love telepathy


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 最近、私に秘密の趣味ができた。
 人にはちょっと言えないその名は、ずばり『テレパシー』。そう、超能力の、人の心が
わかったりする奴。
 まあ、別にほんとに信じているわけではないけれど、面白いことに気づいたのだ。これ、
ある特定の人物には、けっこう有効なんじゃないかな、って。
「あ」
 うわさをすればなんとやらで、その『特定の人物』が現れた。私はすかさず物陰に隠れる。
 今日はラジオの収録で来たのだけれど、この多目的スタジオは簡単に言えばアイドル向け
便利スペースで、知り合いにもよく会う。廊下の奥からこちらに歩いて来るのは誰あろう、
秋月涼だった。
「んー……ふぅ」
 ひとつ深呼吸して、胸の鼓動を落ち着けて、タイミングを測って、そ知らぬふりでまた
歩き出した。
「あれっ、夢子ちゃん?」
「え?あら、涼じゃない」
 なるべく自然に見えるように、さも今気づいたかのように。肩越しに振り返って挨拶する。
「夢子ちゃんもここだったの」
「いつもの収録。涼は?」
「僕もレギュラーの録りだったんだ、いま終わったところだよ」
「そう、お疲れ様。私も今日はおしまいなの」
 そう言いながら、彼の顔をちらちら盗み見た。この顔は……、うん。
「久しぶりにいい時間に体が空いてホッとしたわ」
「あれ、夢子ちゃんもこの後時間あるの?」
「え?ええ、そうよ」
「僕も今日はもう終わりなんだよね。お茶でも、いかが?」
 ね。
 どうやら彼は夜はスケジュールが空いていて、せっかく私と会ったのにハイサヨナラって
いうのもちょっと、って思っていた。そこで私が、隙のあるそぶりを見せて彼にお茶を
誘わせた……そんな展開。
 これが私の『テレパシー』。
 涼の考えていることは、私にはけっこうわかるかも、っていう話。

「どこ行こっか、夢子ちゃん」
「涼はどうしたいの?」
「うーん、こないだ夢子ちゃんが言ってた喫茶店なんか、どう?」
「うん、いいわよ」
「へへ、実は来がけに新作ケーキのポスター、貼ってるの見ちゃって。おいしそうだったん
だよね」

「最近調子いいわね。男性タレントの仕事も増えてるし」
「一時期大変だったけどね。あ、実はね夢子ちゃん、それで女の子目線の意見聞きたいことが
あって」

「そういえば最近私、ホットヨガ始めたのよ。夏に向けてって言うより、コンディション
維持のためなんだけど」
「うわ、ほんと?僕いま興味あってさ、身近でやってる人探してたんだ。男の人もいたり
する?」

 喫茶店で紅茶をお代わりしながら、あれこれ話をした。私のテレパシーは今日はことさら
調子が良くて、彼の目を見ているだけでどんな話題が欲しいかピンとわかる。このセンスに
磨きがかかれば、トーク番組なんかでもゲストの喋りたいことを引き出せるかも、なーんて。

「……っていうことがあってね、まったくあの日はサイテーだったわ」
「うわぁ、大変だったね。でも、大事に至らなくて良かったんじゃないかな」
「そうは言うけどね。なんか私だけ貧乏くじみたいじゃない」
「夢子ちゃんがやさしい人だって、見てる人はちゃんと気付いてるよ」
 いつの間にか話題は私の愚痴になっていて。いつものことなんだけど、結局こいつには
いろいろしゃべりやすいのだ。
 けど、喫茶店で声を抑えて気の滅入る話をしてるのもそろそろ飽きてきた。どうせなら
大きな声を出して、すかっとしたい感じ。
 そしたら。涼が、こう言った。
「夢子ちゃん、まだ時間だいじょぶ?」
「え?うん」
「よかったら、カラオケとか、どうかな。なんか、大声出したくない?」
「行く行く!ちょうどそんなこと思ってたの!」
 あまりのグッドタイミングな提案に、二つ返事で反応しちゃって、はっとして浮かした
腰を落ち着けて。
「あ、あんたにしちゃいいアイデアじゃない、よく思いついたわね」
 かなんか言ってみたけど、顔が赤くなってるのに気づかれてやしないかな。
「あはは、実は社長から、市場調査を仰せつかっててさ」
 なんでも繁盛してるカラオケ屋で他の部屋の歌やリクエスト端末の履歴を探って、リアリティ
のあるトレンドを感じて来いっていうことらしい。
「場所柄、ヒトカラじゃかえって目立つんで、一緒に行ってくれる人探してたんだ」
「なあんだ」
「あ、でもね」
 涼が続ける。ちょっと上目遣いで、私の様子をうかがいながら。
「……あの、ヘンな意味じゃないんだけど」
「?どうしたのよ」
「いまこうして話しててね、その、ひょっとしたら」
「えっ」
「夢子ちゃん、カラオケ行きたいんじゃないかな、って感じ、したんだよね」
「……は」
「き、気を悪くしたらごめんね、なんか、今日は夢子ちゃんの思ってること……」

 結局。

「なんとなくわかるって言うかさ。ほら、会った時とか、この喫茶店の話とか」
 考えてることがわかる、って思ってたのは私だけじゃなくって。
 彼は彼でおなじこと……その、つまり、『私の思ってること、顔に書いてあるみたい』
って、考えてたそうで。
 もうそれを聞いてから、私はなんにも喋れなくなってしまって。
 ますます顔を赤くして黙り込んだのを機嫌でも損ねたか、と慌てて会計に行く彼の背中を
見送りながら。

 ……あ、でも、涼より私のほうが、ちょっとだけ『能力』が高いかも。
 だって彼は、まだ私の本心に気づいてないみたいだから。
 それがわかっていれば、このくらいのことであんなに慌てなくたって大丈夫だもの、ね。

 なんて思いなおして、さらにも少し考えて、安心というよりちょっぴりムカッとしながら。
 急いで荷物をまとめて、彼のと一緒に持ち上げて、席を立って彼に向かって歩き出した。




おわり