『マキアート・ハート』


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

「はい、キャラメルマキアート」
「わ、ありがとなの!」
 前はコーヒーか紅茶、それかオレンジジュースしか選べなかったのに、今日は
お姉さんがこれ用意してくれた。聞いたら、エスプレッソマシン買ったんだって。
「美希ちゃん、好きだったでしょ?しばらく待っててね」
「うん、大好き!」
「でも……よかったの?ウチなんかで髪やっちゃって」
 お姉さんがちょっと心配そうに聞いた。
「美希ちゃんもう有名人なんだから、ちゃんとしたメイクさん、いるんでしょ?」
「あははは、いないよそんなの。そーゆーのはもっともっーと、すごい人たちだよ」
 おっきな声で笑ったら、安心してくれてみたい。だけど、シーってされちゃった。
有名なのには変わりないんだから、こんなトコで大声出さないの、って。
 このお店は、ミキやお姉ちゃん、ママが前から使っているカットハウス。
レッスンとか収録で全然来れなかったから、顔を出したらすっごい喜んでくれた。
 セットもいつものお姉さんがしてくれて、その間ミキが知ってるゲーノー界の
お話して、お姉さんがファンだっていうバンドのリーダーさんが行きつけの
ごはん屋さん、ナイショだよってこっそり教えたりして。
――マキアートの意味?ううん、ミキ知らない。
――染み、っていう意味なんだって。
 さっきお姉さんに聞いたマメ知識。泡立てたミルクの上に流したキャラメルが、
じわじわ染みてくるからなんだって。
 カップを包み込むみたいに覗いてみたら、まっしろい雲みたいなミルクの上で、
茶色のフレーバーがじわじわ広がってく……雲、かぁ。
 ミキは、雲みたいにほわほわって浮かんでるのが好きだった。勉強だって
体育だって、半分寝ててもソコソコできたし、アイドルになってもおんなじ
だった……おんなじって思ってた。でも。
 でもほんとはちょっと違ってて、ううん、全然違ってて。
 プロデューサーもディレクターも、出演者さんもスタッフも、ADさんから
エキストラから小道具のアイスクリームまでヒトもモノもみんなみんな一生懸命で、
そんななかでミキもいつの間にか一緒に一生懸命にさせられちゃって。
 それが……すっごく、キモチよかった。
 『今から変わる』、そう決めたのはミキだったけど、よく考えたらミキには
そんなこと決めるスイッチ、ついてなかったなって思って。これって、もう
変わっちゃってるってことだよね。
 いつの間にか、変わってる。それはたぶん、ミキの心に、別の想いが染みて
きたから。
 ふわふわしてたミキの心にじわって染みた、プロデューサーの思い。それは
ちょうど、このマキアートみたいにどんどん色が混じりあって。
 ミキの心ももう、プロデューサーの心の色に染まっちゃってるんだな、なんて
思って顔赤くしたりして。
 ミキはね、きっとプロデューサーのために、どんなことでも頑張れる。それを
プロデューサーに言うのはぜったいムリだけど。わざとベタベタ甘えて、
ハニーハニーって困らせるくらいしかできないけど。
 でもこの思い、ホントだよ。だから変わった。だから変われた。だから今日は、
その第一歩。
 戻ってきたお姉さんがシャンプーしてくれて、きれいに仕上げしてくれて。
「でも、ほんとによかったの?」
「だいじょぶ。プロデューサーがいいって言ってくれたし」
 最後まで心配そうなお姉さんに今日イチの笑顔で言って、お金払ってお店を出た。
 飲んでくうちに広がって、茶色の染みはいつの間にミルクの白と合わさって。
 ハニー、ミキもね、ハニーの色に染まったんだよ。
 何年ぶりかに首筋に、すり抜ける風が気持ちいい。

 キャラメル色に染め変えた、ハニー好みのヘアスタイル。
 ふわって揺らして、そうして一歩、踏み出した。



おわり