奴とか、悪い奴しか殺してないじゃないか。今ではどうとでも言えるけど、結局前から悪い事なんて出来なかったんだろ!?」

言いながら、三原にも何が正しいのかよくわからなくなっていた。
首領の神様が正しいのか、この場にいる仮面ライダーが正しいのか。
しかしそんな三原に、以前の自分を重ね合わせたか総司はしっかりとした目で名護を一瞥し、それから三原に向き直った。

「ううん、僕はそれ以外にも一人殺してる。――剣崎一真っていう、正義の仮面ライダーを」
「剣崎一真だと!?」

それに驚愕の声を上げたのは、翔太郎だった。
相川始から知り合いとして紹介された仮面ライダーブレイドである、剣崎一真。
彼のことを話す始はどこか穏やかで、きっと友人であるのだろうと翔太郎は思っていた。

その名前が放送で呼ばれた時、始の顔を思い浮かべもしたが――。
きっと、カリスとしての彼が守りたかった世界の一員にも、彼は含まれていたのだろうと、翔太郎はそう感じていた。
始にすらそこまで信用される仮面ライダーを殺したのが、他でもない総司だと――?

「だから、僕は一生をかけてその罪を贖う。そして、剣崎や天道の分まで、仮面ライダーとして生きていかなきゃいけないんだよ」

言い切った後で、生きていきたいんだ、と総司が小さく続けたのを、翔太郎は確かに見た。
先ほど、身体が例えネイティブという怪人になっても、変わりたいと思い続ける限り総司は変われるのだと熱弁したのは、一体どこの誰だったか。
こんな程度で意見を変えるようでは、全く半人前もいいところだ、と彼は大きく息を吐き出して。

「そうだな、お前がどんな罪を犯していようと、それを数えようっていう気持ちが消えない限り、お前は変われるんだ。……首領だってよ、さっきも言ったけど神様はこんなゲーム感覚で人を選別しようなんてしないはずだぜ」

これで納得してもらえねぇか、三原さん、と翔太郎が続けたのを聞いて、三原は思いのやり場を失ってそのまま座り込んだ。
不安が消えたわけではないだろう。
しかしここでそれについて話し続けても、きっと答えはでない。

であれば、詭弁であってもこの殺し合いを止め、直接主催に会いに行くのが最優先だ。
それにしても、と翔太郎は思う。
総司の顔つきが自分と会ったときからも、麗奈が暴走した時からも大きく変わっている。

きっと、これからも彼は変わり続けるだろう。
師匠である名護や、仲間である自分たちの助けは、まだ必要かもしれないけど。
彼は、もう決して自分が総司に不安な思いを抱くことはないだろうと、そう思った。




放送から少しして。
名護は、テーブルに大きな白紙を広げ、そこに名前を記入していた。

「――何してんだよ、名護さん」

と、そこに現れたのは放送後から妙に口数の少ない真司だ。
彼なりに考え事をしていたようだが、元来より苦手な考え事を一時切り上げてこちらの動きが気になったらしい。

「……これは、今の時点での参加者の詳細をまとめたものだ。後は、一応主催者の情報も少しはまとめているが、いかんせん翔一君に聞いても名前がはっきりしなくてな」

そう言って見せられた紙には、多くの名前が書かれていた。
しかし参加者の欄にはもう22人しかいないことを痛感して、真司の胸はまた痛んだ。
こんなところで考えごとをしている場合ではない、と真司は切り替えて。

「名護さん、俺にもこの表を完成させるの、手伝わせてくれよ」
「もちろんだ。翔太郎君たちにも、手伝ってもらいたい」
「あぁ、構わないぜ、えぇとまずは――」

そうして、彼らはこの場での情報をその表にまとめていった。




「……こんなものだな」

数十分後、そこには現生存者の立派な詳細名簿が完成していた。
以下は、その表に記されている内容である。


――現生存参加者詳細――
一条薫:対主催。警察。照井竜から仮面ライダーアクセルの力を受け継いでいると思われる。麗奈と面識あり。状況から判断するとワームとしての麗奈を見ている可能性もある。

ン・ダグバ・ゼバ:超危険人物。紅音也を殺害。主催のバルバについて知っている可能性あり。翔太郎と面識あり。

津上翔一:対主催。仮面ライダーアギト。首領についての情報を知っている。

葦原涼:対主催(推測)。仮面ライダーギルス。参加時期によっては翔一を敵と認識している可能性あり。

城戸真司:対主催。仮面ライダー龍騎。

浅倉威:超危険人物。仮面ライダー王蛇。木野薫、霧島美穂を殺害(推測)。翔太郎と面識あり。テラーメモリの能力を取り込んでいる可能性あり。(※テラーメモリの能力については別記)

乾巧:対主催。仮面ライダーファイズ。オルフェノクにも変身が可能。名護と面識あり。

三原修二:対主催。一般人。

村上峡児:危険人物。オルフェノク。ファイズ、カイザ、デルタのベルトを狙っている可能性が高い。

橘朔也:対主催。仮面ライダーギャレン。名護と面識あり。首輪を解除できる可能性あり?

相川始:危険人物。仮面ライダーカリス。木場勇治を殺害。ジョーカーアンデッドにも変身が可能。翔太郎と面識あり。

志村純一:不明。

間宮麗奈:対主催。ワーム。ワームとしての間宮麗奈のスタンスは不明。

擬態天道総司(便宜上こう記しますが作中では名簿の名前で記されています):対主催。仮面ライダーカブト。剣崎一真、ネガタロス、ゴ・ガドル・バを殺害。ネイティブワームにも変身可能。

野上良太郎:対主催(推測)。仮面ライダー電王。恐らくウラタロスとキンタロスという二体のイマジンが憑いていると思われる。

リュウタロス:対主催。仮面ライダー電王。

紅渡:スタンス不明。仮面ライダーキバ。前回放送よりスコアをあげているので警戒はするべき。参加時期によっては名護を敵と認識している可能性あり。

名護啓介:対主催。仮面ライダーイクサ。

門矢士:対主催(推測)。仮面ライダーディケイド。大ショッカーのことを知っていると思われる。総司と面識あり(士は総司の顔を見ていない)。総司が一真を殺害した場に居合わせ交戦したため敵と認識されている可能性大。

小野寺ユウスケ:対主催。仮面ライダークウガ。名護と面識あり。

左翔太郎:対主催。仮面ライダーW並びに仮面ライダージョーカー。参加者の一人であるフィリップと合流できれば仮面ライダーWに変身できる。

フィリップ:対主催(推測)。仮面ライダーW。同上。首輪を解除できる可能性がある?


※テラーメモリの能力について。
テラーメモリはそれを使用するだけで周囲に恐怖を強制的に植え付けられる能力を持つガイアメモリ。
朝倉威はこれを食ったらしく、専門家の翔太郎でさえ対処出来ない可能性がある。
実際に対峙した翔太郎曰く能力は発動されているらしいが、ドーパントに変身できるかは不明。
※※ガイアメモリについての詳細は別記『各世界の基本的情報』にて記載。


――主催陣営詳細――
神(?):首領。黒い服を着た青年だと思われる。翔一とは面識があり、以前一度倒したこともあるらしいが、詳細は不明である。

ラ・バルバ・デ:大ショッカー最高幹部。首領代行。第二回放送にて首領の言葉を代弁。恐らくはダグバやガドルの仲間だと思われる。

アンノウン三体:第二回放送時ラ・バルバ・デの後ろについていた怪人たち。翔一と交戦経験あり。以前一度倒したが、それぞれ警戒すべき強敵。

ビショップ:大ショッカー幹部。ファンガイア。

三島正人:大ショッカー幹部。第二回放送担当。麗奈によるとネイティブワームである可能性が高い。

キング:大ショッカー幹部。第一回放送担当。あるいは橘、相川であれば何か知っている可能性あり。

死神博士:大ショッカー大幹部。最初の会場にいた老人。


――これより下には、各世界の基本的な情報などをまとめたページが続いていたが、それはこの場では割愛する。
ともかく、総勢22名の参加者についてと、知りうる可能な限りの主催陣営の情報をまとめ終え、名護は大きく息をついた。
その表にそれぞれが目を通しながら、しかし翔一と真司が注目したのはある名前であった。

「この浅倉って人、木野さんを殺したかもしれないってどういうことですか?」
「あぁ、東京タワーで戦ったときに紅がアンなんとかとアギなんとかいうグラサンの男を追って倒したって話をしててな。この霧島って人のファムも、浅倉が変身した仮面ライダーの特徴と一致する。城戸の世界の仮面ライダーは戦うのがルールってことも、確か似たようなこと言ってたしな。多分こいつで間違いないはずだぜ」
「浅倉……元々凶悪犯罪者だったけど、やっぱり倒さなきゃ駄目なのか……」

そう言って、三人は沈んだ表情を見せる。
音也の情報によれば、木野はアギトを殺そうとしていたらしい。
自分の知る最初の仲違いしていた頃の彼だったのだろうが、だからといってこんなところで凶悪犯罪者に殺されてしまうなど、許されるはずもなかった。

一方で、真司の表情もまた暗い。
自分とお好み焼きを一緒に食べていた、霧島美穂。
結婚詐欺をしていたり自分のデッキを盗もうとしたりろくな女ではなかったが、浅倉に恨みを抱いたばかりに返り討ちになったのだろうか。

真司は彼女がライダーバトルに参加する詳しい事情など知らないが、それでも彼女は根は悪い奴ではなかったと思う。
そんな存在を簡単に殺し今もなお闘争を求め続けているだろう浅倉への思いは、真司とて決して穏やかなものではなかった。

「――にしても名護さん、本当にいいの?渡って人のこと、自慢の弟子だって言ってたのに、警戒すべきだ、なんて」

その後方で、そんな疑問の声を上げたのは総司だ。
それを受ける名護の表情も、決して明るくはない。

「……無論、俺だって渡君を信じたい。俺の知る渡君ならこんな殺し合いに乗るはずはないが……、有り体に言えば、彼はかなり危うい時期が多かったからな。前回の放送から彼が誰かを殺めてしまったのはランキングから分かっている。ガドルを倒した君のようなケースであれば良いが、そうだとも言い切れないからな……」

放送で一部発表された殺害数ランキング。
世界毎の発表ではあるが、キングが死に、音也は放送からずっと一緒だった翔太郎の証言で殺害を行っていないとなると、唯一の候補は彼となってしまうのだ。
その数は一つではあるものの、もしそれが殺し合いに反するものの命を奪うものであったなら。

総司のように説得を出来る相手だとも思っているが、彼と接触するのは早いほうがいいだろうと、彼はそう思考していた。

(――照井、お前は託せたんだな、一条って刑事に、お前のアクセルを)

一方で、翔太郎はその手にトライアルメモリを握りしめながら名簿の一条薫の名前を見る。
麗奈がこの場で初めてワームに変じる前、照井からアクセルを譲り受けたらしい、一条薫。
照井と同じように刑事であった彼がアクセルを受け継いだという事実には些か驚きもあるが、しかし彼が認めるような立派な刑事だったらしいことは、麗奈から聞いている。

この殺し合いの進行スピードではトライアルを用いた修行は難しいかもしれないが、しかし照井の遺志を継いだ男に、自分が何もしないというのも、些か寂しいものである。
であれば何を彼に出来るのか、と翔太郎が考え込んだところで。
周囲の探索に回していたタツロットたちの為に開けっぴろげにしていた窓から、一つの影が入り込んでくる。

「――キバット君か」

それは、より一層深くなった夜の闇に溶け込んでいる黒のコウモリ。
放送前からずっと周囲の参加者を探していただろう彼が戻ってきたと言うことは、と一同の緊張感も高まる。

「――あぁ、お察しの通りだ。東側から参加者がバイクに乗ってやって来ている。しかも名護、お前も知っている参加者だ」
「……渡君か」

その名護の言葉に、キバットはその大きな瞳を閉じることで応対する。
対する名護は、思考する。
どうすれば、一番安全に、かつ彼を説得できる状況を作り出せるのか、と。

数秒考え、周囲を見渡した後、彼は意を決したようにその口を開いた。

「……俺が、一人で行く。彼がどういったスタンスであったにしろ、同じ世界の俺であれば被害を最低限に抑えられる。……皆、その間ここを頼む」

彼のその言葉には、もちろん元の世界からの知り合いである、という意味も含まれていたが、この殺し合いのルールでは同じ世界の参加者を殺す理由がないという意味も含まれていた。
もしも彼が殺し合いに乗っているにしても、考え得る最悪のケース――彼がファンガイアの心に支配されている場合――でない限り、見境なく利すらなく人を殺すような真似はするまい。
であれば、このまま病院に迎え入れ彼らを危険にさらすより、自分が単身で出向くべきだろうと彼は考えたのだ。

そうして翔一からバイクのキーを受け取り、キバットに道案内を頼んだところで、彼は振り返る。
総司も、翔太郎も、未だボロボロであるのは否定しきれない。
しかし、それから離れることを、彼は不思議と不安には思っていなかった。

翔一と真司がいるから、もそうだが、何より半人前の仮面ライダーを名乗っていた翔太郎と、仮面ライダーがなんたるかすら理解していなかった総司の目が、どちらも一人前のそれに変わっていたからだ。
もし今後何かが彼らの身に起こるとしても、決して諦めはしないだろう、と名護は思う。

であれば、そんな存在にずっとついているのではなく、自分がしたいことをする間、彼らに留守を任せるのも、信頼の形ではないか。
と、そこまで思考して、名護は総司が自分をじっと見つめているのに気付く。
一瞬、不安や、未だに自分が見捨てられるのではと怯える瞳かと心配するが、それは杞憂であったようだ。

その瞳は、強かった。
自分の考えたことをしっかりと理解した上で、絶対に帰ってこいと言っているかのようだった。
であれば、そんな弟子に返せるものは、彼には一つしかあるまい。

――絶対に帰ってくる。その代わり、ここを任せたぞ。

深い頷きと共に、瞳だけでそう訴えることだ。
それを受けて、総司は少し笑って、嬉しそうに頷いた。
短い時間ではあったものの、彼も随分と成長したものだ、と名護は嬉しくなり――。

また目頭が熱くなってきたのを感じて、そそくさと病院を後にした。




レンゲルバックルから得られた情報を頼りに、市街地をバイクで進むのは、紅渡――またの名をキング――である。
橋から渡ってすぐの市街地が一面焦土と化しているのを見て、彼はこの場での戦いをライジングアルティメットによるものだと推測。
激しい戦いの後には休養を取るだろうと先ほどと同じく病院を目指した。

前回と違うのは、今回は彼一人だけ、ということだが。
と、そんな最中、突如頭上にオーロラのような光が見えて、彼は思わずバイクを止めた。
ふと時計を見やれば、時間は深夜0時、定時放送の時間であった。

『時間だ。これより第二回放送を開始する』

その言葉と共に三島と名乗る男が、放送を開始する。
――多くの名前が、死者として呼ばれていく。
病院で死んだものは、この中に何人含まれているのだろうか、などと今更抱くべきでない思いを抱いたことを恥じつつ、彼は放送に集中する。

死者の名前などその大半は最早単なる雑音だ。
自分の世界が生き残るために必要な犠牲。
呼ばれる名前が多ければ多いほど、自分の世界は勝ちに繋がる。

そう、大事なのはもうたった二つの名前だけ。
自分の知るその二つの名前さえ呼ばれなければ、この放送に意味など――。

――紅音也。

「えっ」

と、自分でも驚くぐらい間抜けな声が出た。
キングとしての威厳などない、ただの息子として、彼は今、父の死を知った。
元の世界ではもう死んでいるとはいえ、ここでもう一度生を受けたというのに、その命は刈り取られてしまった。

――覚悟はしていたつもりだった。
放送前にディケイドが父に会ったと聞いたとき、自分は自然とその死を推測したはずだ。
しかし、話に聞く彼ならば。

或いは世界の破壊者を前にしても生き残るのではないか、とそうどこかで甘えがあった。
それが間違いであったことを自覚しつつ、彼は一層ディケイドへの恨みを膨らませ――。

――園咲冴子。
――鳴海亜樹子。

告げられた二つの名前によって、現実に引き戻された。
鳴海亜樹子。
東京タワーで仮面ライダーの善意を弄ぶような放送を行い、自分とキバットの怒りを買った馬鹿な女。

その名前を聞くだけで嫌悪感が沸くというのに、自分の前で泣いていた彼女がもう死んでしまったという事実に、何か引っかかるものがあるのも事実だった。
そして、園咲冴子。
第一回放送前に自分を庇い死んだはずの彼女の名前が、何故今呼ばれたのだろうか。

もしかすると、彼女は生きていて、第一回放送を終えた後に本当に死んだのだろうか。
であれば自分は、最後まで彼女に騙されていたのか?
それに対し怒りも沸くが、それ以上に生きていたならそれでよかったのにと思い、同時に彼女が本当に死んだのだと告げられたことに対するやるせなさの方が勝った。

別の世界の参加者に今更そんな思いを抱いたことに今一度気を引き締めつつ、彼はそのまま放送に意識を――。

『――失礼。まことに急ですがあなたの今回の出番はここまでです』

そうして突如現れた男に、渡は見覚えがあった。
以前、自分の中のファンガイアの血を目覚めさせたチェックメイトフォーの一員、ビショップ、と言ったか。
あんな存在まで大ショッカーに協力しているのか、と呑気に考えて、しかし彼であれば太牙の障害でもある自分の存在を消すという願いを、嬉々として受け入れるだろうと渡は思った。




放送は終わった。

「人は人を殺してはならない……か」

気付くと、渡はふとそんなことを呟いていた。
人が人を殺してはいけない。
首領代行を名乗る女が口にした言葉だが、果たしてそれに含められた意味は何なのだろうか。

殺し合いをしてはいけない?
そんな馬鹿な、その後に彼女自身が殺し合いの報酬について再肯定したのだから、そんな意味ではないだろう。
では、人はファンガイアやアンデッドを始めとする怪人に蹂躙されるべきだということか?

などと考察を繰り広げてみるが、しかしそんな意味ではないだろうことも、彼には理解できていた。
人は人を殺してはならない。つまりそれは同族を殺してはいけないということ。
どちらにせよこんな殺し合いを開いておいて何様だ、という話でもあるが、しかし。

であれば自分がこれまで殺してきた数多のファンガイアもまた、自分にとっては同族ではないか、と彼は思う。
ファンガイアでありながらファンガイアを殺してきた自分が、今更人を殺すのに抵抗を覚えるはずもない。
もうそんな言葉で立ち止まれないところまで来たとわかっているはずなのに、人を殺す、その言葉を口にするのは、まだ彼には踏み切れない一線であるように感じられた。




それから以降、市街地という状況では籠城していたり罠を張っている参加者も多いだろうと彼はバイクから降りていた。
放送前に殺したアポロガイストのように、誰しもがバイクを建物の外に止めるほど愚かでもあるまい、と彼は考え、入念に一つ一つの建物を観察していく。

サガークすらも捜索に回しているのだが見つからないところを見ると、やはり病院まで一気に走った方がいいのかもしれない、と渡がそう考えると同時。
彼は、遠くから、エンジンの音が近づいてくるのを感じる。
周囲の捜索にサガークを割いたためにより広い範囲での索敵を怠ったか、と渡は思うが、しかし焦ることもないと思考を切り替えた。

向こうがどんな参加者であれ、ライジングアルティメットについての情報を聞き出し、利用できそうなら利用を、戦闘になるなら戦闘を、と気付かぬ内に好戦的になった思考で考える。
右手にはジャコーダーを握ったまま、彼はバイクのライトで自分が照らされるのすら気にせず、相手を視認、男はゆっくりとそのヘルメットを外して――

「……名護、さん?」

そこに現れた顔に、渡は、またもキングとしての風格を失った。


【二日目 深夜】
【D-2 市街地】

【名護啓介@仮面ライダーキバ】
【時間軸】本編終了後
【状態】疲労(中)、ダメージ(大)
【装備】イクサナックル(ver.XI)@仮面ライダーキバ、ガイアメモリ(スイーツ)@仮面ライダーW 、ファンガイアバスター@仮面ライダーキバ、キバットバットⅡ世@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式×2(名護、ガドル)、ラウズカード(ダイヤの7,8,10,Q)@仮面ライダー剣、カブトエクステンダー@仮面ライダーカブト
【思考・状況】
基本行動方針:悪魔の集団 大ショッカー……その命、神に返しなさい!
0:渡君と話す。殺し合いに乗っていた場合は……。
1:直也君の正義は絶対に忘れてはならない。
2:総司君のコーチになる。
【備考】
※時間軸的にもライジングイクサに変身できますが、変身中は消費時間が倍になります。
※『Wの世界』の人間が首輪の解除方法を知っているかもしれないと勘違いしていましたが、翔太郎との情報交換でそういうわけではないことを知りました。
※海堂直也の犠牲に、深い罪悪感を覚えると同時に、海堂の強い正義感に複雑な感情を抱いています。
※剣崎一真を殺したのは擬態天道だと知りました。


【紅渡@仮面ライダーキバ】
【時間軸】第43話終了後
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、地の石を得た充足感、精神汚染(極小)、相川始の裏切りへの静かな怒り、ハードボイルダーを運転中
【装備】サガーク+ジャコーダー@仮面ライダーキバ、エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW、ゼロノスベルト+ゼロノスカード(緑二枚、赤二枚)@仮面ライダー電王 、ハードボイルダー@仮面ライダーW、レンゲルバックル+ラウズカード(クラブA~10、ハート7~K)@仮面ライダー剣
【道具】支給品一式×3、GX-05 ケルベロス(弾丸未装填)@仮面ライダーアギト、アームズモンスター(バッシャーマグナム+ドッガハンマー)@仮面ライダーキバ、北岡の不明支給品(0~1)、地の石(ひび割れ)@仮面ライダーディケイド、ディスカリバー@仮面ライダーカブト
【思考・状況】
基本行動方針:王として、自らの世界を救う為に戦う。
0:名護さん……?
1:レンゲルバックルから得た情報を元に、もう一人のクウガのところへ行き、ライジングアルティメットにする。
2:何を犠牲にしても、大切な人達を守り抜く。
3:ディケイドの破壊は最低必須条件。次こそは逃がさない。
4:始の裏切りに関しては死を以て償わせる。
4:加賀美の死への強いトラウマ。
5:これからはキングと名乗る。
【備考】
※過去へ行く前からの参戦なので、音也と面識がありません。また、キングを知りません。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
※ディケイドを世界の破壊者、滅びの原因として認識しました。
※相川始から剣の世界について簡単に知りました(バトルファイトのことは確実に知りましたが、ジョーカーが勝ち残ると剣の世界を滅ぼす存在であることは教えられていません)。
※レンゲルバックルからブレイドキングフォームとクウガアルティメットフォームの激闘の様子を知りました。またそれによってもう一人のクウガ(小野寺ユウスケ)の存在に気づきました。
※地の石にひびが入っています。支配機能自体は死んでいないようですが、どのような影響があるのかは後続の書き手さんにお任せします。

115:喪失 投下順 116:対峙(後編)
115:喪失 時系列順
112:最高のS/その誤解解けるとき 津上翔一
城戸真司
三原修二
間宮麗奈
擬態天道
リュウタロス
名護啓介
左翔太郎
110:Kamen Rider:Battride War(12) 紅渡
108:進化 ン・ダグバ・ゼバ
浅倉威


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最終更新:2018年03月05日 00:12