第6話 みずの国  ~律子さんは水がお嫌い!?~

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 亜美ちゃんと真美ちゃんを元の世界に帰して、やよいたちは次の世界に。 「次は水の国ですね」 「どんなところなの?」 「んー… まぁ見てもらったほうが早いでしょうか」 そんな会話をしながら鏡の中を進んできて、出てきたのは… …一面水で埋め尽くされた世界でした。 正確に言うと、ポツリポツリと浮島がある他は、ほとんどが水、それも流れの早い水というところです。 「これは… 川?」 やよいがそう訊いてみます。 「ええ、以前はもっと穏やかな川だったのですが、ここも女王の魔力でこんなことになってしまいました」 ウサギが答えました。水の流れるほうを見てみると、そこは滝壷になっていました。 下の様子は分かりませんが、恐らく危険なことになっているのでしょう。 「でもこれじゃぁ前に進めません~」 そうです。やよいたちが今いる所も浮島。 どこを見ても、橋も無ければ通路になるようなところもありません。戻ろうにも鏡の通路は跡形も無く、 ふたりが困り果てていた、その時…。 「誰かいるのかしら~?」 向こう岸でしょうか、遠くのほうから声が聞こえます。 「はーい、誰かいますよー!」 とりあえず返事をしてみます。川の流れる音にかき消されない、やよいの大きな声(これはやよいの自慢 だったりします)が響き渡りました。 「誰かいるのは間違いないようですが」 「でもどうやって向こうに行こうかな…?」  二人が話し合っていた、その時。 川の向こうから何かが流れてくるのが見えました。 それはいくつも連なって、流れと同じ方向にどんどん進んできます。 「あれは…」 「いかだ!?」 上流からたくさんのいかだが流れてきます。これに飛び移っていけば…! 考える間もなく、やよいはそのいかだに飛び移って、次々と進んでいきました。  いくつかのいかだを飛び渡って、やよいたちは向こう岸らしきところに着きました、そこにいたのは、 ゆったりした薄緑の服を着た、軽くウェーブのかかった長い目の髪の女の子でした。 「こ、こんにちは」 やよいがとりあえず挨拶をします。 「え… やよい?」 「…? あの、私のこと知ってるんですか?」 そう言われた女の子は、軽く頭を抱えるポーズをした後、 「私よ、律子」 返事をします。 「えーーーーーーー!?」 今度は本格的に女の子が頭を抱えてしまいました。 「…そりゃ確かに、普段は眼鏡におさげの格好だけどさ」 「だからと言って、いつもいつもそんな格好をしてる訳無いでしょう?」 律子さんは不満そうに言いました。 「でもとてもそうは見えませんよ、そんなにお美しいのに」 「…あー、そのウサギのぬいぐるみといい、この状況を説明してくれないかしら、やよい?」 「なるほど、私は鏡の国にいつの間にか来てしまって、そこから帰るにはこの川を昇らないと、ってこと?」 「そうなりますね、出口はこの向こうです」 「…だんだんこの奇天烈な状況にも慣れてきたわね…」 律子さんはそう言って、目の前の川を眺めました。相変わらずの急流が、律子さんの顔に水玉を飛ばしていきます。 「で、どうやって向こうまで行くの?」 「流れてくるいかだに飛び移っていくのです、ちょっと疲れますけれど」 ウサギが流れてくるいかだを指差しながら言います。 「…分かったわ、足を滑らせたらおしまいよね、うんそうだわ」 律子さんが言いました。顔が妙に引き締まった気がします。 「それじゃぁ行きましょー!」  しばらくは岸に沿って歩いてきたやよいたち。 その岸も程なく途切れてしまい、やよいたちはまたいかだと浮島を飛び移って進んでいくことになりました。 途中、くるくる回りながら飛んでくるトンボ、そしてまっすぐ向かってくるトランプのカードの魔物を 吹き飛ばしつつ、慎重に慎重に…。  そうして何とか進んでいくと、いつものような広い床が見えてきました。しかし…。 やよいたちは目の前の光景に呆然と立ちすくんでいました。  どう見ても3mぐらいはあろうかという隙間。 そしてその下は激しく水が流れて、大きな音をたてていました。 「さすがに上流まで来ると水の勢いも凄いわね…」 律子さんが表情を変えずに一言。 しかし、出口に向かうにはどうしてもここを飛び越えなくてはなりません。 「落ちたらひとたまりもありませんからね… 一気に助走をつけて飛び越えましょう」  まずはウサギから。 少し後ろに下がったかと思うと、猛ダッシュからのジャンプで見事隙間を飛び越えました。さすがですね。 「高槻やよい、いきまーす!」 やよいも同じように、こちらはぎりぎりまで後ろに下がった後、走りながら両手を揃えてのジャンプ。 ウサギほどではありませんが、見事に向こう岸に着地できました。 「次は律子さんですよー!」 …しかし律子さんはピクリとも動きません。ただじっと水の流れを見つめたまま…。 「どうしたんですかー?」 やよいの呼びかけも全く聞こえてない様子。 「…無理よ…」 「え?」 やよいの問いかけに、 「私やよいたちみたいに運動神経良くないし、それに…」 「…私、ここから落ちたら… 泳げないのよ…?」 消え入りそうな声で、そう律子さんは答えました。 「そんな!」 「律子さん!!」 やよいたちの呼びかけにも答えず、律子さんは体を震わせ、そしてその場にしゃがみこんでしまいました。 「どうしましょう…」 ウサギの言葉に、 「どうしましょうって、律子さんを助けに来たんだよ、私達!」 やよいはそう叫びながら、岸の端まで駆け寄ります。そして… 「届かないなら、私の手に捕まってください!」 律子さんのほうに両手を差し出しました。 「やよい…」 「さぁ!」 「でもそんなことして失敗したら、やよいまで一緒に…」 「私なら平気です、律子さんが勇気を出せば絶対大丈夫です!」 やよいのその目には一点の曇りもありません。ただじっと、律子さんが動いてくれるのを待っています。 「…分かった。やよいに私の命預けるわよ…」 「律子さん…!」 「さぁ、そうと決まったら」 律子さんはやよいたちと同じように後ろまで下がって、そうして目の前のやよいをじっと見ました。 (いつもと違って眼鏡が無いから、目測とかあてにならないわね…) (…ううん、私は目の前のやよいの所に全力でジャンプすればいいのよ、がんばれ私) 走り始めました。 やよいたちに比べるとそれほど足は速くありませんが、それでも懸命に走り、そして… 少し手前のところからジャンプを!  片手をやよいのほうに伸ばしてのジャンプ。 やよいも律子さんの手を掴もうと必死に手を前に出します。 そしてその二つの手のひらが触れたかと思った瞬間…! バシャーーーーーーン! 大きな水音がしました。 「律子さん!!」 どうにかやよいは律子さんの右手を掴みました。 しかし律子さんの体は半分以上が水の中に。何とかして引き上げないと、このまま沈んでしまいます。 自分も律子さんの重みで一緒に落ちてしまうのを懸命にこらえつつ、やよいは小さな体で必死に律子さんを 引っ張りました。 「やよ… い…」 「律子さん、しっかり!」 やよいのその言葉で元気が出たのか、律子さんも助かろうと残る左手を懸命に動かし、そして岸の端を なんとか掴みました。 「んっ…!」 そのままやよいに引き上げられて律子さんは見事岸まで上がり、そしてその場に倒れこみます。 「や、やよい…」 「…やりました、やりましたよ律子さん!」 「うん… 良かった… あ、ありがとう、やよい…」 律子さんは見事に川を渡りきったのです! 「やぁやぁお見事」 突然、前のほうから声がしました。 見ると、そこには耳のとがった小男が、やたら大きな魚のようなものと一緒にたたずんでいました。 「こんな時になんだけど、何か買っていかないかい? そっちのお姉さんには水着もあるよ」 「み、水着!?」 律子さんは露骨に嫌そうな顔をして見せます。 「こんなところまで来て商売かパップン? 盗品故買屋なんてやめろと何回言ったら…」 ウサギも不快そうな顔でそう言いました。 「何だか分からないけど、この人は悪い人なの?」 「ええ、盗んだものを人に売りさばくケチなコソドロですよ」 「コソドロとは失礼だなぁ、今日はこんなものを持って来てあげたのに」 パップンと呼ばれた、その小男が見せたものとは… 「「鏡!!」」 ケタケタ笑いながら、パップンはその手にした鏡をひらひらと見せびらかしています。 「その鏡渡してもらうぞ!」 「へぇ、お前がそんなことを言うなんて、これはやっぱりたいしたものなんだねぇ」 ニヤニヤと笑い続けるパップン。 「どうせどれもこれも盗んだものだろう、渡さないと言うなら…」 珍しく怒気を含んだウサギの言葉に、 「おーこわいこわい、だったらこっちも本気でいくからねー」 そばにあった魚のようなものにパップンが乗り込むと、それは大きなエンジン音を立てて振動し始め、やがて 少し浮き上がりました。 「こいつ… 動くの!?」 律子さんの言葉に、 「当たり前だぜ、このレイドックってのはすごいんだぜ~」 パップンはそう言って、律子さんの方にレイドックの向きを変えました。 その瞬間、大きな音と共に、レイドックの体がキラッと光ったように見えました。 「さぁて、誰から突き飛ばしてやろうかね~、フヒヒヒ…」 目の前ではパップンの意地悪そうな笑い声が。 「できれば平和に行きたかったんだけど、仕方ないわね」 「任せてください!」 やよいが前に出て、レイドックにシャボン玉を飛ばしていきます。 しかし、レイドックはそれを横に動いて避けてしまいます。 そして後ろに下がったかと思うと、そのままやよいたちの方に突撃して来るではありませんか。 「わぁぁぁぁっ!?」 すんでのところで、やよいは身をかわします。律子さんもその場でくるりと体を廻してやりすごしました。 端のほうまで飛んでいったレイドックは、そこで旋回してまたやよいたちのほうに。 横に動いては、やよいたちのほうに向かって突撃し、横に動く、その繰り返しです。 魚の頭の部分… ちょうど飛行機で言うとコクピットでしょうか、そこに乗り込んだパップンの高笑い。 一方のやよいたちは逃げ回るばかり… …ではありませんでした。 「さっきから思ってたんだけど…」 律子さんの落ち着いた声。その顔には笑顔すら浮かんでいます。 「…?」 その律子さんの様子に、みんなは驚きの表情を見せました。 「結構単純な動きしかしないのね、それって」 律子さんが冷静に、パップンに向かってビシッと指を指しながらそう言いました。 「な、なんだと?」 「どうせそれも盗品なもんだから、自分では満足に操縦も出来ないと見たっ」 「う、うるさい!」 そう、それは見事なまでに正解でした。 律子さんの言葉に腹を立てたパップンは、ますますスピードを上げてやよいたちに向かってきます。 しかし怒りで冷静さを失った操縦士のこと、その動きはますますワンパターンになるばかり。 ウサギにもやよいにも、そして律子さんにも楽々と避けることが出来ました。 「へっへー、こっちですよ~」 「こ、このやろー!!」 「やよい、あの尾びれの部分とかどうにかできない?」 レイドックのほうを指差しながら律子さんが。 「しっぽですね、分かりました!」 やよいはレイドックの突撃を横にひょいとかわし、すれ違いざま、尾びれにシャボン玉をぶつけました。 数回繰り返すとあっさり尾びれは壊れて外れてしまい、レイドックの動きが段々遅くなって行きます。 「今度は背びれ」 バランスを崩してまっすぐ飛べなくなり、 「最後は頭ね」 前につんのめって、そのままひっくり返って大破してしまいました。  ちゅどーーーーーーん…  頭を中心として、盛大な爆発が起こると共に、 「ちくしょー!!」 コクピットから勢いでパップンが飛び出してきて、地面に転がり落ちてきます。 「残念だったわね、コソドロさん」 その前に仁王立ちになる律子さん。 「さぁ覚悟するです」 「鏡を渡してもらいましょうか」 ボロボロになった上、三人に囲まれてしまってはどうしようもありません。 「お、覚えてろー!!」 持っていた荷物などをそのままに、パップンはジャンプしながら逃げていってしまいました。 「逃げられちゃいました…」 「でも鏡は無事なようですよ」 荷物からウサギが鏡を取り出しました。 「これで律子さんも帰れますね」 「ええ、一時はどうなるかと思っ… くしゅん!」 律子さんのくしゃみがあたりに響きます。それもそのはず、律子さんはさっきからずぶ濡れになったまま だったのですから。 「あ、水着もありますね… 濡れたままだと風邪引きますから、これに着替えてはどうです?」 しかし、ウサギの親切心(…だと思います)による提案にも、 「…結構です」 律子さんは、あくまで冷静にそう言うのでした。 「やよい、ありがとう」 「えへへー」 律子さんも元の世界へ帰っていきます。 「こうやって帰れるのも、やよいに勇気をもらったおかげかしら。その勇気があればきっと何でもできるわ」 「勇気… はい!」 やよいの笑顔とともに、また手にしたストローにキラリと光が灯ります。 両手を広げたまま、やよいは律子さんにお辞儀を。 それを満足げに見た後、律子さんは鏡の中へと入っていきました。 「さぁ、それじゃぁ私達も」 「そうだね、気合入れていきましょー」 「ええ、いよいよ手下達も本気を出してくるでしょう、でもやよいなら出来ると確信しましたよ」 そんな話をしたあと、やよいたちも鏡の中に。 「…でも、帰るまでに服乾くといいね、律子さん」 「ええ、目が覚めたときに体がべしょべしょなんて洒落になりませんし…」 「ん…」 可愛らしい女の子の声。 寝起きらしいまぶたをこすって、辺りを見回します。でも、そこには何もありません。 あるのは真っ暗な空間ばかり。 「…!? …こ、ここどこ!? 誰かいないの!? 私は」 そこまで言いかけた、その時。 どこからとも無く、何かが女の子のほうに向かって飛んできます。 周りの暗闇よりも、更に黒い何か。 それは女の子にぶつかると、一瞬だけ光を放ち、そして… あたりはまた、静かな暗闇に戻っていきました。

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