100ある961の話なら

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「あふぅ。今日もお掃除、お留守番、タイクツなの……」    窓を拭く夢を見ながら、夢の中で美希は呟いた。    ゲイノウ国のプリンス『プロデューサー』の『アイドル』を探すオーディション。  その名も『アイドル・アルティメイト』。今日はその決勝戦がお城で行われている。    “プロデューサーに選ばれたアイドルは、幸せな人生を送る事が出来る”  ゲイノウ国にはそういう伝承があり、年頃の女の子はみな、プロデューサーのアイドルになる事を夢見た。 「ミキも行ってみたかったな……王子サマ、どんな人なんだろ」  美希はアイドル候補生であり、アイドル・アルティメイトには美希の先輩達が何人か参加していた。  だが美希だけは見学も許されず、いつものように事務所で一人、お留守番と雑用を命じられていた。 「ミキだって、ステキな王子サマにプロデュースしてほしいのに……」  ゲイノウ国は、何故かどの代のプリンスもプリンセス(花嫁)を現役アイドルから選ぶ。  いつからある伝統か定かではないが、巷では「王家はロリコンの血筋」という黒い噂まで流れている。  したがってこの国で『アイドル』とは“未来のプリンセス”という意味も含まれているのだ。  ぐぎゅるるるるる~~。  「うう、夢の中とはいえお腹減ったの。そういえば今日、何も食べてないの……」  空腹で目覚める。夜食にとっておいたおにぎりを取りに事務所の冷蔵庫を開ける。  しかし、そこには――。 「あれあれ!? 無い……ミキのおにぎりが……ないっ!!」  あるはずのおにぎりが無い。好物であるおにぎりに関して、美希は結構うるさい。  研ぎ澄まされた思考が、その謎を解き始めた。 「そういえば……社長、出かけるとき、口にごはん粒と海苔がついてたの……」  美希は己の境遇を嘆いた。アイドルとしてデビューさせてもらえないばかりか、さらにこんな酷い仕打ちを受けるなんて。  保っていた心の線が切れた。美希は家出を決意し、事務所を飛び出した。 「ひどいよっ! ミキばっかりこんな……今頃みんな、会場のお城でご馳走をタラフク食べてるの!」    夜も更け始めていた。寒空の中、美希はアテもなく孤独な夜を彷徨う。 「おやおや……何を泣いているのかな、子猫ちゃん……?」  今居る場所も、自分がこの先どうなるかも分からない。  走りつかれた美希がうずくまり泣いていると、美希の前に怪しげな男が現れる。    それは、黒い魔法使いだった――。 「何を泣いているのかな、こんな場所で」 「おじさん、誰……?」 「お、おじさんでは無い! 私の名は黒井。魔法使いだ」 「黒い、魔法使い?」 「そうだ。キミはアイドルかね?」 「ううん。ミキはまだ、アイドルじゃないの……」 「まだ、というと?」 「事務所の社長さんがね、ミキはまだ心構えがどうの~とか言ってデビューさせてくれないの。  それに、ミキに雑用ばっかりおしつけて、おにぎりも食べちゃったんだよ!?」 「ふーむ。それは酷い話だねぇ。それで、美希ちゃんは家出……をしてきたのかね?」  美希は黒い魔法使いを探るような眼差しを向け、こくりと頷いた。 「ノン! それはいけない。私の見た限り、キミは『トップアイドル』になれる器だ。  キミをデビューさせなかったのは、そのプロダクションの社長がボンクラだったのだよ」 「そ、そうかな? ジツは、美希もうすうすそう思ってたの」 「フフ。素直な子だね美希ちゃんは。だが逃げ出すのは頂けない。  欲しいモノは、どんな手段を使ってでも手に入れなければ!   どうだね? 私は、キミの願いをかなえられるが。キミが望むなら、ね……。  今からそいつらをぶっとばしに行かないかね?」                   ☆★☆ 「退屈だな」 「は、すみませんプロデューサー……今年はアイドル不作の年でして……。  しかし、あの頭のリボンがトレードマークのアイドルはどうでしょう? なかなかいい表情をしますよ」 「あれはウラがありそうだ。嫁にしたら王家滅亡の予感がするぞ、大臣」  大臣の必死のフォローをプロデューサーは一蹴する。  それでも大臣はめげず、めぼしいアイドル達を指差し挙げていった。 「ではあのアイドルはどうでしょう。ダンスはいまいちですが、歌唱力とスタイルは図抜けています」 「ふむ……大臣、あのアイドルの名は?」 「は。三浦あずさ、20歳です。いいですな~癒し系お姉さん……!」 「大臣……20歳と申したか?」 「は。それが何か……?」 「残念だと、一言」  やはり王家のロリコンの血筋は健在だ、と大臣は嘆いた。  その後の大臣の必死の推挙もプロデューサーはつまらなそうに否定し、  重い空気のまま、アイドル・アルティメイトは終焉を迎えようとしていた。 「愛してると言われると――まっすぐ過ぎて反吐が出るものね――」  突如、沈殿した華を蹴り散らすように会場の扉が開かれ、  アイドルの物とは思えぬ力のある歌と歌詞が、城内に響き渡る。 「なんだこれは、大臣! 余はこんな事聞いていないぞ!?」 「私も存じませぬ。オーディションに乱入……でしょうか、アイドルの」 「ほう。アイドルが乱入とはな……前代未聞だ――だが面白いぞ! そこなアイドル、名を何と申す!?」  会場中の視線が飛び入りのアイドルに注がれ、  さっきまでほぼカビていたプロデューサーの生気も復活し、眼に輝きが戻る。  飛び入りアイドルはプロデューサーを指差し、ゆっくりと、大きくはないが力強い声で言った。 「――ミキの名前は星井美希――見つけたよ。ミキの王子サマ!」

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