relations.・悲話

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敗者の気持。 考えた事が無い訳でもない。 知らなかった訳でもない。 そんなのは、オーディションで落選した時、あの気持を嫌と言うほど経験して来たから。 けど、今の気持はそのどれとも違う。 まるでスタートの違う、別な次元の物。 だが、明らかに敗けた事だけは判っているのだ。 けれど、それを教えてくれているのは、積み上げた経験や知識等ではない。 ──── もっと体の奥に潜む何か。 それが告げてくれている。 いや ──。 きっと認めたくないだけなのだろう。 そんな感情に振り回される事を軽蔑してきた、もう一人の偽りの自分が。 素直な女性なら、簡単に理解出来る事なのに。 本能が告げているのに。 ─── 『あの娘に敗けた』んだ、って。 ■ この人の唇が描いた、あの娘の名の形。 遡る血流。 早鐘の如き鼓動。  …ナン…デ………? 「……どうして? 何故…、なんですか…?」 混乱した意識で、半ば無意識に口を付いた問い。 「──すまん。」 垂れた頭と共に返って来た答えは唯一言。 再び現われた苦渋の表情を湛えたこの人の瞳には、何時も映っていた私の姿は、もう映っていない。 この否定したい現実。───── それが、紛れも無い真実である事を私に突きつける。 だけど。 もう判ってる、そんな事。  ・・・・・・・・・・・・ 『夢にしてしまったのは自分なんだ』って。 明るくて、素直で。 一途に、好きだって感情を自身の全てでぶつけるあの娘。 そんなあの娘に、この人の心が傾いて行くのを誰が責められるだろうか? 判っていて、斗う事を選ばなかったのは自分の所為なのに? それでも、だ。 判っていても。 気が付いていても。 それでも縋れるのは、もう私にはこの人しかいない。 「── ふ、ふふ…」  ───── 何時の間にか心の隙間を塞いで来てくれたのは、この人なのに。 「今まで、私が見てきたのは─── 」  ──── この人がいるから、私は何処までも飛べる翼になれるのに。 「──夢だったんですね…」  ───── この人の隣が、私の居場所だって気が付いたのに。 何かを欲していたからなのかも知れない。 そうじゃなければ、何かを確かめたかったからなのかもしれない。 心が。 言葉じゃない言葉。 意識じゃない意識。 私が紡いだのは、心の声。 静まりかえった部屋。 2人の間に有るのは、音の無い世界。 軋み続ける心に、行き場のない慟哭が吹き荒ぶ。 ギリギリの平衡を崩すのに、多くの要素は要らない。 少しだけの些細な切欠。 必要なのは、たったそれだけ。 それに抗う術は、今の私には何処にも無いから。 「すまん。──」 静寂を破って再びこの人から紡がれたのは、さっきと同じ台詞。 それが私の聞いた、この人からの最後の言葉。 何かが割れる様な音が聞こえた。 心が、砕ける。 ■ 「開けろっ! 開けてくれっ!」 何処からか、扉を叩く音が聞こえる。 でも、それはとても遠い音。 屋上に立つ私の眼前には、煌びやかな街の明かりと満天の星空が広がっている。 遮るものは何一つ無い。 ああ、なんて素敵なのだろう。 この世界は、こんなにも広いだなんて。 さあ、飛ぼう。 私は、もっと遥かな高みを目指さなければいけないのだから。 だって、私には ───── 『何処までも飛べる、翼が有るのだから。』  「止めろっ!! 馬鹿な真似は止せっ! 千──」 虚ろな瞳が、天を見つめる。 ~ relations.・悲話 ~ end
敗者の気持。 考えた事が無い訳でもない。 知らなかった訳でもない。 そんなのは、オーディションで落選した時、あの気持を嫌と言うほど経験して来たから。 けど、今の気持はそのどれとも違う。 まるでスタートの違う、別な次元の物。 だが、明らかに敗けた事だけは判っているのだ。 けれど、それを教えてくれているのは、積み上げた経験や知識等ではない。 ──── もっと体の奥に潜む何か。 それが告げてくれている。 いや ──。 きっと認めたくないだけなのだろう。 そんな感情に振り回される事を軽蔑してきた、もう一人の偽りの自分が。 素直な女性なら、簡単に理解出来る事なのに。 本能が告げているのに。 ─── 『あの娘に敗けた』んだ、って。 ■ この人の唇が描いた、あの娘の名の形。 遡る血流。 早鐘の如き鼓動。 …ナン…デ………? 「……どうして? 何故…、なんですか…?」 混乱した意識で、半ば無意識に口を付いた問い。 「──すまん。」 垂れた頭と共に返って来た答えは唯一言。 再び現われた苦渋の表情を湛えたこの人の瞳には、何時も映っていた私の姿は、もう映っていない。 この否定したい現実。───── それが、紛れも無い真実である事を私に突きつける。 だけど。 もう判ってる、そんな事。 ・・・・・・・・・・・・ 『夢にしてしまったのは自分なんだ』って。 明るくて、素直で。 一途に、好きだって感情を自身の全てでぶつけるあの娘。 そんなあの娘に、この人の心が傾いて行くのを誰が責められるだろうか? 判っていて、斗う事を選ばなかったのは自分の所為なのに? それでも、だ。 判っていても。 気が付いていても。 それでも縋れるのは、もう私にはこの人しかいない。 「── ふ、ふふ…」  ───── 何時の間にか心の隙間を塞いで来てくれたのは、この人なのに。 「今まで、私が見てきたのは─── 」  ──── この人がいるから、私は何処までも飛べる翼になれるのに。 「──夢だったんですね…」  ───── この人の隣が、私の居場所だって気が付いたのに。 何かを欲していたからなのかも知れない。 そうじゃなければ、何かを確かめたかったからなのかもしれない。 心が。 言葉じゃない言葉。 意識じゃない意識。 私が紡いだのは、心の声。 静まりかえった部屋。 2人の間に有るのは、音の無い世界。 軋み続ける心に、行き場のない慟哭が吹き荒ぶ。 ギリギリの平衡を崩すのに、多くの要素は要らない。 少しだけの些細な切欠。 必要なのは、たったそれだけ。 それに抗う術は、今の私には何処にも無いから。 「すまん。──」 静寂を破って再びこの人から紡がれたのは、さっきと同じ台詞。 それが私の聞いた、この人からの最後の言葉。 何かが割れる様な音が聞こえた。 心が、砕ける。 ■ 「開けろっ! 開けてくれっ!」 何処からか、扉を叩く音が聞こえる。 でも、それはとても遠い音。 屋上に立つ私の眼前には、煌びやかな街の明かりと満天の星空が広がっている。 遮るものは何一つ無い。 ああ、なんて素敵なのだろう。 この世界は、こんなにも広いだなんて。 さあ、飛ぼう。 私は、もっと遥かな高みを目指さなければいけないのだから。 だって、私には ───── 『何処までも飛べる、翼が有るのだから。』  「止めろっ!! 馬鹿な真似は止せっ! 千──」 虚ろな瞳が、天を見つめる。 ~ relations.・悲話 ~ end

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