What color is your color?

「What color is your color?」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

What color is your color?」(2011/08/11 (木) 00:09:50) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

気が付けばそこは、壁と床だけの空間だった。 どこまでも続くような白、奥行き。 天井なんて存在しない、いや、するのだろうか。あの白は、空だろうか。 目が眩むような、そんな色。左右も上下も見失ってしまうような、そんな色。 視覚は頼りにならなくて、手を伸ばす。 手のひらは壁面に触れたはずなのに、触覚はその機能を果たさない。 触っているのに触っていない、不思議な感覚。 戸惑う。ここはどこだろう。 夢なのかな、そうなのだろうと不意に理解した。だとしたら、なんて味気ない夢なのだろうか。 見渡してみる。 白い壁、白い空、あるいは天井。どこまでも続くような奥行き。でもその先もやっぱり真っ白で。何もない、ただただ白い、殺風景。 音は無くて、匂いもしなくて、たったひとり取り残されたような世界。 白い視界。 白の世界。 心細くなって、座り込んだ。 彼女を受け止めた床も何もかも、純白だった。 「写真撮影、ですか?」 雪歩の問いに彼は頷き、これだ、と資料を取り出した。 「時期が時期だし、こんな仕事もあるんだ」 事務所の、彼の小綺麗なデスクが資料に埋まる。雪歩がひとつ手にしてみれば、そこには女性の姿があった。 「モデルだな。その会社のパンフレットに、雪歩の写真を載せたいって話だ」 しばらく凝視する。言葉が出なくて、それでも何とか絞り出した。 「・・・きれいです」 その言葉に彼も同意し、しかし彼の視線は手帳へと向いている。 「ただここ最近、レッスンと営業で忙しいから。疲れてるだろ?無理に引き受ける必要はないぞ」 どうする?そんな彼からの問いと向けられた視線に、雪歩は悩む。 勿論、やってみたい気はある。無い方がおかしいだろう。だがやっぱり、恥ずかしい。 うんうん唸ってみれば、彼が小さく笑う。苦味の無い笑み。 「やっぱり、恥ずかしいか」 「は、はい」 正確に言い当てられ、少し驚く。 「さっきも言ったけど、無理することはないぞ」 でも、と彼の視線がデスクトップのモニタに向いたので、つられて彼女も彼の横顔を追う。 「まあ正直、見てみたい気はするけど」 「・・・ぇ?」 「雪歩のドレス姿」 そんな彼の言葉に一気に頬が上気して、迷いなんて吹っ切れる。 「や、やります!」 気付けば叫んでいた。 目を閉じていた。 目を開けば、そこに真っ白な世界があることはわかっていた。 それはきっと彼女なりの抵抗で、でもその世界には彼女ただひとり。 誰も居ない、そんな世界。 泣いていた。心細さからだろうか。 本当にこれは夢なのだろうか。そんな気さえしてくる。 ずっとこのままならどうしよう。怖かった。 みんな、どこへ行ってしまったんだろう。 父親と母親の姿を想う。でも、ここには居ない。 学校の友人達のことを想う。でも、ここには居ない。 765プロのみんなを想う。でも、ここには居ない。 プロデューサーのことを想う。でも、ここには居ない。 ―――プロデューサー・・・ 気付けば彼のことを、他の誰よりも強く想っていた。 隣に居てくれるのは、彼だったから。 真っ黒な視界の中で、ふと彼の声が聞こえた気がした。目を見開く。純白の世界。音はしない。 気のせいかな、そう思って、また目を閉じようとした。 ―――雪歩。 今度こそ確かに聞こえたその声は、彼のもの。力強く立ち上がって、彼の姿を探す。 白い視界。 白の世界。 何もない殺風景。 声がする。聴覚が、彼の存在を示していた。 匂いも感じる。嗅覚も、彼の存在を示していた。 「プロデューサー!」 ありったけの声を張り上げて、彼を求めた。瞬間、白の世界が崩壊していく。真っ白だった世界が、色付いていく。 これは、何色だろう。何となく、どこかで、いつか、いつも。 ああ、そうだ、これは。 あの人の、色。 「雪歩?」 雪歩が目を覚ませば目前に彼の顔が迫っていて、少し驚く。 自分が寝ていたのだと気付くのに時間がかかって、同じく夢の内容を思い出すのにも時間がかかった。 「起きたか?」 「いえ、ごめんなさい。寝てしまいました」 恐縮する雪歩をいいよ、と制した彼は、それよりも、と彼女に視線を移すように促した。 「まだ、しっかり見てないだろ?」 化粧の最中に寝るなんて、よっぽど疲れてたんだな、なんて笑いながら彼は言う。 彼の視線の先、在るのは鏡。スーツ姿の彼と、彼女。 純白の、ウェディングドレス。 「お父さんが居たら、泣くだろうな」 そんな彼の軽口も、彼女には聞こえていない。状況の把握に必死である。 ジューンブライド、結婚式場を経営する会社、パンフレット、写真、モデル。 ようやく状況を理解して、ぼうっとしていた頭は回り始めた。同じく、ようやく自らの格好へと意識が移る。 ウェディングドレス。白が眩しくて、思い出す。 そうだ。夢を見ていた。 「あれ、雪歩、どうした?」 途端に恥ずかしくなって、顔を伏せる。純白のドレスの意味は、あなた色に染めて。そんなこと、彼女も知っている。 つまるところ、あの夢はなんだ。 真っ白な世界で、ひとりぼっちで、誰も居なくて、でも最後に世界が染まって。 「雪歩!」 「は、はい!?」 突然の大声に現実へと舞い戻り、彼のあきれたような、それでも優しげな笑みを貰い受ける。 「ほら、時間だ。恥ずかしがってないで、そろそろ行くぞ」 彼女は別に、自分の姿に恥ずかしがっていたわけではない。わけではなかったが、そういうことにしておく。か細く、はい、と答えることが出来た。 「全く、そんなに恥ずかしがる事もないぞ。似合ってるし、綺麗だし」 「・・・!?」 最早声にならない。夢の事を考えていたときの恥ずかしさに、気恥ずかしさやら嬉しさやらなにやらが全部上乗せであった。 彼女はその後のリカバリに数分を要して、もちろん撮影もずれこんだ。 それでも出来上がった写真上の彼女はとても綺麗で、とある式場で配布されているパンフレットには、幸せそうな笑顔の純白が載せられている。

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: