黒い鳥

春香もランクを上げて、久しぶりにオーディションで戦う事になった。悪いけど、負ける気はしなかった。
春香のアピール、どうやらボーカルをアピールするらしい。私に勝てるつもりなのか。
確かに、今回のオーディションはボーカルの比重が重い。だからこそ、春香には負けない。
イントロでは気づけなかった。歌詞を聞いて、気付かされた。蒼い鳥、それも私とは違う歌い方の。
同じ曲を二回審査員に聞かせる? そんなことしたら、直ぐに帰ってしまう。
ならダンス? ビジュアル? 私は何をアピールすれば良い?
混乱したまま、私は負けた。仮に私が先に歌っていれば。
そう思った。私には歌しかないんだ。逃げちゃ駄目だったんだ。
「春香、次のオーディション、負けないから」
明るく、待ってるよという彼女に背を向けてレッスンへ向かう。
私の翼は歌で、羽ばたけないなら死んでしまうしかない鳥だから。歌だけは、負けられない。

曲も変えた。『目が逢う瞬間』。蒼い鳥には思い入れもあったけど、歌で勝つためには仕方なかった。
春香は相変わらず蒼い鳥を歌うらしい。大丈夫、今度は迷わない。私の全てを歌に乗せるから。

空席に目をやる。二人、いや歌唱力のせいか他のアイドルもボーカルのアピールをしてきた。
結果がこれ。ダンスとビジュアルの勝負になり、流れを読みダンスアピールを多くした春香が勝った。
歌だけじゃ、駄目なのだろうか。遠くでプロデューサーが春香と話をしてるのが聞こえる。
怖い、けど聞かなくちゃ。
「千早ちゃんは蒼い鳥なんだよ? だからこうして、翼を折らないように……」
春香がなにを言いたいのか分からなかった。ただ勝ちに来たのではないのか。
「羽を一本一本抜いて、私のモノにするんです。鳥籠を用意したって翼を傷つけて飛び立とうとしますから」
春香は私の事を理解している。その上でこうして立ちふさがっている。
プロデューサーが何やら問いかける、その答えは予想を超えていた。
「当たり前ですよ。顔も声も胸もみーんな好きですよ。どんなに変わっちゃっても」
プロデューサーにレッスンの予約をお願いして、それから曲を変えるように頼む。
もし、もう一度プロデューサーに言った言葉を私に言えたなら。もう飛べなくても良いかも知れない。
でも、蝋でも良いから翼を作ってもう一度飛びたい。
だから、これがラストチャンス。多分、最後のボーカルアピール。

「聞いて下さい、『おはよう、朝ご飯』です」

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最終更新:2011年09月27日 00:22