春香が家にやってきた:番外編

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♪ちゃ~ら~ ちゃらら~ら~ら~ら~ ちゃ~らら~ ちゃらら~ら~ ♪私は天海春香です!イェイ!トレードマークは頭のリボン! <<プツッ>> ”はい。天海春香です。ただいま電話に出ることができません。すみませんけど、発信音の後にメッセージを<<ブツッ>> 部屋の片隅、白いゲーム機の大柄な箱の上に置かれた携帯は、応答を得る事なく空しく切れた。 着信履歴を示すランプが、小さく灯る。 コンコン・・・ 部屋のドアがノックされた。 返事はない。 やがて、とまどい気味にドアが少しずつ開く。 「プロデューサーさん・・・?」 ドアの隙間から、少女が顔をのぞかせた。 キョロキョロと部屋の中を伺う、その動きに連れて、頭のリボンが揺れる。 彼女の大きな瞳が、部屋の真ん中で向こう向きに横になっている男の姿を捉えた。 『あ、もうお休みだったんですね・・・。』 声を潜めて独り言。 しかし、部屋の電気はおろか、ゲーム機とテレビ画面の電源も入りっぱなし。 ゲームのBGMが鳴り続けている。 明らかに、寝落ちしたというべき状況だ。 少女の表情に、迷いと憂いが影を落とす。 彼を起こすべきか。このまま寝かせといてあげようか。 起こしたい。それはもちろんだ。 もう一度、顔が見たい。声が聞きたい。そして、ちゃんともう一度お礼が言いたい。 『プ・ロ・デュー・サー・さん』 ささやくように呼びかけてみた。 やはり返事はない。 迷いを持ったまま、彼女は部屋に入っていった。 ゲーム機の上の小さな光が、彼女の目に入った。 幸運な忘れ物。 この携帯を取りに行く、それが名目だったのだ。 期せずして訪れた好機。しかし、お目当ての彼はすっかり眠りに落ちている。 『せっかく、もう一度来たのに、プロデューサーさんは・・・』 そう言いながら、男の寝顔を覗き込んだ彼女は、息をのんだ。 嬉しさと悲しさをごちゃまぜにした様な寝顔は、涙でグシャグシャに濡れていた。 彼女のために流した涙で。 そう思うと、胸の奥が締めつけられるようだった。 彼が寝ていて良かったのかもしれない。 少女は、初めてそう思った。 もし、もう一度、話ができたりしたら、もう自分は帰れなかっただろう。 彼が寝ている今ですら、こんなに帰りたくないんだから。 少女はハンカチを取り出し、彼の涙をそっと拭った。 『このまま寝ちゃったら、風邪ひいちゃいますよ。』 あえて明るい口調で、しかし声は潜めたまま口にしてみる。 そして、寝ている彼の体に毛布をかけてあげた。 このまま帰ろう。 そう決めた。 でも、手紙くらい置いて行きたいな。 部屋を見渡す。 そう言えば、昼間この部屋を片付けしてたんだった。 確かその時に、ペンは見た覚えがある。 でも、紙は見なかったかも・・・。 彼女の記憶の通り、ペンはすぐに見つかった。 でも紙がない。 紙袋やチラシならあるけど、さすがにせっかくの置き手紙に使うのはためらわれた。 困ったな・・・と、頭に手をやった時、指に触れる物があった。 彼女のトレードマーク。頭のリボン。 そうだ。 自分の分身としてこの場に残して行くのに、これほどふさわしいものも他にないじゃないか。 大事にして欲しいな・・・。そう思いながら、リボンを解いて、メッセージを綴った。 そしてしばらく悩んだ末、最終兵器リボンの投下地点は、彼の手首と決めた。 リボンそのものに気付いてもらえなかったり、メッセージに気付いてもらえなかったりということはないか、散々考えた末の結論だった。 絶対に気付くところ、その上で絶対に、いつかそのリボンをほどくはずのところ。 へたに頭に付けて、気付かずに外出したりしたらかなりの悲劇だし、そこで気付いて慌ててリボンを捨てられたりしたら大変だもの。 リボンを結び終えた彼女は、今度は忘れない様に携帯を持った。 「また、きっと会えますよね。」 彼に、そして自分に対して言う。 「じゃあ、おやすみなさい。私の、プロデューサーさん。」 ドアが閉まる。 部屋の中には、彼女がプロデューサーさんと呼んだ男が、一人残された。 彼女の残したリボンと共に。

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