全て、抱えたまま走るだけ ◆.ji0E9MT9g





放送を前にして目覚めていたジョーカーアンデッド、相川始は、その足を川から返し先ほどまでいた病院に向けていた。
もちろん戦っていたE-4エリアは禁止エリアの関係で戻れないため、F-5を迂回する形になったが。
とはいえ、彼は戦いを終え病院で休む参加者たちとの合流、また再度の襲撃などを企てていたわけではなかった。

あの戦いでどれほどの参加者が生き残ったのか、そして病院はジョーカーの、自分の暴走によりどう変貌したのか、それを確かめたかったのだ。
そしてF-4を通過し、F-5に差し掛かり、見た。
先ほどまで巨大な白い巨塔が存在していた空間は闇が占め、その大半が大きく損壊しているのを。

「……」

別に、絶望したわけでも、予想外なわけでもなかった。
ジョーカーという姿に二度とならない、その覚悟を容易く覆すほどの衝撃を受け6枚のラウズカードでは到底抑えきれない衝動に、この身は全てを破壊する悪魔と化した。
それは抗いようもない事実であったし、同時にその実力を以てすればこの程度の破壊など容易であることは、我ながら既に知っていたからだ。

そしてその残骸と化した病院を目に焼き付けて、始は再び東へ向かう。
この先には市街地もあるし、誰か参加者がいる可能性も高かった。
そういった存在を殺すかどうか、また利用するかどうかは、会ってから決めればいい、とそう考えて。

二度とジョーカーにならない、その思いを新たに強く胸に抱いて。
彼は、空に出現したオーロラと、そこから吐き出されてきた数多の飛空艇の姿を見た。




「ウオォォォ!!!」
「クッ」

緑に赤の混じった異形と、金色の異形が戦っている。
その腕より生えた赤いかぎ爪を強引に振るい金色の異形にぶつける緑の異形に、金色の異形はその手に持った大剣で対応する。
その戦闘スタイルのみを見ればむしろ金色の異形の方がスマートでこそあるが、しかし今正義のためにその力を振るっているのは、緑の異形の方であった。

その左手に元々存在していた盾が壊されてもなお癖で左腕を使い緑の異形の一撃を受け止めようとして大きくその身を揺るがしたのは金色の異形に、緑の異形は追撃を仕掛ける。

「中々やるね、ギルス。それが噂に聞くエクシードギルスってやつ?それがあればガドルにブレイバックルを取られずに済んだかもね」
「黙れッ!」

挑発とともに軽く笑う金色の異形、コーカサスアンデッドに対し、怒声とともにその腕を振るうのは緑と赤の異形、仮面ライダーエクシードギルスだ。
放送よりまだ20分も経過していないというのに繰り広げられたこの戦いは、今や当初の戦力差を覆しギルスの優位に進んでいる。
元々パワー自慢同士の彼らの戦いで、手数、戦力ともに大きく強化された今のエクシードギルスに、その強力な盾、ソリッドシールドを失ったコーカサスでは分が悪いのだ。

この戦いで新たに目覚めた力に未だ理解を示し切れていないギルスであってもそうした単純な力関係は一目でわかるというのに、コーカサスは未だその余裕を崩しはしない。
それがどうにも気に食わなくて、ギルスはまた力任せにコーカサスの剣を押し切った。
ギルスの怒りの籠った連撃を受け、遂にそのオーバーオールの名を持つ剣を彼方に飛ばしたコーカサス。

夜の闇に軌道を描きアスファルトの地面に突き刺さったそれを横目で見やり、ギルスは再度勝利を確信する。
しかし、コーカサスはそれを見てなお笑い続けるだけで。

「……何がおかしい」

思わず、ギルスはそう問うていた。
この圧倒的不利の状況、コーカサスには既に護身の盾も、攻撃の剣も残されてはいない。
残る武器はその口と念力、あとは精々がアンデッド故の生命力くらいだろうが、残る変身制限時間を考えれば今の自分であれば十分封印可能な状態にまで持ち込めるはずだ。

「いやぁ、本当、知らないってのは罪だよなぁ、ってね」

そう考えまたコーカサスに向かいかけたギルスの身体を、コーカサスが漏らした言葉が引き留めた。
ダグバがブレイドになってしまったこと、その為に多くの存在が犠牲になったこと……それ以上に自分が知らない罪が、存在するというのか。

「どういうことだ」
「あー、まぁ、教えてもいいかな別に。……あのね、この場でアンデッドがダメージを受けて封印されるのは、首輪が付けられてるからなんだよ。飛び入り参加の僕には、それはない。
——この意味、流石に君でもわかるよね」

思わず問いを投げたギルスに、コーカサスは自分の首周りを指さしながら説明する。
病院での戦いで金居がフィリップによる攻撃で封印されていたためにダメージを受ければアンデッドはそのままカードになると考えていたが、実はそうではないらしい。
とはいえ、剣崎や橘、彼らが多くのアンデッドを封印しその力を身につけてきたのは事実。

であれば何か彼らに戦闘不能になったアンデッドをカードにする能力があるのか、とそう考えて。

「ブレイドやギャレンでなければ……お前を封印できないというのか」
「そう、ビンゴ!つまりあんだけ啖呵切っといて、君じゃ僕を封印することなんて絶対にできない、ってわけ」

それを聞いて、僅かにギルスは狼狽する。
剣崎や木野を侮辱し、正義の仮面ライダーを否定しようとした、キング。
木野から受け継いだ力で彼を封印し大ショッカーの殺し合いを否定し誰かを守る……その言葉を証明する第一歩を歩みだせると思っていたのに。

今の自分では、そんなことは出来ないというのか、ブレイドを奪われた無力な自分では——。

「あと、もう一つね。多分そろそろかな?3・2・1……タイムアウト、ってね」

コーカサスが指折りしながらカウントダウンを進めるが、嫌な予感を感じギルスはそれを止めようと背中より新たに得た力によって赤い触手を伸ばし防ごうとする。
が、それは叶わない。
彼の身が、まだ3分ほどの時間変身できるはずだというのに、その身をただの人間、芦原涼のものへと戻したため。

「なッ……!?」
「アハハハハ!!最ッ高!その顔が見たかったんだよね、予想通り過ぎてマジで笑えるんだけど!」

ひたすらに今の自分の身を襲った現象に困惑し続ける涼に、コーカサスは耳障りな声で嗤い続ける。
それに困惑を通り越し涼が怒りの表情を浮かべたあたりで、コーカサスもまた笑い疲れたのか腹を抑えながらその顔を上げた。

「……お前が、俺に何かしたのか?」
「僕のせいにすんの?違う違う、君が強くなっちゃったからだよ、ギルス」
「俺が強く……?」

自身の変身を解いたのはコーカサスの仕業ではないかとそう睨んだ涼に、しかしコーカサスは「ホント何もわかってないなぁ」とぼやきながらその口を開く。

「これは知ってると思うけど、その首輪をつけてる限り、君たち参加者には“人間の身を超える力”を使うことに関して制限がかかってる。変な制限のかけ方だと思うけど、主催が神様だから仕方ないかもね」

例えば、アンデッドや、イマジン。
ジョーカーなど本来はヒューマンアンデッドへの変身に制限をかけるべきでその方が面白くなるのではないかとキングは思うのだが、テオスはそれを許さなかった。
イマジンという、完全な異形についてもそう。

その全力を出し切るのは他の参加者でいう真の姿を開放するのと同じく制限の対象とし、通常時は彼らの力を人間と同等のものにまで落とし込む制限をかけたのだ。
それも全て、主催がありのままの人間の姿を愛したため。
この制限がなければ人は彼の愛したありのままの姿でなくなることが多くなり、例え世界の存亡をかけ戦い続ける殺し合いであったとしても、それを彼は良しとはしなかったのだ。

だから、一部の参加者には一見不自然な制限がかけられている。
全ては、主催であるテオスの完全な独断で以て。

「で、大事なのはここからね。君たちが本来想定されてるより強い力を使うと、その変身は残りの変身可能時間の半分を対価として可能になる。
最初っから強い力を使えるクウガやアギトたちと、ブレイドや特にディケイドなんかのアイテムを集めなきゃ変身できない奴らの差を縮める為に、ね」

ブレイドは彼のよく知るライダーだからともかく、なぜディケイド、門矢の名前を強調したのか涼にはわからないが、しかしコーカサスがここまで話してきた内容は薄々と理解してきていた。
そして同時に、コーカサスがここまで自分にこうした話をする、その本当の理由も。

「まぁつまり、君は奇跡の変身が出来た、なんてはしゃいでただろうけど、実は全然制限から抜け出せてなんかないってわけ。
その首輪が本来想定された通りに働いて君は今もう生身なんだから、それも証明されたのは一目瞭然だけどね。——さて」

そこまで言って、コーカサスは自身の念力で彼方に飛ばされ地に突き刺さっていた愛剣をその手に手繰り寄せる。

「……まぁ、ここまで言ったのが君への親切ってわけじゃないのは分かってるでしょ?ギルス。君は今ここでゲームオーバー。今説明してあげたのはほんの冥土の土産だよ。次があったら、もうちょっと賢く立ち回れるように、さ」

——まぁ、僕らアンデッドと違って君たち人間に次なんてないけど。
心中でそう付け足して、コーカサスはゆっくりと涼にその足を進める。
しかし、そうして迫る死の瞬間を安らかに享受するほど、芦原涼という人間は出来ていない。

「ああぁぁぁぁ!」

悔しさと怒りを込めた裸の拳でなおコーカサスの鎧のように固い甲殻にぶつかれば、しかし盾も消えたというのにその身はびくとも動かない。

「あー、もうそういうのいいから」

代わりとばかりに剣を持たない左手でコーカサスが腕を振るえば、その体は強くコンクリートの壁にぶつかって、彼の呼吸を不確かなものにした。
——このままでは、死ぬ。
冷静にそう判断している理性と裏腹に、本能が生きろと吠える。

冷静な自分の声と共に生まれた恐怖をどうにかかき消して、涼は何か対抗の手段を模索する。
ホッパーゼクターを使って目くらましをし、その隙に逃げる。
……駄目だ、この身体ではゼクターが稼いでくれる時間程度では逃げ切れないだろう。

では、このまま生身で彼にぶつかり続ける。
……無理だ、今の一回でもうここまで身体が悲鳴を上げているのに、コーカサスへの対抗策を考え付くかキックホッパーへの変身が可能になるまでそれを続けるなど、とてもではないが体力が持たない。
では、諦めるか?

——論外だ。
剣崎を侮辱した相手が、目の前にいる。
ここで自分が死んでしまっては、この男の言う通り正義の仮面ライダーなど世迷い事に過ぎないと証明することになる。

それだけは、絶対に嫌だった。

「アハハ、立つんだ。逃げてみなよ、助けを呼んでみなよ。それに疲れて足を止めたら、君を殺してあげるからさ」

その思いと共に立ち上がった涼を、しかしコーカサスは笑う。
だがそんな安い言葉にのって、彼の言う通り逃げることも彼にとっては我慢ならなかった。

「いや……俺はお前からは絶対に逃げない」
「えー、諦めちゃったの?つまんないなぁ、君が必死こいて逃げる姿大ショッカーの皆に見てもらおうと思ったのに」
「違う、俺は諦めたんじゃない。ただお前には二度と背中を見せない、それだけだ!」

涼は、そこまで言い切ってまたその血まみれの拳を握った。
力を込めギリギリとその拳に力が漲る度溢れ出す鮮血を、そしてそれに付随する痛みを、彼はしかし気にも留めず。
ただ、その獣のような瞳でコーカサスの軽薄な笑顔を貫くように見据えていた。

「……何なの?それもブレイドの影響?あのさぁ、このゲームのルールわかってる?生きなきゃ意味ないんだよ。
誰かに殺されるにしても誰かを殺すにしても、生きてなきゃゲームを面白くできないじゃん」
「俺にはこんな殺し合いを面白くするつもりなんて皆目ない、それにさっきも言ったはずだ。俺は別に、生きるのを諦めたわけじゃないってな」
「じゃあ何?逃げるわけでもなく変身して戦えるわけでもなく、この僕を相手に何が出来るっていうのさ」

いい加減にこの問答にも飽きてきた、とキングが思う中、しかしそれを聞いて涼は今まで強く握りしめていた拳を解き放って。

「——誰か、お前を倒せる奴が来るまでの、時間稼ぎだ!」
「何を……」
「——トゥアッ!」

不意に、後方から衝撃を感じて、キングは思わず振り返った。
決して軽くない一撃、そしてこの声、自分には聞き覚えがあった。
そう、今彼を攻撃し偶然にも涼の運命を変えた、その男とは。

「ジョーカー……!」
「久しぶりだな、キング……!」

忌むべき53体目のアンデッド、最強の殺し屋、ジョーカー。
それがハートのカテゴリーエース、カリスへとその姿を変えた存在であった。



時間は十数分前に遡る。
放送を聞き終え、始の胸に浮かんだのは虚無だった。
それは、自分が認めた仮面ライダー、ヒビキが死んだことを知ったから。

本名こそ知らなかったが、しかしそれを確信づけることが、放送で述べられていたからだ。

「響鬼の世界は崩壊を確定した……か」

それは、彼が名乗った名前と同じ世界が崩壊するということを、放送が伝えていたため。
自分の世界が恐らくブレイドの世界という名前であることを考えると、彼がいた世界もまた響鬼の世界であったとみて間違いないだろう。
自分が剣崎のような正義の仮面ライダーとしての資質を見出しその実力を見極めようとした、響鬼。

そんな彼が死んだだけでなく、その生まれ育ち守ろうとした世界まで破壊されてしまうという事実に、胸が痛んだ。

「だが、奴を殺したのはジョーカー、いや俺なんだろうな」

しかし、そんなことを自分に思う資格はないと考え直す。
ジョーカーとして理性を失い暴れたのであれば、あの自分にとってその時目の前にいた響鬼は格好のターゲット。
カリスとなった自分と同等の存在であるとはいえその程度ではあの悪魔を、自分を止めることなど叶わぬ夢でしかない。

だから、自分に彼を弔う資格も、それに物思う資格も時間もない。
せめて世界のために正義に生きた一人の仮面ライダーの名前を、自分だけでも覚えておこう。
それくらいしか、響鬼の死に対して今の自分に許される行為は存在しないのだから。

「……」

そのまま、始は再度病院を超え市街地に入ろうとして、目撃する。
ほんの一瞬、夜の闇に消え見えづらい中で一瞬だけ輝いた、先ほど放送の際現れたのと同じオーロラを。
市街地に意識を向け、また常人を逸する視力と感覚を持ち合わせている始だからこそ認識出来たそれに向け自然と足を速めるうち、感じる。

ジョーカーとしての本能によって察知出来る、アンデッドの気配を。

「何故だ、カテゴリーキング、金居は封印されたはず。それにこの気配、まさか……」

幾重にも重なった不安の波に押し流されそうになりながら、しかし彼はそれすらも無視して走り出した。
もしも自分の感覚を信じるなら、この先にいるのは最悪の敵。
しかし同時に、自分にとって最も封印しなくてはならない相手でもあるのだから。

——そうして、数分間走り、どんどんとその気配が近づく中で、ようやく見つける。
その拳を血で染めながらなお戦意を失わない男に対峙する、黄金の異形を。
その姿に、驚きとそして或いは戦うことも叶わないかもしれないと感じていた敵に相まみえた事実への歓喜にも似た感情を抱いて、彼は呟いた。

「変身」

——CHANGE

彼の腰に生じた赤いハート型のバックルにハートのエースを通せば、その身は一瞬で黒く染まる。
アンデッド最強の戦闘力を持つというカテゴリーエース、カリスの姿に、今始は変じていた。

「——トゥア!」

そして、そのまま切りかかる。
心に生まれた苛立ちすら、彼にぶつけるように。
背後からの攻撃に流石に反応しきれなかったか、得意の盾すら生じぬままにその身から火花を散らしふらついた黄金の異形、コーカサスアンデッドに、始は憎しみを隠そうともせず立ちはだかる。

「ジョーカー……!」
「久しぶりだな、キング……!」

憎々しげに忌むべきその名を呼んだキングに、カリスもまた憎しみと共に告げる。
コーカサスが強引に振るった大剣をカリスラウザーでいなし、返す刃でその胸を切り裂いた。
苦痛と共に緑の血をまき散らした彼に油断なく間合いを詰めれば、そのまま手刀で彼の体を切り付ける。

一体なぜここまで自分の優位に進むのか、そう思いよく見れば、その左手に盾はない。
であればもう彼の戦力は他の上級アンデッドと変わらないレベル、カリスの力を以てすればパワー勝負に強引に持ち込まれなければ勝利も夢ではなかった。
しかしそんなカリスを前に、キングは未だヘラヘラと笑いながら口を開く。

「ホント、会いたかったよジョーカー。君には伝えたいことが山ほどあるんだ」
「俺にはそんなことを聞く理由はない」
「そう冷たいこと言わないでよ。例えばそうだなぁ、手始めに僕がこの場にいる理由なんか教えてあげようか?」
「必要ない」

スピード勝負で一進一退、ヒットアンドアウェイを心掛け堅実な攻撃を繰り返すカリスに、コーカサスは近寄らせまいとその大剣を振り回しつつ口を開き続ける。

「あっそ。じゃあ……ブレイドを殺した犯人と、今どこにブレイバックルがあるかでも教えてあげようか」
「……何?」
「アハハ、ようやく耳を貸してくれた。そうだよね、今の君にとってブレイドは大事な大事なお友達の形見だもんね」

ブレイド、という言葉に思わずその手を止めたカリスに、キングは嘲笑を含みつつしかし油断なく構えたまま顔を上げる。

「……ブレイドを殺したのは、天道総司、仮面ライダーカブト——に擬態してるワームくんだよ。本名教えてもいいけどまぁそいつは天道総司って名乗るだろうし、そっちだけで十分でしょ」
「それを俺に教えて、何がしたい」
「別に?分かってるでしょ。僕はゲームが面白くなればそれでいいの。誰が勝とうが負けようが、さ。
あ、あとそれを今持ってるのはダグバっていう怪人ね。そいつがキングフォームになって暴れたせいで二人も死んで、ブレイドは無事人殺しの道具になったってわけ」

これには流石に動揺を隠しきれなかったカリスを見て、コーカサスはなおも笑う。
そして、彼は今度はいやらしく顔だけを振り返りながら、涼をその視界に収める。

「で、何でブレイドがそんな奴の手にあるかっていうと、あそこにいるあいつ、ギルスのせいなわけ。あいつが弱くて負けたから、ブレイドが奪われて、巡り巡ってお前がジョーカーになる理由にもなったってわけさ」
「何故、それを……」
「やだなぁ、わかってるだろジョーカー。僕は大ショッカー幹部。これまでの君たちの戦いをずっと見てきたんだから、君があの姿になってめちゃくちゃにしたのだって見てたに決まってるじゃん」

そこまで言って、コーカサスは笑う。
今思い出しても笑えてくるといわんばかりに笑って、それから何かに気づいたように不意にそれを切り上げた。

「あ、そういえばさ、ダブルの片割れ、君が『ジョーカーの男』なんて気取った呼び方してた彼だけど、君の正体知っちゃったよ。ホースを殺して自分を騙してたのが他でもない君だってことにも、ね」
「そうか」
「……それだけ?ショックでしょ?だって何だかんだで彼の横で一緒に仮面ライダーとして戦えたらいいのに、なんて考えてたのに、君」
「お前に俺の何がわかる」
「わかるよ、だって……」

そうして、顔が見えなくてもすぐにわかるほどにその口角を吊り上げて続ける。

「……ちょっとブレイドに似てるもんね、彼」

それを聞いた瞬間、カリスはこれ以上の会話は不要とばかりにコーカサスに襲い掛かった。
先ほどまでの勢いを大きく上回るような速さでもって、コーカサスの口を閉ざすため猛攻撃を仕掛けていく。
明らかに激化し、その大剣だけでは凌ぎ切れていない攻撃の嵐を受けながら、しかしコーカサスは声高らかに笑いを上げて。

「アハハ!そうそうそれそれ!それが見たかったんだよね、ジョーカー。もっと怒って僕を倒して見せてよ!」
「言われるまでもない……!」

これ以上の問答は不要とばかりにコーカサスが振るった大剣をその身をねじらせ躱して、カリスは腰のカードバックルよりカードをつかみ取る。

——TORNADO

瞬間ラウザーに満ちた風のエネルギー。
それを一気にコーカサスに向け放てば、それは同時に彼が放った斬撃のエネルギー波とぶつかり衝撃を生んだ。
互いに半歩ずつ引く中、カリスはその身軽さ故、鈍重なコーカサスよりも早くその足を動かしコーカサスに肉薄する。

「キング、お前を封印し、俺の力となってもらうぞ」
「無理だと思うなぁ、だってさ——!」

半ば勝利を確信しキングに告げたカリスに対し、しかしキングはその刃を甲殻で受け切り火花の代わりにカリスアローをガッチリと握りしめる。
それにカリスが思わず身を引くより早く、彼は右手の大剣を振り下ろしカリスの身を切り下した。
それと同時カリスがうめき声をあげ後退する中、コーカサスはカリスアローを投げ放ちつつつまらなさそうに笑い。

「だって、まだ僕は本気出してないし。それに、こんなところで終わる気もないしね」

思わず膝をついたカリスに最早見向きもせず、彼は変身を解きそのポケットに手を伸ばす。
それを隙と感じたかカリスは素手で飛び掛かるが、しかしそれを再び怪人へと変じた彼の剣が叩き落していた。

「だから、僕には制限とか関係ないから。まぁでも、このまま痛めつけてジョーカーと戦う羽目になるのもあんま面白くないし、今回はこんなもんでいいや」

——ZONE

そう吐き捨て再度人間の身に擬態した彼は、今度こそポケットより持ってきた支給品漏れの一つ、T2ゾーンメモリを起動する。
首輪に備え付けられたコネクタなしでも使用できるT2をその掌に突き刺せば、彼の身は一瞬で質量を無視し不思議な三角錐へと変貌を遂げた。

「バイバイ、ジョーカー、ギルス」

ゾーン・ドーパントの名を持つ怪人に変じた彼は、未だ膝をつくカリスと、物陰に隠れる涼にそれぞれ一発ずつ目から光線を放ち一言の別れと共にその姿をかき消した。

アスファルトを焼き舞い上がった煙が立ち消える中、敵を見失いかつ変身制限が迫りつつあるのを察したカリスは、その手にハートの2のカードを掴み、バックルへと通す。

——SPIRIT

音声と共にその身をヒューマンアンデッド、相川始のものへと戻しつつ、始はその足を翻す。
もうここには用はない、そう言いたげな彼であったが、しかしその視線の先に、立つ塞がる男の存在を認めた。

「——待ってくれ」

先ほどまで隠れていた男、キングの言葉を信じれば、ギルスと呼ばれていたか。
あのキングと戦っていたということは恐らく殺し合いには乗っていないのだろう彼を、今の始が別段相手にする必要もない、故にその言葉を無視し通り過ぎようとするが、強引にその腕を引き留められる。

「責めないのか、俺の弱さのせいで、ブレイドを悪に奪われたのに」

その言葉を受け改めて男の顔を見上げれば、その顔は辛そうな表情を浮かべている。
今にも泣きだしそう、とまでいかないが、しかし度重なるショックで相当精神的に参っている様子が見受けられた。
むしろ、自分を責めてほしい、そう言いたげですらあるその顔を見て、しかし始はただその腕を振り払う。

「……今の俺に、お前を責める資格はない」

それだけ言い残し再び足を進める。
そう、友の思いを裏切り、別の世界の人間を犠牲にする覚悟で愛する誰かだけでも守ろうとした今の自分に、結果として悪の手にその力が渡ったとしても友の思いを継ぎ戦った目の前の男を責める資格など、あるわけがなかった。
始の言葉を受け、思わず俯いた男を尻目にそのまま足を進めどこへともなく消えようとするが、再びその足を止めさせたのは、やはりその男であった。

「……なら!それなら、せめて教えてくれないか。お前と、剣崎の関係について」
「何?」

どうしても自分をこのまま行かせたくないらしい男の言葉に、また始も足を止める。
それを受けこれがラストチャンスと捉えたか、男もまた必死の形相で始の前に立ち塞がった。

「橘から聞いた、お前と剣崎は、種族の差など超えた友だったと。だから、俺も知りたいんだ。剣崎が信じた友であるお前のことを、もっと詳しく」
「馬鹿馬鹿しい。それを教えることで、俺に一体何の利点がある」
「それは……」

剣崎と自分の関係について軽々しく知りたいなどと述べた男の言葉に僅かな苛立ちを抱いて拒絶を示した始に、今度こそ男は俯き黙りこくる。
その様子を見て今度こそ話は終わりか、と始は再度足を進めようとして。

「——世界の破壊者、ディケイド」

男が述べたその名前に、驚愕と共に振り返った。
その始の顔を見て思った通りか、とでも言いたげな表情を浮かべた男は、その足を再び始の前に動かして。

「やっぱり、病院にお前がいたのは、偶然じゃなかったんだな。金居と組んでディケイドを、門矢を倒そうとしてたんだろう?なぁ、お前と戦っていた響鬼はどうなったんだ、まさかお前が——!」

そこまで聞いて、男はそうじゃないと首を振る。
とはいえ、それを後々深く尋ねられても始はヒビキがどうなったかなど知りもしないのだが。

「——すまない。ともかく、俺はお前たちが破壊しようとしたディケイド、門矢士という男と一緒に戦ったし、ブレイドも奴からもらい受けたものだ」
「ブレイドを……ディケイドが?」
「あぁ、さっきキングが言っていた天道総司に擬態したワームとの戦いで剣崎が死ぬとき、門矢も一緒に戦ったんだと、そう聞いている」

そこまで聞いて、始は少なくともこの男と情報を交換するのは無駄ではないと判断する。
剣崎の死の様子は既に音也から聞いて知っていたが、元々適当な彼の言葉だ、状況は判断できるもののその程度で細かい情報や固有名詞は殆ど存在しない会話だった為、今改めてこの男から詳しくそれを聞くのは、決して無益な時間の使い方ではなかった。
同時に、ディケイドと共に戦いその人となりを少なからず知っているだろうこの男を通じその話を聞けば、あるいはディケイドという存在を破壊するにせよ仮面ライダーとして信じるにせよ重要な参考材料になるはずだ。

そこまで考えて、始は一つ息を吐いた。

「……いいだろう。お前に俺と剣崎について教えてやる。だが、お前からディケイドについて詳しい話を聞いた後だ。その上でどこまで話すかは俺が判断する」
「あぁ、構わない」

始の言葉に、思わず笑みを零し喜ぶ男。
その姿にブレイドの力を用いて伝聞で彼の話を聞いただけであるはずのこの男がどれほど剣崎に尊敬の念を抱いているのかと始は思う。
そしてそんな存在と友でいられた自分と、その思いを裏切り殺し合いに乗ったことを再び胸に戒めて、始はふとあることをまだ聞いていなかったと気付いた。

「そういえば、お前の名前はなんだ?」
「俺は、芦原涼。好きに呼んでくれ。お前のことは——」
「相川始だ」
「——わかった、相川。病院に向かいながらでも……」
「俺は病院には向かえない、当然のことだがな。もしそれでもお前が病院に向かいたいなら……」
「いや、構わない。だが時間が惜しい、そこの家にでも入ろう」

男、芦原の言葉に頷いて、始は足を進める。
その瞳には自身と同じく破壊者として忌み嫌われる存在に人間性を見出せるのではないかと微かな希望が輝いている。
しかし、彼は知らない。

これからあと1時間半の後、異世界の王と自分がジョーカーの男と呼んだ男が、再びキングフォームの鎧にその身を包むことを。
この束の間の休息が、そう長くは続かないということを、彼らはまだ知らなかった。


【二日目 深夜】
【F-7 民家】

【相川始@仮面ライダー剣】
【時間軸】本編後半あたり(第38話以降第41話までの間からの参戦)
【状態】ダメージ(中)、罪悪感、若干の迷いと悲しみ、仮面ライダーカリスに1時間55分変身不可
【装備】ラウズカード(ハートのA~6)@仮面ライダー剣、ラルクバックル@劇場版仮面ライダー剣 MISSING ACE
【道具】支給品一式、不明支給品×1、
【思考・状況】
基本行動方針:栗原親子のいる世界を破壊させないため、殺し合いに乗る。
0:今は芦原とディケイドの情報、自分と剣崎の関係についての情報を交換する。
1:この殺し合いに乗るかどうかの見極めは……。
2:再度のジョーカー化を抑える為他のラウズカードを集める。
3:ディケイドを破壊し、大ショッカーを倒せば世界は救われる……?
4:キング@仮面ライダー剣は次会えば必ず封印する。
5:ディケイドもまた正義の仮面ライダーの一人だというのか……?
【備考】
※ラウズカードで変身する場合は、全てのラウズカードに制限がかかります。ただし、戦闘時間中に他のラウズカードで変身することは可能です。
※時間内にヒューマンアンデッドに戻らなければならないため、変身制限を知っています。時間を過ぎても変身したままの場合、どうなるかは後の書き手さんにお任せします。
※ヒューマンアンデッドのカードを失った状態で変身時間が過ぎた場合、始ではなくジョーカーに戻る可能性を考えています。
※左翔太郎を『ジョーカーの男』として認識しています。また、翔太郎の雄叫びで木場の名前を知りました。
※ディケイドを世界の破壊者、滅びの原因として認識しました。しかし同時に、剣崎の死の瞬間に居合わせたという話を聞いて、破壊の対象以上の興味を抱いています。
※キバの世界の参加者について詳細な情報を得ました。
※剣崎と自分の関係についてどれほどのことを話すかは、涼の話を聞いてから判断するつもりです。
※ジョーカーの男、左翔太郎が自分の正体、そして自分が木場勇治を殺したことを知った、という情報を得ました。それについての動揺はさほどありません。




【葦原涼@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編36話終了後
【状態】疲労(大)、亜樹子の死への悲しみ、仲間を得た喜び、響鬼の世界への罪悪感、仮面ライダーエクシードギルスに1時間45分変身不能、仮面ライダーキックホッパーに50分変身不可
【装備】ゼクトバックル+ホッパーゼクター@仮面ライダーカブト、パーフェクトゼクター@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式
【思考・状況】
基本行動方針:殺し合いに乗ってる奴らはブッ潰す!
0:剣崎の意志を継いでみんなの為に戦う。
1:今は相川と情報を交換する。
2:人を護る。
3:門矢を信じる。
4:第零号から絶対にブレイバックルを取り返す。
5:良太郎達と再会したら、本当に殺し合いに乗っているのか問う。
6:大ショッカーはやはり信用できない。だが首領は神で、アンノウンとも繋がっている……?
【備考】
※変身制限について、大まかに知りました。
※聞き逃していた放送の内容について知りました。
※自分がザンキの死を招いたことに気づきました。
※ダグバの戦力について、ヒビキが体験した限りのことを知りました。
※支給品のラジカセ@現実とジミー中田のCD@仮面ライダーWはタブーの攻撃の余波で破壊されました。
※ホッパーゼクター(キックホッパー)に認められました。
※奪われたブレイバックルがダグバの手にあること、そのせいで何人もの参加者が傷つき、殺められたことを知りました。
※木野薫の遺体からアギトの力を受け継ぎ、エクシードギルスに覚醒しました。
※始がヒビキを殺したのでは、と疑ってもいますが、今は信じ話を聞くつもりです。




「よっと。うんうん、予想通りの場所に到着ってね」

その身を三角錐の怪人から人のものへと戻しながら、青年、キングは呟く。
しかし、その姿を見たものは誰もいない。
なぜならここに参加者が立ち入ることは、もはや不可能なのだから。

「ホント、今の僕にとっては禁止エリアはただの休憩地だよね。盾も壊れちゃったし、ちょっと休憩タイム、ってことで」

誰も聞いていないというのにそう呟きながら、彼は次に体から排出されてきたT2ゾーンのメモリを見つめる。
幹部特権としてこの会場どこでも思った場所にワープ出来る能力を持ったゾーンメモリ。
その強力な能力と引き換えに、参加者に渡った際の保険としてエターナルのマキシマムなどを含め二時間に一回しか能力を行使できない制限こそかけられているものの、それでも十分強力な装備だった。

「僕がこのゲームで負けることなんてないんだから、そんな心配することないのにさ。……まぁ、いいけど」

メモリを懐に戻しつつ、キングはぼやく。
この程度の縛りであれば、面白いゲームを更に楽しむ為のものだと割り切りもつくというものだ。
そうして治るかはわからないが盾の復活と、一応ゾーンの能力が蘇るまでその場で休もうか、と横になろうとして。

「あっ、忘れるとこだった。首輪なしの支給品に見つかって誰かに僕の存在がバレたら面白くないしね。身を隠しとかなきゃ」

そう言って懐から取り出すのは、参加者に渡らなかった最後のカードデッキ、ベルデのもの。
緑に染められたそのデッキを周りの適当な反射物に移し、現れたVバックルに叩き込む。

「変身」

瞬間その身にオーバーラップした数多の影が線を結び、やがてそれは実像となりキングの身を覆う鎧となった。
仮面ライダーベルデ、力は本来の姿に遠く及ばないそれをキングが持ち込んだのは、しかし理由があった。

——CLEAR VENT

バイザーにカードを読み込ませると、彼の身体は光を反射し透き通る。
つまり有体に言えば、透明人間になったのだ。
これで確実に誰にもバレることはないだろう、とようやくキングはその身を横にしそのまま目を瞑ろうとして、一つ思い出す。

「あ、カッシスのこと放ってきちゃったな。まぁいいか。どうせ死神博士の取り越し苦労だし、そうじゃなくても僕が相手する必要もないでしょ」

それは、自分がこの場に来た理由の一つ、カッシスワームの復活について。
しかしそれも最早どうでもいいことだ。
あんなものただの口実だったし、もし万が一そうなったとして一応対処出来るだけの準備もしてきたが、だからといって復活するかもわからない奴にずっと張り付いているのも性に合わない。

今はこの最高のデスゲームを楽しんで、後々カッシスが本当に復活して自分と会うことがあれば、相手してやればいい。

「ごめんね、死神博士。でもちゃんと仕事してほしかったなら、僕じゃなくてグリラスに頼めば何日でもそこで突っ立ってただろうに」

これを聞いていたら眼鏡を叩きつけ怒り狂っているだろう三島の姿を思い、キングは再度笑って。
次は誰にちょっかいをだしたら面白いか、ぼんやりと考えていた。


【二日目 深夜】
【???(禁止エリア)】


【キング@仮面ライダー剣】
【時間軸】本編34話終了より後
【状態】疲労(小)、ダメージ(小)、仮面ライダーベルデに変身中、クリアーベント使用中
【装備】破壊剣オールオーバー@仮面ライダー剣
【道具】ベルデのデッキ@仮面ライダー龍騎、T2ゾーンメモリ@仮面ライダーW、カッシスワーム・クリペウスとの対決用の持ち込み支給品@不明
【思考・状況】
基本行動方針:面白おかしくバトルロワイアルを楽しみ、世界を壊す。
0:今は休憩しながら今後ちょっかい出す奴を選ぶ。
1:ゾーンの力が戻るか、近くで何か面白いことがあったらまた遊びに行く。
1:このデスゲームを楽しんだ末、全ての世界をメチャクチャにする。
2:カッシスワームの復活を警戒……まぁホントに復活してたら会ったとき倒せばいいや。
【備考】
※参加者ではないため、首輪はしていません。そのため制限が架されておらず、基本的には封印されない限り活動可能です。
※カッシスワームが復活した場合に備え、彼との対決も想定していたようですが、詳細は後続の書き手さんにお任せします。
※ソリッドシールドが破壊されました。再生できるかは後続の書き手さんにお任せします。
※今は禁止エリアのどこかにいます。
※T2ゾーンメモリは会場内どこでも飛べますが、マキシマムドライブでの使用などの場合も含め2時間に一度しか能力を使用できません。
※この会場内の情報は第二回放送までのものしか知りません。彼の性格上面白くなりそうなこと優先で細かいことを覚えていない可能性もあります。



120:Bを取り戻せ/闇切り開く王の剣 投下順 122:夢よ踊れ(前編)
時系列順
119:可能性の獣 葦原涼 125:魔・王・再・臨
キング 126:ステージ・オブ・キング(1)
110:Kamen Rider:Battride War(12) 相川始 125:魔・王・再・臨



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最終更新:2018年06月10日 00:08