流れ星

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「ね、プロデューサー。今日のステージはどうだった?」 「完璧だよ、伊織。サイン入りの風船もCDも在庫ゼロだし、ファンの伊織ちゃんコールも最高だった」 「コールってアンタ、あれ子供たちの絶叫だったじゃない。いおりちゃぁぁぁーん!!!って」 「遊園地のほかのアトラクションにも引けを取らなかったぞ」 「お化け屋敷と一緒にしないでよ。そもそも私は歌のお姉さんじゃないんだから」 「もっと若手じゃないファン層を拡大したいってことか」 「そうよ。お目が高いファンに、私をお高く評価してもらいたいの」 「むずかしい要求だな……」 「むずかしいってことないわよ。私にふさわしい舞台と観客を用意するのがアンタの仕事でしょ。  子供相手のステージって喉が渇くの。私にふさわしいジュースをダッシュで買ってきてくれない?」 「おそいわよプロデューサー! 人が大変なときに、どこ行ってたの!」 「いや申し訳ない。そこで熱い伊織ファンを見かけてな。つい話しこんでしまったんだ」 「言い訳はいいわよ。ねえ、今度はもっと予備の風船を用意しといてくれない?」 「突然どうした? 風船なんてさっさと配って終わらせたがってたじゃないか」 「べ、別にいいじゃない! 運のわるいファンが、私があげた風船、空に逃がしちゃったのよ。  わざわざ私のとこにきて、ずうっとメソメソされたら、パパやママじゃなくても心が痛むわ」 「わかった。次回からは手配しよう。その子はよっぽど風船好きな子だったんだな」 「ホントよね。あんなものどこでも売ってるのに、『いおりちゃんのふうせんが良い』って――」 「へー。そりゃまたずいぶんお目が高いファンじゃないか」 「なっ、なにバカなこと言ってんの! それより自分たちの手落ちを反省なさいよね!  私のステージにケチがついちゃったじゃない。着替えたらさっさとマッハで帰るわよ!」 「どうした伊織。マッハで帰ると言ってたわりには、勢いがないぞ」 「……ステージにケチがついちゃったわ。風船ひとつ足りなかったおかげで」 「伊織の手落ちじゃないさ。ファンがひとり泣いてしまったのは、俺たちスタッフのせいだよ」 「手落ちじゃないわ。でも今日のステージをいちばんお高く見てくれたファンはあの子よ。  私が与えた安っぽい風船を、宝石とか流れ星みたいに思ってくれたんだもの」 「チャンスの女神様としては、次の機会を与えたくなったわけだな」 「そうよ。なんでもない顔をして、ニコッと笑って次を与えてあげたかったの。  あんまりうまくやれた自信がないわ。与えられる流れ星がひとつもなかったんだもの」 「なあ伊織。まだ時間はあることだし、遊園地の迷子センターに立ち寄ってみないか」 「なんで迷子センター?……そういえばアンタ、さっき熱いファンと喋ったとか言ってなかった?」 「あんまり真顔で熱く語るもんだから、流れ星の行き先は訂正しなかったんだ。  でも、次のイベントのチラシは印刷済みだから、あの子にチャンスを与えに行かないか?」 「ああ、ものすごい歓迎だった。まるで伊織自体が流れ星みたいな扱いだったな」 「にひひっ♪ むさくるしいアンタの前じゃ、さぞかしこの流れ星ちゃんは可愛くうつったでしょうね」 「次回はもっとグッズを揃えておくよ。伊織にお高い評価をつけてもらえるなら安いもんだ」 「そうね。熱心なファンには熱心に応えなくちゃ。次回のCD出荷は、どーんと3倍でお願いね♪」 「えっ!? なんだそれは。どこから来た自信なんだ?」 「あの子のお父さまったら、私のCDを10枚も買ってくださってたのよ。  そんなに熱心に願ってもらえると、流れ星としては輝きがいがあるじゃない」 「……3倍買ってもらうつもりか」 「流れ星を見つけられるファンって、やっぱりとってもお目が高いわよね。  アンタの願いごとも、いつかちゃーんと聞き届けてあげるんだから。明日からもがりがり働くのよっ」 伊織はそう言うなり行ってしまいました。数秒悩んだのち、Pは自分の願いごとを思いだしました 発見者の焦りなんてちっとも気にせず、願われた流れ星は悠々と青年の傍を巡り続けるのでした

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