無題202


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 パチ、パチ
 ある日の午後、天気は晴れ、いや、快晴か。雲一つない空模様で、澄み切った青が
頭上を覆い尽くしている。陽射しが燦々と射すが、それは汗を流すほどではなく、た
だ仄かな温かみをもたらすだけである。
 パチ、パチ
 俺はそんな昼下がりの陽だまりの中、たまたま社長室で、社長と将棋をしている。
 パチ、パチ
 「ま、待った!」
 「…またですか?」
 ちなみに、もう10戦目。お昼前から始めて、すでに社長の待ったの声も、飽きる
ほど聞いている。
 「なぜ、手加減してくれないんだね?」
 「これ以上したら、俺が確実に負けますから」
 最初は平打ちだったのだが、徐々に駒を少なくしていき、今では金銀と歩以外の駒
を落としている状態だ。だが、
 「それでも、君は強いではないか」
 「そんなことないですよ」
 今の俺の手持ちに飛車角が揃っている。桂馬と香車も一枚ずつ持っている。
 「むむむ………。どうすれば……」
 「そこ、銀で取りますよ」
 「な、なに、待ってくれ!?」
 「はい、どうぞ」
 大事な桂馬を、みすみす、俺の前に差し出す社長に、少し塩を送る。
 「それにしても……」
 「暇ですね……」
 今、事務所にいるのは、俺と社長の二人のみ。
 うちの事務所のアイドルたちは、今、人気上昇中で、営業やライブ、オーディショ
ンなどに引っ張りだこで、忙しそうに各地を移動中だ。確か、あずささんは美希を連
れて、東北地方に出かけているし、響とやよいと伊織は沖縄あたりにでもいるんじゃ
ないかな?律子は亜美と真美を連れて中国・四国地方を遠征中で、貴音、真、雪歩は
大阪・京都でTV番組に出演中。春香と千早は中部地方でライブをしている最中だろ
う。音無さんは、あずささんと美希のサポート役で一緒に出掛けている。
 そして俺と社長は、皆に来なくていいと言われ、書類作業も午前中にすべて終わり
、やることが無くて、将棋をしている。
 ならば、アイドルについて行けと言われるかもしれないが、そのアイドルたちが俺
や社長を置いてさっさと仕事に行ってしまったのだから、しょうがない。
 「まあ、今日はゆっくりする日ということで、いいではないか」
 「…はぁ、そうですね」
 ただ、俺は彼女たちが心配で心配で仕方がない。今も、たまに携帯を取り出して、
メールや電話の確認をしている。
 「これで詰みです」
 「うおっっ!?ま、待ってくれ」
 「何手前まで戻しますか?」
 「20手くらいまで戻してくれ」
 「分かりました」
 俺は、たまたま小学生、中学生のころに将棋にハマっていたのが幸いし、こうやっ
て社長と将棋ができている。まあ、ちょっと社長が弱い気がするが……。
 「まあ、こういった日があっても、いいではないか。いつも、君は頑張ってくれて
 いるのだから、今日みたいに、休む日も必要だと、私は思うのだよ」
 はっはっは、と笑いながら、社長は駒を持って悩んでいる。
 「確かに、そうなのですが……。でも、そんなこと言っても、手を緩めたりはしま
 せんよ?」
 「ははは、手厳しいねぇ~」
 パチ、パチ
 誰かが帰ってくるまでの間、また、社長室に音が響きだす。
 彼女たちの笑顔が帰ってくるまで…………