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「――事情は彼が今、全て述べた通りですよ。ご理解いただけましたか?乾さん」

電話越しに小さく「あぁ」と震える声が返ってきたことで、村上は勝利を確信する。
自分を疑った者たちの誤解を解いた確信があったのもそうだが、何より目の前の愚か者に対して、完全に勝利した確信があった。
何せ、彼は自分が勝ったと自惚れその罪を自白したのだから、愚か者としか言い様がない。

そうして目の前に這いつくばる志村を物理的にも心理的にも見下しながらローズは彼の命を絶やそうとその手を翳す。
それに志村はまだ何か手でもあるのか、しかし自分への殺意を漲らせた瞳を向けて。

「――待て」

声と共に不意に飛び込んできた新たな戦士に、両者とも目を向けた。

「橘チーフ!」

それを見て先ほどまでの殺意はどこへやら一気に正義の仮面ライダーの皮を被った志村は、そのまま彼に向けて走り出す。
或いは東京タワーで良太郎にしたように彼に自分を任せここから逃げる算段なのだろう。
二度も同じ失敗をするわけにはいかないとローズは先にギャレンに攻撃するべきか思案するが――。

――パンッ

辺りに響いた乾いた銃声に、それを遮られた。
ふと見やれば、それは自分に向けてではなく志村に向けて放たれたものであった。
咄嗟の判断で急所は外したようだったが、しかし彼の狙いはその命ではなかったようで。

「その血……、お前、やはりアンデッドだったのか」

失望とも、怒りとも取れる震えを声に乗せながら、赤い戦士、ギャレンは呟く。
見れば弾丸が掠った箇所から伝った緑の血が、彼の頬を醜く染めているのが見える。
それを手でなぞり一瞥して、しかし志村は吹っ切れたように乾いた笑いを吐いた。

「ふっ、今更気付いたのか……全く以ていつの時代も笑えるほど間抜けだな、お前は」
「志村――!」

いきなり豹変した志村をしかしギャレンは油断なく撃つ。
またもすんでの所でそれを躱し先ほどと同じ展開を辿るかと思えば、しかし今度は志村の手に新しい力が握られていた。
それを周囲のガラス片に晒して、彼は冷たく叫ぶ。

「変身」

妨害のためにギャレンが放った弾丸が彼の身を貫くより早く、彼の身は変わっていた。
それは、先ほどまでのライジングアルティメットとの戦いで秋山蓮が纏った鎧、ナイトそのもの。
遺品を探したもののナイトのデッキは見つからなかったとほざいておきながら、それすら自分の手元に置いておく為の嘘だったとは。
最早彼の言った言葉に何一つ真実はないとギャレンが断じるか早いか、ナイトはそのデッキからカードを引き抜く。

――SURVIVE

電子音声が新たなナイトの形態の名を告げるのと同時、彼の鎧は風に包まれ蒼く、そしてより強固に、変化した。
仮面ライダーナイトサバイブ。
殺し合いのライダーバトルに願いのため生き残る決意をした男の鎧を、今死神が纏った姿であった。

「何故さっき、お前を殺さなかったか、教えてやろうか?橘」

盾と剣が一体化した自身の武器、ダークバイザーツヴァイより剣を引き抜きつつ、ナイトは問う。
それにギャレンは答えないが、しかしナイトは愉悦の笑みを浮かべ。

「同じ世界だからじゃない。――お前なら、何時どんな時でも楽に殺せるからだよ」

そう言って、先ほどまで浮かべていた好青年の笑顔と真逆の不気味な笑い声を発する。
不愉快なその声に思わずローズすら顔をしかめる中、ギャレンはまたラウザーを中段に構え直して。

「本当にその通りかどうか、試してみるか――?」

対するギャレンも、その怒りを静かに燃えたぎらせながらそう告げた。

「……どうやら、私の出る幕は終わりのようですね」

一方で、一瞬で蚊帳の外に押しやられたローズはそう呟いた。
先ほど士たちより情報として変身制限について聞いたことの真偽を確かめる意味合いもあり変身は解いていないが、しかしその覇気は失せている。
無論、志村を逃がす気はないし、橘と呼ばれた男が敗北するなら自分が志村に引導を渡してやることに変わりはない。

しかし、わざわざ勝利の見えた戦いに首を突っ込んで疲労するなどと言う愚を、自分が犯す必要もなかった。
故に、ただ見届ける。
自分を騙した罪の重さを噛みしめながら、志村が逃れようのない死から足掻く様を。

橘とかいう男に愚かだと突きつけるお前も、端から見れば同程度だと嘲笑しながら、彼は、ただ戦いを見守っていた。




「そんな……志村純一が姉さんと天美あきらを殺していたなんて……」

ファイズフォンから聞こえてくる音声で志村がその罪を自白したのを聞き終えて、フィリップはその膝をつく。
首輪を解除するという話題に対し焦りを見せていたことに違和感を覚えていたものの、しかしここまでの邪悪だなどと考えもしていなかった。
変身は解かないものの既に戦意を喪失したも同然の彼を尻目に、ギャレンは何も言わずその足を志村の下へ進める。

「橘、大丈夫なのか?お前はさっきまであいつを仲間として……」
「あぁ、確かに信頼を置いていた」

後ろから投げかける士に返しつつ、ギャレンは「だが」と続ける。

「……俺にはアンデッドを封印する義務がある。もしあいつが園田真理を殺害したあの白いジョーカーなら、俺がそれを倒す」

そこまで言って、これ以上の話は不要だとばかりにギャレンは駆け出した。
それに自分も追随すべきか、と士は懐よりカードを取り出すが、横に座り込み茫然自失とする巧を見やって、それをやめる。
その瞳には騙されたことに対してではなく仲間を殺した相手を信じていた自分に対する不甲斐なさのような感情が見て取れて。

この状態の彼を放置するのは余りにも危険か、と考えるが早いか巧は胸を押さえ蹲った。
事情を知る士以外の二人が驚愕に目を見開くのに対し、巧はしかし悔しそうに嗚咽を漏らし拳を何度も地面に叩きつける。

「クソッ、クッソォォォォ!!!」

今まで士が二度見たそれのいずれよりも多く排出される灰に戦慄を覚えつつも、しかし巧は強く、強く吠えて。
流石の士もかける言葉を見つけられぬままに、周囲には巧の嗚咽が響き続けていた。




「はぁッ!」

かけ声と共にその怒りすら弾丸に込めてナイトに放つのは、ダイヤの意匠をその身に刻んだ仮面ライダー、ギャレン。
それを呆気なく切り落としながら、ナイトは飛びかかりその剣を一閃する。
ギャレンを一撃で戦闘不能に持ち込みかねない威力で放たれたそれを、しかしギャレンはラウザーで強引に受け止め、空いた左腕でアッパーを放ってまたも距離を引き剥がした。

(こいつが、志村が本当にあきらと冴子、そしてヒビキと園田真理を殺害した白いジョーカーだと言うのか……)

そうして攻撃を放ちながら、ギャレンの鎧を纏う橘は思う。
フィリップより見せられた園田真理殺害の犯人は自身の知るジョーカーに非常に酷似した、しかし自身の知るそれと色が異なる怪人であった。
橘自身も、通常目にすることが出来るトランプにジョーカーが二枚存在することも珍しくないことから以前その存在を疑ったことがあった、もう一人のジョーカー。

彼の世界ではついぞ出会うことのなかったその存在が、まさかこの場に呼ばれているとは。
そしてもう一人のジョーカー相川始と同じく仮面ライダーとして、しかし彼と違いその鎧を己が目的のためだけに纏う外道であったとは。

(何が剣崎の遺志も継いで戦う、だ。何が未来でも仮面ライダーの正義は変わらない、だ……!)

今までに彼が吐いた“善良な仮面ライダー”としての言葉の全てが、橘の神経を逆なでする。
それを思い出し、そしてそれにむざむざと騙され信用した自分を思い出す度、彼の胸は今までのどんな時より熱く燃えさかり。
そして、それにつられるように、彼の融合係数は爆発的に上昇していく。

ギャレンの鎧がより強固に、そしてより威力を増していくのを感じつつ、ギャレンはまたその銃口をナイトに向けた。
しかし、それを受けるナイトは「ふん」と鼻を鳴らす。
そのまま、ギャレンの弾丸を盾でやり過ごしデッキよりカードを引き抜いた。

――SHOOT VENT

電子音声を受け彼の腕に備わったダークバイザーツヴァイの名を持つ専用武器が弓のような形に変形したかと思えば、彼はそこからエネルギーの矢を放つ。
まさかナイトが遠距離攻撃に移行できるなどと思いもよらなかったのかギャレンはその胸から火花を散らし吹き飛んだ。
しかし無様にその身体を地に伏せることはしない。

先ほどの戦いでずっと伸びていたのだから、もう倒れている暇などないと言わんばかりに、その両足をしっかりと地面に突き立てていた。
しかしそれでもその威力故彼の身体がふらついたのを見て、ナイトは矢を連射。
一撃、また一撃とその身を削る度、中の橘には意識を手放しかねないほどの衝撃が襲う。

ラウザーを握るその手をナイトに向ける暇も与えられぬまま数えきれない矢をその身で凌ぎきったギャレンは、しかし今遂にその膝をついた。
だが、肩を上下に大きく動かしながらギャレンは未だ健在。
なればもう矢を放つより直接その命を刈り取りに向かうべきか、とナイトはその手に剣を取って。

「俺の言ったとおりだったでしょう、橘チーフ」

その口調を正義の仮面ライダーで未来の自分の部下、“志村純一”のものにしながら、ナイトは笑う。
結局は自分に敵うはずなどなかったではないかと言葉とは裏腹に橘を罵り嘲る意図しか持たずに。

「最後に一つだけアドバイスしてあげましょう。あなたは人を不用心に信じすぎなんですよ、ダイヤのカテゴリージャックにトライアルB、天王寺……何度騙されても疑いすらしない。本当に貴方は心優しい愚か者で――最高に扱いやすい、理想の上司だったよ」

またも口調を冷酷なアンデッドのものへ戻して、ナイトは剣を振り下ろす。
それは難なくギャレンの身に到達しその身を切り裂か――ない。

「なッ……!?」

ナイトが狼狽えるのも無理はない。
先ほどまであそこまで容易に切り裂くことが出来、またダークアローで傷ついたはずのアーマーが、今一層の堅さでこの剣を拒んでいる。
それに理解が追いつく前に、ギャレンは自身の肩に突きつけられた銀の剣を、しかと握りしめて。

「――確かに俺は、様々な存在に利用されてきた。その度に大小問わず様々なものを失い……中には取り返しのつかないものもあった」

そのまま、ギャレンはその顔を上げ、静かに語り出す。
取り返しのつかない代償、自身の恋人や、志村に殺されたこの場で得た戦友を思い出しながら。
彼の言い分ではBOARDの設立者天王寺も自分を利用することになる、或いはしていたようだが、しかしそれすらも今はどうでもよかった。

彼は剣を握る手が返す刃で鎧を貫きその手をギャレンのそれより鮮やかな赤に染まることすら気にせず、力を込め続ける。

「だが、疑うだけでは、何も始まりはしない。もし何度俺の信頼が裏切られようと、信じ続けてみせる。……ジョーカーを信じた、剣崎のように!」
「くッ、この手を離せ、離せェェェ!!!」

スペックで圧倒的に勝るナイトが全力を込めても、その剣はビクリとも動かない。
それに目の前の橘が持つ融合係数が驚異的な高まりを見せているのを感じて、ナイトは喚き、バイザーでギャレンの身体を乱打する。
しかし、そんな攻撃など意にも介さず、彼はその右手に自身の銃を構えて。

「だから俺は……疑うより、信じてみたい。仲間のことも、誰かの嘘も、何より、自分の可能性も!」

瞬間ギャレンがトリガーを引き絞ったかと思えば、放たれるのは凄まじい威力と連射生を持った彼の弾丸であった。
予想だにしなかった威力に思わず剣すらかなぐり捨ててナイトは絶叫と共に後ずさる。
真の姿であったなら或いは封印が可能であったかもしれないダメージを身に刻みながら、しかしナイトは根性とギャレンへの恨みだけでカードを引き抜いていた。

――FINAL VENT

放たれた電子音声は、彼の切り札を意味するもの。
それにギャレンも何とか立ち上がり、自身最大の一撃のためにラウザーより三枚のカードを引き抜く。

――DROP
――FIRE
――JEMINI
――BURNING DIVIDE

ダイヤの5,6,9、それぞれその手に馴染むほど使い込んだアンデッドの力が、今またその身に宿る。
同じく切り札の準備を完了させその身をバイクへと変形させたダークレイダーに跨がったナイトが放った拘束弾をジャンプで躱し、ギャレンは高く高く、跳んだ。
相対するナイトも自身の肉体毎ダークレイダーに包み込んだかと思えば、彼は一瞬で音速にまで加速し肉薄する。

同時宙に跳んだギャレンの身が二つに分かたれたかと思えば、次の瞬間彼はその身を翻して。

「ハアァァァァァ!!!」

その爪先と、ナイト自身を弾とした音速の弾丸が接触した瞬間に。
辺りは、爆炎に包まれた。




「ぐあッ……!」

爆炎のインパクトの後、数秒続いた硝煙の嵐から先に吐き出されてきたのは、ギャレン、否生身を晒した橘朔也であった。
では、志村はどうなったのか、その疑問は、瞬間に霧散する。

「残念だったな、橘……!」

見るからにボロボロな彼を前にして、しかしその身を未だナイトの鎧に包んだナイトが、その姿を現したため。
彼らの勝敗を分けたのはただ一つ、その身に纏う鎧のスペック差があまりに大きすぎたこと。
確かにギャレンの融合係数の跳ね上がり方は元の世界でのいずれをも大きく超えかねない圧倒的なものだったが、しかしそれでもなお通常形態のギャレンでは強化形態のサバイブには及ばなかったのだ。

自身の勝利に酔いしれるナイトを尻目に、やはり自分が決着をつけるべきか、とローズはその重い腰を持ち上げかけて。
しかし傷だらけの橘がなおもその身体を起き上がらせた為に、それを中断する。

「まだだ……、まだ俺は終わってない……!」

限界を超えたダメージを背負い、しかしその瞳に宿る戦意だけは萎えることない橘を視認して、ナイトは大きくため息をつく。
自身の正体がバレた今フィリップの殺害を最優先すべきだと言うのに、その前座である橘にここまで手間取らされるとは。
この身に纏うナイトの鎧が決して弱いわけではないことが伝わってくるのも相まって、彼の苛立ちはより一層強まっていく。

「何が、お前をそこまで掻き立てる?」

気付けば、呆れ半分にナイトはそんな言葉を彼に投げかけていた。
自身の見てきた橘のいずれの顔とも違う、目の前にいる彼は、確かに自分が考えていたよりずっとしぶとい存在だったと、認めざるを得ないだろう。
だが、何故。

恋人を失い、仲間を失い、そして何度も騙されあらゆる害を被り犠牲を払ってきたというのに、何がこの男を動かすというのか。
未来で長く見、そして理解しきったと思っていた男の知らない一面に、志村はそんな言葉をかけてしまっていた。
そして、その投げかけに対し橘は幾分か思慮を巡らせた末、最後にその顔に儚げな笑みを浮かべた。

「決まっている……、信じた組織も、愛した人も、尊敬する先輩も、友すら失ったとしても消えない思い……萎えることない思い……、それは、正義だ」

臆面もなく、橘は言い切る。
全てを失い何度裏切られようと自分が信じた正義に殉じて戦う者こそが、自分の信じる仮面ライダーなのだ、と。
しかしそんな橘を見て、ナイトはついに吹き出す。

本当にこの男は、訳の分からない馬鹿だ。
どうしようもなく馬鹿で、そして理解不能な存在だ。
全く以て、こんな男に聞いたところで碌な答えが返ってくるはずもなかったとナイトはそのバイザーを弓へと変形させて。

「なら正義の名の下に死ね。仮面ライダーギャレン」

躊躇なく、それを放った。
それを受け橘の身体が仰向けに倒れるのも確認せず、ナイトはその身を翻す。
その視線の先にいるのは、先ほど自分を蹂躙した村上、ローズオルフェノク。

彼に先の借りを返すのが先か、フィリップを殺害するのが先か、と自身の標的を見定めようとして。

「――待て」

不意に後方より届いた聞き慣れた声に、思わず振り返る。
そこには、自身の二の足で確かに地面を踏みしめる橘の姿。
何故、まだ立てる。

自分の矢は確かに彼を貫き、その命を刈り取ったはずでは。
そんな疑問が浮かぶ彼に対し、彼はその答えを右手で高く持ち上げた。

「何だ、それは……!」
「――変身ッ!」

ナイトの問いに答えることもなく、橘は叫ぶ。
その手に持つは、蜂型の自立型ガジェット、ザビーゼクター。
彼は今、橘のいかなる状況でも揺るがない正義を目に、自身の力を彼に与えることに決めた。

それは、影山瞬、光夏美、矢車想、北條透……数多の参加者を渡り歩きしかしその身を委ねる運命のパートナーを決めかねていた気まぐれな蜂が、遂にこの場で相棒を定めたのを意味していた。
しかし、そんなことを二人は知らない。
橘は自身の感覚が導くままその力を手にし、そしてナイトは何が起こったのかすら把握できぬままただ狼狽えるだけだった。

――HENSHIN

橘がザビーゼクターを左腕のブレスに装着すると同時、その身は銀と黄に染まっていく。
変身完了を告げるようにその瞳が闇夜に輝くと、ザビーはそのままブレスに収まったゼクターを半回転させて。

「キャストオフ!」

――CAST OFF
――CHANGE WASP

その身から重厚なアーマーが放たれたかと思えば、そこにいるのは全身を黄で染めた仮面ライダーザビー、そのライダーフォームであった。
新しい強さを手に蘇る思いを胸に抱いて、彼は構える。
全ての、正義に生きた仮面ライダーの分まで、自分がその思いを背負い戦うと決めて。

そんなザビーを前に、ナイトは苛立ちと共にカードを引き抜き、バイザーに装填する。

――TRICK VENT

その音声と共に現れたのは、通算四人のナイト。
単身で、かつ素手のザビーに勝ち目はないように思えるが、しかし彼は諦観の欠片も見せずその手を腰に運んだ。
そして、その左腰に備え付けられたスイッチを、勢いよく叩いて。

「クロックアップ!」

――CLOCK UP

電子音声が辺りに響くと同時、彼の時間は周囲から切り離される。
一気に襲いかかったナイトの動きがしかしスローモーションになった間を、ザビーは駆けていく。
剣を振り下ろしてきたナイトには瞬速の勢いで拳の乱打を、矢を放ったナイトには同じくザビーゼクターより針の射出を。
残る二人のナイトの内、警戒のためか一人を庇い守るように立つそれを思い切り蹴り飛ばし、最後の一人に、その身に宿る切り札を発動する。

「ライダー、スティング……!」

――RIDER STING

ゼクターの中心に位置するフルスロットルスイッチを押し込めば、彼の全身に力が沸き起こった。
それが左腕の一点に集中するのを感じながら、橘は思う。

(この一撃で、全てを終わらせる。力を貸してくれ、剣崎、小夜子、桐生さん、そして、ヒビキ――!)

死んでいった仲間の、恋人の、先輩の、友の顔を思い浮かべながら、彼はその力が臨界点に到達したのを感じて。

「ハァッ!」

かけ声一つ、ナイトの鎧を深く突き刺した。




――CLOCK OVER

特殊な時間軸から弾き出されながら、ザビーは大きく肩で呼吸する。
如何にナイトサバイブの鎧が頑強であっても、先ほどの手応えであれば問題なく戦闘不能に持ち込めたはずだ。
そうして志村の下にその足をふらつかせながら向かおうとして。

「なッ……!?」

彼の胸を、紫の光線が打ち据えた。
余りに規格外のダメージを誇るそれにその身を大きく吹き飛ばされながら、ザビーはその光線を放った怪人を睨み付ける。
果たして爆炎が晴れた後そこにいたのは、白の鬼札(ジョーカー)。

「殺す……、全員殺す……今、ここで!」
「これが……もう一人のジョーカーの姿か」

フィリップが撮影した悪魔そのものの姿から志村の声が発せられることでその正体を感化しながら、ザビーは構えた。
その圧倒的な威圧感に気圧される自分がいることを否定しきれないながらも、先ほど抱いた覚悟を曇らせることなく、その腰に手を運んで。

「クロックアップ!」

先ほど四人のナイトをも倒したこの形態の切り札を発動せんとクロックアップスイッチを勢いよく叩くが、能力は発動されない。
それは、クロックアップという強力な能力にこの場で設けられた制限であったが、しかし橘がそれを知ることはなかった。

「なッ……!?」
「橘ァ!!!」

そして、一瞬のザビーの狼狽を、アルビノジョーカーは見逃さない。
その巨体をものともせず一瞬で両者の距離をなきものにした彼は、そのままその手に生じさせた鎌でもってザビーを深く切りつけた。
クロックアップの非発生という事態への対処に追われたザビーが、その鎌を刹那の判断で躱すが、しかしジョーカーの怒りは収まらない。

振り切った鎌をそのまま投げ捨てたかと思えば、その腕を強く打ち付けてザビーに激突する。
ザビーも何とかその腕を防御の姿勢に構えるが、しかし元々装甲の薄いその鎧を大きく削られながら吹き飛び、遂にはその生身を晒した。
今まで戦ってきたいかなるアンデッドよりも強力なそれに目の前の敵の実力を強制的に認識させられながら、橘は死神をその瞳で見据える。

怒りの籠もったその瞳を見下しながら、しかしアルビノジョーカーは高く嗤って。

「無様だな橘。――まぁ、正直お前の実力を見誤ってたよ。まさか雑魚の分際でここまで俺を手こずらせるとは」

その言葉に橘は力すらないままに立ち上がろうとするが、しかし身体が悲鳴を上げそれすらも拒否しているかのようであった。
危機一髪の橘を見てローズがようやくゆっくりとその足を戦場に向けたものの、しかしそれは止まる。
彼の身がその身に宿ったオルフェノクのものから人間のものへ瞬時に変貌したため。

「――これが変身制限、ということですか」

気付けば、もう十分の時間が過ぎていた。
士たちからギアを取り戻さないことには、自分も今の志村に刈られる存在でしかない。
そんな絶体絶命の二人を前に愉悦の声を上げゆっくりとアルビノジョーカーは歩を進め。

「お前らは全員殺す。この世界で唯一、未来永劫生き続け全ての力の頂点に立ち続けるこの俺を、ここまでこけにした礼としてな」

ククク、と不気味に笑うジョーカーを前に、二人は戦慄する。
だがその瞬間、その掌に紫の衝撃を走らせたアルビノジョーカーの動きは、止まることとなる。

「――それは違うよ」

小さく、特別声を張っているわけでもないのに妙に通るその声と共に現れた、一人の男によって。

「……野上さん」

村上が小さくその名前を呼ぶ中、呼ばれた男、良太郎は死神の威圧を感じていないかのように静かに彼の前に立ちはだかった。
それが気に入らないとジョーカーもまた苛立ちを込めた声を上げるが、しかし良太郎が怯むことはなかった。

「何かと思えば、野上さんじゃありませんか。東京タワーではお世話になりました。あなたのお陰で天美あきらさんと園咲冴子さんの二人を殺すことが出来たんですよ」
「――やっぱり、君は間違ってるよ」

得意の皮肉に眉一つ動かさない良太郎にジョーカーも疑問の声を上げる。
この男は、わざわざここに現れて一体何をしたいというのか、何が出来るというのか。
ジョーカーには、全く以て理解が追いつかなかった。

「俺の、一体何が間違ってる?この殺し合いのルールは世界の命運をかけた重大な戦いなんだぞ?自分の世界の戦えない人々の為に全力を尽くして戦うのが仮面ライダーってものだろ?」

その嘲りしか見られない言葉に橘の怒気がまたしても膨れあがるが、しかし彼が口を開くより先に、良太郎は数回首を横に振って。

「ううん、きっとそれも違う。僕もさっきまでよくわからなかったけど……、士や、この橘さんって人の話を聞いて思ったんだ。多分仮面ライダーは、どこの世界でも、どの時代でも自分の信じる何かを守るために、自分の大事な存在を失ったとしても戦ってる人のことだって」

その胸中に思い描くは、自身の存在を糧に戦う男の顔。
そしてその彼の未来だという男の姿。
誰の記憶からも消え自分の存在が時の流れから永久に消滅するとしても、それでも未来を信じて戦う覚悟を決めた男の姿だった。

だから、思う。
きっと仮面ライダーは、未来を破壊する存在なんかじゃない、と。
だからこの目の前の男が信じている“仮面ライダー”なんて、自分は認めるわけにはいかなかった。

「それに、君は不死の存在なんかじゃない。人は、記憶で繋がってる。誰かがその人のことを覚えていればその人は誰かの中で生き続けるんだ。……嘘をついて自分の為に誰かを利用しようとした君なんて、きっとすぐに皆忘れる。だから君は、不死なんかじゃ、ない」

それが、良太郎の言いたいことだった。
記憶が過去と未来を繋ぐ鍵というなら、それはきっと命の概念にも繋がっている。
自分と一緒に戦ったあの赤い鬼は、自分が覚え、また誰かに語り継ぎそれが語り継がれる限り、死にはしないのだと、そう思った。

だからこんな男が唯一の不死を名乗ることは、良太郎にとって我慢のならないことだったのであった。
しかし、そんな良太郎に対し、ジョーカーはその手に鎌を構えその歩を進める。

「言いたいことは終わったか?――喜べ野上、お前を最初に殺してやるよ」

いつの間にか目前にまで迫った彼を見上げながら良太郎はしかし怯むこともせず。

「それも無理だよ。だって――」

最後まで言い切ることなく振り下ろされたその鎌はしかし、良太郎の首を掻き切ることはなかった。
それは、その鎌を握る彼の手に一発の弾丸が着弾したため。
何事か、といい加減に苛立ちを抑えきれず吠えながら振り返ったジョーカーを待っていたのは、自分が殺した男の銃を手に持ち油断なく構える男の姿。

何も言わぬその瞳に仲間を殺した下手人が自分だと見抜いているかのような怒りを乗せこちらを睨み付ける士に当惑の声を漏らしたのも気にせず、良太郎は口を開いて。

「だって、僕には、仲間がいるから。――キンタロス」

後ろから呟くように聞こえた声に今度こそその爪を突き立てようとするが、しかしそれは良太郎の先ほどまでの貧弱な腕では考えられないような豪腕に押さえつけられていた。

「――泣けるでぇ!」

瞬間和服に着替えた(?)良太郎が意味不明な言葉を口走ったかと思えば、気合い一つ入れた渾身の突きで自分は吹き飛ばされていた。
相手が生身の人間であるという油断は多少あったかもしれないが、しかし良太郎のどこにここまでの力が……?

「お前も中々やるじゃないか、良太郎」
「あったり前や!誰が強さを認めた男やと思っとるんや」

困惑するジョーカーを尻目に良太郎の横に並び立った士が素直に賞賛を漏らすと、それに自慢げに良太郎、否それに憑依しているキンタロスも答える。
その様子に満足げに笑いながら士は懐からカードを取り出し構えるが、しかし、彼の動きはそこで止まった。
先ほどの良太郎のように、新たな存在がそこに現れたため。

「――待て」
「乾!」
「巧!」

声に対してそちらを一瞥すれば、そこにいたのは乾巧。
その存在に橘と士は思わず声を上げるが、しかしすぐにそれは消えた。
何故ならそこにいた彼の身体からは、絶え間なく灰がこぼれ落ちていたため。

「乾さん、まさか貴方は……!」

自身に純粋な驚愕を向ける村上に一瞥だけをくれてやり、巧は白のジョーカーに向き直る。
その腰にはドライバー、その手にはファイズフォン。
それはつまり今から彼が戦おうとしていると言うこと。

満身創痍で自身の前に立つ巧を前に、嘲笑を浮かべるのはやはり立ち上がった志村だ。

「そんな死にかけの身体でまだ俺の前に立とうと言うのは、あまりにも愚かじゃないか?乾」
「さぁな、知ったこっちゃねぇよ」

ぶっきらぼうにそう返しつつ、彼は次に士を見やる。
その瞳には困惑と何より一種の諦観が見て取れて。

「巧、分かってるな?今の身体で戦えば、お前は……」
「あぁ」

短い問いと、それ以上に短い返答であったが、両者にはそれで十分だった。
「そうか」と小さく呟いたきり、士はそのカードをブッカーに仕舞い巧に全てを任すと言わんばかりに戦意を見せなくなった。
それに誰にも聞こえぬほどの声量で小さく感謝の言葉を呟いて、巧はその手に持つファイズフォンに慣れた手つきで5・5・5・ENTERを入力した。

――STANDING BY

それと共に聞き慣れた待機音声が周囲に響く中、決意と共にその右手を大きく挙げた。

「変身!」

――COMPLETE

次いでドライバーにファイズフォンを叩き込めば、その身はフォトンブラッドの粒子に包まれて。
瞬間そこに現れたのは、ファイズの世界を代表する夢の守人、仮面ライダーファイズ。
その身を暗夜に輝かせながら、彼はその手にファイズエッジを構え、かけ声と共に突貫する。

相対するジョーカーがそれを受け止めたのは、園田真理を殺したデスサイスの名を持つ鎌。
それに対し一層大きくファイズが吠えたことで、戦いの幕が切って落とされたのだった。


117:time――liner 時系列順 117:time――out
投下順
門矢士
乾巧
村上峡児
野上良太郎
橘朔也
志村純一
フィリップ


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最終更新:2018年03月15日 11:34