無題8-125


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比較的浅い眠りから木場真奈美は目覚めた。
ソファに座ったまま知らずのうちに眠っていたらしい。
目を開けず、とりあえず体に異常が無いことを確認する。
膝の上に重さを感じる。
その時点になってようやく目を開けその正体を確認する。

一人の男が自分の膝を枕にして眠りこけていた。
というか自分の担当プロデューサーなのだが。
並んで座っていたのが覚えている最後の記憶だったから、恐らくはもたれ掛かって眠っていた所でさらに膝の上に倒れ込んできたものと考えられた。
それだけの衝撃でお互いによく目を覚まさなかったものだと妙な所で感心する。

起きる気配のない無防備な姿に少々呆れもするが、大体のところは仕方ないかという感想だった。
体力に自信のある木場でさえうたた寝をする程度には疲れていたのだ。見るからに線の細いこのプロデューサーがこうなってしまうのも無理は無い。
生き馬の目を抜くこの業界で活躍のチャンスを見かけたら逃すまいと奮闘し続けるのは当然の話だが、今回はそれが続いてしまったのだ。
無論、その疲労と労力に見合っただけの見返りは得られたが少しばかり無理をしたかなとも思う。

もう一度その無防備な寝顔を見つめる。
頼りないという感想は初対面から今に至るまで変わることはなかったが、仕事と人格双方において信頼出来る事はこれまで共にした経験で十分に知っていた。

ともあれ大きな山場は越えたのだ。しばらくはゆっくり出来るだろう。
落ち着いたら最近台所に立っていないことを思い出して手が疼いてきた。

ああそうだ。今度予定を合わせて彼に手料理を振る舞ってやることにしよう。
なるべく栄養価の高くて美味しい物にしよう。
流石に今回ぐらいは健康的な生活の事についての小言は言わないでおこう。
誰にも気取られぬよう一人考えをめぐらせる。
きっと彼は喜んでくれるだろう。今からその時が楽しみだ。

「あら?」
近くを通りがかった千川ちひろがこちらの様子に気づいてプロデューサーを指差し声を潜めて聞いてくる。
「こんな所で寝てると風邪ひきますよ。起こしましょうか?」
その言葉に木場はゆっくりと頭を振ってちひろに告げた。

「彼を起こさないでくれ。死ぬほど疲れてる」