time――out ◆.ji0E9MT9g




「クソッ……何でこうなるんだよ……!」

時間は少しの間巻き戻る。
志村の犯行自白を聞き届け橘が戦地に向かうのを見た戦士たちが彼の加勢に向かおうとした瞬間に巧が蹲ってしまったのだ。
良太郎がイマジンと契約したのかと巧を訝しげに見る中で、一人事情を知っている士は静かに口を開いた。

「見ての通りだ、こいつの命はもう、消えかけてる」
「何だって……、それはどういうことだ、ディケイド」

思わず掴みかかりそうになる拳を収めながら、フィリップが問う。
それに対しまたも説明を開始しようとした士を制したのは、巧であった。

「そのままの意味だ。俺はもう寿命で、多分何をしてももう何時間もしないうちに死ぬ。……どこまで持つかも、正直分からねぇ」

そう言って、彼は一旦灰の止まった掌を見る。
しかしもうそれが人の形を留めているのすら奇跡といえる状況で、彼が笑顔を浮かべるはずもなく。
それに対しやるせなさに息を吐き出したのは、フィリップであった。

「そんな身体で、ライジングアルティメットと二回も戦ったりしたら……寿命が縮まって当然だ……!」

言われて、巧は思い出す。
人間に捕まりオルフェノクの細胞を破壊し寿命を縮める薬を投与された後に戦った相手は、どれも強大極まりなかった。
オルフェノクとして生きる決意を固めた木場、オルフェノクの王、そしてここに連れてこられてからもテラーにユートピア、ガドルにライジングアルティメット、そしてウェザー……。

そのどれもが万全の装備を備えても勝利を確信できるような相手ではなく、またその戦闘でファイズを、オルフェノクの力を使う度に、彼の寿命は加速度的に摩耗していった。
元々ファイズの鎧を走るフォトンブラッドはオルフェノクにとって害になるものなのだから、弱り切った身体で纏えばそうした副作用が如実に出ても仕方なかったのだ。
しかし彼は文字通り命を燃やし戦い続けた。

その身が崩れ去るその瞬間まで、何かを守るために戦いたい、とそう願って。
しかし、もうそれも叶うまい。
先ほど村上に遭遇した際オルフェノクの力を使い戦闘に至らなかったのは、禁止エリアなど理由ではなく、オルフェノクとして戦えばあそこで寿命を迎えるだろうことを、理解してしまったからだ。

理屈ではなく直感での理解だったが、恐らく間違ってはいない。
その証拠として、今この瞬間に戦闘を介してもいないのにこれほどの灰がこの身から吐き出されているのだから。

『お前らは全員殺す。この世界で唯一、未来永劫生き続け全ての力の頂点に立ち続けるこの俺を、ここまでこけにした礼としてな』

と、ふと戦場に意識を移せば、アンデッドとして真の姿を現した志村が、橘と村上に勝利宣言をしていた。
それを見て、立ち上がろうと突き立てたはずの拳に感覚が宿らない為に大きくバランスを崩しながら、巧は地べたに頬を擦り付けてしまう。
それに士とフィリップが気を取られている隙に、デイパックすら持たぬまま良太郎はジョーカーの下へ走り出して。

「あの馬鹿……ッ!フィリップ、巧を頼む!」

生身のままアルビノジョーカーに立ち向かう良太郎の背を見て、士も続く。
それを見送ったフィリップの横で、巧もまたその消えかける足をしかと地面に突き立てて。

「止めないでくれフィリップ、俺は――」
「――止めないさ」

しかし、止められるのを覚悟した巧に、フィリップはまるでそうして立ち上がることさえお見通しだったように呟く。
その瞳の先にはアルビノジョーカー。
姉を殺した相手の言動に、知らぬ間に先日風都タワーを襲撃した大道克美の姿を、彼は幻視していた。

不死の存在として生きる内、日々人間性を失う代償を負った、NEVERの兵士たち。
そんなものを真に永遠などとフィリップは思えもしなかったし、同時に自分にとっては良太郎の述べる誰かの心の中で生きる永遠の方が余程尊く思えた。
だから同時に、今目の前で命の火を絶やそうとする巧に、その輝きを止める資格なども自分には、ない。

「……すまねぇな」

そんな中、巧はポツリと謝罪を漏らす。
それが何に対する謝罪なのか、フィリップには正直特定できない。
乾巧という人間がそのつっけんどんな言葉の裏に優しさを秘めた人間なのか、少しくらい理解しているつもりだったから。

だから、彼はそれに少し笑みを返しただけで何も答えなかった。
きっと、巧も許しを得ようと口にした謝罪ではないだろうことを、理解していたから。
それを受け、巧は遂に走り出す。

その身体からは止めどなく灰が零れ出ているが、しかしだからといって彼の背中が弱く見えることなど、あり得なかった。
その背中に、仮面ライダー、としての最高のものを見た気がしたから。




ファイズが放つ未知の粒子迸る紅の剣を、その手に持つ鎌で受け止めるのは、彼に対峙するジョーカーであった。
しかし、数回の打ち合いしか成していないというのに、もうファイズの肩は上がっている。
既に限界を超えたダメージを蓄積した中で寿命をも迎えかけているのだから、それは最早どうしようもなく当然のことであった。

しかし彼の中の闘志は衰えず、むしろ高まっていく。
だがそんな彼と相対するジョーカーは変わることなく嘲笑を浮かべ。

「どうしました、もう限界ですか?“乾さん“」
「――ッ!」

明らかな挑発に対しかけ声一つエッジを大きく凪ぐが、しかし難なくそれを躱されむしろその腹に蹴りを食らってしまう。
それに呻き声を上げる暇もなくその身にヘルファイアの炎が容赦なく降り注いだために、ファイズは大きく吹き飛ばされた。
その身を木に強く打ち付けながら、彼はそのまま力なく座り込む。

そうして目前に徐々に迫り来る白いジョーカーを見やりながら、彼は二人の男を思い出していた。

『――冴子は、僕の妻でね。ここに来る前に少しいざこざはあったけど、賢く美人で、自慢の妻なんだ』

知り合いについて情報を交換している時に、どこか遠くを見ながらしかし嬉しそうにその名を言っていた霧彦のことを。
彼が街と同じほどに愛した生涯ただ一人の伴侶、それをこいつが、殺した。

『あきらは俺の弟子じゃなかったけど、よく知ってるよ。ちょっと融通聞かないこともあったけど、真面目で良い子だった』

イブキにどう言えばいいんだろうなぁとぼやきながらあきらとの思い出を考えるヒビキのことを。
彼が気にかけた友の元弟子で、既に一般人として鬼の道を諦めた、しかし心優しい彼女を、こいつが、殺した。
それを思う度、彼の腕の、既に消えかけたはずの感覚が鮮明になっていく。

そのまま勢いよく顔を持ち上げたかと思えば、彼はジョーカーの振り降ろす鎌をその剣で受け止めた。
限界を超えたファイズの攻撃に狼狽えるジョーカーを気にもとめず、ファイズは自身のドライバーに手を伸ばして。

――EXCEED CHARGE

瞬間彼の身体を走ったファトンブラッドは、彼の右手に流れ込み、その赤い刀身を一層輝かせた。
それにジョーカーが反応する前に、彼は大きく剣をなぎ払い。
スパークルカットの名を持つ一撃を、デスサイスにぶつける。

それを受け数瞬デスサイスが悲鳴を上げるが、しかしそれすら気にせずファイズはエッジを振り切った。
赤いφの字が宙に浮かぶ中、ジョーカーは苛立ちと共に半分に折れたその得物を投げ捨てる。
それを機とみたかファイズはミッションメモリーをファイズショットに入れ替え、その手につけたファイズアクセルから黒と赤のミッションメモリーを抜き去って。

――COMPLETE

それをファイズフォンに挿入すれば、その身は一瞬で黒の身体に銀のラインの走る戦士、仮面ライダーファイズアクセルフォームのものへと変貌する。

――START UP

防御力と引き替えに驚異のスピードを得た彼は、傷つき既に限界の身体を、しかし加速してジョーカーに神速の勢いで肉薄。

「――ラァァァァァァッ!!!!」

咆哮と共に縦横無尽に飛び交いそしてその拳を幾度となくジョーカーに放つ。
全ての彼に騙され殺されたものたちの怒りを、その拳に込めるように。
ヒビキという、誰しもを信じ、誰しもが心を開く、誰よりも大人だった男の思いも乗せて。

「いい加減に……しろぉ!」

しかしそれを受けるジョーカーも何時までもただでやられているはずはない。
いきなり周囲を紫の閃光が支配したかと思えば、それは辺りを爆炎で包み込む。
それはまるで、自分がその神速の勢いについていけないなら、全てを破壊すればいいと言わんばかりの乱雑な攻撃だった。

しかし、それは少なくとも攻撃のみに神経を振り絞っていたファイズが相手のこの状況では、有効であった。
ただでさえ薄くなったアーマーの、その奥のコアに衝撃が直接到来して、ファイズは形容しがたい悲痛な叫びを以て大きく吹き飛ばされた。
強かにその身を地面に仰向けに横たえながら、その身を通常のファイズのものへと変えて。

まだ倒れるわけにはいかない、まだ諦めるわけにはいかないとそう感じながらも、抗いがたい睡魔に襲われて。
巧は、遂にその瞳を閉じた。




――目を覚ますと、そこは緩やかな斜面をした緑の大地であった。
それは確かに自分がこの場に連れてこられる前、真理と啓太朗と共に寝転がっていた河原の土手。
今までの全てが夢だったのか、と巧が混乱しつつも、ここは本当に気持ちの良い場所だと、その心地よさのままにその目を閉じかけるが、しかしそんな彼に対し降ってくる声が一つ。

「――乾君、良い場所を知っているものだね、ここは風都のように良い風が吹く」

ふと声のした左側に視線を移すと、そこには既に灰になり風になったはずの霧彦の姿。
どうしてお前が、そんな投げかけを本来ならするべきだろうが、それをする気にはなれなかった。

「あぁ、たまにはこうして地に寝そべり天を見上げるのも悪くない」

右側から聞こえた声に振り向けば、そこには自身や霧彦と同じく仰向けに寛ぐ天道の姿。
既に死んだものたちが何事もないように自分と会話していることをしかし不思議に思うこともなく、彼は導き出した一つの答えを口にする。

「死んだのか、俺」

遠い目をしながらそう呟くと、しかし心のどこかがすっと軽くなるのを感じた。
もうこれ以上誰かの為に戦う必要もない、痛い思いも、辛い思いもしなくていいのだと。

「――本当に、それでいいのか?」

天道が、自分の心を見透かしたようにそう問う。
その顔はいつもの彼のように自信満々といった様子ではない。
ただ、本当に問うているのだ、自分の覚悟が、その程度のものだったのか、と。

それに対し、巧は黙って空を見上げる。
多くの人を騙し殺したあの悪魔は、許されざる邪悪だ。
しかしそれに負けて死んでしまった自分が、これ以上何か出来るとでも言うのか。

あれだけ頑張ったのだからもう休んでもいいではないか、と生前には抱くことのなかったような思いを顔に浮かべつつ、しかしそれを口にはしない。
それを口にした瞬間全てが終わってしまう気がしたのはもちろん、それだけでは終わらない自分が確かにいるのを感じたから。

「乾君、君が今死んだら、僕のスカーフはどうなるんだい?一体誰がそれを洗濯するなんて思うんだ?」

黙りこくる巧に、霧彦が起き上がりつつそう問う。
その顔には笑顔が浮かんでいたが、それは彼を嘲るものでなく、彼の出す答えが分かっているための悪戯な笑顔に見えた。
それを横目で見やりつつ、しかし巧は何も言わず寝そべるまま。

「――お婆ちゃんが言っていた」

そんな巧に降ってくるのは――あぁ、見なくてもわかる――その人差し指を天に向け、儚げな表情を浮かべた天道の声。

「人に足が生えているのは、天に少しでも近づこうと努力した結果だ、もし地に伏せ空を見上げるだけでは、天に届くことはない、ってな。――お前も俺の夢を継いだなら、立ち上がれ、乾」

お前が天そのものだって言いてぇのかよ、と相変わらず主語の大きい彼の言葉をしかしどこか微笑ましい気持ちで受け止める巧。
彼は黙ったままだったが、しかしその顔には先ほどのような緩やかな死に対する思いは見られなかった。

「あーあ、ったく少しの間寝させてもくれねぇってのかよ」

がばっとその身を一気に起き上がらせながら、巧はぼやく。
その髪をぼさぼさと掻きむしって、その手に灰がついていることに、最早何も感じぬままに。

「心配するな、これで終わりだ。それが終われば、彼女にも会える」

達観したようにそう呟く天道の声を聞きながら、彼の意識はぼやけていく。
いや、むしろ急速に浮上して言っているという方が、正しいのか。
ともかく、天道の言う彼女、というのが誰なのか、思考の纏まらぬままに彼はその瞳を閉じかけて。

――巧!




もう一度目を覚ましたとき、そこにあったのは先ほどとは違って冷たい大地と戦闘による嗅ぎ慣れた、しかしいつまで経っても嫌悪を覚える臭いだった。
その身を先ほどより何倍も重く感じながら、しかし確かに起き上がると、目前のジョーカーは今度こそ恐怖にも似た声を上げてファイズを見やる。
橘朔也に、乾巧、呆気なく刈り取れると思ったはずの命が、何故こうまで自分の邪魔をし続けるのか、何も理解できないと言わんばかりに彼は狼狽する。

その姿に仮面ライダーの何たるかを深い部分で理解していなかったと判断できて、巧は思わず彼を笑った。

「何が可笑しい……もう死にかけの分際で、全てを支配し永遠に生き続けるこの俺を……笑うなぁ!」

それに怒りが爆発したのか、ジョーカーは猛進する。
先ほどまでの冷静さを、どこかに置き去りにしたように吠える彼を前に、ファイズは手首をスナップさせるのみ。
思い切り振りかぶったジョーカーの拳を刹那で躱しながら、ファイズはその右手を強かに彼の腹に放った。

呻き声と共に緑の血を吐き出す彼を前に、ファイズはその手にポインターを持ちながら、ふと思い出したことを口にする。

「――そういやお前、真理がお人好しって言ってたっけな」

その言葉は先ほど自分が村上に対して放った言葉だったはずだ、とジョーカーは思い出す。
しかし何の脈略もなく放たれたその言葉に、彼はただ困惑を残して。

「あの女はなぁ、お人好しなんかじゃねぇんだよ。俺が猫舌なのを知ってて夕飯に鍋焼きうどんを出してくるような、意地の悪い女なんだ」
「……何が言いたい?」

どこか遠くを見ながらぽつりぽつりと漏らすファイズに、思わずジョーカーは問う。
しかしそれを気にもせず、彼はドライバーに手を伸ばした。

――EXCEED CHARGE

再び放たれた電子音声と共に、高まりゆくエネルギーを感じながら彼は妨害せんと近づいたジョーカーを殴り飛ばす。
今までを大きく超えるようなその拳のダメージにジョーカーが呻く中、彼は大きくその身を飛び上がらせて。

「――あいつを何もしらねぇくせに、偉そうにあいつを語ってんじゃねぇ!!!」

かけ声一つ、その右足を真っ直ぐにジョーカーに向けた。
瞬間、彼の身体を赤い円錐と共にファイズが貫いて。
その白の身体に大きくφの記号を浮かび上がらせながら、死神ジョーカーは、遂にその身をゆっくりと倒した。




「……ぐっ」

呻き声と共に仰向けに横たわるのは、この場で志村純一、正義の仮面ライダーを名乗ったアルビノジョーカーであった。
自身の正体が村上にばれた時彼は、この場で殺せるだけの人間を殺してすぐに離脱することを考えた。
その場に現れた橘に負けはないと確信を持って挑んだが、勝負は痛み分け。

どころか手にするナイトの鎧がギャレンのそれを本来大きく凌いでいることを考えれば、負けを認めなくてはならないもので。
それは橘という男を長年見下し続けてきた彼には心底納得のいかないものだった。
故に彼だけでも殺す決意を以て本来の姿に変じたが、そこに野上良太郎が現れた。

自分が永遠の存在である、という言葉を否定し剰え生身で自分を押し倒した彼に苛立ちを募らせればそこに門矢が現れ、次は乾巧だ。
とはいえ既に灰を吐き出し見るからに死に体だったために容易に殺すことが出来るだろう、最低限彼と橘、村上を始末してこの場を去ろうと考え、戦闘を開始したのだが。
その結果が、これだ。

ほぼ万全に近い装備を得ながらの敗北に、彼は全く理解の追いつくことが出来なかった。
と、ふと視線を動かせば、そこには自身をこの状況に追い込んだ村上の姿。

「何の……用だ」

息も絶え絶えにそう彼に問いかけると、村上は自分を興味深げに見つめ。

「あなたの敗因はたった一つですよ、志村純一」

そう言い放った。
自分の敗因などという言葉に、志村はただ困惑する。
そんなもの、自分が彼らの実力を見誤ったとも思えないし、彼には一切理解の追いつかない部分であった。

「――あなたは、もっとも怒らせてはいけない男を怒らせてしまった……、ただそれだけです」

それが、自身を打ち倒した乾巧のことなのか、自身のペースを掻き乱しナイトを打ち破る大金星を上げた橘朔也のことなのか、それともそもそも彼らと戦う状況にまで持ち込んだ村上自身のことなのか。
そのいずれかは全く見当のつかないものの、彼はそれ以上村上に問うことも出来なかった。
パキン、と気持ちの良い音が響いた後見覚えのある緑の光に自分が包まれ、その意識を深い闇の中に、彼の身体は封印のカードの中に押し込められたのだから。

それを静かに拾い上げながら、村上はゆっくりとその場から踵を返し静かに離れていくのだった。




志村純一がその身をカードの中に封じ込められたのを見て、フィリップは姉の敵が取られたことを実感する。
出来ればこの手で討ち取りたかったが、士から事情を聞いた巧の戦いを、自分が汚すわけにもいかないとそう思い、その戦いを見守ることにしたのだ。
戦いが終わってもなおただ天を見上げるのみで立ち尽くすファイズに近づきながら、フィリップは慎重に言葉を選ぶために思考を巡らせ続ける。

「巧……お前は――」
「言うな門矢、何も言わなくて良い」

しかしそんなフィリップより先に、かけるべき適切な言葉が見つからないながらにその口を開いた士を、ファイズは止める。
その少しの動作だけでファイズの鎧でも抑えきれぬほどの灰が全身から吐き出されて、事情を聞いていない橘にも彼に先はないことを察することが出来てしまって。
誰もが黙り続ける沈黙の中で、しかしファイズはゆっくりとその顔を上げた。

「お前らに、夢……ってのはあるか」

唐突ながら聞いたそれは、その実問いではない。
ただ彼らの胸に自分自身が聞けばそれでいい、そんな言葉であった。

「俺は、他人からたくさん夢を託されてきた。例えば、霧彦とかな」

言いながら自身の懐より彼のスカーフを取り出したファイズは、それをフィリップに手渡す。
そのスカーフには幾分か灰がついていたが、しかしフィリップはそれを払うことはしなかった。

「フィリップ、このスカーフを洗濯してやってくれ。そしてお前の街で、一番良い風が吹くところにおいてやってほしい。それが、あいつの夢だった」
「当然だ、任せてくれ」

真っ直ぐな瞳で、しかしその眼を赤く充血させ潤わせながら言う彼を見て、ファイズは少し笑った。
それがなお悟った人間の笑い方のように見えて、フィリップは思わず彼を直視できなくなってしまう。
それを気にする暇もなく、彼は今度は士の方へ振り向いて。

思えば短い間の仲だったが、色々知った口を聞かれ様々なことを思った男だった。
こいつが破壊者だとしても、信じようと決めた自分を泣かせぬ為にも、彼は一歩進む。

「それからこれは、天道総司って男の夢だ。あいつと同じ顔をした、黒いカブトに変身する男に伝えてくれ。アメンボから人間まで、全ての命を平等に守る、それが天道の夢だってな」
「――あぁ、わかった」

返答に僅かに時間を要したことを少し気がかりに思いながら、彼は最後にそこにいる全員の顔を見渡す。
フィリップ、士、橘、良太郎。全員、善良な仮面ライダーであるはずだ。
少なくともこの中に志村のような正義を利用する邪悪は存在しないと、彼は信じたかった。

だから、継いでもらおう。
自分の夢も、彼らになら任せられるから。

「それから、世界中の洗濯物が真っ白になるみたいに、皆が幸せになれるように。……これが俺の夢だ。お前らに、後を任せたい」

そう言って目を閉じかけて、もう一つ夢を思いつく。
どうせ最後なのだから、少しくらい臭い台詞も悪くない、とそう感じて。

「そして、皆の夢が、きっと叶いますように――」

そこまで言うと、彼の身からファイズの鎧は失せていく。
変身制限を迎えたために、その役目を終えたのだ。
しかしそのフォトンブラッドによる輝きが消えた後、そこにいるはずの巧の姿はもう存在しなかった。

灰の山に置き去りになったファイズドライバーと首輪を見て、しかし誰も泣いたりはしなかった。
彼という男が自分たちに残した夢の意味を、これ以上ないほど分かっているつもりだったから。
風にさらわれていく灰はいずれ、彼の友が愛した街や天にも届くと、そう確信できたから。




「なるほど、ここにカイザドライバーがあったのですね」

乾巧の死にただ一人その場で向き合わなかった男、村上は少し離れたGトレーラーで自身もよく知る王を守るためのベルトの一本を見つける。
草加雅人に支給されていただろうそれに全てのツールを取り付けながら、他の支給品に目を移そうかと考えたその時。

「――ここで、何してるんですか」

ふと、後方から訪れた声に振り向いた。
そこには、未だイマジンも取り付いていない生身の野上良太郎の姿。
それを視認しながらも、しかし彼は別段驚いた様子もなかった。

「貴方がここにいると言うことは、乾さんは逝ってしまったんですね」

ゆっくりと空を見上げた彼に、良太郎は警戒の目を向け続ける。
その手には自分のデイパックの他にもう一つを持ち合わせているようで、恐らくは村上のものだろうことが把握できた。
自分に届けに来たのだろうそれを受け取ろうと手を伸ばせば、良太郎は抵抗するようにその手を引っ込める。

恐らくはこんなところで単身行動していたことを彼は訝しんでいるのだろう。
それに気付いたのか、村上はいつものようにふっ、と笑ってGトレーラーより舞い降りた。

「心配しなくとも、このドライバーを秘匿するつもりなどありませんよ、私は志村純一とは違い、皆さんを出し抜くつもりなど少しも持ち合わせてはいない」

恐らく問題なく私のものと認められるでしょうしね、と意味深な言葉を続けながら、彼はカイザギアを手に垂らす。
それを見てもなおデイパックを渡そうとしない良太郎に困惑の表情を向けると、彼はその瞳を先ほどと同じく真っ直ぐ向けた。

「何で、乾さんが死ぬとき、そばにいなかったんですか」

その声は、静かな怒りに燃えている。
彼の死に際にこんなところで自分の戦力を確保している動きが単純に気に入らなかったということか、と村上は思い至った。
その程度のことで、とも思うが、しかしここで彼の機嫌を損ねれば今後自分の主催戦での立場も危うい。

それは新たに抱いた自分の方針にも背くことになる、と彼は一つ息を吸い込んで。

「彼が死ぬ間際に私がいる必要はないからですよ、それに――」
「あなたが乾さんと敵だからですか?あんなになってまで戦ったのに、その人が死ぬときまで、あなたは彼を憎んでたんですか?」

記憶。
それは人と人を繋ぐなによりも大事なものだ。
電王として戦い、また記憶を犠牲に戦う侑斗を目にして、その思いは良太郎の仲で非常に大きいものになった。

だから、その人を覚えている人の記憶は、一つでも良いものを持っていて欲しかった。
例えば死に際に残した言葉などは、その人の人となりを表すようなものだ。
だからそれを聞かずもしも村上が巧を恨み続けているというのなら、それは絶対に彼にとって許せないことであった。

しかしそれを聞いた村上は何も思うところはないようにいつものような凜とした顔をしている。
それに思わず良太郎は声を荒げそうになって、しかし村上はそれを制しゆっくりと話し出した。

「――あなたは何か勘違いをしているようだ。確かに彼と私の間には深い確執がありました。しかしそれはお互いの信念に基づくものだ、それが消える死の後にまで、私は彼という有能な同族を憎んだりはしない」
「なら、なんで……」
「私がいては、彼が笑顔で逝くことが出来ないからですよ」

村上は、臆面もなく告げる。
それに呆気に取られた良太郎を気にも留めず、彼は良太郎を真っ直ぐ見据えて。

「人は泣いて産まれてくる。それは仕方のないことですが……しかし死の瞬間の表情を決めるのはその人自身だ。私は、死の瞬間浮かべる表情にこそその人物の全てが現れると思っている」

自身の人生哲学を語る彼に、良太郎は何も言えない。
それを見ながら、しかし村上は続ける。

「私の信頼に応え志村純一を打ち倒した乾さんは、上の上たる存在だ。そんな存在が死に際に私の顔を見てその表情を曇らせるというのなら、私はその死に際から潔く去りましょう」

彼の言い方からすれば死に際の志村の前に現れたのはその逆という意味か、と良太郎は思うが、ともかく。
そこまでを一気に言い切って、村上は息をつき、しかしまた顔を持ち上げた。

「――乾さんは、笑顔で逝きましたか?」
「わかりません、最後まで、変身していたので……」
「そうですか」

短く答えた村上は、そのままゆっくりと廃病院の方へ足を進めようとする。
良太郎の手から力なくぶら下がるデイパックを受けとり、その中にカイザギアとオーガフォンを詰め込んで。

「――あの!」

その背中に、思わず良太郎は叫ぶ。
それに思わず振り返りながらも、村上は意外そうな表情を浮かべた。

「何ですか、野上さん」
「何で貴方は人間とオルフェノクの共存を考えたりしないんですか、そんなにオルフェノクに優しいなら、人間と戦わない道を探すことだって――」
「――我々に戦争以外の道はない」

どこまでも甘い良太郎の言葉に対する村上の言葉は、先ほどよりも強かった。
そこに揺るがぬ彼の持つ正義を感じて、思わず良太郎は怯んでしまう。
そんな彼を見て「もう結構ですか?」と踵を返し廃病院に向かう彼を見やりながら、しかし良太郎は彼を悪と断じることは出来ぬままで。

「それでも、僕は信じたい。貴方のことも、オルフェノクと人間が共存できるってことも」

誰からも甘いと断じられそうな危うい思考を抱きながら、しかしその瞳に誰より強い意志を抱いて、彼は村上の後を追うように駆け出した。
もう、誰も死なせたくないと決意を新たに抱いて。
誰よりも弱い彼は、しかしそれでも諦めず何かを救うために今日も走るのであった。


【乾巧@仮面ライダー555 死亡確認】
【志村純一@仮面ライダー剣 封印】
【残り20人】

【二日目 深夜】
【E-5 病院跡地】


【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】MOVIE大戦終了後
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、決意
【装備】ディケイドライバー@仮面ライダーディケイド、ライダーカード一式@仮面ライダーディケイド、ディエンドライバー+ライダーカード(G3、サイガ、コーカサス)@仮面ライダーディケイド
【道具】支給品一式×2、不明支給品×2、ケータッチ@仮面ライダーディケイド、キバーラ@仮面ライダーディケイド、
【思考・状況】
基本行動方針:大ショッカーは、俺が潰す!
0:どんな状況だろうと、自分の信じる仮面ライダーとして戦う。
1:巧に託された夢を果たす。
2:友好的な仮面ライダーと協力する。
3:ユウスケを見つけたらとっちめる。
4:ダグバへの強い関心。
5:音也への借りがあるので、紅渡を元に戻す。
6:仲間との合流。
7:涼、ヒビキへの感謝。
8:黒いカブトに天道の夢を伝えるかどうかは……?
【備考】
※現在、ライダーカードはディケイド、クウガ、ファイズ、ブレイド、響鬼の力を使う事が出来ます。
※該当するライダーと出会い、互いに信頼を得ればカードは力を取り戻します。
※参戦時期のズレに気づきました。
※仮面ライダーキバーラへの変身は光夏海以外には出来ないようです。
※巧の遺した黒いカブトという存在に剣崎を殺した相手を同一と考えているかどうかは後続の書き手さんにお任せします。




【橘朔也@仮面ライダー剣】
【時間軸】第42話終了後
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、精神疲労(中)、仲間の死に対しての罪悪感、自分の不甲斐なさへの怒り、クウガとダグバ及びに大ショッカーに対する恐怖(緩和)、仲間である仮面ライダーへの信頼、仮面ライダーギャレンに1時間45分変身不能、仮面ライダーザビーに1時間50分変身不能
【装備】ギャレンバックル@仮面ライダー剣、ラウズカード(ダイヤA~6、9、J)@仮面ライダー剣、ラウズアブゾーバー@仮面ライダー剣、ガイアメモリ(ライアー)@仮面ライダーW、、ザビーブレス@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式×4、ゼクトルーパースーツ&ヘルメット(マシンガンブレードは付いてません)@仮面ライダーカブト、ディスクアニマル(アカネタカ)@仮面ライダー響鬼、変身音叉・音角@仮面ライダー響鬼
【思考・状況】
0:仮面ライダーとして、人々を護る。
1:まずは今後の方針を考える。
2:乾に託された夢を果たす。
3:首輪の種類は一体幾つあるんだ……。
4:信頼できる仲間と共にみんなを守る。
5:小野寺が心配。
6:キング(@仮面ライダー剣)、(殺し合いに乗っていたら)相川始は自分が封印する。
7:出来るなら、始を信じたい。
【備考】
※『Wの世界万能説』が誤解であると気づきました。
※参戦時期のズレに気づきました。
※ザビーゼクターに認められました。
※首輪には種類が存在することを知りました。




【フィリップ@仮面ライダーW】
【時間軸】原作第44話及び劇場版(A to Z)以降
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、照井、亜樹子、病院組の仲間達の死による悲しみ 、仮面ライダーサイクロンに1時間45分変身不能
【装備】ガイアドライバー@仮面ライダーW、ファングメモリ@仮面ライダーW、ロストドライバー+(T2サイクロン+T2エターナル)@仮面ライダーW
【道具】支給品一式×2、ダブルドライバー+ガイアメモリ(サイクロン+ヒート+ルナ)@仮面ライダーW、メモリガジェットセット(バットショット+バットメモリ、スパイダーショック+スパイダーメモリ@仮面ライダーW)、ツッコミ用のスリッパ@仮面ライダーW、エクストリームメモリ@仮面ライダーW、首輪(北岡)、首輪の考案について纏めたファイル、工具箱@現実 、首輪解析機@オリジナル 、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW
【思考・状況】
1:大ショッカーは信用しない。
2:巧に託された夢を果たす。
3:友好的な人物と出会い、情報を集めたい。
4:首輪の解除は、状況が落ち着いてもっと情報と人数が揃ってから取りかかる。
【備考】
※バットショットにアルビノジョーカーの鮮明な画像を保存しています。
※鳴海亜樹子と惹かれ合っているタブーメモリに変身を拒否されました。
※T2サイクロンと惹かれあっています。ドーパントに変身しても毒素の影響はありません。
※病院にあった首輪解析機をエクストリームメモリのガイアスペース内に収納しています。




【野上良太郎@仮面ライダー電王】
【時間軸】第38話終了後
【状態】強い決意、疲労(中)、ダメージ(中)、仮面ライダー電王に1時間45分変身不能
【装備】デンオウベルト&ライダーパス@仮面ライダー電王、サソードヤイバー@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式
【思考・状況】
基本行動方針:モモタロスの分まで、皆を守る為に戦いたい。
0:極力自分の力で、自分に出来る事、やるべき事をやる。
1:まずはここで情報を交換したい。
2:巧に託された夢を果たす。
3:リュウタロスを捜す。
4:殺し合いに乗っている人物に警戒
5:相川始を警戒。
6:あのゼロノスは一体…?
【備考】
※変身制限について把握しました。
※ハナが劇中で述べていた「イマジンによって破壊された世界」は「ライダーによって破壊された世界」ではないかと考えています。確証はしていません。
※キンタロス、ウラタロスが憑依しています。
※ブレイドの世界の大まかな情報を得ました。
※現れたゼロノスに関しては、桜井侑斗ではない危険人物が使っていると推測しています。
※冴子から、ガイアメモリと『Wの世界』の人物に関する情報を得ました。
※ただし、ガイアメモリの毒性に関しては伏せられており、ミュージアムは『人類の繁栄のために動く組織』と嘘を流されています。




【村上峡児@仮面ライダー555】
【時間軸】不明 少なくとも死亡前
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、バードメモリに溺れ気味、ローズオルフェノクに1時間45分変身不能
【装備】オーガギア@劇場版 仮面ライダー555 パラダイス・ロスト、カイザギア(ドライバー+ブレイガン+ショット+ポインター)@仮面ライダー555
【道具】支給品一式、バードメモリ@仮面ライダーW 不明支給品×1(確認済み)、ラウズカード(アルビノジョーカー)@仮面ライダー剣
【思考・状況】
基本行動方針:殺し合いには乗らないが、不要なものは殺す。
1:人は許せない、がここでは……?
2:まずは情報を交換したい。
3:乾さん、あなたの思いは無駄にはしませんよ……。
4:世界の破壊者、という士の肩書きに興味。
【備考】
※変身制限について把握しました。
※冴子から、ガイアメモリと『Wの世界』の人物に関する情報を得ました。
※ただし、ガイアメモリの毒性に関しては伏せられており、ミュージアムは『人類の繁栄のために動く組織』と嘘を流されています。
※オーガギアは、村上にとっても満足の行く性能でした。
※今後この場で使えない、と判断した人材であっても殺害をするかどうかは不明です。


【全体備考】
E-5エリアに志村純一のデイパックと首輪、乾巧のデイパックと首輪が存在しています。



117:time――rebirth 時系列順 118:師弟対決♭キミはありのままで(前編)
投下順
門矢士 123:決める覚悟
乾巧 GAME OVER
村上峡児 123:決める覚悟
野上良太郎
橘朔也
志村純一 GAME OVER
フィリップ 123:決める覚悟


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最終更新:2018年04月13日 00:05