魔・王・再・臨 ◆.ji0E9MT9g



F-7エリアに存在する数多の民家。
そのうちの一つ、先のキングとの戦いでの被害のないうちの一つに、二人の男がいた。
家の内装などに別段興味も持たず一直線に、しかし警戒を怠らずリビングのテーブルまで足を進めるその様は、この家にとっては侵入者に過ぎないというのに、あまりに堂々としていた。

それもそうだろう、男の内の片割れ、葦原涼は自宅の内装にすら関心を持たない様々な意味で“飾らない”男だったし、もう一人の相川始にとっても、この殺し合いの場に設けられた生活を経ない民家など、気に留める必要もなかったのだから。
やがて難なくリビングに辿り着いた彼らは、そのまま4人掛けのテーブルに重く腰掛けた。
座ってみて初めて、両者ともに病院での戦いを終えてから殆ど休息を取れていなかったことに気付く。

故に始はここが再現されただけの仮初めの住居とはいえ、民家である以上最低限の応急処置は可能だろうと目線を走らせる。

「――門矢の話……だったか」

しかし瞬間、今までこうして家に着くまで一切の声を発していなかった涼が、唐突に始を呼び止めていた。
その声に思わず視線を戻した彼は、改めて椅子に腰掛ける。

「傷の治療はいいのか、それなりに怪我をしてるようだが」
「俺のことはいい。門矢のことを話さないと剣崎のことについても話す気はないんだろ?
なら話すのは早いほうがいいかと思ってな」
「そうか……」

何気ない会話ではあったが、たったそれだけのやりとりで、始は口数の少ないこの目の前の男が、自身の友である剣崎に抱いている仮面ライダーとしての信頼を感じた。
自信の仲間であるディケイドを売るということが出来るだけの器用な男にも見えないし、彼なりに自分にディケイドの情報を渡すということはそこまで問題ではないのだろう。
そしてその情報を渡す一方で得られると信じている剣崎と自分の関係に対し、この男が並々ならぬ期待を持っていることも、今の始には理解出来た。

(お前はやはり、凄い男だな、剣崎……)

心中で、何度目になるか分からない亡き友への言葉をかける。
死してなお他の仮面ライダーに多大な影響を残し、今こうして目の前に現れたこの男に至っては、剣崎とは直接の面識はないらしいというのにここまで彼に信用を寄せているというのが、始には何となくくすぐったかった。
そうして今はもう相容れない存在となったとはいえ、かつて自身が友と認めた男が集めた人望を再び理解した始は、一つ息を吐いた。

「――あぁ、そうだな。この場では時間も惜しい。
話してもらおうか、ディケイドについて」
「あぁ、門矢と俺が出会ったのはーー」

それから、涼は話し始めた。
第一回放送の後、助けたはずの女に殺されかけ、何もかもを投げ捨て逃げ出した自分を追いかけてきた男、それがディケイド……門矢士だったということ。
そしてそこで本来の変身能力に制限がかかっていた自分に渡された力、それがブレイドだったということ。

士は変身し戦いを仕掛けてきたが、それは言葉とは裏腹に自分を立ち直らせる荒治療にすぎなかったことを理解したこと。
そしてーー。

「『愚かでもおまえは人間だ。自分で自分の道を決める人間だ。愚かだから、転んで怪我をしてみないとわからないこともある。時には道に迷い、間違えたとしても……それでも、自分が選んだ道を歩むことができる、人間だ』。
……門矢は、俺にそう言った」

その戦いの中で士が自身に投げかけた言葉を、一語一句違わず口にした。
決して短くはない言葉をそっくりそのままこうして口に出せたのは、彼の中で今の言葉は何度も反芻されたものだからなのだろう。
一言一言噛みしめるように口にした彼はそのまま自身の掌を見て続けた。

「――この力を手にしてから、俺は化け物としか呼ばれなかった。
あの姿を見て俺を人間だなんて呼ぶ奴は……いなかった。
俺だって、あんな風に自分の身体が変わってからの自分が前までの自分と同じなんて、これっぽっちも信じていなかった。
……でもあいつは、そんなことで悩む俺のことを簡単に破壊していったんだ。
自分に出来るのは、見つけているはずの道を歩めないと悩む、そんなちっぽけな俺を破壊することだけだってな」

そこまで言い切って再度真っ直ぐに始の目を見据えた涼の瞳は、澄んでいた。
嘘を一度もついたことがないと言われても納得してしまいそうなほど愚直ですらあるその目を見て、始は理解する。
やはりこの男は、ディケイドの情報を売ろうなどとは少しも思っていない。

或いは病院を襲った自分たちにもディケイドの本当の姿を知らせることで考えを改めさせようとしているかのようですらあった。
始としても、アポロガイストの話自体半信半疑であった上、バトルファイトにおけるジョーカー……自分の役割にも似たそれを任せられているというディケイドを完全な敵として切り捨てるのに些か抵抗感があったのは事実。
その為どこかでディケイドに人間性や彼を信じる仲間の存在を認められることを望んでいたのかもしれなかった。

(とは言え、これだけでディケイドを完全に信用するわけにはいかないがな……)

しかし、今涼から得られた情報だけでは、ディケイドが存在するだけで世界を滅亡に導く悪魔であるという情報に対する反証にはなり得ない。
故にまだディケイドに対する警戒を解くべきではーー。

『――始!』

不意に、友の声が聞こえた。
それは、世界を滅亡させるかもしれない自分を信じ友として受け入れてくれた剣崎に対して自分が抱いている後ろめたさの感情なのだろうか。
詳細こそ違うとは言え自分と似た存在であるディケイドを、お前が破壊するのは間違っているのではないかという、自分自身への拭いきれない疑問なのか。

(例えそうだとしても……俺はもう、お前と同じ道を歩むことは出来ない)

剣崎が今も生きていたとしたら迷うことなくディケイドを信じ友として守ろうとするだろうことは、涼から聞いた彼の最期から容易に想像出来る。
そして彼が死んだ今、もし自分に望むことがあるとするなら、それは彼の遺志を継いでディケイドを信じ戦うことなのだろうということも、もう分かっているつもりだ。
だが、それは出来ない。

今の自分にとって最も重要なことは、栗原親子の住むあの世界を守ること。
それが、大ショッカー打倒もディケイドと共に戦うことも……、剣崎が望むだろう全てを犠牲にしてでも、最優先でなさなければならない自分の使命だった。

「――大丈夫か?」

そんな時、ふと涼が心配したような表情でこちらの顔を覗き込んでいた。
他人を気遣うのがそう上手くないだろうはずのこの男にさえ心配されてしまうほど、今の自分は上の空だったというのか。
殺し合いという殺伐とした状況で見せてしまった思わぬ隙を自覚して、始は思わず歯がみした。

「あぁ、問題ない」
「そうか、俺が知っている門矢についての話はこれ位だ」
「……一つ、聞きたいことがある。
――お前は何故、ディケイドが自分の世界を滅亡に導くかもしれないと分かった上で、奴を信じることが出来る?
自分の生まれた世界に執着がないのか?」

それは始にとって、この場で聞かなくてはならない質問だった。
勿論、ディケイドに少なからず恩を感じているというのも理由の一つではあるだろう。
だがそれだけで、果たして生来の世界に対する執着よりも彼を信じるに足る理由としては不十分だと、始は感じたのだ。

「勿論俺だって、自分が生まれた世界が滅んでいいなんて思ってるわけじゃない。
元の世界に戻って、やらなきゃいけないこともあるしな」

言って涼はその右手をーー始は知らない事情だが、その腕を授けてくれた恩人をその腕に重ねてーー見つめる。
だがすぐにそれをやめ、もう一度始を見やった。

「だがそれ以上に……俺は門矢を信じたい。もしもあいつが本当に悪魔だとしても……俺は、それがどうしようもない事実だと分かるまで、あいつと共に戦いたい。
仲間を信じるか信じないか、考えるまでもないそんな小さいことで悩む俺を破壊してくれたのは、他でもないあいつだからな」

涼の言葉は、どこまでも真っ直ぐだった。
つまりは、ディケイドが世界の破壊者かどうかなど、この男にとってはどうでもいいのだ。
どこか覚悟を決めたように見えるその言葉に反して、彼の表情からはディケイド……門矢士が破壊者であったとして彼を見捨てようとする思いは微塵も見て取れなかったのだから。

(この男がブレイドに変身した……か。なるほどディケイド、どうやら適当な相手にブレイドを渡したわけじゃないらしいな)

そして同時、始はこの男にブレイドを託そうとしたディケイドに一種の信頼を抱く。
少なくとも剣崎は自身の死後涼がブレイドを使うことに、何の異議も申し立てることはなかっただろう。

「そうか」

そこまで考えて、始は会話に不自然な間が生まれないようにと短く返答を述べた。
ディケイド……いや、門矢士に対する情報はある程度把握出来た。
そして同時、この男に対し、どこか親近感にも似た感情を抱いている自分がいることも、始は理解していた。

「……なら次は、俺の番か。剣崎と俺の関係……だったな」
「あぁ、頼む」

だから、だろうか。
自分にとって有益な情報を得られた時点で反故にしてもよかったはずの約束を、律儀に守ろうとしている自分がいた。
何故かは自分にも分からない。ただの気の迷いかもしれないが、それももう自分にとってはどうでもよいことに思えた。

「俺と剣崎の出会いは……正直、あまりいいものではなかった。あいつはーー」

それから、始は語り始めた。
自身と剣崎の交流を。
だが、その実内容としてはそこまで掘り下げたものは大して語ってはいない。

元々始は口数多くベラベラと自分の経験について語るような男ではなかったし、或いは同時に安い言葉だけで語り尽くせるほど、自分と剣崎の関係は単純なものではないと思っていたのかもしれない。

だから語った内容は、とても表面的なものだった。
しかしそれを聞く涼の顔は、極めて満足げなもので、それが始にはとても不思議に思えた。

「……何故そんな表情をしている、俺はそこまで大した話をしたつもりはないが」
「分かったからだ、お前が剣崎を本当に友として信頼していたってことがな」

それについて思わず問えば、返ってきた答えはまたしても真っ直ぐなものだった。
言われて初めて始は涼に対し剣崎についてあまりに正直に話しすぎていた自分を自覚する。
――このままここにいては、俺の中で何かが変わってしまう。

ぼんやりとした感覚ではあるものの、どこか確信じみてそう感じた始は涼に一瞥もくれずに立ち上がった。

「聞きたいことは聞いただろう。……話はこれで終わりだ」

それだけを言い残してそそくさと民家を後にしようとする始の肩をしかし、涼は思い切り掴んでいた。

「終わりじゃない。分かってるんだろう?お前だって。
剣崎がこんな殺し合いに乗ることをよしとしないのも、今のお前が本当に望まれていることが何なのかも!」

――あぁ、やはり長々と話をするんじゃなかった。
始は俯き、自分の不手際を呪った。
殺し合いの場で今は亡き友とどこか似た存在を見つけ、それに不用意にこうして自分のことを話したツケが、これだ。

知ったような口ぶりで自分と剣崎のことに言及し、あまつさえ彼の思いを代弁しているかのような口調でこうして自分を説得しようとするとは。
どこか失望したような思いを抱いたまま、始は足を翻し彼から離れようとする。
当然、涼はそれを逃すまいと手を伸ばすが。

「――俺に触れるな」

それに対し、始は極めて冷たく返す。
振り払われた腕を一瞥し、涼はしかし声を荒げることをやめなかった。

「お前だって、気付いているはずだ!
大ショッカーが本当に世界の選別をするためなんて理由で俺たちに殺し合いを強要しているわけじゃないことを!」

涼の言葉の意味するところは、既に始とて理解している。
そもそもにしてあのキングが飛び入り参加などしている時点でこの殺し合いに特別な意味を見いだすことなど出来はしない。
崩壊の確定した響鬼の世界から参加者を輩出するならまだ百歩譲って分からなくはないが、未だ橘や志村という参加者が残っている自分の世界に更に有利な状況を作る必要がない。

或いは彼は剣の世界の参加者ではない第三者としての介入なのかもしれないが、どちらにせよ世界対抗戦という名目で開かれているこの殺し合いに極めて不自然な存在であることは否定しきれないだろう。
実際ジョーカーである自分を前に敵わないと逃げたのはともかくとして、変身が出来ない状態の涼を延々追いかけていたことや彼の生来の性格から考えても殺し合いに反対する参加者を減らすという務めすら素直に果たす想像すら出来ないのだから、どちらにせよ大ショッカーに信頼などおけるはずがなかった。
そこまでを分かりきった上で、しかし始は重い口を開いた。

「……あぁ、分かっている。それは大ショッカー幹部を名乗る男から直接聞いた。
この殺し合いに乗じて全ての世界を侵略するつもりだ、とな」
「ならどうしてお前はーー」
「――お前に教える義理はない」

始は努めて、会話を切り上げようと冷静に振る舞う。
そして、同時に思ってしまう。
この男のこういう部分は本当に剣崎に似ていると。

「……怖いんだろう」

ふと生まれた思考の淵に入り込むように、涼が呟く。
その言葉に思わず振り返れば、しかし涼は確信を持ったように始に歩み寄っていた。

「キングは、お前がとある参加者を殺し、その同行者と行動を共にしていたと言った。
だから、引き下がれないんだろう?自分が大ショッカーと戦う“仮面ライダー”になったら、仲間を殺されたその男に、いや世界の為に殺してしまったその男が恨むべき相手を失ってしまうと!
だからお前は大ショッカーに従った自分をどうにか正当化しようとしているんだ。
そいつらが、ずっとお前をただの殺し合いに乗った悪人だと、迷いなくお前を倒せるように」

言われて、始は思わず目を伏せた。
勿論、意図してそんなことをしていたつもりはない。
だが、木場と呼ばれていたあの男を殺し後戻りが出来なくなった後、ジョーカーの男、左翔太郎と共に行動していた時、何故自分は正体を明かさなかったのだろうか。

無論、いつでも倒せる男を野放しにしていても何ら問題がないからという理由は挙げられるだろう。
しかしそれ以上に、始は翔太郎に何かを期待していた。
それが彼の宣った『運命を変える』という言葉を信じたかったということなのか、それとも或いは涼の言うようにーー。

「――愚かでもおまえは人間だ」

思考に沈んだ始に、涼は言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
その言葉は、先ほども聞いた、彼が迷いを捨てる決意を固めた時、ディケイドが投げかけたというもの。
思わず涼の目を見た始は息を一つ吐いた。

「……俺が人間だと?笑わせるな。俺はーー」
「いや、人間だ。元はどんな存在でも……剣崎と出会い、栗原という親子と出会い、お前はもう人の心を知ったはずだ。
そうじゃなきゃ、別の世界の住人で情報も吐き終えた俺はもう死んでるはずだからな」
「――ッ」

思わず、始は押し黙る。
橘から情報を聞いた上で自分と話したいというのに何か違和感を覚えていたが、なるほどどうやら自分が殺し合いに乗っているのは予想した上で説得できるのか倒すべきなのか判断する材料が欲しかったらしい。
厄介な相手がいたものだと思う一方で、どこか懐かしい感情が沸きあがっているのを、始は否定しきれずにいた。

そして同時に、先ほど涼が引用した言葉の、その先に続く言葉を始は反射的に思い出す。

(自分が歩みたいと、見つけている道を邪魔する俺自身を、自分が破壊する。
こいつが言いたいのは、そういうことだろうな)

ディケイドが述べたという言葉。
それに力を貰った涼自身が、今度は始が歩みたい道を歩める為の手伝いをすると、そういいたいのだろう。

(こいつらは、あのライジングアルティメットすら倒し、ジョーカーさえも凌いで見せた。
俺も、大ショッカーを倒せるだけの力があると認めるべきなのか……?)

故に、考える。
彼らが本当に、大ショッカーを倒せるのか否か。
自分の知る中で最強の実力を誇りジョーカーをも超えるライジングアルティメット……五代雄介は、死んだ。

キング、紅渡はまだ死んではいないようだが、金居もまた倒れた。
ジョーカーとなった自分に逃走を選択させるだけの実力を彼らが持つというのなら、大ショッカーに従い殺し合いを促進させても意味のない現状、これ以上参加者を殺すことに意味はーー。

「――ぐッ!?」

瞬間、始はその場に蹲った。
理由は、胸の奥から何物かが込み上げてくるのを、抑えきれなかったため。

(また、なのか?)

それは、病院でも生じたジョーカーへの衝動。
何故今になって何度もそれが起こるのか、始には一切見当もつかなかった。

「相川ッ!大丈夫か!?」
「逃げろ……、このままでは、お前もーー」

それ以上はもう、彼に言葉を紡ぐことは出来なかった。
雄々しい雄叫びと共に緑の閃光が辺りを包み込んだかと思えば、瞬間そこにいたのは緑と黒の異形。
最強のアンデッド、ジョーカーがそこにいた。

「相川、お前――」
「ウゥ、ウオオオォォォォッ!!!」

雄叫びと共に襲いかかるジョーカーに、物陰から飛び出した緑と茶のバッタが突撃した。
さしものジョーカーが思わずと言った様子で数歩下がったその隙に、涼はそれを手に取り腰のバックルに収める。

「変身ッ!」

――CHANGE KICK HOPPER

彼の声に呼応するかのように纏われたタキオン粒子が緑のバッタ型のスーツを形成する。
変身の完了と共に光り輝いたその双眼が闇夜を照らす中で、涼は構えを取った。
――どうやら今の始は正気ではないらしい、というのは涼にもすぐに分かった。

一瞬自身の挑発に応じ始本人の意思で襲いかかってきたのかと思ったが、正気を失ったようなその咆哮を聞けば、今の彼がただ本能のまま突き動かされているのが理解出来たのである。
であれば今自分が成すべきは、変身制限を迎えるまで今の始を相手に耐えることだけ。
彼から放たれる威圧が如何に凄まじく過去体験したことのないもので“耐える”、それだけのことがどれだけ難しくても。

最早自分に迷っている時間はないのだとそう自分を鼓舞して、キックホッパーはジョーカーの懐へと駆け込んでいった。




グググ、と音を立てて最早跡形もなくなった廃工場の中、起き上がる影が二つ。
何もなかったはずの空間から生じたそれらの影は、ありとあらゆる法則を無視してその場に顕現する。
起き上がり、顔を見合わせたそれらは、何が起こっているのか、こうしていることが当然かのように、その場を後にした。




「ウオォアァァァ!!!!」
「ウオオォォォォォ!!!!」

獣のような二つの咆哮が、誰もいない市街地に響く。
全てを破壊するケダモノ、ジョーカーと、それを止めんとするキックホッパーのものだ。
しかし戦況は……否、そんな言葉さえ必要ないほどにキックホッパーの防戦一方であった。

そもそもにして病院での戦いからの連戦であることは否定しきれないし、戦っていなかった時間も放送を聞き亜樹子を弔いまともに休めてなどいない。
そんな身体を押しているだけでも驚異だというのに、加えてジョーカーは進化したギルスでさえなお足りないような実力を誇る強者である。
必殺のはずのクロックアップさえジョーカーからもたらされる終わりない連撃からの離脱にのみ使ってようやくここまでの戦線を保っているという惨状だ。

思い切り肩で呼吸すること数度、一際大きい咆哮と共に衝撃波を周囲に発生させたジョーカーを相手に、キックホッパーは何度目になるか分からない回避の為のクロックアップを使用する。
周囲を飛び散る瓦礫、ジョーカー本体の動きさえ緩慢に見える空間の中で、しかし凄まじいスピードで迫り来る衝撃波を何とか上体を反らし躱しきる。
後方へ吹き飛んでいった衝撃波に見向きもせずジョーカーに向け突進したキックホッパーは、僅かなダメージなど蓄積すらされないことを知りつつも攻撃を仕掛けようとする。

しかし瞬間、流れすら違う時の中、ジョーカーは突き立てた爪で足下のアスファルトを破壊した。

「何ッーー!」

それによってアスファルトの破片がキックホッパーに向け勢いよく発射され、彼は真っ直ぐにジョーカーに向かうことを阻まれる。

「――いや、まだ手はある……!」

――RIDER JUMP

だが、言葉と共にゼクターに手をかけキックホッパーはそのまま高く跳んだ。
あくまで直線上での接近が阻まれたのは地上での話。
こうして空から攻撃すれば、奴に反撃の手はないはず。

――RIDER KICK

左足に高まったタキオンが集まると同時、彼はそれを思い切りジョーカーに伸ばした。
これで終わらせる。
疲労しきった今の自分でも、ジョーカーの動きを止めるくらいは可能なはずだ。

――CLOCK OVER

思考の終了とほぼ同時、加速した時間は終わりを告げる。
瞬間周囲の民家であったものが轟音を立てただの瓦礫へと成り下がっていく中、それすら気に留めぬままキックホッパーはただジョーカーだけを見据えてーー。
――瞬間、後方から襲いかかった“何か”にその体勢を大きく崩した。

「なーーッ!?」

一体何事かと振り向けば、それは自身の後方に立っていたはずの民家を構成していた瓦礫の一部であった。
つまり、先の衝撃波は自分を狙ったものでなく、この民家を倒壊させるのが目的だったということか。
その上で地上での接近を拒めば自分が跳ぶに違いないとそう判断した上での、ジョーカーの作戦だったというのか。

理性など持たないはずのケダモノがしかしそのセンスのみでクロックアップを攻略した様を目に焼き付けながら、涼はその生身を晒し地面に叩きつけられた。

「ぐあぁ……!」

全身の激しい痛みに悶え身体を捩る涼を前に、死神はただゆっくりとその足を進めてくる。
それをしかと見やりながら、涼はただ『申し訳ない』と思った。
自分を信じてくれるといった仲間にも、逃げろと警告してくれた始にも、そしてこうして力を託してくれた、死んでしまった仲間にも。

その死に様を自分しか知らない彼らのことを誰にも告げぬまま自分が死んでしまったら。
彼ら彼女らの生き様は、一体誰が語り継いでくれるのか。
後悔は尽きないが……しかし、終わりだった。

もう死神は、その鎌を自分に向け構えているのだから。

「矢車……亜樹子……乃木……皆、すまない……」

そうして、覚悟を決めたように彼はその瞳を閉じーー。

「――おいおい、相変わらずボロボロじゃあないか?葦原涼」

響いた剣戟音と、聞き覚えのあるその声に、思わず目を見開いた。
そう、最早これ以上言葉も必要あるまい、そこにいたのはーー。

「乃木ッ!?」

既に死んだはずの乃木怜治、その人であったのだから。

――何故乃木がこうして生きているのか、という疑問の答えは至ってシンプルだ。
乃木怜治……カッシスワームの能力として未だ残された命があったから。
それだけの理由に他ならない。

彼の読み通り、そして同時死神博士の読み通り、カッシスワームは今こうして蘇ったのである。
首輪を焼き払われたためにこうして変身制限からも解き放たれた、文字通り完全な復活を、彼はこうして遂げたのであった。

「乃木、何故お前が……お前は放送で呼ばれたはずじゃーー」
「その話は後……、いや、“もう一人”に聞いてもらえるかな?俺はこいつの相手をしなくちゃあならないんでね」

そこまで言って、カッシスは思い切りジョーカーに対しその腕の剣を振り下ろした。
元々攻撃に重点を置いているジョーカーの戦闘スタイルでは無理な体勢からの防御は難しかったのか、難なく地面を転がっていく。
その光景を見守りながら、しかし涼は湧き出てくる疑問を抑えることは出来なかった。

「……どういうことだ?何故乃木が……まさか、死んだ他の参加者も蘇ってーー?」
「――想像力豊かで結構なことだが、残念ながらそうじゃない。
蘇ったのは俺だけだ。……いや、俺たち、と言い直すべきかな?」

意識外からの声に思わず振り返れば、そこには先ほどまで話していた男と同じ声を顔をした乃木怜治その人が立っていた。
これには流石の涼も理解が追いつかなかったか、目は丸くし開いた口はふさがらなかった。
しかしそんな涼を見て、何のこともないように乃木は続ける。

「驚くようなことじゃない、俺は不死身……ただそれだけのことだからな」
「不死身って……それに何故二人に増えてるんだ……?」
「さぁな、俺にもよくわからん。その命での能力は蘇ってからでないと分からなくてね。
だがまぁ二人に増えるとは、俺にも予想外だったがな」

のらりくらりと言いのける乃木を見て、涼は思う。
これは幻覚でもなりすましでもなく、乃木怜治本人なのだ、と。
目の前で取りこぼしたと思っていた命にどういった理由であれこうして再び相見えたことに、涼は自然と頬を綻ばせていた。

「乃木……本当に、お前なんだな」
「フッ、何を当然のことを。
俺が死んでから何があったかは知らないが、こうして蘇り忌々しい首輪からも解き放たれた今、大ショッカー諸君の命運は尽きたも同然ということだ」

吐いた言葉の大きさに恥ずかしさを微塵も感じさせず、乃木は言う。
それに対し嫌みでなく心強さを抱いた涼は、そのまま乃木と更に情報を交換しようとする。

「乃木、実はーー」
「――おっと、待ってくれ。どうやら“俺”一人ではあの化け物くんの相手は厳しいらしい」

ふと涼が戦場に目を移すと、そこにはジョーカーに言いように弄ばれ足蹴にされるカッシスの姿があった。
それに思わずライジングアルティメットにやられていた病院でのことを思い出すが、しかし此度はそれとは状況が違う。
もう一人、カッシスがここにいるのだから。

「――奴を片付けてから、君の話を聞くとしよう」

言って乃木は紫の異形へと姿を変える。
カッシスワーム・クリペウス。
それが今の乃木の力であった。

涼に一瞥もくれぬまま駆けだしたカッシスは、そのままジョーカーに斬りかかる。
現れた二体目のカッシスに対し思わず退いたジョーカーの足下で、先ほどまで戦っていたカッシスが立ち上がる。

「随分とお話が長かったじゃないか?」
「“俺”一人で十分だと思っていたものでね、まさかこんな理性のないケダモノに言いようにやられるとは」

自分自身にさえ皮肉を吐いて、しかし二人は息の合った動きでジョーカーの攻撃を同時に受け止め反撃を食らわせていた。

「俺もそう思っていたが、どうやらこの身体は以前より微妙に能力が落ちているらしい。
制限ではないと思いたいがな」
「……まぁどちらにせよ、二人であれば前の形態のいずれよりも強いのは保証されている。
この程度の敵、どうということもあるまい」
「あぁ、そういうことだ」

そこまでを話し終えたカッシスたちの間に割り込むようにジョーカーが攻撃を仕掛ける。
分断すれば或いは連携を崩せるかもしれないとでも思ったのかもしれないが、しかし今の彼らにそんな単純な動きは通用しない。
一斉にジョーカーを躱したかと思えば、逆に挟み撃ちの形で一斉に斬りかかった。

それを何とかジョーカーが受け止めるも、それすら読んでいたとばかりにカッシスはその腕に紫のタキオンを纏わせる。

「「ライダースラッシュ!!」」

同時に発した言葉と技にジョーカーが反応するより早く、二つの斬撃のエネルギーはカッシスの手を離れジョーカーを焼き尽くそうとする勢いで肉薄する。

「オオオアァァァァァ!!!!」

大きく咆哮しそれらを弾き飛ばしたジョーカーに対し、しかしカッシスは同時に加速した時間軸へと突入する。
これにより、ライダースラッシュをやりすごすことに全神経を巡らせた隙だらけのその身体を、彼らは一方的に蹂躙できるだけの時間を得たのである。
そして、得た時間を無為にする必要もないと、後から参入したカッシス……角のある方の個体が無防備なその肉体に手を伸ばそうとするが、それをもう一体の個体が止める。

「――待て、こいつは俺の獲物だ。俺がやる権利があるだろう」
「ふん……、好きにすると良い」

さっき痛めつけられていたのを気にしているなど“我”ながら随分とみっともないものだと思いながら、角のあるカッシスは背を向ける。
それを受けもう一体の個体はその表情を愉悦に染め上げた。

「さっきは散々痛めつけてくれたからな……これはほんのお礼だ」

先ほど痛めつけられていた恨み、怒り、そして何よりそんな相手を蹂躙できる喜び。
全てを乗せゲス染みた笑いをあげながら振るわれたカッシスの剣が、何度ジョーカーを切りつけたのか。
彼の銀の剣先が緑色に染まるより早く、彼らにはそんなもの既に数える気もなくなっていた。

「――失せろッ!」

やがて満足したのか、飽きたのか、カッシスは最後にその腕に闇を集わせる。
それにより生じた最強の必殺、暗黒掌波動がジョーカーの身体を襲いその身を生身に戻すころには、彼らのクロックアップも終わりを迎えていた。

「楽しむのは勝手だが、早いところ殺すんだな、そいつは大ショッカー打倒において不穏分子だ」
「――分かっている。上から目線で命令するな」

些か無様な姿を見せた為に上下関係を築こうとしている片割れに気付いたのか、角のないカッシスは不機嫌そうに呟いた。
とはいえもうろくに動くことも出来ないだろう生身の男を殺す程度、一瞬で終わること、故にカッシスはそのまま剣を振り下ろそうとする。

「待ってくれッ!」

が、己の傷さえ押して間に割り込んだ涼に、それを妨げられた。
極めて納得のいかない様子で彼の顔を一瞥した二人のカッシスは、その身を乃木のものへと変える。
どうせ変身制限もないのだから、表情で威圧できる分こちらの方が効果的だろうとそう考えて。

「――どうしたんだ?葦原涼。
俺はただ大ショッカーに従い殺し合いに乗った不穏分子を排除しようとしているだけなのだがね」
「違うんだ、こいつはさっきは自分の意思でなく暴れていただけで、殺し合いに乗りたくて乗ったわけじゃない。
ただこいつにも守りたいものがある……それだけの話なんだ」
「……彼の事情など聞いていないよ、葦原涼。
殺し合いに乗ったかどうかはこの際別としても、こうして自我を失い暴れることそれ自体が我々の大ショッカー打倒への障害になると言っているんだよ」
「ならッ、今度こいつが暴れた時は俺が止める!だからーー」
「話にならないね。俺たちが助けなければ死んでいたのは君だと言うのに。
君だけの問題ならともかく、参加者も大きく減った今、大ショッカー打倒に有望な参加者を殺されてからでは遅いのだよ」
「いや、今度こそ俺が止めてみせる!信じてくれッ、俺を仲間だと思ってくれているのなら!」

ああ言えばこういう、こう言えばああいう。
まるで一歩も妥協するという様子を見せない涼を相手に、乃木は頭を悩ませる。
そうして数秒悩んだあげく、二人の乃木は同時に目を見合わせ、同時に頷いた。

「そこまで言うなら、仕方ないな。本当はこんなことをしたくはないんだが」
「すまない乃木、感謝すーー」
「――ここで、君も殺すしかないようだ」

言葉と共に、乃木の身体は一瞬でワームのものへと変化する。
予想だにしなかったその返答に思わず反応が遅れた涼は、しかし容赦なく振り下ろされたカッシスの剣を躱し……同時に、彼の言葉が本気だということを理解した。
そしてその裏切りに、涼は大きく吠える。

「どういうつもりだッ!乃木ッ!」
「どういうつもりも何もないだろう。君が彼を殺させないというなら、君を殺してでも彼を殺すまでのこと。
大ショッカーに挑む貴重な戦力が一つ減るのは惜しいが……まぁお前如き恐らくは少し頑丈な壁にしかなるまい。
ならどのみちここで殺しても問題はないということだよ」

二人称が、君からお前へと変わるのと同時、乃木の口調からは僅かに滲ませていた仲間としての感情が失せていた。
無論、乃木が把握している涼の実力と今の彼のギルスとしての実力は大きく異なる。
単身でジョーカーを倒せるかは別としても、恐らく金居戦でエクシードギルスに変じることが出来ていれば、単純な戦力差での勝利は容易かったはずだ。

もちろん、そこまで実力に自信がある参加者との戦いであったなら金居もライジングアルティメットを迷いなく呼び戻しただろうし、最終的な被害状況は大差なかったかもしれないが。
少なくとも今の涼は彼の思うような肉壁にしか成り得ない戦力外では決してなかったのだが、ともかく。
そんな事実を知るよしもない乃木は、始を野放しにする危険と涼の生存を天秤にかけ始をこの場で確実に仕留めることを選んだのであった。

――まだ、ギルスへの変身には制限がかかっている。
どうしようもない、このままでは死ぬという絶望が、涼を飲み込もうと口を開けていた。

「――おや?どうした?死ぬのが怖くなったか?
……今そこをどけば、生かしておいてやるよ。大ショッカーを共に倒そうじゃないか?」
「黙れ、俺は絶対にここをどかない、こいつは殺させない!」
「……何がお前をそこまでさせる?橘朔也と志村純一の話じゃあ、そいつが生き残れば世界は滅びるんだそうじゃないか。
その上暴走するとまで来てる、そいつの味方をしても敵を増やすだけだと思うがね」

乃木の言葉は、的を射ている。
善良な参加者を殺したことさえ割れており、直接手にかけてはいないとしても病院戦にも責任がある。
そんな存在と共に行動していたところで、涼の行く先が茨の道になるだけである。

乃木としては涼を案じる思いなどなく自身の手を煩わせず済むならその方がいいというだけの声かけだったのだが、しかしやはりというべきか涼はさして考える様子もなく答える。

「……俺が、信じたいからだ!世界の崩壊や人類の滅亡、そういったことが門矢やこいつによって引き起こされるとしても、本人が望む限りそんな運命は覆せると!」
「――聞いた俺が馬鹿だったよ。まぁそれならそれでさよならだな、葦原涼」

つまらなさそうに吐き捨てたカッシスがその腕を翳すと同時、しかしそれが涼の身体を引き裂くより早く、彼の後方より生じた光の矢がその紫の甲殻に火花を生じさせた。

「相川ッ!?」

思わず驚きと共に振り返れば、そこにいたのはどこかブレイドにも似た黒と赤の仮面ライダー。
その手に持ったボウガンで油断なくカッシスを狙い撃つが、意識外の攻撃でないそれらは容易く弾き飛ばされた。

「全く、手間取らせてくれるな」

苛立ちを隠せない様子で傍観していたもう一人の乃木がその身を異形のものへと変貌されれば負けだと判断したか、ラルクは素早くカードをラウザーに走らせる。

――MIGHTY

瞬間満ちたエネルギーの矢で既に変化しているカッシスを狙い放てば、何故かろくな防御態勢もとらなかった彼は驚きの声と共に彼方へと吹き飛ばされていく。
その攻撃と同時生じた煙幕が晴れる頃には二人の姿はなく、残されたのは二人の乃木だけであった。

「チッ……」

舌打ちを漏らしたのは、勿論変身すらしていなかった乃木怜治である。
全く同じ能力、性格をしているはずだというのに、あたかも自分であればこんな惨状は生み出さなかったとでも言いたげなその様子に、もう片方の乃木は顔をしかめた。
同じ顔同士がお互いに嫌悪感にも似た表情を浮かべているのは傍から見れば相当シュールな構図であったが、当人たちにそれを気にする様子はない。

「……必殺技を吸収出来なかった。先の形態でフリーズを使えなかったことといい、どうやら前の形態時の能力は消えてしまうらしいな」
「ふん、まぁ問題ないだろう。どうやら吸収済みの技は問題なく使えるようだ。
あの戦いでライジングアルティメットと戦っておいたのがこうして役に立つとは思わなかったがね」

どこかふてくされた様子で、しかし冷静に今の自分について語る乃木。
その思考には既に今逃げた二人など存在していない。

「……葦原涼は遅かれ早かれ誰かに殺されるだろう。
相川始も次会ったときに確実に殺せばいい。それより、今の問題は……」
「俺たちの復活が大ショッカーにとって想定の範囲内か範囲外か、だな」

先ほどまでの空気はどこへやら、乃木たちは息のあった会話で考察を始めていた。
カッシスワームに復活能力があること自体は流石に把握されているだろう。
だがそれすら首輪で制限するつもりだった場合、今それをすり抜け復活した自分たちの存在は大ショッカーに対し優位に立てている唯一の存在と言って差し支えないものになる。

「変身制限はなくなり、戦力は大凡二倍になった。
話に聞く限りでは俺たち以外に復活することが能力として認められている参加者もいないようだが……」
「問題はこれが“想定の範囲外ではあったが野放しにしても問題ない”と捉えられている場合だ。
俺たちの復活というイレギュラーを含めてもなおこの殺し合いの進行、及び対主催勢力と大ショッカーとの力関係に変わりはないと考えられているなら……」
「まぁそれに関しては、直接大ショッカー幹部にでも聞かないことには分からないことだらけだな。
せめて俺たちの復活を警戒して会場に送り込まれたイレギュラーでもいてくれれば、些か気が楽になるのだが」

――本来は、この近辺に彼らを警戒し送り込まれた一人の大ショッカー幹部がいるはずだった。
無論それすらキングを乗せるための言い訳で、彼もまた都合良く送り込まれた殺し合いの促進剤である可能性は否定しきれなかったが。

「――今それを話していても埒があかないな。それより俺たち自身の行動方針だ。
大ショッカーを倒すのは当たり前として、そろそろ反撃に移らせて貰いたいものだがね」
「病院に向かう……悪くはないが首輪解除の為に媚を売らなくてよくなったんだ。
あの生意気な魔少年からは距離を置きたいのが正直なところだね」
「まぁ、俺たちは首輪も外れている。禁止エリアを気にしなくていいという点で言えば、どこへ行っても損はないということになるか」
「――それだ」

何気なく口にした言葉に食いついたもう片割れを見て、すぐさまその言の意を捉えたか、二人は同時ににやりと笑った。

「もしこの会場内に大ショッカーの本丸へ繋がる場所があるというならーー」
「――奴らが率先して禁止エリアにした場所……そこに何かを隠している可能性は決して低くはないな」

それは、いわば彼らしくはない地道な方針であった。
とは言えフィリップによる他参加者の首輪解除を待つまでもなく大ショッカーに打撃を与えられるかもしれないのだから、その可能性を追求するのは決して無駄ではないはずだ。
或いはそれが全くの間違いであったとしても、雲を掴むような大ショッカー打倒に必要な行動を一つずつ試してみるのは、決して無駄ではなかった。

「そうと決まれば……足が欲しいところだな」
「おい、見てみろ」

言って指さした先にあったのは、その身を包む黒故に夜に溶け込んでいるバイク。
思わず近寄り見てみれば、キーも刺さっており、つまりはオートバジンに続く現地調達の支給品であった。
その名を、ブラックファング。

剣の世界に存在するライダーマシンのいずれよりも高い性能を誇る最強のマシンであった。

「あのジョーカー君が派手に暴れてくれたおかげでこいつがすっかり分かりやすいところに出てきたらしいぞ」
「彼に感謝すべき、だな」

軽口を叩きながら共に乗車した彼らは、その服までを含め夜へとその姿を隠しながら、思いきりエンジンを振り絞った。
それを受けファングは轟音を上げ西へと向かっていく。
彼らが去った後、そこに残されていたのは、最早ただの廃墟のみであった。


【二日目 黎明】
【F-6エリア 廃墟】

【乃木怜治@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第44話 エリアZ進撃直前
【状態】健康
【装備】ブラックファング@仮面ライダー剣
【道具】なし
【思考・状況】
0:取りあえず最初に指定された禁止エリア(G-1、A-4)を目指す。
1:大ショッカーを潰すために戦力を集める。使えない奴は、餌にする。
2:状況次第では、ZECTのマスクドライダー資格者も利用する。
3:最終的には大ショッカーの技術を奪い、自分の世界を支配する。
4:志村純一を警戒。まったく信用していないため、証拠を掴めばすぐに始末したい。
5:鳴海亜樹子がまた裏切るのなら、容赦はしない。
6:乾と秋山は使い捨ての駒。海東は面倒だが、今後も使えるか?
【備考】
※カッシスワーム・クリペウス(角あり)になりました。
※現在覚えている技は、ライダーキック(ガタック)、ライダースラッシュ、暗黒掌波動の三つです。 なお新しくはもう覚えられないようです。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
※村上と野上ではなく、志村があきらと冴子を殺したのではと疑っています。
※クロックアップに制限が架せられていること、フリーズ、必殺技吸収能力が使用できないことを把握しました。
※ブラックファング@仮面ライダー剣を運転中です。
※第二回放送を聞いていませんが、問題ないと考えています。




【乃木怜治@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第44話 エリアZ進撃直前
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)
【装備】なし
【道具】なし
【思考・状況】
0:取りあえず最初に指定された禁止エリア(G-1、A-4)を目指す。
1:大ショッカーを潰すために戦力を集める。使えない奴は、餌にする。
2:状況次第では、ZECTのマスクドライダー資格者も利用する。
3:最終的には大ショッカーの技術を奪い、自分の世界を支配する。
4:志村純一を警戒。まったく信用していないため、証拠を掴めばすぐに始末したい。
5:鳴海亜樹子がまた裏切るのなら、容赦はしない。
6:乾と秋山は使い捨ての駒。海東は面倒だが、今後も使えるか?
7:こいつ(もう一人の乃木)にこれ以上無様な真似を見せないようにしなくては。
【備考】
※カッシスワーム・クリペウス(角なし)になりました。
※現在覚えている技は、ライダーキック(ガタック)、ライダースラッシュ、暗黒掌波動の三つです。 なお新しくはもう覚えられないようです。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
※村上と野上ではなく、志村があきらと冴子を殺したのではと疑っています。
※クロックアップに制限が架せられていること、フリーズ、必殺技吸収能力が使用できないことを把握しました。
※ブラックファング@仮面ライダー剣に搭乗中です。
※第二回放送を聞いていませんが、問題ないと考えています。




「ここまで来れば……大丈夫だろう」

ラルクの変身が解けるその時まで走り続けた彼らの足は、F-7エリア最南東にまで及んでいた。
本来病院へ向かおうとしていた涼にとってこの移動はあまり好ましいものではなかったが、贅沢は言っていられない。
乃木たちに変身制限はないのだから、逃げる時は全力を尽くさなくては安全を確保したなどと言えないのだ。

疲労故思わず座り込んだ始の横で、同じく座り込んでいる涼の表情は極めて険しいものだった。

「まさか乃木が、襲いかかってくるなんてな……」

それは、自分たちに牙を剥いた仲間と信じた裏切りについて。
結局は彼も、金居が言っていたようなーー本当は地の石を奪い自分たちを出し抜くつもりのーー存在でしかなかったということなのだろうか。

『――ゲームに反対するって言いながら、乗ってるプレイヤーばっかり助けてさ』

キングの言葉が、思い起こされる。
もしかすればあの病院での金居の言葉が正しく、乃木もまた他の仮面ライダーに敵対する悪でしかなかったというのだろうか。
であれば、今自分の横に座っている相川始を守ろうとしていることも、いつか後悔する時が来るのだろうか。

「――」

ふと、こちらを観察するような始の視線に気付く。
不安、などではない。興味もさほど持ってはいないだろう。
ただ純粋に、自分を見定めるような目であった。

「あの男と、知り合いだったのか」
「……あぁ。病院で一緒に戦った」
「仲間に裏切られたばかりだというのに、物好きな奴だな。
俺を助けたことも、同じようにいずれ後悔するかもしれないぞ」

その言葉を聞いて、涼は思う。
始は今、問うているのだ。
ありとあらゆる存在に裏切られ続けてなお、また新しい厄介を抱え込むつもりがあるのか、と。

しかし涼の答えは、考えるまでもないことだった。

「……俺は、俺が信じたいものを信じる。例え何度裏切られても俺はーー」
「――やはり、甘いな」

しかし涼の変わらぬその決意を聞いて、始は吐き捨てるように言う。
そのまま立ち上がった彼が、どこかへ行ってしまうのかと涼は思わず見上げるが。

「……だがそれを言わせる覚悟は、甘くないらしい」

始は、そこで立ち止まった。

「いいだろう。お前が本当に世界が滅ぶ運命を変えられるかどうか……見定めてやる」
「なっ……じゃあお前も大ショッカーをーー」
「勘違いするな、当面の方針だ。
もしも大ショッカーの言葉が本当で世界が一つしか存続出来ないというなら、俺はお前たちを容赦なく裏切る」
「……あぁ、それでもいい。一緒に大ショッカーを倒そう、相川」

言外に“あまり俺を信頼するな”と匂わせたつもりだったが、涼はそんなことを気にする様子もなかった。
始としては、別に栗原親子を見捨てたつもりではない。
彼女たちの住む世界を守る為の行動としてただ妄信的に大ショッカーに従うというのが効果的ではないと判断したのである。

渡、金居、ライジングアルティメット、自分という敵が徒党を組んでなお及ばなかった対主催に、一抹の希望を見いだしたのだ。
だから、取りあえずは大ショッカーを打倒する為に動く。
無論結果としてこの殺し合いに意味があると分かったときは、容赦なく正義の仮面ライダーたちを裏切ることも躊躇はしない。

ただそれだけの打算的な答えを出したつもりだというのに、始の心はどこか晴れやかですらあった。

(勿論、お前とは戦わねばならないがな……ジョーカーの男)

しかし一方で、木場を殺した自分がのうのうと改心して全てが丸く収まる、などという単純な話ではないことも、始は理解していた。
いやむしろ、ただで許されてはならない。
剣崎を殺した天道総司に擬態しているというワームを始が許すつもりなどないように。

翔太郎もまた、木場の為に自分と戦って貰わねば始の気が済まないのだ。
と、そんな思考を繰り広げる中で。
彼は唯一つ先ほどの戦いで気になっていたことがあったのを思い出した。

(乃木という男は俺がジョーカーだと知っていた……。
葦原は奴が現れてから俺の名を呼んでいなかったというのに……何故だ?)

それは、乃木の情報について。
ジョーカーアンデッド、バトルファイトにおいてその存在が生き残れば世界が滅びる。
その情報自体は恐らく橘が自分を紹介する際に出会った信頼できる存在全てに語っていてもおかしくないことだ。

しかし問題はその先。
カリスとしてハートのラウズカードを使用するところを見たわけでもなく、涼が自分の名前を呼んだわけでもなく、乃木は自分がジョーカーアンデッドだと言い当てて見せた。
黒と緑の怪人、そんなものはこの場では山ほどいるだろうに、何故か“自分の顔を見ただけで自分が相川始である”ということを、ピタリと当てて見せたのだ。

無論、恐らくあの状況では涼は勿論乃木本人さえもその違和感に気付いてすらいないだろう。
人一倍ジョーカーと相川始を同一視されることに敏感な始本人でなければ、自然に耳から抜けてしまっても何ら疑問など持たない点であった。
だからこそ……始にはそれがひどく不気味に思えた。

(どちらにせよ、警戒はしておくべきだな。乃木という男が信用ならないというのはほぼ確実だ)

……彼の覚えた違和感は、ただの杞憂などではない。
乃木怜治に元々支給されていた詳細名簿つきルールブック、その存在による彼の飛び抜けた情報アドバンテージについて、ようやく彼が初めて口を滑らせ、それに敏感に反応する男がようやく現れた、ただそれだけのことである。
つまりは乃木は病院に集まった参加者の情報により純粋に所有する情報量が高まっており、それに付け加え詳細名簿での外見把握でそれらの情報を外見だけで瞬時に判断することが可能になったのだ。

例えば、詳細名簿のみであれば外見と仮面ライダーカリスに変身出来ることしか知り得ない始に関して、ジョーカーの情報を付け加えることが出来るようになった、というように。
それだけであれば、単に情報アドバンテージが大きいというだけの話で済むかもしれない。
だが、先ほど襲いかかられたという事実以上に、他者を疑うことを知らない涼にさえそうした情報を持っていると明かさなかったこと。

それが始にとっては彼を疑うに足る理由だったし、同時に彼と共に大ショッカーを打倒する気にはなれない理由だった。
と、そこまで考えて、思考の一旦を終えた始は、今後の方針を改めて定める為、再度涼へと向き直った。


【二日目 黎明】
【F-7 市街地(最南東)】


【相川始@仮面ライダー剣】
【時間軸】本編後半あたり(第38話以降第41話までの間からの参戦)
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、罪悪感、若干の迷いと悲しみ、仮面ライダーカリスに25分変身不可、ジョーカーアンデッドに1時間55分変身不可、仮面ライダーラルクに2時間変身不可
【装備】ラウズカード(ハートのA~6)@仮面ライダー剣、ラルクバックル@劇場版仮面ライダー剣 MISSING ACE
【道具】支給品一式、不明支給品×1、
【思考・状況】
基本行動方針:栗原親子のいる世界を破壊させないため行動する。必要であれば他者を殺すのに戸惑いはない。
0:大ショッカーを打倒する。が必要なら殺し合いに再度乗るのは躊躇しない。
1:取りあえずは葦原と行動を共にしてみる。
2:再度のジョーカー化を抑える為他のラウズカードを集める。
3:ディケイドを破壊し、大ショッカーを倒せば世界は救われる……?
4:キング@仮面ライダー剣は次会えば必ず封印する。
5:ディケイドもまた正義の仮面ライダーの一人だというのか……?
6:乃木は警戒するべき。
7:剣崎を殺した男(天道総司に擬態したワーム)は倒す。
8:ジョーカーの男(左翔太郎)とも、戦わねばならない……か。
【備考】
※ラウズカードで変身する場合は、全てのラウズカードに制限がかかります。ただし、戦闘時間中に他のラウズカードで変身することは可能です。
※時間内にヒューマンアンデッドに戻らなければならないため、変身制限を知っています。時間を過ぎても変身したままの場合、どうなるかは後の書き手さんにお任せします。
※ヒューマンアンデッドのカードを失った状態で変身時間が過ぎた場合、始ではなくジョーカーに戻る可能性を考えています。
※左翔太郎を『ジョーカーの男』として認識しています。また、翔太郎の雄叫びで木場の名前を知りました。
※ディケイドを世界の破壊者、滅びの原因として認識しました。しかし同時に、剣崎の死の瞬間に居合わせたという話を聞いて、破壊の対象以上の興味を抱いています。
※キバの世界の参加者について詳細な情報を得ました。
※ジョーカーの男、左翔太郎が自分の正体、そして自分が木場勇治を殺したことを知った、という情報を得ました。それについての動揺はさほどありません。
※取りあえずは仮面ライダーが大ショッカーを打倒できる可能性に賭けてみるつもりです。が自分の世界の保守が最優先事項なのは変わりません。
※乃木が自分を迷いなくジョーカーであると見抜いたことに対し疑問を持っています。




【葦原涼@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編36話終了後
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、亜樹子の死への悲しみ、仲間を得た喜び、響鬼の世界への罪悪感、仮面ライダーギルスに15分変身不能、仮面ライダーキックホッパーに1時間55分変身不可
【装備】ゼクトバックル+ホッパーゼクター@仮面ライダーカブト、パーフェクトゼクター@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式
【思考・状況】
基本行動方針:殺し合いに乗ってる奴らはブッ潰す!
0:剣崎の意志を継いでみんなの為に戦う。
1:今は相川と行動を共にする。
2:人を護る。
3:門矢、相川を信じる。
4:第零号から絶対にブレイバックルを取り返す。
5:良太郎達と再会したら、本当に殺し合いに乗っているのか問う。
6:大ショッカーはやはり信用できない。だが首領は神で、アンノウンとも繋がっている……?
7:少し傷を癒やしたら病院に向かいたい。
8:乃木……。
【備考】
※変身制限について、大まかに知りました。
※聞き逃していた放送の内容について知りました。
※自分がザンキの死を招いたことに気づきました。
※ダグバの戦力について、ヒビキが体験した限りのことを知りました。
※支給品のラジカセ@現実とジミー中田のCD@仮面ライダーWはタブーの攻撃の余波で破壊されました。
※ホッパーゼクター(キックホッパー)に認められました。
※奪われたブレイバックルがダグバの手にあったこと、そのせいで何人もの参加者が傷つき、殺められたことを知りました。
※木野薫の遺体からアギトの力を受け継ぎ、エクシードギルスに覚醒しました。
※始がヒビキを殺したのでは、と疑ってもいますが、ジョーカーアンデッドによる殺害だと信じています。

124:紅涙(後編) 投下順 126:ステージ・オブ・キング(3)
時系列順
119:全て、抱えたまま走るだけ 葦原涼 131:飛び込んでく嵐の中(1)
相川始
110:Kamen Rider:Battride War(12) 乃木怜治(角あり) 127:What a wonderful worms
乃木怜治(角なし)


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最終更新:2018年10月05日 00:30