ある夜の事務所

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「規制ですねー、律子さん。どこにも書き込めませんよ」 「そうですね。でもここは会社ですから仕事してください小鳥さん」 「もう定時過ぎましたし、優先順位あるのは全部終わってますよ。なにしろ仕事くらいしかすることが」 「なにかおっしゃいましたか?」 「なんでもないですよう、冗談じゃないですか」 「冗談じゃないって知ってるから言ってるんですよ」 「律子さんのいけずー。自分だって涼ちゃんに私用メールがんがん打ってるくせに」 「あれは芸能人の先輩として後輩にっ!」 「真ちゃんがその涼ちゃんとスキャンダルになりかけた時、公式掲示板とアイドル板の類焼阻止したの誰でしたっけ」 「うっ」 「律子さんに書き逃げサーバー用意してもらったとは言え、ピヨさん7色の別人文体も多少はお役に」 「はいはいあの時はお世話になりましたっ!ソースなしで961プロの捏造疑惑に結びつける手際には舌を巻きましたよ」 「直接そんなコメントしてないのに、あそこは不思議なインターネットですねー。自分の妄想同士で口ゲンカしてるだけで、誰かが勝手に現場にいる黒井社長の画像とか用意するんだから」 「どういうわけだか激写の30分前の時刻のがね。あれも小鳥さんでしょ」 「どうしてあそこの住人さんはexif情報が残ってると鵜呑みにするんでしょう。不思議でなりません」 「もういいですよ。961もノーコメントで通したから早々に下火になりましたし、後始末も全部終わりましたから。小鳥さん、終わってるなら帰りませんか?」 「そうですね。今日はもうプロデューサーさんたち戻ってこないし」 「そのままお帰りですか?私、今晩両親いないんですけど――」 「えええっ?『今夜は帰りたくないの』ってことですか?き、禁断の花園っ?」 「ぶは?な、なに言ってるんですか、どこかでごはん食べて帰りませんかって言おうとしてただけですっ!」 「わかってますよ、律子さんたらウブなんだからぁん」 「やっぱり帰ります。一人でご飯作って今日のこと全部忘れて寝ます」 「ちょ、ちょっとした冗談じゃないですかぁ、一緒にお食事しましょうよう。エブリデイ孤独のグルメは寂しいんですよう」 「……もう、わかりましたよ。私から誘ったんだし、下のお店でいいですか?」 「わーい、ありがと律子さん♪」 「どうして小鳥さんとお話してるとこうなるんでしょうかね」 「きっと愛し合ってるから……って、うわぁ、いい表情しますねえ。背筋が凍りそうです」 「そうなるって判っててなぜ言うんですか」 「そういうときの律子さん、すっごく可愛いんですもん」 「?!」 「正確には『こうやって切り返した後の』、ね。プロデューサーさんにその顔見せてあげればいいのに」 「は……っ?ど、な、なんであんな人にっ」 「さあさあ、いいからまいりましょうっ、パソコン切って帰りましょうっ」 「はぁ……早く規制解ければいいのに」 「そうなったら大変ですよ?」 「どうしてですか」 「今度は書き込むネタ探さなきゃなりませんし……ああっ?待ってください置いてかないでください律子さーん」

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