第7話 そらの国  ~あずささんと迷子のひよこ~

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 少し冷たい風が吹いています。 下を見ると、そこには図鑑でしか見たことのないような高い山がいくつも、そして雲すらも足元を悠然と 流れていました。 「ここは空の国… 鏡の国の中心部に向かう通路みたいなところですね」 「じゃぁ女王にも…」 「ええ、まだもう少し道はありますけどね」 見渡す限り青い空、まぶしい太陽、そしてどこまでも続く床。 普段だったら、こんなところでお弁当でも広げておしゃべりとかしたくなるようなところです。 でも、やよいは遊びに来たわけではありません。ここにも誰か助けを待っている人がいるはずです。 「誰かいれば、すぐに見つかるよね?」 「ええ、見通しもいいですし、間違ってもここで迷子になるようなことは無いでしょう」  その頃…。 「え~と、ここはどこなんでしょう…」 「私は寝る前にコンビニに行って、お買い物をしてきたはずなのに…」 背の高い女の人が、なにやら言いながら歩いていました。 とは言っても、同じところを右往左往しているばかりで、気が付くとまた同じ所に戻ってきている始末。 「はぁ… 私にもやよいちゃんみたいに元気があったら…」 そう言いながら、近くにあった大きな箱に座って空を眺め始めました。 「どこまでも青い空ね~、さっきまでは綺麗な星空だったのに」  さて、やよいたちのほうは、くるくる回って飛んでいるトンボやトランプの兵隊たちを吹き飛ばしつつ順調に 進んでいました。 シルクハットを頭にかぶった小人たちがたくさん道をふさぎつつ、やよいたちに向かってきました。 やよいはシャボン玉をぶつけてどいてもらおうとしますが、小人たちはその度にシルクハットをすっぽり かぶって飛んできたシャボン玉を防いでしまいます。 「まったく、ハッタのやつもあいかわらずキチガイじみた物を作るものだ」 ウサギがシルクハットを見ながら言いました。 「こういう相手には普通に挑んでも意味がありませんから」 「どうするの?」 「一度向こうを向いてください」 やよいが言われたとおりにすると、小人はやよいの背中を突き飛ばしてやろうとして、シルクハットから 出てきます。 「そこです」 振り向いてシャボン玉をぶつけると、小人たちはまとめてシャボン玉と一緒に飛んでいってしまいました。 「やったぁ!」 「こういうタイプはどこの世界でもこうやって倒すものですよ」  一方。 「三浦あずさの青空レポート~」 さっきの背の高い女性… あずささんは、まだのんびりと歩いていました。 でも、さっきと違って同じところばかり歩いていたわけではありません。 「ぴよぴよ」 あずささんの足元にはひよこが歩いていました。 不思議なことに、そのひよこは黄色の毛の中に一房だけ緑色が混ざっていて、どこからともなくあずささんの 側にやってきたのでした。 そしてまるであずささんを案内するかのように先へ先へと歩いていきます。 「かわいいですね~」 やがて大きな広間までやってくると、ひよこは懸命に羽をばたつかせて飛ぼうとしました。でも悲しいかな、 ひよこは空を飛べません。 「あらあら、この先に行きたいのかしら?」 あずささんはひよこを両手に持つと、そのままジャンプして向こう側に。 そしてひよこを降ろしてあげます。 「ピヨォ」 ひよこはそう鳴くと、嬉しそうにその先へと向かって走っていきました。 「ひよこさん、良かったわね~」 「やよい、もうすぐですよ」 「うん、でもここには誰もいなかったね」 一方、こちらはやよいとウサギ。 あちこちを歩いてきましたが、結局誰かがいる様子はありませんでした。 もうすぐ出口も見えてくるはずです。 「見通しのいいところですし、誰かいればすぐに見つかりそうなものなのに」 「ひよこさん、無事におうちに帰れたかしら?」 あずささんはひよこと別れた後も、その去っていったほうに向かって歩いていました。 「でも、どうやって私は帰ろうかしら~」 いつの間にか、あずささんは広々とした床があるところまで来ていました。 見る限りここで行き止まりになっていて、これ以上行くところは無さそうです。 「ふぅ…」 ここまで歩いた疲れもあったのでしょう、いつしか、あずささんは暖かい日差しの中でうとうととお昼寝を 始めてしまいました。 「zzz…」 「さぁもうすぐ出口があるはずです」 「うん、それじゃぁジャンプして…」 やよいたちはいつもの広い床までやってきました、そこで見たもの、それは… 「あずささん!」 「こんなところに倒れているとは… きっと魔物に襲われたのでしょう」 二人が辺りを見回すと、ちょうど空中から大きな鳥が降りてきて、ギャァギャァと不快な鳴き声を上げて いるところでした。 「デッドルースターか…」 「でっかい鳥…」 「いや、あれも機械仕掛けです、さっきのレイドックみたいなものですね」 近くで見ると、それはニワトリのような格好こそしていますが、アヒルのような大きな嘴に茶色い翼、 青や白の派手な体。そして首の下には鏡が…。 「これは女王の魔力で操られているだけ… 何とか止めなくては」 「うん!あずささんのかたき、覚悟ー!」 やよいがシャボン玉を用意してデッドルースターと向き合った、正にその時。 「ピピィ」 突然、1羽のひよこが二人の目の前に現れました。 それはシャボン玉を構えているやよいの方を見ると猛然と走って来て、そしてやよいの足をひっきりなしに つついたりしています。 「痛いです~」 「これは… ただのひよこのようですが…」 ウサギがひよこを抱き上げると、今度はウサギの顔をつついたり手の中で暴れたり。 緑色の毛が一房ある以外、どうみても普通のひよこのようですが…。 「あらあらまぁまぁ」 あずささんが目を覚ますと、大きな鳥とウサギのぬいぐるみ、そして見知った女の子が目の前にいます。 「…これは…」 そしてもう一度前を見てみると、さっき助けてあげた小さなひよこもいました。 「ひよこさん、無事に帰れたのね」  突然後ろから声が。 振り向くと、魔物に襲われたはずのあずささんが元気にこちらに向かって歩いてくるではありませんか。 「あずささん」 「無事だったんですか?」 「ええ、ここに来るまでにちょっと迷子になっちゃったけど、そこのひよこさんに連れてきてもらったのよ」 「それで歩き疲れたから、ここで休ませてもらってたの」 事も無げに、あずささんは言いました。 「え゛…」 やよいたちの額に汗が。 それにも気が付かずに、あずささんはひよこの方に言いました。 「そちらはお母さんかしら~」 大きな鳥を見ながら、のんびりとした口調であずささんが。 「お母さん…?」 やよいはひよことデッドルースターを交互に見ますが、もちろん似ても似つきません。 この2羽が親子だなんて…。 「そうか、インプリンティング!」 突然ウサギがそう叫びました。 「それって、雛が最初に見たものを親だと思い込むという、あれかしら?」 これはあずささん。 「そっか、だからこのひよこさんはお母さんをいじめていると思って私に…」 「もともとここに置かれていたおもちゃを、偶然このひよこが見つけたのですね」 みんな納得した様子。でも、デッドルースターを止めないことには先に進めません。 どうしようかと、やよいが思っていると…。 「ひよこさん、いらっしゃい」 あずささんがひよこの前まで来て、手をひよこのほうに伸ばしました。 「みんな優しい人だから大丈夫よ、ね?」 「…」 「…」 言葉が通じたかどうかは分かりませんが、しばらくしてひよこはあずささんのほうに歩み寄ってきます。 そして、しゃがんでいるあずささんの胸のふくらみに、ぽふっ、と飛び込みました。 「もう大丈夫よ~」 そう言いながら、あずささんはやよいたちから離れて、そしてやよいたちにうなずいて見せました。 これで安心して戦えそうです。  程なくデッドルースターはその動きを止め、やよいたちはその首にかかっていた鏡を手に入れました。 「これでまた次の世界に…」 と言いかけて、やよいはハッと気が付きました。 「あずささん、ひよこさんは…!」 「…気絶しちゃったわ…」 悲しそうにあずささんが首を横に振ります。目の前で自分のお母さん(と信じているもの)がこのような ことになってしまっては…。 「ひよこさん… ごめんね…」 やよいの目からも涙がこぼれます。 「…連れて帰るのも無理ですし、残念ですがこのまま…」 とウサギが言いかけた、その時でした。 「…何かしら?」 向こうのほうの空から、何か飛んでくるのが見えました。 「鳥の群れ… ですね。恐らくはこの辺に住んでいたものでしょう」 「みんな帰ってきたですー」 その中から何羽かの鳥が出てきました。それらは全体をライトグリーンの羽に覆われた、やよいが見たことも ないような美しい鳥でした。ところどころの羽が、太陽の光を反射してきらきらと輝いています。 「ひょっとして、このひよこのお母さんかも知れませんよ」 あずささんがひよこを地面に降ろすと、鳥達が近寄ってきます。 そして目の前の小さなひよこを羽で包んで、しばらくコロコロと揺らして…。  そうしているうちに、ひよこも目が覚めた様子。しばらくは目の前にいる大きな鳥におびえた様子でしたが、 「…ピピィ」 やがて、そっと鳥のほうに体を摺り寄せていきました。 「これで安心ですね」 「良かったね、ひよこさん」 「ひよこさん、さようなら~」 あずささんは鳥達のほうに手を振りながら、鏡の中へと入っていきます。ちょうどひよこはさっきの鳥と 一緒に飛ぶ練習をしているところでした。 「ピィッ!」 ひよこも返事をして見せます。 「さぁ、では私達も。いよいよこれからが本番ですから」 ウサギの真剣な表情に、やよいも緊張の面持ち。でも、ここまで来たら後には引けません。 やよいは目の前の鏡をじっと見つめて、しばらくそのまま風に吹かれたままになっていました。 女王とはどんな人なのでしょう? そして、そこに待っているのは…。

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