第3話 みどりの国  ~響け! 千早の心の歌~


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 機械の国を抜け、やよいたちは次の世界へと歩を進めていきます。
「真さん無事に帰れたかな…?」
「それは心配ありません。できれば一緒に戦ってもらいたかったのですが…」
「無理なの?」
「ええ、ストローは一つしかありませんし、それにそのドレス無しではこの世界の邪悪な瘴気によって
あっという間に体力を奪われてしまうことでしょう」
ウサギはそう言ってやよいのエプロンドレスを見ました。普通の服のように見えるのに、とってもすごい
ものだったのですね。


 鏡の中の通路を抜けると、向こうに光が見えてきました。
そして出てきたのは…

「きゃぁぁぁぁっ!」
やよいたちを出迎えてくれたのは、甲高い悲鳴でした。それもやよいには聞き覚えのあるものです。
「千早さん」
「あ、高槻さん…? いきなり何か出てきたかと思ったら…」
千早さんとやよいの出てきたところは、そうですね、30cmぐらい、すぐ近くです。
そんなところから人がいきなり出てきたら誰でも驚くでしょう。
「千早さんもここに連れてこられたんですか?」
「ええ… 私は確かにパジャマに着替えて、それでベッドに入ったはずなのに…」
千早さんはそう言って、目の前のやよいを珍しそうに眺めます。
いつもの服とは違って、オレンジと白のドレス、そしてエプロン。とても可愛らしいです。
「…」
千早さんは何も言いません。ただじっとやよいを見ているだけです。どうしてしまったのでしょうか?
「千早さん?」
「あ、ご、ごめんなさい…」
「きっとこの先に出口があるはずですから、一緒に行きましょう?」
やよいはそう言って、千早さんの手を取りました。さっきからぽーっとしてる感じの千早さんが心配に
なったのかも知れません。
千早さんはそのまま引っ張られてやよいと一緒に歩いていきます。なんだか仲が良さそうですね…。

 見回すとそこは一面緑が広がっている世界。
いろんな昆虫やぷよぷよとした生き物、そして何故か銀色の四角い板がくるくると回りながら飛んできます。
やよいがシャボン玉を当てると、銀色の板はクラッカーのような小気味の良い音を立てて破裂してしまいました。
「何だか… 嫌な風景ね…」
千早さんが銀色の板の方を見ながら、そうポツリと呟きました。よっぽど気に入らないみたいです。
「これもみんな女王に操られてるのかな…」
ちょっと寂しそうなやよい。生き物をいじめるみたいで何となく気が進まないのかもしれません。
なるべく落とさないようにして進むことにしましょう。

「ところで高槻さん… ここはいったいどういう所なのかしら…?」
歩きながら、千早さんがやよいに問い掛けました。
「ここは… 鏡の国、またの名を夢の国とも言います」
ウサギがそれに答えます。
「夢の国?」
「ええ、何かしらの夢を持っている人のみが来られる世界… 千早にも何か夢が?」
ウサギの問いに対して、
「私は… もっと歌がうまくなりたい」
千早さんは、迷いの無い表情でそう答えました。
「歌… ですか?」
「そう。 …高槻さんには、そういうのは無いのかしら?」
「うう~…」
やよいは考え込んでしまいました。
「ここに来られたからには、何かやよいにも夢というものがあるはず…」
ウサギの問いにもやよいは頭をぐるぐる回すばかり。ちょっと、やよいには難しかったのかもしれません。

 しばらく歩くと、程なく行き止まりまでやってきました。やはりそこは広い床になっていて、そこには…
「やぁやぁ久しぶりだねぇ~♪」
「待っていたよ~、ウサギくん~♪」
そこにいたのは、まんまるい、緑と赤のまだら模様をした二つの… 生き物でしょうか?
両方とも大きな目と口を持っていて、なんだかにこやかな感じです。そしてその周りにはいくつもの顔の
描かれたボールがくっついています。
そして、両方ともが台詞に何だか妙なメロディを付けながら、やよいたちに語りかけてきます。しかし、
それはとても歌と言えるようなものではない… そう、音痴な代物なのでした…。

「これも女王の作った魔物でしょうか…」
ウサギの顔が緊張でゆがんだように見えました。
「魔物だなんて~、失礼な~♪」
「このアラティーズに向かって~、そんなことを言うなんて~♪」
目の前にはそっくりの顔が二つ。大きな口を横にめいっぱい広げて、笑顔で歌っています…。
「不気味…」
思わず千早さんがそう呟いた、次の瞬間。
「不気味ですって?」
「私たちの気にしていることを…」
「「…ゆ、ゆるせなーい!!」」
言ったかと思うと、アラティーズたちはぐるぐると床の端っこを円周状に回り始めました。
ちょうど床の真ん中にいたやよいたちは取り囲まれる形になってしまいます。

 ギュウン… ギュウン…

それを見ていたやよいの目が段々不安定に、そしてふらふらと歩き始めてしまいます。
「目が回ります~」
そして回転するアラティーズの横を抜けて、ついに床の切れ目まで…!
千早さんが我に帰ると、目の前には今にも床から落ちそうなやよいが。
「高槻さん!」
千早さんは叫びながら走っていき、そしてやよいの手をつかもうとします、が…
目の前でやよいの姿は、ふわっ、と消えてしまいました。
「!!!」
思わずそのままやよいを追って体を宙に躍らせた千早さん、このまま二人とも…!?

 いいえ。
やよいの体は、ぎりぎりのところで千早さんが手を掴んで宙ぶらりんになっていました。
そのまま千早さんは力を込めてやよいを引っ張り上げます。
「高槻さん! しっかり!」
「あ、千早さん…」
気が付いたやよいは千早さんの両手を掴んで、そのまま引き上げられるがままに。
必死に千早さんが頑張って、なんとかやよいを床まで持ち上げることが出来ました。
そして抱き上げるような格好で、一緒にごろんと床に転がり込みました。
「高槻さん… はぁっ、はぁっ…」
千早さんの息が荒くなってます。きっとやよいを持ち上げるのは大変だったからでしょう。
顔も赤くなっていて、とても疲れているみたいです。
「…そうだ!」
やよいは起き上がって床の真ん中を見ます。そこにはアラティーズたちが背中を向けて、何やら話を
してるようです。
「人間なんて大した事ないねぇ~♪」
「私達が~、強すぎるんだよ~♪」
…どうやらすっかり油断してるようです。そこにやよいはそーっと近づいていき、大きな大きな
シャボン玉を…

 パチーーーーーーン!

「「うわぁぁぁぁぁぁ」」
不意打ち成功です。でもまだアラティーズは動けそうです。
「ふふふ、やってくれるわねぇ~♪」
「さぁ戻ってらっしゃい~、今度こそ~、叩き落してあげるわ~♪」
しかしやよいはそのまま動きません。床の端に立ったまま、大きなシャボン玉を作って、待ち構えています。

「…なるほど、真ん中にいるのと違って、そこにいれば目が回ることはないわね~♪」
「でも突き落とす手間が省けるじゃない、今度こそまっさかさまだわよ~♪」
またアラティーズは歌いながら回り始めます。今度は端っこのほうにいるやよいに集中して弾が飛んできます。
「高槻さん、ジャンプよ!」
離れたところにいる千早さんは、そうやよいに向かって大きな声で言いました。
とっさにやよいはジャンプ。するとその下をアラティーズが通り過ぎていき、吐き出してきた玉は全部やよいの下を
通り過ぎていきます。
「リズミカルに飛んでいれば当たりそうに無いわ、歌やダンスと同じよ」
「分かりました!」
一定のタイミングでジャンプするやよい。
そして、その下をアラティーズたちが走り抜けていきます。

「だけど… 何て下手な歌…」
一方の千早さんも、ただ見ていたわけではありません。
ひたすらぐるぐると回りつづけるアラティーズ、そしてそのあまりにも音痴な歌に、何かおかしなものを感じて
いたのでした。

「…」
ひとしきりそれを黙って見ていた千早さんですが…。
「あなたたち、そんな下手くそな歌を歌わないで頂戴!」
とうとう我慢の限界に来たらしく、千早さんは回っているアラティーズに向かって怒鳴りつけました。
それが聞こえたからかは分かりませんが、アラティーズの回転が少しずつふらふらしたものに変わっていきます。
「へたくそ、ですって…?」
「しつれ、い、よねぇ…」
声が少し苦しげなものになっているのが分かりました。まるで、何かにとりつかれたかのように…。
「やっぱり…! これは何かのマインドコントロール!」
千早さんが、意を得たという表情になります。そして…

「蒼い~、鳥~、もし幸せ~、近くにあったら~♪」
今度は千早さんの美しい歌声が、辺りに響き始めました。
それを聞いたとたん、アラティーズはさらに苦しそうな表情を。
「う、ぐぐ… なにこれ…」
「この、うたごえ…」
アラティーズたちはもはや回ることも出来ないようです。二人で固まって、その場でごろごろと悶え苦しんでいます。

「今です! シャボン玉を!」
やよいが固まっているアラティーズに特大のシャボン玉をぶつけます。
すると、ついにアラティーズの動きが止まり、シャボン玉が当たったところから大きく泡が立ち始めます。
そして両方ともが、爆発して盛大に炸裂音を響かせました。

「「うひゃぁぁぁぁ」」
爆発したところから何かが飛んできました。それは地面にぶつかってやよいたちの方へころころと。
…何でしょう、人形でしょうか。

「助かったわ~」
「女王のせいでぐるぐると回り続ける呪いを掛けられていたのですよ~」
人形に見えたのは、二人の小人でした。
「レプラコーンですね、普段は楽しく歌ったり踊ったりするのが趣味なのですが」
ウサギさんが説明してくれました。いろいろありましたけど、助けることが出来てよかったですね。
「ありがとう~♪」
「ございました~♪」
千早さんに負けないほどの、美しい歌が辺りに響き渡ります。
「ふふっ… やっぱり妖精さんはこうでなくちゃ…」
それを聞いて、千早さんも嬉しそうな表情になりました。
「他のみんなも~、助けてあげてください~♪」
そう言って、小人たちはどこからともなく鏡を持ってきました。これでまた次の世界に行けそうです。

「迷惑をかけましたね、千早」
「いえ、結構楽しかったですよ、高槻さんとの冒険は、ふふっ」
「楽しかった… ですか?」
やよいが言うと、
「ええ… さっき高槻さんを助けたときに思ったの。何だかこう… 私に親友がいたらこうなのかな、って」
「千早さん…」
千早さんの顔が、少しだけほころんだように見えました。
「ちゃんと帰ることができたら… またこんな風にお話できるといいわね、高つ… ううん、やよい」
「…はい!」
やよいも、目いっぱいの笑顔で千早さんにそう答えます。

 千早さんを先に元の世界に帰して、残る二人も鏡の中へと飛び込みます。
手を振りながら、やよいたちは小人さんたちとお別れしました。
先に進むと、何やらひんやりした空気が感じられます。今度は寒いところでしょうか…?