無題8-166

「最上静香……そう名乗ったのか、遊びやがって」
「遊ぶ?」
「二重の言葉遊びだ……いや、三重かな」
「言葉遊び……偽名を使っているっていうことですか?」
「芸能人だ、芸名ってことにしてやろう。最上……モガミは『喪神』だ」
「喪神?ああ、付喪神とかって言いますよね」
「ツクモの別字を知ってるか?同じ読みで、違う当て字を使うことだ」
「有名なのは九十九ですよね、って!そのツクモは」
「そう。付喪神とは『九十九神』だよ。修羅の道を歩いて神を破り、その拳の最強を証明しようとした、
あの男の名だ」
「まさか……いや、まさか、あんな女の子が」
「三重の言葉遊びと言ったろう。奴の系譜をたどった者が行き当たる女性の一人に、その名がある。
そうでなきゃ、俺だって偶然で済ませてた」
「静香……まさか……静御前……ですか?」
「静御前は舞の名手だったそうだよ。今で言うトップアイドルだ。あの子はあくまで、格闘技ではなく
アイドルで最強を証明しようとしているってわけだ」
「いやイミあるんすかそれ!」
「バカヤロウ。格闘技ライターがアイドルのことなぞわかるか」



「ええ?『あの人』に格闘技でかなうわけないじゃないですか。私はそもそも、跡継ぎでもなんでも
ないんですから。
でも『あの人』も知らない、というか、興味がないんですよ。この体さばきや、突きも蹴りも……
相手の肉体を砕くためだけに練られた技ではないって。
空気を振動させる技もあるでしょう?ええ、相手の心を揺るがすことだって容易いんですよ。
『あの人』は、どんな闘いでも最強を証明すると言っています。いつ、この舞台に気づくか知れません。
私は、芸能界を戦場にしたくないんです。私が頂点に君臨していれば、このステージは『あの人』に
とっては価値がなくなる……それが私の狙いです。
えへへ、バレちゃいましたから、教えました。
わかったらどいてください。はじめに言ったでしょう?
私には時間がないんです」



……ニィッ。



「邪魔だけは、しないでくださいね」

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最終更新:2013年10月24日 23:22