three months later

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資料:関連カレンダー     2 月 月 火 水 木 金 土 日  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28     3 月 月 火 水 木 金 土 日  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31     4 月 月 火 水 木 金 土 日        1 2 3 4  5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18  19 20 21 22 23 24 25  26 27 28 29 30  冬将軍率いる寒気団は、1月の間は深く守って時折ロングボールを放り込んでくるだけだったが、この2月に 入ってからと言うもの、ようやく日本列島に強烈な前線からのプレスをかけて来ていた。そうして2月も第2週 の日曜日を迎え、今日も寒気団が全員攻撃で押し上げて来ているのであった。  そんな寒い寒い2月の14日。天海春香は完全なる朝を迎えていた。  どのくらい完全かと言うと、今日着ていく予定の服は、全て昨夜の内にクローゼットから出されて床に並べら れており、その横に置かれたトートバックには、財布にハンカチ、ティッシュに化粧直しのポーチと言った普段 持ち歩くものに加えて、2つの小さなプレゼントボックスも全て奇麗に収められているのである。その小さな箱 の中身はと言うと、一つには無難にネクタイ、もう一つには手作りの小さなハート形のチョコレートが、スイート とビターの2色で詰められている。ラッピングも万全、リボンも慣れたもので美しく結ぶことが出来た。一瞬、 自分の愛用のリボンを結ぼうかと思ったのだが、食べ物の入った箱だからと、やめておいた。  寝る時には、枕元に置いておこうかと思った春香だが、とある歌の歌詞を思い出して、万が一の不測の事態に 備えて、ベッドから一番遠い所に置いた。そのくらい考えられる全てのリスクを排除して、迎えた朝である。 唯一、誤算と言えるのは、緊張と不安でなかなか寝付けなかったことだろう。おかげで朝起きる時間がギリギリ になった。しかし、この辺りは想定内で、そのために服の準備は全て済ませてある。  顔を洗って、鏡に向かう。手慣れたナチュラルメイクも、今日はちょっとだけ念入りに。  最後にリップを塗りながら、春香の胸にまた不安が持ち上がる。  なんと言っても、今日はアポなし突撃である。  事務所に行くのも、春香がアイドルを休業する前、解散コンサートの日以来の3ヶ月振りになる。  その間、早くも次の活動に向けた準備を始めた伊織や律子から、プロデューサーさんの行動の情報は逐一 もらっていた。それによると、だいたい行動パターンは3人をプロデュースしていた頃と同じ。 「だとすると、日曜日はまず朝一番に事務所に来て、メールのチェックと残った書類の片付け、よね。」  自分の確信を深めるべく、口に出して確認。しかし、その時間を逃すと、やれイベントの手伝いだ、やれ現場 の下見だと、出かけてしまうことが多い。とにかく、まずは事務所に行かなくてはいけない。彼に、プロデュー サーさんに会わなくては、全てが始まらないのだ。受け取ってもらえるかどうか、そんなことは二の次だ。  受け取ってもらえるかどうかは・・・  ・・・・・  もしかして、受け取ってもらえなかったりとか?  新たな不安が襲ってくる。  いや、本来2月14日にアポなし突撃を敢行しようなどと言う女性にとっては、最初に持つべき不安だ。 「ええい、悩んでどうする!当たって砕けろ、だよね!」  って、私、3ヶ月前に一度本当に当たって砕けてるんだっけ。  も、もう一回くらい当たって砕けたって、一緒・・・じゃないかも?  心に弱気の芽が顔を出す。  ううん、こんなんじゃいけない。  鏡に向かって、つぶやく。 「春香ちゃんは可愛い。春香ちゃんはお菓子作りがうまい。春香ちゃんは出来る子!」  必殺の自己暗示である。春香本人は、自己暗示という言葉が思いつかず、つい自家発電とか呼んでいるが。 アイドル活動開始当初、自信を失って舞台に立てなくなりそうな時も、春香はこうして自分を鼓舞してきた。 そうして様々な苦難を乗り越え、トップアイドルまで上りつめたのだ。その魔法の言葉の効果はてきめんだ。 「よし!じゃあ、出かけようっと!」  最後にもう一度鏡を覗いてチェック。メイク、OK。髪、OK。  チラリと、鏡の脇に並んでかけられたリボンに目をやる。久しぶりにリボンを結ぼうかな、とも思ったが、 やはり、あの日以来付けていないリボンは、付けずに出かけることにした。  買ったばかりの新しいコートを羽織り、マフラーをして、完成。 「行ってきまーす!」  玄関口で元気に家族にあいさつ。先日一度履いて足に慣らした、お気に入りのパンプスに足を通す。そして、 ドアを開けて、外に出る。 「白っ!」  外は一面の雪景色だった。  どうりで寒かったわけである。昨夜から降り始めた雪は、春香の住む田舎町をすっかりすっぽり覆っていた。  躊躇っている時間の余裕はない。春香は雪の中に一歩を踏み出ツルッ  ずぼっ  深さ15cmほどまで重なった雪の層が、前のめりにすっ転んだ春香の体を衝撃から守ってくれた。  おかげで痛みこそなかったが、春香は泣きそうだった。顔から雪に突っ込んだけど、メイクは乱れてない かな?それより、せっかくの新しいコートが雪まみれだよぉ、それと、靴はこれじゃムリ。雪の中歩けない。 せっかく服と靴と合わせてコーディネートしたのにぃ。  家の中に引き返す。ブーツを取り出して、しかしそこで考えこんでしまった。このブーツなら滑らないけど、 こんな深い雪の中を歩いたら、濡れて色落ちするかも。  すでに迷う暇はなかった。下駄箱から赤いゴム長靴を引っ張り出す。そして、今度こそ雪の町へと勢い良く 飛び出して行く春香だった。  うう・・・結局、こんな子供っぽい靴になっちゃった・・・  普段雪の降らない地方の交通機関は、雪に弱い。  ましてや、大量の通勤客を捌かないと日本経済に甚大な影響を与える平日ならともかく、休日の朝である。 春香が駅に着くと、列車表示は平気な顔で「一部列車運休。及び30分程度の遅れ」を示していた。  それを見て、軽い目眩を覚えた春香だったが、すぐに気を取り直して列車を待つことにした。待つ間、よほど プロデューサーさんにメールをしようかと思ったが、やめておいた。  多分、今ここでメールをすると、返事は「無理に来なくていい」と返ってくると思ったから。  それは、きっと正論。でも、そうはいかない。私は行く。行かなきゃいけない。  ここに止まっていたら、何も変わらない。  そしてようやくやって来た電車は、元からが30分の遅れだった上に、本日は急行運転取りやめとのことで、 各駅に停車しながらのんびりと都心へ向かっていった。  事務所の前に着いた春香は時計を見た。  現在の時刻、午前10時30分。何度見ても時間は変わらない。予定では、遅くとも9時には着きたかったが。  これもみんな大雪のせいだ。しかしその張本人である大雪は、都心ではさほどの降りでもなかったようで、今や あがっている上に、地面はすっかり乾いてるしで、せっかくの大活躍の舞台を与えられた赤いゴム長靴も、本来の 性能をここでは発揮できずに、ただつやつやな真っ赤なその見た目で、春香の気合の入った服装とのミスマッチを 声高に主張し続けるだけの存在と成り下がっていた。  今更しかたない。とにかくエレベーターに乗って、事務所のあるフロアへ。  扉を開け、3ヶ月ぶりの事務所に入る。 「おはようございます・・・」  小さな声で挨拶。一応照明の点いている場所はちらほらあるが、人の気配はほとんどない。  プロデューサーさんの机の方へ行く。付近の照明は消えている。がーん  やはり、プロデューサーさんの席はもぬけのカラだった。  呆然とする春香の後ろから、女性の声がした。 「あの、どちらさまですか?」 「え?あ、小鳥さん?」 「その声は・・・春香ちゃん?」 「そうですよ。春香です。ご無沙汰してます。いやだなあ、忘れちゃったんですか?」  いくら3ヶ月ぶりとは言え、忘れてるはずはない、と思いながら、いたずら半分で言ってみた。もしかして、 今日の服があまりにキマッてるから別人に見えた、とか? 「ふふっ、さすがに忘れるわけはないですよ。ただ、服装もいつもと違うし、ちょっとすぐに気がつかなかった だけです。別に、リボンがないから誰だかわからなかった、ってわけじゃないですからね?」  そうか。リボンがなかったからか。 「それに私、今日はコンタクトをしてなかったから。」 「ええっ?小鳥さん、普段コンタクト使ってるんですか?知りませんでしたよ、私。」 「ううん、別に普段もコンタクトしてるわけじゃないですよ。ただ、こういう言い方をすると、言い訳に使える かな、と思っただけです。」  なんじゃそりゃ。 「ところで、小鳥さん。今日、プロデューサーさん見てませんか?」 「今日は見てないですよ?あ、ほら、机の上のノートパソコンも持って帰ってるみたいだから、今日は出社する つもりはないんじゃないかしら?」  がーん 「今は、個人情報の保護がうるさいでしょう。だから、たとえ事務所の中の人同士であっても、住所とかは教える わけにはいかないのよ。」 「ええっ!!そ、そんなあ・・・」 「でも、私の机の上にあった書類を、偶然春香ちゃんが見ちゃったとしたら、それは仕方ないことですよね。」  小鳥は、書類のページを開くと、そのまま席を立った。  そのページには、春香の質問の答え、プロデューサーさんの住所が書いてあった。 「小鳥さん、ありがとうございます!」 「偶然ですから、お礼は要りませんよ。」 「じゃあ失礼します!」  さて、これからプロデューサーさんの家、と言うか部屋に、乗り込まないといけない。  春香は気合を入れ直した。 「あ、春香ちゃん?」  小鳥が呼び止めた。春香はくるりと振り向いて応える。 「はい?」 「頑張ってね!」  あ・・・  さすがにバレバレだよね、と思ったが後の祭りである。顔が熱を持ってくるのが自分でもわかった。 「は、はい!頑張ってきます!」  うわ。これでもう明日中には、事務所のみんなに知られちゃうよぉ。  しかし、先のことを気にしてもしょうがない。まずは、この住所の場所に辿り着くことが最重要だ。 どうやら目的地はアパートかマンションの部屋のようである。えっと、住所は新宿区上落合・・・確か、 そんな名前の駅があったような気がする。  携帯電話で検索。上落合という駅はなかった。  じゃあ、落合?・・・と見てみる。  あった。JRと地下鉄とあるみたい。  よし、じゃあJRの駅で、乗り換え検索、っと。  出た。ええと、まずは上野に出て、乗り換えて新幹線で八戸、そこから特急で函館、さらに南千歳でもう一度 各駅停車に乗り換えると、明日の朝9時には着く・・・って、ええっ!? 「プロデューサーさん、毎日そんな遠くから通ってるの!?」  なわけないじゃん。  毎日北海道から東京に通って仕事してるなんて、どう考えてもあり得ない。  その前に住所は新宿区だし。  さあ、もう一度気を取り直して・・・と思ったら、携帯にメールが届いた。  もう。誰?今忙しいんだから!  そう思いながらも、一応確認してみると、律子さんからだった。  開く。  内容は、事務所からプロデューサーさんの家までの経路案内、最寄り駅からの道順、地図までも含まれていた。 「えええええっ!?」  春香は思わず振り返って周囲を確認する。  誰か私のこと監視してる?  とりあえず、周囲に知った顔は見つからなかった。  メールの続きを読むと、最後には、こう書かれていた。 『小鳥さんに聞いたわよ。頑張ってね。From律子』  明日中どころか、知れ渡るには今日中でも十分なようだ。  でも、本気で助かりました、律子さん! 『ありがとうございます!おかげで北海道まで行かずにすみました。』っと、送信!  さあ行くぞ。目指すは下落合駅! 「着いた!」  下落合の駅から徒歩10分。目指したアパートがあった。律子さんのメールに添付されていた建物の外観とも 同じ白い壁の鉄筋コンクリート三階建てだし、間違いない。  階段を上がって2階に。部屋番号を順に辿る。 「ここだ。」  表札を確認。間違いなし。  すー はー  深呼吸を一回。もう一回。  よし。準備完了。  呼び鈴に指をかける。ぐっと押し込む。  指を離す。  しーん・・・  返事がない。  もう一度押す。離す。  ・・・あれ?  普通、こういう呼び鈴って、押した方からでも、鳴るのがわかるんじゃなかったかな?  今、押したけどなんにも音がしなかったよね?  もう一回押してもやっぱり返事はないし、もしかして故障中?!  えいえい、っと数回立て続けに押してみる。  ダメだ。  春香は、部屋のドアをノックした。  こんこん・・・  返事がない。  今度は少し大きめの音でドアを叩く。  どんどん!  やはり返事はない。  もしかして、留守だったり!?  失礼とは思いながら、試しにドアのノブを握り、動かしてみる。がちりとロックされていて動かない。  どうしよう・・・  力は抜けていく。しかし頭の中はぐるぐる回りだす。  もう手段を選んではいられない。そう結論を出した。プロデューサーさんの携帯に電話をかけることにした。 呼び出し音が鳴って・・・ん?  なんか、この部屋の中から電話が鳴ってる音がするんだけど?! 『ただいま電話に出ることが出来ません。ご用の方はメッセージを』呼び出し音が留守電メッセージに変わる。 と、部屋の中の電話も鳴り止んだ。  もう一回ダイヤルする。部屋の中から電話の鳴る音がする。切る。音が止まる。かける。鳴る。切る。止まる。  置き忘れたか、あえて持たなかったか。プロデューサーさんは携帯を持たずに出かけたらしい。  事務所に行って、部屋に行って、電話して・・・  春香には、もう何も手段は残されていなかった。  へなへな・・・ぺたん  たまらずにその場にへたり込んだ。 「やっぱり・・・ちゃんと連絡して、約束しとけば良かったかな・・・」  ぐすっ、と鼻をすすった。視界がじんわりとぼやけてきた。 「こんなとこで、何やってんだろう・・・私・・・バカだな・・・うっ、ううっ・・・」  涙がこぼれてくるのを、止めることができない春香だった。 「あのぉ・・・すみません。そこ、俺の部屋なんですけど、何か御用ですか?」 「ほえ?」泣き崩れる春香に、背後から声がかかった。 「プ、プロデューサーさん?!」 「え?は、春香?その声は春香じゃないか?!」  まごうことなき尋ね人がそこにいた。ジャージにサンダル、その上にダウンのコートを羽織って、髭も剃らずに、 髪は寝起きのボサボサのままといういでたちで。手にはコンビニの袋をぶら下げて。  かたや訪れたヒロインは、目を泣き腫らし、鼻も赤く染まり、目元のメイクは半分流れてる上に鼻水まで垂らし た状態での、3ヶ月ぶりの再会であった。 「え、えっと・・・とにかく、そこに座ってるわけにもいかないだろうから、上がってくれ。」 「はい・・・お邪魔します。ぐすっ。」  洗面所を借りて顔を洗いながら、春香は考えてみた。  プロデューサーさんにしてみれば、ちょっとコンビニに行って、帰ってきたら、自分の部屋の前で女の子が 泣いていた、という状況である。それも知ってる子、泣かれる心当たりもない(多分)。  やっぱり、なんでこんな状況になってたのか、説明するべきだろうか。  でも、なんて説明したらいいんだろう? 『プロデューサーさんの部屋の前で、座り込んで泣いている私』なんて状況、考えるまでもなく、とんでもない。  それにしても、泣くことないじゃん私。それも人の部屋の前で。  後悔先に立たず。 「春香、紅茶とコーヒー、どっちがいい?ちなみに紅茶はティーバッグで、コーヒーはインスタントだけどな。」 「あ、はい。紅茶お願いします。」 「そのソファーにかけてくれ。散らかってるけど気にしないでくれよ。」  そう言うけど、独身男性の一人暮らしにしては、居間は小奇麗だと思う。  春香がソファーに座ると、プロデューサーさんがキッチンから湯気の出たカップを二つ持ってきた。 「ほら、紅茶。熱いから気をつけてな。」 「ありがとうございます。いただきます。」  カップを持つと、暖かさが伝わってくる。自分の体が冷えていたことを、ようやく自覚した。 「落ち着いたか?」 「え?あ、はい。」  一瞬、何のことか、と思った春香だが、思えば自分が泣いていたんだった。 「もう、大丈夫です。」 「そうか。」  プロデューサーさんは、それ以上は何も聞かなかった。  しばしの沈黙。 「春香、今日はリボンしてないのか?」  プロデューサーさんの質問は、そっちだった。 「はい。ちょっとイメチェンで、最近付けてないんです。」 「ちょっとどころか、かなりのイメチェンになってるぞ。」 「それと、リボンしてると、街を歩いてても『あっ!天海春香だ!』って言われることも多いんですけど、して ないと、まず言われることもないんで、アイドル休業中は、リボンしないことにしました。またアイドル活動を 始めた時は、付けようかな、って思ってます。」 「ああ・・・やっぱり、一般の人もリボンがないと気付かないのか。」 「納得するところ、そこなんですか?」 「いや、場を和ますための冗談だと受け取ってくれ。」 「あまり和みませんよ・・・」  むしろ、テンションダウンだ。 「ところで・・・今日は、何か用か?」  はっ!  そうだ!大事な用があったんだ!  しっかりしろ!私!和んでる場合じゃないよ!  ごそごそ・・・とカバンの中を探る。あったあった。 「あの、今日は何の日か、わかってますか?」 「2月の第2日曜日。俺の1ヵ月ぶりの休日だ。」 「・・・」 「あああ、すまん!わかってる!わかってるけど、男の口からは言い辛いじゃないか?!」 「プロデューサーさんの場合、本当にわかってない、ってことがありそうなんですよ・・・」 「いや、だいたい、俺の方から、何か用か、って聞くこと自体がすでに変だったんだぞ?」  それもそうだ。  プロデューサーさんなりに、言い出しやすいように気を遣ってくれていたんだ(!)  私は別に、言い出し辛かったわけじゃなくて、それ以上に混乱してただけなんだよね。  よし。気を入れ直して。ちゃんと渡そう。 「これ、バレンタインのプレゼントです。受け取ってください!」  二つの包みを、まっすぐに差し出す。まっすぐな視線と共に。  その視線を真正面から受け止めた彼は、包みに手を伸ばした。 「ありがとう。」  そう一言。  ちょっと照れくさそうに。  こんなプロデューサーさん、初めて見るかも。  そう思った春香は、ふっと緊張が解けて、自然な笑顔を作っていた。  日本全国、百万人のファンを魅了した、あの笑顔を。  やっぱり、ここまで来てよかった。 「開けてもいいか?」 「はい。」  最初の包みはネクタイだった。  赤地に細かい模様がドット調で並んでいる。カジュアルにもフォーマルにも使い勝手のよさそうな柄。  ただし、よく見るとその細かい模様はリボンなのだ。  もう一つは、ハートの形の小さなチョコレート、スイートとビターの二色が、ぎっしり。 「いただきます。」  さっそく一つ口に放り込む。 「ん、うまいな。これ、春香の手作りか?」 「そうなんです。」  えへへ・・・ほめられた。 「このネクタイもいいな。早速明日していくか。」 「あ!えーと・・・ちょ、ちょっと、しばらくしてから使ってもらった方が・・・いいかも?」  赤地にリボン柄のネクタイ。  今日の事情を知ってしまった事務所の人が見ると、きっと一目でピンと来る。  そうなった時のことを思うと、それだけで恥ずかしい。 「そうか?でも、どうして?」  説明をしちゃうと、このネクタイをしてくれないかもしれない。 「な、なんとなくですよ!なんとなく!」  無意味に顔を真っ赤にして、春香は答えた。 「・・・・?・・・わかった。そうすることにするよ。」  理由はわからなくとも、必死さは伝わったらしい。 「春香、その・・・3月の第2日曜日って、予定あるか?」 「え?」  3月の第2日曜日・・・それって何の、とまで言いかかった。  14日じゃない?!  あぶないあぶない。もし言っちゃってたら、プロデューサーさんのこと言えないよ。  でも、素直にホワイトデー、って言ってくれればいいのに。 「友達と、もう少し暖かくなったら遊園地に行こう、って約束してるんですよねぇ。できれば混んじゃう春休み になる前にしたいなあ、って思ってるんで、もしかすると、その辺になるかも・・・」  半分本当。  でも半分は意地悪。 「そうか。それは残念だな・・・」  でもでもプロデューサーさんは、もっと意地悪! 「あ!で、でも、なんとか、予定あけられると思います!きっと大丈夫です!!」  それを聞いて、プロデューサーさんは笑った。どちらかと言うとニヤリという感じで。  やられた。 「じゃあ、食事でも行こう。日曜日なら夜は大丈夫だと思うから。」 「はい!」  うわあ・・・。  夢みたい・・・。  私こそ、素直に最初から、その日は大丈夫って言えばよかったかな? 「まあ、多分これからはしばらく、日曜は昼間も大丈夫だと思うんだがな。ようやくライブDVDも発売になるし、 仕事も一段落したから。」 「あ。この間のラストライブのですね?うちにも見本が届きました。まだ見てないですけど。あのジャケット、 凄いカッコいいですよね。」 「だろ?」  そう言って、彼は春香の後ろの壁を指差す。 「わっ!私だ!気がつきませんでした。」  ジャケットの絵のポスター。  真ん中に、片手を挙げてポーズを取る春香。その右に、儚げな笑みを浮かべた伊織、左には熱唱する律子。  いずれもライブ中の写真だ。 「月末には、ライブ中の風景を収めた写真集も出るぞ。」 「そうですか・・・なんか、ついこの前のような、すごい昔のような・・・」  ポスターに顔を向けたまま、応える。 「ああ、そうだな。俺もそんな感じだ。」 「この時の律子さん、凄かったですよね。」 「いつもは、春香と伊織に対して一歩引いた感じがあったんだけど、このライブでは負けじとアピールしている みたいだったな。三人とも全てを出してきてるのがわかって、凄まじいばかりだった。律子はあれがアイドルと しての最後のライブになるかもしれないと、そういう思いもあったんだろうな。」 「あ。律子さん、やっぱりアイドル続けないんですか?」 「うん。この前、次はプロデューサーになるって、社長とも話して決めたみたいだ。」 「そうなんだ・・・。」 「まあ、それはいいんだが、俺が4月からやよいをプロデュースする予定だったのに、持っていかれちゃったん だよなあ。」  どきっ  プロデューサーさんが、別の子をプロデュース・・・  うん。当然・・・だよね。 「伊織とやよいとデュオにするんですか?」 「そうらしい。律子はやっぱり、マニア狙うのが好きみたいだ。」 「じゃあ、プロデューサーさんは、誰をプロデュースするんですか?」 「うん・・・まだ未定だけど、亜美あたりかな、と思ってる。」 「え・・・やよいを取られたから、今度は亜美・・・」  ふと、疑惑が頭を持ち上げる。 「そう言えば、前の私たちのユニットにも、伊織がいたし・・・もしかして?!プロデューサーさんって、まさか そういう趣味が?!」  だから、私ともつきあえないとか?  私だって、まだ16歳ですよ?世間的にはロリコンって言われかねない年ですよ? 「おい!春香、なんか激しく誤解してないか?」 「い、いえ!誤解してません!むしろ、ようやくプロデューサーさんのこと、ちゃんと理解できた、って言うか。」 「それが誤解だって言ってるんだよ。俺は別にロリコンとか幼女好きとか、中学生以下しか女性と認めないとか、 そんなことは全然ないぞ。」 「じゃあ・・・どうして、765プロでも年少の子ばかりプロデュースしようとするんですか?」 「う・・・それは・・・その・・・」  明らかに隠し事がある態度で口ごもる。 「やっぱり・・・」 「いや、そうじゃない。でも、確かに理由はあるんだが・・・。」 「だったら、わかるように説明してくださいよ。」 「・・・よし。わかった。」  覚悟を決めた様子で、プロデュースさんは話を始める。 「実は、怖いんだ。」 「怖い?もしかして、大人の女性が怖いんですか?」  そうだったんだ?!  だから、私とつきあってはくれなかったんだ! 「違う違う!もっと上の、高校生以上の女の子を担当して、恋愛沙汰になったりするのが、怖いんだよ。」  ああ、なんだ。そうか。  ・・・え?  それって、私のこと?  私みたいに、担当のプロデューサーを好きになっちゃったり、そういうことが怖い・・・ってこと?  もう、そんなのはこりごりってこと?  もしかして、私って、迷惑だったのかな?  だから、理由も言いづらそうにしてたんじゃない?  そうだよね。怖いって言ってるくらいだし・・・  こんな休みの日に、家にまで押し掛けて来て、大迷惑だよね・・・ 「・・・ごめんなさい。」 「え?どうした、春香?なんか様子が変だぞ?」 「ごめんなさい!私、帰ります!」  だっ! 「お、おい春香?!」 「さようなら!プロデューサーさん!」  バタバタ、と廊下を駆け抜ける。  玄関で、一番目立つ赤のゴム長靴に足を突っ込む。  またいつの間にか涙が出てきた。 「待て!春香、また誤解しただろ?」  プロデューサーさんが追ってくる。 「さようなら!来ないでください!」  泣きながら走る。  ああ、もう、この長靴は走りづらくて・・・  どんがらがっしゃーん 「春香!大丈夫か!」  プロデューサーさんが駆け寄る。 「うう・・・優しくなんて・・・しないで・・・ひっく、ください・・・」 「そうはいくか。」 「だって・・・迷惑だったんですよね・・・だったら、そう言ってくださいよ・・・」 「春香、俺の話を、よく聞いてくれ。」  プロデューサーさんが、春香の正面にまわって、両肩をつかむ。  そして、まっすぐに目を見て、話し始めた。 「俺、春香と約束したよな。」 「え?」 「いつか、春香がアイドルをやめた時、俺のところに帰ってくる、って。」 「・・・でも、それは・・・」 「俺は、春香とそう約束したと、思ってる。だから、今後他の女の子をプロデュースした時、たとえ向こうの 片思いでも、その子と恋愛沙汰になったりしたら、春香がどう思うか、そう考えると、怖いんだ。」  えっ?  えええええっ?! 「ふええええ~~ん!」 「な、なんでそこで泣くんだあ!」 「嬉しいんですよお~。ふえ~ん」 「それにしても、声上げて泣くことないだろ?」 「だって・・・ひっく、プロデューサーさんが、勘違いさせるようなこと言うから・・・」  プロデューサーさんが頭をかく。 「いや、俺は最初から、今の意味で言ったつもりだったんだが・・・。」  ああ・・・さすが、プロデューサーさんだ。  自分にとっては、告白に近い意味で、言いづらかったことを言ったのに、無神経な言い方で、肝心の相手に 見事に誤解されるなんて。 「そんなの、絶対に勘違いするに決まってるじゃないですかぁ。ぐすっ。」  本当は、凄く嬉しいはずなのに、全然素直に喜べないよ。 「悪かった。だから、機嫌直してくれ。な?」 「じゃあ、あの、4月の第1土曜日、予定空けてください。」 「4月?」 「そうです。その日に、どこかに連れて行ってください!」 「よ、よし、わかった!4月の第1土曜、だな。忘れないぞ。絶対に仕事も入れない。」 「約束ですよ?」 「ああ。約束、だ。」  それを聞いて、ようやく春香に笑顔が戻った。 「わかりました!」 「ふう、やっとか・・・」  プロデューサーさんも安心したみたいだ。 「あ、でも、さっきの3月の約束も、まだ有効ですからね?」 「わかってるって。あれは俺から誘ったんだしな。」  なら安心。  ちゃんと確認しておかないと、なんかあぶなっかしくって。  でも、今日は、やっぱり来てよかった。 「どころで、春香。」 「なんですか?」 「すまん。降参だ。4月の第1土曜日って、いったい何の日だ?」 「プロデューサーさんの、ばかああああああ!!」 /Fin.
資料:関連カレンダー     2 月 月 火 水 木 金 土 日  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28     3 月 月 火 水 木 金 土 日  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31     4 月 月 火 水 木 金 土 日        1 2 3 4  5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18  19 20 21 22 23 24 25  26 27 28 29 30  冬将軍率いる寒気団は、1月の間は深く守って時折ロングボールを放り込んでくるだけだったが、この2月に 入ってからと言うもの、ようやく日本列島に強烈な前線からのプレスをかけて来ていた。そうして2月も第2週 の日曜日を迎え、今日も寒気団が全員攻撃で押し上げて来ているのであった。  そんな寒い寒い2月の14日。天海春香は完全なる朝を迎えていた。  どのくらい完全かと言うと、今日着ていく予定の服は、全て昨夜の内にクローゼットから出されて床に並べら れており、その横に置かれたトートバックには、財布にハンカチ、ティッシュに化粧直しのポーチと言った普段 持ち歩くものに加えて、2つの小さなプレゼントボックスも全て奇麗に収められているのである。その小さな箱 の中身はと言うと、一つには無難にネクタイ、もう一つには手作りの小さなハート形のチョコレートが、スイート とビターの2色で詰められている。ラッピングも万全、リボンも慣れたもので美しく結ぶことが出来た。一瞬、 自分の愛用のリボンを結ぼうかと思ったのだが、食べ物の入った箱だからと、やめておいた。  寝る時には、枕元に置いておこうかと思った春香だが、とある歌の歌詞を思い出して、万が一の不測の事態に 備えて、ベッドから一番遠い所に置いた。そのくらい考えられる全てのリスクを排除して、迎えた朝である。 唯一、誤算と言えるのは、緊張と不安でなかなか寝付けなかったことだろう。おかげで朝起きる時間がギリギリ になった。しかし、この辺りは想定内で、そのために服の準備は全て済ませてある。  顔を洗って、鏡に向かう。手慣れたナチュラルメイクも、今日はちょっとだけ念入りに。  最後にリップを塗りながら、春香の胸にまた不安が持ち上がる。  なんと言っても、今日はアポなし突撃である。  事務所に行くのも、春香がアイドルを休業する前、解散コンサートの日以来の3ヶ月振りになる。  その間、早くも次の活動に向けた準備を始めた伊織や律子から、プロデューサーさんの行動の情報は逐一 もらっていた。それによると、だいたい行動パターンは3人をプロデュースしていた頃と同じ。 「だとすると、日曜日はまず朝一番に事務所に来て、メールのチェックと残った書類の片付け、よね。」  自分の確信を深めるべく、口に出して確認。しかし、その時間を逃すと、やれイベントの手伝いだ、やれ現場 の下見だと、出かけてしまうことが多い。とにかく、まずは事務所に行かなくてはいけない。彼に、プロデュー サーさんに会わなくては、全てが始まらないのだ。受け取ってもらえるかどうか、そんなことは二の次だ。  受け取ってもらえるかどうかは・・・  ・・・・・  もしかして、受け取ってもらえなかったりとか?  新たな不安が襲ってくる。  いや、本来2月14日にアポなし突撃を敢行しようなどと言う女性にとっては、最初に持つべき不安だ。 「ええい、悩んでどうする!当たって砕けろ、だよね!」  って、私、3ヶ月前に一度本当に当たって砕けてるんだっけ。  も、もう一回くらい当たって砕けたって、一緒・・・じゃないかも?  心に弱気の芽が顔を出す。  ううん、こんなんじゃいけない。  鏡に向かって、つぶやく。 「春香ちゃんは可愛い。春香ちゃんはお菓子作りがうまい。春香ちゃんは出来る子!」  必殺の自己暗示である。春香本人は、自己暗示という言葉が思いつかず、つい自家発電とか呼んでいるが。 アイドル活動開始当初、自信を失って舞台に立てなくなりそうな時も、春香はこうして自分を鼓舞してきた。 そうして様々な苦難を乗り越え、トップアイドルまで上りつめたのだ。その魔法の言葉の効果はてきめんだ。 「よし!じゃあ、出かけようっと!」  最後にもう一度鏡を覗いてチェック。メイク、OK。髪、OK。  チラリと、鏡の脇に並んでかけられたリボンに目をやる。久しぶりにリボンを結ぼうかな、とも思ったが、 やはり、あの日以来付けていないリボンは、付けずに出かけることにした。  買ったばかりの新しいコートを羽織り、マフラーをして、完成。 「行ってきまーす!」  玄関口で元気に家族にあいさつ。先日一度履いて足に慣らした、お気に入りのパンプスに足を通す。そして、 ドアを開けて、外に出る。 「白っ!」  外は一面の雪景色だった。  どうりで寒かったわけである。昨夜から降り始めた雪は、春香の住む田舎町をすっかりすっぽり覆っていた。  躊躇っている時間の余裕はない。春香は雪の中に一歩を踏み出ツルッ  ずぼっ  深さ15cmほどまで重なった雪の層が、前のめりにすっ転んだ春香の体を衝撃から守ってくれた。  おかげで痛みこそなかったが、春香は泣きそうだった。顔から雪に突っ込んだけど、メイクは乱れてない かな?それより、せっかくの新しいコートが雪まみれだよぉ、それと、靴はこれじゃムリ。雪の中歩けない。 せっかく服と靴と合わせてコーディネートしたのにぃ。  家の中に引き返す。ブーツを取り出して、しかしそこで考えこんでしまった。このブーツなら滑らないけど、 こんな深い雪の中を歩いたら、濡れて色落ちするかも。  すでに迷う暇はなかった。下駄箱から赤いゴム長靴を引っ張り出す。そして、今度こそ雪の町へと勢い良く 飛び出して行く春香だった。  うう・・・結局、こんな子供っぽい靴になっちゃった・・・  普段雪の降らない地方の交通機関は、雪に弱い。  ましてや、大量の通勤客を捌かないと日本経済に甚大な影響を与える平日ならともかく、休日の朝である。 春香が駅に着くと、列車表示は平気な顔で「一部列車運休。及び30分程度の遅れ」を示していた。  それを見て、軽い目眩を覚えた春香だったが、すぐに気を取り直して列車を待つことにした。待つ間、よほど プロデューサーさんにメールをしようかと思ったが、やめておいた。  多分、今ここでメールをすると、返事は「無理に来なくていい」と返ってくると思ったから。  それは、きっと正論。でも、そうはいかない。私は行く。行かなきゃいけない。  ここに止まっていたら、何も変わらない。  そしてようやくやって来た電車は、元からが30分の遅れだった上に、本日は急行運転取りやめとのことで、 各駅に停車しながらのんびりと都心へ向かっていった。  事務所の前に着いた春香は時計を見た。  現在の時刻、午前10時30分。何度見ても時間は変わらない。予定では、遅くとも9時には着きたかったが。  これもみんな大雪のせいだ。しかしその張本人である大雪は、都心ではさほどの降りでもなかったようで、今や あがっている上に、地面はすっかり乾いてるしで、せっかくの大活躍の舞台を与えられた赤いゴム長靴も、本来の 性能をここでは発揮できずに、ただつやつやな真っ赤なその見た目で、春香の気合の入った服装とのミスマッチを 声高に主張し続けるだけの存在と成り下がっていた。  今更しかたない。とにかくエレベーターに乗って、事務所のあるフロアへ。  扉を開け、3ヶ月ぶりの事務所に入る。 「おはようございます・・・」  小さな声で挨拶。一応照明の点いている場所はちらほらあるが、人の気配はほとんどない。  プロデューサーさんの机の方へ行く。付近の照明は消えている。がーん  やはり、プロデューサーさんの席はもぬけのカラだった。  呆然とする春香の後ろから、女性の声がした。 「あの、どちらさまですか?」 「え?あ、小鳥さん?」 「その声は・・・春香ちゃん?」 「そうですよ。春香です。ご無沙汰してます。いやだなあ、忘れちゃったんですか?」  いくら3ヶ月ぶりとは言え、忘れてるはずはない、と思いながら、いたずら半分で言ってみた。もしかして、 今日の服があまりにキマッてるから別人に見えた、とか? 「ふふっ、さすがに忘れるわけはないですよ。ただ、服装もいつもと違うし、ちょっとすぐに気がつかなかった だけです。別に、リボンがないから誰だかわからなかった、ってわけじゃないですからね?」  そうか。リボンがなかったからか。 「それに私、今日はコンタクトをしてなかったから。」 「ええっ?小鳥さん、普段コンタクト使ってるんですか?知りませんでしたよ、私。」 「ううん、別に普段もコンタクトしてるわけじゃないですよ。ただ、こういう言い方をすると、言い訳に使える かな、と思っただけです。」  なんじゃそりゃ。 「ところで、小鳥さん。今日、プロデューサーさん見てませんか?」 「今日は見てないですよ?あ、ほら、机の上のノートパソコンも持って帰ってるみたいだから、今日は出社する つもりはないんじゃないかしら?」  がーん 「今は、個人情報の保護がうるさいでしょう。だから、たとえ事務所の中の人同士であっても、住所とかは教える わけにはいかないのよ。」 「ええっ!!そ、そんなあ・・・」 「でも、私の机の上にあった書類を、偶然春香ちゃんが見ちゃったとしたら、それは仕方ないことですよね。」  小鳥は、書類のページを開くと、そのまま席を立った。  そのページには、春香の質問の答え、プロデューサーさんの住所が書いてあった。 「小鳥さん、ありがとうございます!」 「偶然ですから、お礼は要りませんよ。」 「じゃあ失礼します!」  さて、これからプロデューサーさんの家、と言うか部屋に、乗り込まないといけない。  春香は気合を入れ直した。 「あ、春香ちゃん?」  小鳥が呼び止めた。春香はくるりと振り向いて応える。 「はい?」 「頑張ってね!」  あ・・・  さすがにバレバレだよね、と思ったが後の祭りである。顔が熱を持ってくるのが自分でもわかった。 「は、はい!頑張ってきます!」  うわ。これでもう明日中には、事務所のみんなに知られちゃうよぉ。  しかし、先のことを気にしてもしょうがない。まずは、この住所の場所に辿り着くことが最重要だ。 どうやら目的地はアパートかマンションの部屋のようである。えっと、住所は新宿区上落合・・・確か、 そんな名前の駅があったような気がする。  携帯電話で検索。上落合という駅はなかった。  じゃあ、落合?・・・と見てみる。  あった。JRと地下鉄とあるみたい。  よし、じゃあJRの駅で、乗り換え検索、っと。  出た。ええと、まずは上野に出て、乗り換えて新幹線で八戸、そこから特急で函館、さらに南千歳でもう一度 各駅停車に乗り換えると、明日の朝9時には着く・・・って、ええっ!? 「プロデューサーさん、毎日そんな遠くから通ってるの!?」  なわけないじゃん。  毎日北海道から東京に通って仕事してるなんて、どう考えてもあり得ない。  その前に住所は新宿区だし。  さあ、もう一度気を取り直して・・・と思ったら、携帯にメールが届いた。  もう。誰?今忙しいんだから!  そう思いながらも、一応確認してみると、律子さんからだった。  開く。  内容は、事務所からプロデューサーさんの家までの経路案内、最寄り駅からの道順、地図までも含まれていた。 「えええええっ!?」  春香は思わず振り返って周囲を確認する。  誰か私のこと監視してる?  とりあえず、周囲に知った顔は見つからなかった。  メールの続きを読むと、最後には、こう書かれていた。 『小鳥さんに聞いたわよ。頑張ってね。From律子』  明日中どころか、知れ渡るには今日中でも十分なようだ。  でも、本気で助かりました、律子さん! 『ありがとうございます!おかげで北海道まで行かずにすみました。』っと、送信!  さあ行くぞ。目指すは下落合駅! 「着いた!」  下落合の駅から徒歩10分。目指したアパートがあった。律子さんのメールに添付されていた建物の外観とも 同じ白い壁の鉄筋コンクリート三階建てだし、間違いない。  階段を上がって2階に。部屋番号を順に辿る。 「ここだ。」  表札を確認。間違いなし。  すー はー  深呼吸を一回。もう一回。  よし。準備完了。  呼び鈴に指をかける。ぐっと押し込む。  指を離す。  しーん・・・  返事がない。  もう一度押す。離す。  ・・・あれ?  普通、こういう呼び鈴って、押した方からでも、鳴るのがわかるんじゃなかったかな?  今、押したけどなんにも音がしなかったよね?  もう一回押してもやっぱり返事はないし、もしかして故障中?!  えいえい、っと数回立て続けに押してみる。  ダメだ。  春香は、部屋のドアをノックした。  こんこん・・・  返事がない。  今度は少し大きめの音でドアを叩く。  どんどん!  やはり返事はない。  もしかして、留守だったり!?  失礼とは思いながら、試しにドアのノブを握り、動かしてみる。がちりとロックされていて動かない。  どうしよう・・・  力は抜けていく。しかし頭の中はぐるぐる回りだす。  もう手段を選んではいられない。そう結論を出した。プロデューサーさんの携帯に電話をかけることにした。 呼び出し音が鳴って・・・ん?  なんか、この部屋の中から電話が鳴ってる音がするんだけど?! 『ただいま電話に出ることが出来ません。ご用の方はメッセージを』呼び出し音が留守電メッセージに変わる。 と、部屋の中の電話も鳴り止んだ。  もう一回ダイヤルする。部屋の中から電話の鳴る音がする。切る。音が止まる。かける。鳴る。切る。止まる。  置き忘れたか、あえて持たなかったか。プロデューサーさんは携帯を持たずに出かけたらしい。  事務所に行って、部屋に行って、電話して・・・  春香には、もう何も手段は残されていなかった。  へなへな・・・ぺたん  たまらずにその場にへたり込んだ。 「やっぱり・・・ちゃんと連絡して、約束しとけば良かったかな・・・」  ぐすっ、と鼻をすすった。視界がじんわりとぼやけてきた。 「こんなとこで、何やってんだろう・・・私・・・バカだな・・・うっ、ううっ・・・」  涙がこぼれてくるのを、止めることができない春香だった。 「あのぉ・・・すみません。そこ、俺の部屋なんですけど、何か御用ですか?」 「ほえ?」泣き崩れる春香に、背後から声がかかった。 「プ、プロデューサーさん?!」 「え?は、春香?その声は春香じゃないか?!」  まごうことなき尋ね人がそこにいた。ジャージにサンダル、その上にダウンのコートを羽織って、髭も剃らずに、 髪は寝起きのボサボサのままといういでたちで。手にはコンビニの袋をぶら下げて。  かたや訪れたヒロインは、目を泣き腫らし、鼻も赤く染まり、目元のメイクは半分流れてる上に鼻水まで垂らし た状態での、3ヶ月ぶりの再会であった。 「え、えっと・・・とにかく、そこに座ってるわけにもいかないだろうから、上がってくれ。」 「はい・・・お邪魔します。ぐすっ。」  洗面所を借りて顔を洗いながら、春香は考えてみた。  プロデューサーさんにしてみれば、ちょっとコンビニに行って、帰ってきたら、自分の部屋の前で女の子が 泣いていた、という状況である。それも知ってる子、泣かれる心当たりもない(多分)。  やっぱり、なんでこんな状況になってたのか、説明するべきだろうか。  でも、なんて説明したらいいんだろう? 『プロデューサーさんの部屋の前で、座り込んで泣いている私』なんて状況、考えるまでもなく、とんでもない。  それにしても、泣くことないじゃん私。それも人の部屋の前で。  後悔先に立たず。 「春香、紅茶とコーヒー、どっちがいい?ちなみに紅茶はティーバッグで、コーヒーはインスタントだけどな。」 「あ、はい。紅茶お願いします。」 「そのソファーにかけてくれ。散らかってるけど気にしないでくれよ。」  そう言うけど、独身男性の一人暮らしにしては、居間は小奇麗だと思う。  春香がソファーに座ると、プロデューサーさんがキッチンから湯気の出たカップを二つ持ってきた。 「ほら、紅茶。熱いから気をつけてな。」 「ありがとうございます。いただきます。」  カップを持つと、暖かさが伝わってくる。自分の体が冷えていたことを、ようやく自覚した。 「落ち着いたか?」 「え?あ、はい。」  一瞬、何のことか、と思った春香だが、思えば自分が泣いていたんだった。 「もう、大丈夫です。」 「そうか。」  プロデューサーさんは、それ以上は何も聞かなかった。  しばしの沈黙。 「春香、今日はリボンしてないのか?」  プロデューサーさんの質問は、そっちだった。 「はい。ちょっとイメチェンで、最近付けてないんです。」 「ちょっとどころか、かなりのイメチェンになってるぞ。」 「それと、リボンしてると、街を歩いてても『あっ!天海春香だ!』って言われることも多いんですけど、して ないと、まず言われることもないんで、アイドル休業中は、リボンしないことにしました。またアイドル活動を 始めた時は、付けようかな、って思ってます。」 「ああ・・・やっぱり、一般の人もリボンがないと気付かないのか。」 「納得するところ、そこなんですか?」 「いや、場を和ますための冗談だと受け取ってくれ。」 「あまり和みませんよ・・・」  むしろ、テンションダウンだ。 「ところで・・・今日は、何か用か?」  はっ!  そうだ!大事な用があったんだ!  しっかりしろ!私!和んでる場合じゃないよ!  ごそごそ・・・とカバンの中を探る。あったあった。 「あの、今日は何の日か、わかってますか?」 「2月の第2日曜日。俺の1ヵ月ぶりの休日だ。」 「・・・」 「あああ、すまん!わかってる!わかってるけど、男の口からは言い辛いじゃないか?!」 「プロデューサーさんの場合、本当にわかってない、ってことがありそうなんですよ・・・」 「いや、だいたい、俺の方から、何か用か、って聞くこと自体がすでに変だったんだぞ?」  それもそうだ。  プロデューサーさんなりに、言い出しやすいように気を遣ってくれていたんだ(!)  私は別に、言い出し辛かったわけじゃなくて、それ以上に混乱してただけなんだよね。  よし。気を入れ直して。ちゃんと渡そう。 「これ、バレンタインのプレゼントです。受け取ってください!」  二つの包みを、まっすぐに差し出す。まっすぐな視線と共に。  その視線を真正面から受け止めた彼は、包みに手を伸ばした。 「ありがとう。」  そう一言。  ちょっと照れくさそうに。  こんなプロデューサーさん、初めて見るかも。  そう思った春香は、ふっと緊張が解けて、自然な笑顔を作っていた。  日本全国、百万人のファンを魅了した、あの笑顔を。  やっぱり、ここまで来てよかった。 「開けてもいいか?」 「はい。」  最初の包みはネクタイだった。  赤地に細かい模様がドット調で並んでいる。カジュアルにもフォーマルにも使い勝手のよさそうな柄。  ただし、よく見るとその細かい模様はリボンなのだ。  もう一つは、ハートの形の小さなチョコレート、スイートとビターの二色が、ぎっしり。 「いただきます。」  さっそく一つ口に放り込む。 「ん、うまいな。これ、春香の手作りか?」 「そうなんです。」  えへへ・・・ほめられた。 「このネクタイもいいな。早速明日していくか。」 「あ!えーと・・・ちょ、ちょっと、しばらくしてから使ってもらった方が・・・いいかも?」  赤地にリボン柄のネクタイ。  今日の事情を知ってしまった事務所の人が見ると、きっと一目でピンと来る。  そうなった時のことを思うと、それだけで恥ずかしい。 「そうか?でも、どうして?」  説明をしちゃうと、このネクタイをしてくれないかもしれない。 「な、なんとなくですよ!なんとなく!」  無意味に顔を真っ赤にして、春香は答えた。 「・・・・?・・・わかった。そうすることにするよ。」  理由はわからなくとも、必死さは伝わったらしい。 「春香、その・・・3月の第2日曜日って、予定あるか?」 「え?」  3月の第2日曜日・・・それって何の、とまで言いかかった。  14日じゃない?!  あぶないあぶない。もし言っちゃってたら、プロデューサーさんのこと言えないよ。  でも、素直にホワイトデー、って言ってくれればいいのに。 「友達と、もう少し暖かくなったら遊園地に行こう、って約束してるんですよねぇ。できれば混んじゃう春休み になる前にしたいなあ、って思ってるんで、もしかすると、その辺になるかも・・・」  半分本当。  でも半分は意地悪。 「そうか。それは残念だな・・・」  でもでもプロデューサーさんは、もっと意地悪! 「あ!で、でも、なんとか、予定あけられると思います!きっと大丈夫です!!」  それを聞いて、プロデューサーさんは笑った。どちらかと言うとニヤリという感じで。  やられた。 「じゃあ、食事でも行こう。日曜日なら夜は大丈夫だと思うから。」 「はい!」  うわあ・・・。  夢みたい・・・。  私こそ、素直に最初から、その日は大丈夫って言えばよかったかな? 「まあ、多分これからはしばらく、日曜は昼間も大丈夫だと思うんだがな。ようやくライブDVDも発売になるし、 仕事も一段落したから。」 「あ。この間のラストライブのですね?うちにも見本が届きました。まだ見てないですけど。あのジャケット、 凄いカッコいいですよね。」 「だろ?」  そう言って、彼は春香の後ろの壁を指差す。 「わっ!私だ!気がつきませんでした。」  ジャケットの絵のポスター。  真ん中に、片手を挙げてポーズを取る春香。その右に、儚げな笑みを浮かべた伊織、左には熱唱する律子。  いずれもライブ中の写真だ。 「月末には、ライブ中の風景を収めた写真集も出るぞ。」 「そうですか・・・なんか、ついこの前のような、すごい昔のような・・・」  ポスターに顔を向けたまま、応える。 「ああ、そうだな。俺もそんな感じだ。」 「この時の律子さん、凄かったですよね。」 「いつもは、春香と伊織に対して一歩引いた感じがあったんだけど、このライブでは負けじとアピールしている みたいだったな。三人とも全てを出してきてるのがわかって、凄まじいばかりだった。律子はあれがアイドルと しての最後のライブになるかもしれないと、そういう思いもあったんだろうな。」 「あ。律子さん、やっぱりアイドル続けないんですか?」 「うん。この前、次はプロデューサーになるって、社長とも話して決めたみたいだ。」 「そうなんだ・・・。」 「まあ、それはいいんだが、俺が4月からやよいをプロデュースする予定だったのに、持っていかれちゃったん だよなあ。」  どきっ  プロデューサーさんが、別の子をプロデュース・・・  うん。当然・・・だよね。 「伊織とやよいとデュオにするんですか?」 「そうらしい。律子はやっぱり、マニア狙うのが好きみたいだ。」 「じゃあ、プロデューサーさんは、誰をプロデュースするんですか?」 「うん・・・まだ未定だけど、亜美あたりかな、と思ってる。」 「え・・・やよいを取られたから、今度は亜美・・・」  ふと、疑惑が頭を持ち上げる。 「そう言えば、前の私たちのユニットにも、伊織がいたし・・・もしかして?!プロデューサーさんって、まさか そういう趣味が?!」  だから、私ともつきあえないとか?  私だって、まだ16歳ですよ?世間的にはロリコンって言われかねない年ですよ? 「おい!春香、なんか激しく誤解してないか?」 「い、いえ!誤解してません!むしろ、ようやくプロデューサーさんのこと、ちゃんと理解できた、って言うか。」 「それが誤解だって言ってるんだよ。俺は別にロリコンとか幼女好きとか、中学生以下しか女性と認めないとか、 そんなことは全然ないぞ。」 「じゃあ・・・どうして、765プロでも年少の子ばかりプロデュースしようとするんですか?」 「う・・・それは・・・その・・・」  明らかに隠し事がある態度で口ごもる。 「やっぱり・・・」 「いや、そうじゃない。でも、確かに理由はあるんだが・・・。」 「だったら、わかるように説明してくださいよ。」 「・・・よし。わかった。」  覚悟を決めた様子で、プロデューサーさんは話を始める。 「実は、怖いんだ。」 「怖い?もしかして、大人の女性が怖いんですか?」  そうだったんだ?!  だから、私とつきあってはくれなかったんだ! 「違う違う!もっと上の、高校生以上の女の子を担当して、恋愛沙汰になったりするのが、怖いんだよ。」  ああ、なんだ。そうか。  ・・・え?  それって、私のこと?  私みたいに、担当のプロデューサーを好きになっちゃったり、そういうことが怖い・・・ってこと?  もう、そんなのはこりごりってこと?  もしかして、私って、迷惑だったのかな?  だから、理由も言いづらそうにしてたんじゃない?  そうだよね。怖いって言ってるくらいだし・・・  こんな休みの日に、家にまで押し掛けて来て、大迷惑だよね・・・ 「・・・ごめんなさい。」 「え?どうした、春香?なんか様子が変だぞ?」 「ごめんなさい!私、帰ります!」  だっ! 「お、おい春香?!」 「さようなら!プロデューサーさん!」  バタバタ、と廊下を駆け抜ける。  玄関で、一番目立つ赤のゴム長靴に足を突っ込む。  またいつの間にか涙が出てきた。 「待て!春香、また誤解しただろ?」  プロデューサーさんが追ってくる。 「さようなら!来ないでください!」  泣きながら走る。  ああ、もう、この長靴は走りづらくて・・・  どんがらがっしゃーん 「春香!大丈夫か!」  プロデューサーさんが駆け寄る。 「うう・・・優しくなんて・・・しないで・・・ひっく、ください・・・」 「そうはいくか。」 「だって・・・迷惑だったんですよね・・・だったら、そう言ってくださいよ・・・」 「春香、俺の話を、よく聞いてくれ。」  プロデューサーさんが、春香の正面にまわって、両肩をつかむ。  そして、まっすぐに目を見て、話し始めた。 「俺、春香と約束したよな。」 「え?」 「いつか、春香がアイドルをやめた時、俺のところに帰ってくる、って。」 「・・・でも、それは・・・」 「俺は、春香とそう約束したと、思ってる。だから、今後他の女の子をプロデュースした時、たとえ向こうの 片思いでも、その子と恋愛沙汰になったりしたら、春香がどう思うか、そう考えると、怖いんだ。」  えっ?  えええええっ?! 「ふええええ~~ん!」 「な、なんでそこで泣くんだあ!」 「嬉しいんですよお~。ふえ~ん」 「それにしても、声上げて泣くことないだろ?」 「だって・・・ひっく、プロデューサーさんが、勘違いさせるようなこと言うから・・・」  プロデューサーさんが頭をかく。 「いや、俺は最初から、今の意味で言ったつもりだったんだが・・・。」  ああ・・・さすが、プロデューサーさんだ。  自分にとっては、告白に近い意味で、言いづらかったことを言ったのに、無神経な言い方で、肝心の相手に 見事に誤解されるなんて。 「そんなの、絶対に勘違いするに決まってるじゃないですかぁ。ぐすっ。」  本当は、凄く嬉しいはずなのに、全然素直に喜べないよ。 「悪かった。だから、機嫌直してくれ。な?」 「じゃあ、あの、4月の第1土曜日、予定空けてください。」 「4月?」 「そうです。その日に、どこかに連れて行ってください!」 「よ、よし、わかった!4月の第1土曜、だな。忘れないぞ。絶対に仕事も入れない。」 「約束ですよ?」 「ああ。約束、だ。」  それを聞いて、ようやく春香に笑顔が戻った。 「わかりました!」 「ふう、やっとか・・・」  プロデューサーさんも安心したみたいだ。 「あ、でも、さっきの3月の約束も、まだ有効ですからね?」 「わかってるって。あれは俺から誘ったんだしな。」  なら安心。  ちゃんと確認しておかないと、なんかあぶなっかしくって。  でも、今日は、やっぱり来てよかった。 「ところで、春香。」 「なんですか?」 「すまん。降参だ。4月の第1土曜日って、いったい何の日だ?」 「プロデューサーさんの、ばかああああああ!!」 /Fin.

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