凱旋パレード

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「この遊園地も懐かしいですね、プロデューサーさん」 「そうですね。あずささんがここで歌ったのは、もう1年近く前でしたっけ?」 「うふふ。あの頃は右も左もわからなくて、ご迷惑をお掛けしました」 「すこし歩きましょうか。まだステージまでは時間があるようだし」 「そうですね。今日は私たち、ここには観客として来たんですもの。  私が立ったステージに、風船を渡した女の子が立つなんて、不思議な気分です」 「今ごろはガチガチかもしれませんよ。以前のあずささんがそうだったみたいに」 「恥ずかしいわ。歌詞も飛んで、ダンスも忘れて、ファンの皆に助けてもらって」 「どうにかこうにか終わったと思ったら、今度は風船がたりなくなったんですよね」 「そうそう。ちいさな男の子が、泣きながら私のところに来たんです。  困っていたところに、年のはなれたお姉ちゃんがとんできてくれて――」 「歌の好きな女の子でしたよね」 「その子が、自分の風船を渡してくれたんですよ。『お姉さんを困らせちゃダメ』って」 「年の割にずいぶんしっかりした女の子だなあって思いましたよ」 「あら、ぷ、プロデューサーさん? わ、私も少しはしっかりしてきましたよね?」 「おっと。あずささん、見えてきましたよ。本番前の彼女に、挨拶にいきましょうか」 「あっ、あずささん! 来てくれたんですか!」 「こんにちは、やよいちゃん。今日は緊張しているかしら?」 「えへへっ。あずささんの顔みたら、緊張もとんでっちゃいました!」 「そう、良かった。あのとき私の緊張をとばしてくれたのも、やよいちゃんだったのよ」 「そうなんですか?」 「ええ。初めての大きなステージで、お客さんを泣かせてしまったんだもの。  頭は真っ白。風船も空っぽ。どうしたらいいか全然わからなくって」 「すみません、私もちゃんと見てればよかったんですけど……」 「そしたらやよいちゃんが、すーっと飛んできて、すーっと緊張をつれてってくれたの」 「でもでも。私、弟が歌のお姉さん困らせちゃって、ヤバイー!って思っただけで」 「そのときに思ったのよ。この子はふわふわした、やさしい風船みたいな子なんだなって。  だから、社長がやよいちゃんを連れてきたときは、心の底からおどろいたわ。  どこかへ飛んでいった風船を、もう一度つかまえてきてくれたんだもの」 「私もびっくりしました! うーんとすごいアイドルさんだったんだって!」 「その、うーんとすごいアイドルが、すごいって思った子が、やよいちゃんなのよ。  私をトップアイドルにしてくれたプロデューサーさんの、保障つきでもあるんだから」 「うぅ…でも私、あずささんみたく堂々と歌えないし、ダンスもまだまだヘタっぴで……」 「うふふ。私もそうだったわ。だってやよいちゃんは、全部見てたでしょう?」 「あ! えっと、えっと、……あずささんと、おそろいですね!」 「そうね。私たちはお揃いだわ。だから今日のステージも、きっと楽しいものになるわね」 「じゃあ、俺達は観客席に向かいましょうか、あずささん」 「あのっ。あずささん、あずささんのプロデューサーさん。これ!」 「風船?」 「まあ。やよいちゃんから、いただけるのかしら」 「はい! 今日はファンの皆さんにくばります。もらってください!」 「ありがとう、やよい。でも良いのか? 握手会はステージの後だろう?」 「プロデューサーにお願いしました。最初と最後に渡したい人がいるんですって」 「なんで俺達に2つもくれるんだ?……って、ちょっと、あずささん!?」 「あ、あらあら、大変。どうしましょう、私ったら――」 ふわりふわりと浮かびあがった風船を前に、あずささんは心配そうに空をみあげていました 「おそろいです!」と嬉しそうにやよいが言って、理解したPはそっと掌をひろげました 二つの風船が見下ろす地上に――泣いてる人はひとりもいませんでした

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