Bを取り戻せ/フィアー・ペイン ◆.ji0E9MT9g



「総司君!!翔太郎君!!皆、どこにいるんだ!?」

先ほどまでとその一切の雰囲気を異なって静まりかえった病院の中を、一人の男が叫びながら歩いている。
その顔は焦燥に溢れていて、彼がこの場で初めてと言って良いほどの不安に駆られていることが容易に想像できた。
無理もない、守らなければいけない仲間を置いて外に出ていたというのに、彼はその理由の一切を覚えていないのだから。

彼らしくもないそうした記憶の齟齬を引き起こしたのが、他ならぬ彼がこの病院から離脱した理由である男によるものだということは、もちろん知らぬまま。
ともかく、優秀であるはずの自分にあり得ないほどの記憶の不備に焦りやまた謎の空虚感を抱きながら、名護は駆ける。
先ほどまで仲間たちが集っていたはずの場所には、誰もいない。

しかしだからといって戦闘の跡があったわけでもなく、むしろ動かされていた椅子などは丁寧に直されているところを見ると、全員でどこかに一瞬出かけているだけという可能性も考えられた。
とは言えそれなら尚更先ほどまであんなに怯えていた三原も病院の外に出向く選択肢を選ぶだろうか、と疑問に押しつぶされそうになって。
ふとキバットやタツロットたちの為に開けっぴろげにしていた窓から外を見下ろし黄昏れた、その瞬間であった。

――世界を黄金の光が包んだのは。

「なッ……!?」

思わず顔を覆うほどのその閃光は、病院をほんの僅かばかりかすって数瞬の後に消滅する。
病院がその余波で揺れる中、これがリュウタロスたちの言っていた市街地で発生したという黄金の光か、と思うが早いか名護はその足を外に向け駆け出していた。
それに思わず戦慄を抱いた自分がいたことは認めよう。

しかしそこに誰か助けを求める存在がいるというなら、そんな恐怖に負けているより先に、彼の、仮面ライダーの足は動くのだ。
故に、彼はもう戸惑うことなく、もう一度カブトエクステンダーに跨がり先ほどの閃光の発生点に向けエンジンを振り絞った。
その脳裏に、ずっと消えないぽっかりと空いた穴を自覚しながら。




やはり、目の前の男の放つ威圧は今まで戦ってきたいずれの敵よりも凄まじいと、仮面ライダージョーカーに変じた翔太郎は思う。
三対一という状況を理解しているのだろう上でなお微笑と共に余裕の様子で剣をぶらつかせる彼は、有り体に言えばヤバい。
以前戦った時はその雰囲気に飲まれ先走ったが、しかし今度はジョーカーもそんな無様を晒すことはしなかった。

ジョーカーは、そのまま自身に並ぶ二人の仮面ライダーを見る。
まずは金色のライダー、アギト。
翔一が自身を強いと自負するのに以前から疑問は拭えなかったものの今の彼を見ればそれは自分の取り越し苦労だったと断言できる。

今の翔一が発する威圧は戦闘のエキスパートと言って差し支えないほどであり、自身の知る中で言えばどことなく鳴海荘吉のそれに似ていたからだ。
少なくとも先ほどまでの緩い雰囲気が一切感じられないその気合いに驚きを感じざるを得ないが、しかしそれはそのまま心強さに繋がる。
そうして次に目を移すのは自身がその誕生を見届けた仮面ライダー、カブト。

それに変身する総司もガドルと戦い良いようにやられたあの時からは随分と逞しくなったことも相まって今ではもうあの時のように不安を感じることもなかった。
そうして共に戦う仲間に心強さを得て、ジョーカーは再度前に向き直る。
今度こそ戦いを、と構えを一層強めれば、相対するダグバもまたその剣を正眼に構えて。

「それじゃ……行くよ」

一言そんな言葉を残したかと思えば、次の瞬間ダグバ――否、ブレイドはアギトに向けて疾走する。
今まで会ったことのない戦士の実力を見極めるためか、迷いなく彼に向かって振り下ろした剣は、しかし先ほどまで空いていたその拳に新たに握られた剣によって、その身に到達するのを阻まれていた。
何が起こったか、と彼を注視すれば、そこにはその金の身体を瞳と同じ赤に染め上げて、フレイムフォームとなったアギトの姿。

特別な能力も使っていないというのに行われたその常軌を逸するスピードによる攻撃と、それを狂いなく受け止めたアギトに戦慄を抱きつつも、しかし怖じ気付いている場合ではないとジョーカーは駆け出す。
迫り合いの形でお互いの刃をぶつけ合いアギトがブレイドを抑えている間に、ジョーカーはその拳をブレイドに向け振りかぶった。
そんな動きは既に知っているとばかりにブレイドが大きく身を捩れば、その拳は空を切り、剰えその反撃の後ろ回し蹴りを背中に食らう。

「ぐあ……ッ!」

小さく呻き声を漏らしたジョーカーにそのまま止めを刺す勢いで、アギトから無理矢理身体を翻したブレイドがブレイラウザーを振り下ろそうとするが、そこに響くは一発の銃声。
危機を脱したジョーカーがブレイドの間合いから一旦離れるのを見つつ、銃声の発生点に目を見やれば、そこには銀の鎧に身を包んだ青の瞳をしたライダー、カブトの姿があった。
なるほど、アギトとジョーカーに前衛を任せ、唯一遠距離攻撃の手段を持つカブトがその援護に回る形ということか。

本来なら自分から逃げたときの赤い細身の姿になってほしいのだが、ともかくそれを望むなら今はこの二人の仮面ライダーを倒さなければいけないか、とブレイドは向きなおる。
黒い仮面ライダーは置いておくとしても、他の二人は相当に楽しめそうだ、とブレイドは思わずその笑みを深くして。
自身の剣に備わったカードを一枚、取り出した。

――SLASH

音声と共に宙に浮かんだ不死の生命体のエネルギーをその剣に宿して、ブレイドは先と同じようにアギトに仕掛ける。
その刃は先ほどと同じくアギトの持つフレイムセイバーに阻まれその身には到達しない――。

「なッ……!?」

否、先ほどよりその切れ味と威力を増したその切っ先が、今度はいとも簡単にアギトの赤い身体を切り裂いていた。
そのダメージに思わず呻き後退する彼に対しなおも追撃を試みるブレイドだが。

「やめろォォォォ!!!」

彼を守るようにジョーカーが立ちはだかり、その拳をブレイドに振りかぶる。
しかしそれすらも読んでいたとばかりに、ブレイドは既に持っていたカードを読み込ませる。

――BEAT

瞬間彼の右拳が光り輝いたかと思えば、それはジョーカーを大きく吹き飛ばした。
いきなりに威力を増したそれを予想することは出来なかったのかその身を無様に這いずらせるジョーカーを見ながら、彼は駆ける。
唯一後方で援護を行っていた、カブトの元へと。

アギトも気になるが、今は何よりガドルを倒したこの男の実力はいかなるものか、気になって仕方がなかった。
そしてそのあふれ出る好奇心に任せ何発かの銃弾を切り落とした後、ブレイドはカブトに肉薄する。
今更そんな子供だましで自分を止められないと気付いたのか、彼はその得物を斧の形に変えてブレイラウザーを迎え撃つ。

「あのガドルを倒した力、こんなものじゃないでしょ?本気を見せてよ」
「……」

しかしその一合で彼が全力を出し切っていないことを見切ったダグバは、そう問いかける。
自身がキングフォームを出さないのは、彼らが簡単に死んでしまったらつまらないからだ。
だから早くガドルを倒したライダーになって、自分を笑顔にしてほしいのだが……対するカブトは、何も言うことはなかった。

ならば力尽くで本気を出させるまでだ、とばかりにブレイドはその剣を振り回す。
一合、また一合と刃がぶつかり合う度に、鈍重なカブトの動きはブレイドに追いつけなくなっていき。
そしていつの間にか防戦一方となったカブトの、その首にブレイドは剣を突き付けた。

「……ホントに、こんなもので終わりなの?早くガドルを倒した力を使ってよ」
「言い忘れてたけど、ガドルを倒したのは僕だけの力じゃないんだ」

その首に剣を突き付けられ自身が少し力を込めればその命が消えるというのに、カブトは不適に告げる。
それに抱いた興味のために、ダグバは思わず一瞬その力を緩めて。

「それって、どういう――」
「僕たち皆が協力して、あいつを倒したんだ!――キャストオフ!」

――CAST OFF
――CHANGE BEETLE

ダグバの疑問を無視して、一瞬で到来した無数のヒヒイロノカネの鎧が、ブレイドを無理矢理に引き剥がす。
しかしその程度ではブレイドにとってはただの目眩まし、一瞬の時間稼ぎにしかならないが――。
――その一瞬を、引き延ばす力をカブトは持っていた。

「クロックアップ!」

――CLOCK UP

瞬間、彼の時間は周囲から切り離される。
1,2,3と軽快にそのベルトのボタンを押して、カブトはホーンを大きく倒し叫んだ。

「ライダーキック!」

――RIDER KICK

幾らか自身の身体から弾き飛ばされたパーツを巻き込むのすら気にせず放たれたその回し蹴りを、しかしブレイドは防御しきっていた。
一度カブトと対峙し、キャストオフとクロックアップの能力について知っていたのだから、彼の狙いがそれを利用した奇襲であることなど容易に想像できる。
ネタが分かっていればむしろキャストオフの隙を狙ってくることなど分かりきっているのだから、ダグバのセンスを以てすればその攻撃を凌ぎきることなど容易かった。

本当にこの程度のライダーがガドルを倒したのか、と疑問すら沸く中、しかしダグバの耳に新たな声が到来する。

――JOKER MAXIMUM DRIVE

「ライダーキック!――うおぉぉらぁぁぁ!!!」

ふとそちらを見やれば、そこにはその右足を紫に染めてこちらに突っ込んでくるジョーカーの姿。
流石にカブトのライダーキックを受けきったままの体勢でそれに満足な防御を行使できず、ブレイドの身体を今度こそ宙を舞った。
しかしタイミングこそ素晴らしいものがあるがやはりスペックに劣るジョーカーの一撃。

必殺技をまともに食らったといえ、未だブレイドの鎧が悲鳴を上げる様子もない、とそこまで考えて。
自身の飛んでいく先にいる黄金の影に、遂に驚愕に目を見開いた。

「ハアァァァァァ……!」

そこには、その対の角を六本に増やし気合いを高めるアギトの姿。
そしてことここに至って、ダグバはカブトの狙いを察する。
そもそも自分の蹴りが防御されるのは見切った上で、ジョーカーとアギトに繋ぐためにあえて分かりやすいタイミングでクロックアップを使用したと言うことか。

仲間という存在を知らないグロンギには、特にその頂点に立ち同格が存在し得ないダグバには想像しきれない、カブトの妙案であった。
と、アギトはそのままその身体を大きく捩り跳び上がらせて。
オーバーヘッドキックの形で、ブレイドの胸に渾身の蹴りを叩き込んだ。

今度の一撃にはもう何の防御も成せるはずもなく。
都合三発の“ライダーキック”を受けて、ブレイドはそのまま地面に接すると共に爆炎を巻き起こした。




「やったね、翔一、翔太郎!」
「えぇ、お二人とも、ナイスでした」
「まぁな……でも油断すんな、こっからが多分本番だ」

無邪気に“仲間”との連携にはしゃぐカブトとアギトに、ジョーカーはしかし緊張を緩めず呟く。
ガドルと戦いそのタフさを知ったこともそうだが、未だ消えない嫌な雰囲気が周囲から消えていなかったため。
ダグバにまだ戦意が満ちあふれていることを見抜いたジョーカーの言葉に、二人の仮面ライダーもその爆炎が晴れるのを待って。

――ABSORB QUEEN
――EVOLUTION KING

電子音声が二つ続いて鳴り響いたかと思えば、煙をその身から吐き出した黄金のカードで晴らして、ブレイドが立ち上がる。
そこにいたのは最早碧と銀のライダーなどではない。
黄金に輝く剣を持ち、その身に13の不死者を纏った『剣の世界』最強のライダー、仮面ライダーブレイド、キングフォームが、そこに立っていた。

「アハハハハ!楽しいね、仮面ライダー。……もっと僕を笑顔にしてよ」

13枚ものカードがブレイドの身体に収束し煙が晴れると同時、ダグバは笑う。
それは、今目前にいる仮面ライダーをその究極に匹敵する鎧に匹敵する敵として彼が認めたことを意味していた。
その圧倒的な威圧を受けて、カブトもまた変身制限の関係上出し惜しみをしていた自身の切り札に手を伸ばす。

「ハイパーキャストオフ!」

――HYPER CAST OFF
――CHANGE HYPER BEETLE

瞬間カブトの鎧は、より強固なものへと変貌する。
オオヒヒイロノカネの名を持つそれは彼の世界で最強の硬度を誇るもの。
本当はブレイドを打ち破った後に待ち受ける彼の本来の姿に温存しておきたかったのだが、今ダグバが変じたキングフォームの圧倒的な圧力が、それをさせなかった。

そして、この鎧を纏った以上、カブトに長期戦をする理由などなく。
最早迷うことなく、その腰に向けて手を叩きつけた。

「ハイパークロックアップ!」

――HYPER CLOCK UP

その瞬間、カブト以外の世界は、一瞬にしてその動きを途端に遅くした。
クロックアップをも大きく超える加速を可能にするハイパークロックアップ、本来は時間すら超えられるそれを単なる超高速移動のために使ったのだから、それも当然であった。
そしてもうそれに心強さ以外の何を感じるでもなく、カブトはブレイドに肉薄する。

勝負を決めるのだ、このブレイドにどんな能力があるにせよ、この加速とそれから放たれる必殺の一撃を耐えきれるはずもない。
故に、彼は全力でブレイドを打ち倒す為にその拳を今ぶつけ――。

「――間一髪、ってとこだったね」

その右腕の紋章を輝かせながら、ブレイドは制止した時間の中で呟く。
元々高速移動をその特徴とするライダーの強化態なのだから自分の知るよりずっと早いだろうと予想して早めにタイムを発動させておいてよかった。
まだ数瞬猶予があると思っていたのに既に目前にまでその拳が迫っていたところを見ると、どうやらこのハイパークロックアップとやらは自分の進化した究極の力を持ってして見切るのは無理だと考えたほうがよさそうである。

とはいえ、本来の姿であれば蹂躙されていたかもしれないそれも、この黄金の鎧が纏う力、時間の流れを無にする力さえあれば対抗も出来るというものだ。
と、そんな考えをしている内に、既にタイムの制限時間に近づいていた。
取りあえずこんなものでいいかな、とライトニングスラッシュの力をラウズなしで発動させて、ブレイドはその黄金の剣を振り降ろすと同時、時は動き出す。

「――うわあぁぁぁぁぁ!!!???」

時間停止を終えて一秒もしないうちに、自分の剣は確かな手応えと共に振り抜かれた。
それと同時加速を終え弾き飛ばされていくカブトを見て、ブレイドは笑う。
恐らく、自身の目の前に迫った剣に気付かずその勢いのまま自分から突っ込んだのだろう。

究極の力を得たクウガならともかく並の仮面ライダーであれば今の攻撃で戦闘不能に陥っても無理はない、とブレイドは落胆とも自身の鎧に対する信頼とも取れる感情を抱いて。

「わぁ、やっぱり凄いね、ブレイドの力は」
「ブレイド……だと?」

思わず漏らしたそんな感嘆の声に、ジョーカーが反応する。
総司がその命を奪ってしまったという、剣崎一真。
始とまた出会った時その死を伝える役目も抱かなくてはと新たに決意した矢先に、そのライダーが現れた。

最悪なことに、ダグバの纏う最強の鎧として。

「それが、ブレイド……総司の殺した剣崎一真って奴が変身する仮面ライダーだっていうのかよ」
「うーん、よく知らないけど。でも面白いおもちゃだよね、もっとこれで遊びたいからさ、頑張ってよ、仮面ライダー」
「――ダグバてめぇぇぇぇ!!」

その言葉を聞いて、ジョーカーは突貫する。
大方仲間をやられて頭に血が上ったとか、ブレイドが自分に使われるのが嫌だとかいうところだろうが、随分と無謀なものだ。
通常のブレイドにすら歯が立っていなかったに等しいというのに、この黄金の姿に挑もうとは。

「――まぁ、君はもういいかな」

その言葉と共に左足と左肩、マッハとビートの紋章を光り輝かせて、ブレイドは目の前の仮面ライダーを“処分”する為にその拳を音速の勢いで叩き込んだ。
ギルドラウズカードとなり通常のそれより遙かに威力を増したその拳を受けて、ジョーカーは断末魔さえ発しないまま吹き飛ぶ。
彼が夜の闇に消え焦土の果てに消えて行くのを最後まで見届けることもなく、ブレイドは最後に残った仮面ライダーに向き直る。

「……さて、最後は君だよ。少しは怒ってくれた?」
「怒る?どういうことだ」
「だって、クウガは……4号は怒ったら強くなるし。君もそうじゃないかと思って」

その視線の先の黄金のライダー、アギトは自分の言葉に応えない。
先ほどまで4号というクウガの別称を知っており、また自分を未確認と呼んだこの男は一体何者か、と考えていたが、彼が変身したライダーの姿を見てその疑問は氷解した。
その姿が、クウガに酷似していた為。

自身が襲いかかった時も赤い瞳に赤い身体の形態に変じていたから、恐らくはクウガの変種ではないかとダグバは見切りをつけ、そして楽しみにしていた。
クウガと似た、しかしあのもう一人のクウガが用いる究極の力以外の形態より強い彼が、仲間の死に怒り彼の究極の闇を見せてくれたなら。
或いはこのキングフォーム、どころかあの究極を超えた力を持つ自分の力にも、匹敵しうる存在になるのではないか、と。

しかしまだ怒り足りないのか、或いは別の要因があるのか、アギトはその身体を大きく変貌させることはなかった。
期待外れだったかな、とため息と共にブレイドはアギトへの興味を失いかけるが。

「――ふざけるな」

今までの言葉のどれよりも深く響くようなその言葉に、思わず顔を上げた。
その顔は異形になり表情も読み取れないが、しかし怒っているのは容易に想像できた。
或いは種類が違うだけでもう一人のクウガのそれにも匹敵するのではないかというほどの怒りを抱きながらなおも究極の闇に染まらない彼に思わず興味を引き戻させられて。

「4号はきっと、怒って強くなるわけじゃない。もしそれが本当でも、それは多分間違った強さの形だ」
「どういうこと?」
「俺たちが、仮面ライダーが戦うのは、悪への怒りの為なんかじゃない。皆を守りたい、その思いが、俺たちを強くするんだ!」

翔一が胸に抱くのは、この場で出会った二人の男。
放送で名前を呼ばれてしまった日高仁志は、この場で最初に出会った仮面ライダーで、自分が誰かを守りたいから仮面ライダーとしてこんな殺し合いを止めなくてはいけないと語っていた。
そしてもう一人、先ほど別れた城戸真司は、自身もよく知る小沢澄子が信用した仮面ライダーで、元の世界でもライダー同士の殺し合いを命じられながら、そんなものは間違っているに決まっていると真っ向からそれを否定し続けた男だった。

そんな異世界の仮面ライダーを前に、翔一も一度自分の思う“仮面ライダー”を考え直してみた。
アンノウンが憎いから戦う、これは違う。
別にアンノウンでなくても誰かを傷つける存在なら、翔一は躊躇なくその力を振るうだろうから。

アギトとして誰かを叩きのめしたいから戦う。
――論外だ。
一時期自分が制御できず氷川を戦闘不能にまで追い込んだこともあったが、しかしそれは翔一の本質ではない。

例えアンノウンであっても、人を慈しみその命を奪わないなら、翔一は手を取り合いたいとすら思う。
ああでもないこうでもないと、そうして翔一なりに悩み辿り着いた答えが、しかし結局はいつまで経っても変わらない、人を守りたいという答えだった。
きっとそれは、どの世界でも仮面ライダーとして必要な考えなのだ。

城戸の世界のように鎧を纏うだけで仮面ライダーを名乗れる世界もあるが、しかし本質はその身に纏う力ではなくその心に信じる思いなのだ、と翔一は思った。
だから、クウガは、4号は、決して敵への怒りで強くなるだけの存在ではないとそう信じた。
そうでなければ今目の前で確かに過去最大の威圧感で立ちはだかるこの強敵を倒せるはずなどないだろうから。

新たな覚悟と共にアギトはオルタリングを強く叩く。
翔一の思いに呼応するようにその身に炎が巻き起こり、やがてそれはその黄金の身体を先ほどより濃い深紅に染め上げる。
深い気合いと共に炎が収まれば、そこにいたのはキングフォームや、先ほどのカブトにも匹敵しうるような威圧を誇る戦士。

仮面ライダーアギト、バーニングフォームが、そこに立っていた。
その姿に――究極の闇と比較して幾らかの物足りなさを感じつつも――ダグバは歓喜する。
同時アギトが空中に発言させた物体を手に取れば、それは一瞬にして薙刀へと姿を変え、ブレイドの期待をより煽った。

それを見て、こんな面白い相手にタイムなどの力を使って一瞬で終わらせるのは勿体ないと彼はその黄金の剣のみでアギトに肉薄する。
ラウズカードの力を用いずとも並の怪人程度一撃で粉砕できる威力を誇るそれを、アギトはその手に持つシャイニングカリバーで迎え撃つ。
ガキィン、と甲高い音を響かせぶつかり合った得物は互いに一歩も譲らず、腕力だけであれば今のアギトが究極のそれにも匹敵することをダグバに理解させる。

しかしそれはあくまで腕力だけのこと、故にダグバはその右足を二度輝かせ、コンボの一つであるライトニングブラストを発動させる。
それを感覚で察知し離れようとしたアギトを、左膝のマグネットによる引力で強引に間合いに持ち込んで間合いに引き戻す。
これには流石に対応しきれず無理矢理にシャイニングカリバーで防御を試みたアギトに、ブレイドは強かにその右足を炸裂させて。

瞬間、シャイニングカリバーはその身を本来想定されていない角度で二つに折って、その役目を終えた。
そして、その程度で今のブレイドの蹴りを止められるはずもなく。
膨れあがったアギトの胸板を凹ませながら、その足に電撃が走った。

コンボを用いた攻撃であったというのにしかし膝をつかず後退したのみであったのは、その高い防御力故か、或いはマグネットによる引力で僅かばかりダグバが狙いを狂わせた為か。
ともかく、折れたシャイニングカリバーを投げ捨てて、アギトはその右腕を大きく伸ばした。
その掌に炎が迸ったかと思えば、彼はそれを握りしめ拳に力を込める。
それを受け彼の上半身全体が炎に包まれたかと思えば、炎は再度拳に集って。

スミロドンドーパントに変じたゴオマを打ち破ったその一撃の名は、バーニングライダーパンチ。
アギトの誇る必殺の拳を前に、ダグバはしかし余裕の様子でその右膝を光らせて。

「――ハアッ!」

それにしかし何を出来るわけでもなく自分に出来る全力でアギトはブレイドの鎧へ拳を伸ばす。
流石にまともな防御もなしに受けきれる威力ではなかったのか、彼はその身を大きく引きずり、しかしその膝はつかぬままで。

「うん、痛いね。でも――足りないよ」

狂喜と共にその左肩を新たに輝かせるブレイドに、思わずアギトは戦慄する。
この形態で全力を込めたこの拳は、確かに今まで全ての敵を葬ってきたわけではない。
しかし、そのいずれもが回避という形で、その拳に捉えられたものは必ず打ち倒してきた、必殺の拳だったはずだ。

それを真正面から受け止めながら、ここまで余裕とは……。
らしくなくその集中を切らしたアギトだが、もちろんキングフォームと化したブレイドとて、その身に無防備にバーニングライダーパンチの一撃を受ければただではすまなかっただろう。
彼が今もその余裕を誇れるのは、彼の身に備わったトリロバイトメタルの力によって、その鎧がより強固になったためだった。
しかし、そんなことアギトは知るよしもなく。

まともな防御すら出来ぬままに、ブレイドの拳にその身体を捉えられていた。
今度は大きく吹き飛びその背を地に這いずらせたアギトを尻目に、ブレイドは大きくため息をつく。
ガドルを倒したという仮面ライダーとその仲間に期待を抱いてこの究極に匹敵する鎧を纏ったが、結局はどいつもこいつもこの鎧の前に敗れ去った。

もちろんキングフォームの実力は今まで見てきた仮面ライダーの中でも最上級のものであるとは理解しているが、しかしこの鎧を破れぬままに今の自分の真の姿を打ち破ることなど出来まい。
であれば、やはりもう今の自分を楽しませてくれる存在などいるはずもないではないのか、と彼らしくもなく黄昏れた、その時であった。

「ダグバ……ッ!」

ふと、自分の後方より、声がした。
思わずそれに振り返れば、そこにいたのは先ほどまで戦っていた銀と赤の仮面ライダー。
仮面ライダーカブトハイパーフォームが、今また戦うために立ち上がった姿であった。

「君か……意外としぶといんだね」
「当たり前だ……僕は仮面ライダーカブト、天の道を継ぐ男だから……!」
「天の道を、継ぐ……?」

その言葉に一瞬疑問を口にするが、それ以上の会話は不必要とばかりにカブトはその手を宙に伸ばし、叫んだ。

「――タツロットッ!」
「はぁーい総司さん、これを使ってください!」

瞬間彼のデイパックから飛び出た黄金の竜が喋り出したかと思えば、それは身体から明らかにその体躯に収まりきらない大きさの剣を吐き出す。
キングラウザーの輝きに勝るとも劣らない輝きを放つその堂々たる剣は、王のための剣、ザンバットソード。
先ほどのガドルとの戦いでも用いたそれをひゅんと素振りして、ハイパーカブトはゆっくりとブレイドに向けその足を進める。

(なるほどね、派手に動けば反撃を食らうから、歩けば大丈夫、とでも思ってるのかな?)

それを見て、ダグバは一つの結論に思い至る。
ハイパークロックアップという強力無比の能力を打ち破られた今、それを用いぬままに自分に対抗しようとするなら、なるほどこうして自分と間合いを詰めるのは悪くない。
だが、それはこのブレイドが時間停止のみをその特徴として持つライダーであった場合に過ぎない、と彼はその左足を輝かせて。

「びゅびゅーん、させませんよ!」

ザンバットソードを吐き出し役目を終えたはずのタツロットが、カブトを守ろうとその身をブレイドにぶつけようとする。
しかしそんなものは意にも介さぬままに瞬速の速さで周りを飛ぶ彼を弾き落とせば、ピギャッ、と情けない声を上げて彼は地に落ちた。
そんな使い魔に気をやっている暇もないと、ブレイドはそのままマッハの能力を今度こそ発動させる。

その重厚な鎧に似つかわしくないスピードで以て、カブトへとその足を進めるブレイドは、余りにも早い。
その能力によってマッハを使用した彼のスピードは、通常のクロックアップとほぼ同等。
どころかその鎧と剣によるごり押しが利く時点で並大抵の高速移動が可能なライダーには優位に立ち回れるはずだった。

――HYPER CLOCK UP

しかし、相手も並の能力者ではない。
ブレイドの加速を大きく上回る加速で以て強引に自分を優位に立たせ、そのままブレイドにしかし焦ることなく近づき、その剣を振るう――。
前に、再度ブレイドの右腕の紋章が再度輝いていた。

一応、マッハの能力も同時に行使していた為先ほどより余裕を持って能力を使用できたが、逆に停止している時間の感覚が狂ってしまった。
コンボを使う暇もないか、としかしその一撃で並のコンボを凌ぐ威力を誇る黄金の大剣を振るい、その身に限界まで肉薄させたところで――時間は、動き出す。

――HYPER CLOCK OVER

その音声と共にブレイドは勝利を確信し、今カブトに止めを刺すために新たにコンボ用のカードを掴むため念じようとして。
そこで、見た。
目の前でカブトがしかしその黄金の大剣をゼロ距離で受け止めている光景を。

「なッ……!?」
「残念だったね、君の能力はもうお見通しだ……!」

思わず驚愕するダグバに、しかしカブトは自慢げに呟く。
先ほど一度目のハイパークロックアップの際、彼は何が起きて自分がその時間軸からはじき出されたのか、一瞬理解が追いつかなかった。
最速を誇るはずのそれが容易に破られるなど、あり得るはずなどない、と。

しかしその身に纏う鎧が自分のマスクドフォームよりも頑強であったために変身解除を逃れた彼は、次に何故自分がその変身を未だ保てているのか考えた。
そして生み出された答えは、奴はハイパークロックアップを上回るスピードで自分に近づいた後、一撃のみしか攻撃していないからだ、という結論に至ったのだ。
或いは、先ほど自分が一撃を食らったのは自分がむしろその剣に向かっていったからなのではないか……その考えに至ってからの彼の行動は、早かった。

自分自身のダメージの大きさを押して駆けつけてみれば、そこにはアギトが吹き飛ばされている姿。
これ以上誰の犠牲も出さない覚悟で再びダグバの前に立った彼は、キングラウザーと十分やり合える剣、ザンバットソードを持ってその間合いを徐々に詰めていった。
そこで彼が左足を輝かせた時――既にカブトにとって、ブレイドの能力の全容は明かされたも同然であった。

つまりは、ブレイドはこの形態である限りアンデッドの能力をほぼノータイムで使用することが可能なのである。
しかしここで大事なのは“ほぼ”ノータイムだということだ。
自身の持つハイパークロックアップは、その一瞬を永遠に引き延ばす能力。

それを用いた上で先ほどの仮説を信じて飛び込めば、目前にまで迫った大剣であったとしても、今のカブトに防げないはずもなかった。
故に今マッハとタイム、その二つの強力な能力を制限によって失った上で動揺を浮かべるブレイドと、ゼロ距離にまでその距離を縮める事が出来たのであった。
しかし、クウガとの戦いで発揮されたその万能感をこうして防がれ少しの驚愕を禁じ得なかったダグバに対し、カブトはあくまで冷静にその腰に手を伸ばす。

――MAXIMUM RIDER POWER

「マキシマムドライブッ!」

それは、ガドルとの戦いでも用いたマキシマムドライブ……新たなる彼の必殺技、ハイパーザンバット斬。
キラキラと虹色に輝いたその刀身で以てキングラウザーに拮抗すれば、ブレイドは僅かばかりその姿勢を歪めて。
究極の力を発揮したクウガにすら起こりえなかったキングラウザーを用いた力負けという状況に、自分の剣を強化するでなく自身の身体を硬化する術を取ったダグバ。
その右膝の紋章により発生したトリロバイトメタルの力によって幾分か動きが阻害されたために、カブトは思い切りその剣を振り切って。

「ああああぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

ハイパーカブトの10トンを誇るその腕力によって力任せに振るわれたその剣は、しかしブレイドを僅かに揺るがす。
しかし後二秒もすればマッハの能力と、そしてそれに乗じてタイムの力も使用可能になる、故に自分の優位は揺るぎない……そう、ダグバは考えてしまっていた。
カブトの本当の強さはその仲間との絆にある、カブト自身がガドルに勝った理由としてあげたそれを、未だ理解し切れていなかったから。

「ハアァァァァァ……!」

メタルにより動きを阻害された為にその首を動かせぬまま、ブレイドはその背後に誰がいるのかを察する。
先ほども聞いた、アギトの気合いを込める声が、後方から聞こえてきたため。
それはつまり……先ほどと同じく必殺技の連携を炸裂させるためにカブトがこうして自分を引きつけていたと言うこと。

それについて深く理解するより早く、ブレイドの肉体にドンッ、と爆音を響かせてアギトの炎を帯びた拳が到来する。
それだけならば先ほども食らった一撃、痛くないわけではないが耐えられる。
しかしもちろん、彼らはやっと掴んだ一騎当千のチャンスを無為にするような愚か者ではなく。

「ハイパーキック!」

――RIDER KICK

既に眼前にまで迫ったカブトの全力を込めたその右足が、それを証明していた。
瞬間、今一度彼の鎧は輝いて――。
それに臆することなく伸ばされたカブトの右足は、ブレイドの身体を確かに揺らし、爆炎を起こした。


119:可能性の獣 投下順 120:Bを取り戻せ/切り札は俺の手に
時系列順
116:対峙(後編) 津上翔一
擬態天道
左翔太郎
ン・ダグバ・ゼバ
118:師弟対決♭キミはありのままで(後編) 紅渡
名護啓介


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最終更新:2018年03月27日 23:20