relations.・悲話


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敗者の気持。

考えた事が無い訳でもない。
知らなかった訳でもない。
そんなのは、オーディションで落選した時、あの気持を嫌と言うほど経験して来たから。

けど、今の気持はそのどれとも違う。
まるでスタートの違う、別な次元の物。

だが、明らかに敗けた事だけは判っているのだ。
けれど、それを教えてくれているのは、積み上げた経験や知識等ではない。 ──── もっと体の奥に潜む何か。
それが告げてくれている。
いや ──。
きっと認めたくないだけなのだろう。
そんな感情に振り回される事を軽蔑してきた、もう一人の偽りの自分が。
素直な女性なら、簡単に理解出来る事なのに。

本能が告げているのに。 ─── 『あの娘に敗けた』んだ、って。


この人の唇が描いた、あの娘の名の形。

遡る血流。
早鐘の如き鼓動。

…ナン…デ………?

「……どうして? 何故…、なんですか…?」
混乱した意識で、半ば無意識に口を付いた問い。
「──すまん。」
垂れた頭と共に返って来た答えは唯一言。

再び現われた苦渋の表情を湛えたこの人の瞳には、何時も映っていた私の姿は、もう映っていない。
この否定したい現実。───── それが、紛れも無い真実である事を私に突きつける。

だけど。
もう判ってる、そんな事。
『夢にしてしまったのは自分なんだ』って。
明るくて、素直で。
一途に、好きだって感情を自身の全てでぶつけるあの娘。
そんなあの娘に、この人の心が傾いて行くのを誰が責められるだろうか?
判っていて、斗う事を選ばなかったのは自分の所為なのに?

それでも、だ。
判っていても。
気が付いていても。
それでも縋れるのは、もう私にはこの人しかいない。

「── ふ、ふふ…」
 ───── 何時の間にか心の隙間を塞いで来てくれたのは、この人なのに。
「今まで、私が見てきたのは─── 」
 ──── この人がいるから、私は何処までも飛べる翼になれるのに。
「──夢だったんですね…」
 ───── この人の隣が、私の居場所だって気が付いたのに。

何かを欲していたからなのかも知れない。
そうじゃなければ、何かを確かめたかったからなのかもしれない。
心が。
言葉じゃない言葉。
意識じゃない意識。
私が紡いだのは、心の声。

静まりかえった部屋。
2人の間に有るのは、音の無い世界。

軋み続ける心に、行き場のない慟哭が吹き荒ぶ。

ギリギリの平衡を崩すのに、多くの要素は要らない。
少しだけの些細な切欠。
必要なのは、たったそれだけ。
それに抗う術は、今の私には何処にも無いから。


「すまん。──」

静寂を破って再びこの人から紡がれたのは、さっきと同じ台詞。
それが私の聞いた、この人からの最後の言葉。

何かが割れる様な音が聞こえた。


心が、砕ける。


「開けろっ! 開けてくれっ!」

何処からか、扉を叩く音が聞こえる。
でも、それはとても遠い音。

屋上に立つ私の眼前には、煌びやかな街の明かりと満天の星空が広がっている。
遮るものは何一つ無い。

ああ、なんて素敵なのだろう。
この世界は、こんなにも広いだなんて。
さあ、飛ぼう。
私は、もっと遥かな高みを目指さなければいけないのだから。

だって、私には ───── 『何処までも飛べる、翼が有るのだから。』 


「止めろっ!! 馬鹿な真似は止せっ! 千──」


虚ろな瞳が、天を見つめる。




~ relations.・悲話 ~ end