凱旋パレード


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

「この遊園地も懐かしいですね、プロデューサーさん」
「そうですね。あずささんがここで歌ったのは、もう1年近く前でしたっけ?」
「うふふ。あの頃は右も左もわからなくて、ご迷惑をお掛けしました」
「すこし歩きましょうか。まだステージまでは時間があるようだし」
「そうですね。今日は私たち、ここには観客として来たんですもの。
 私が立ったステージに、風船を渡した女の子が立つなんて、不思議な気分です」
「今ごろはガチガチかもしれませんよ。以前のあずささんがそうだったみたいに」
「恥ずかしいわ。歌詞も飛んで、ダンスも忘れて、ファンの皆に助けてもらって」
「どうにかこうにか終わったと思ったら、今度は風船がたりなくなったんですよね」
「そうそう。ちいさな男の子が、泣きながら私のところに来たんです。
 困っていたところに、年のはなれたお姉ちゃんがとんできてくれて――」
「歌の好きな女の子でしたよね」
「その子が、自分の風船を渡してくれたんですよ。『お姉さんを困らせちゃダメ』って」
「年の割にずいぶんしっかりした女の子だなあって思いましたよ」
「あら、ぷ、プロデューサーさん? わ、私も少しはしっかりしてきましたよね?」
「おっと。あずささん、見えてきましたよ。本番前の彼女に、挨拶にいきましょうか」



「あっ、あずささん! 来てくれたんですか!」
「こんにちは、やよいちゃん。今日は緊張しているかしら?」
「えへへっ。あずささんの顔みたら、緊張もとんでっちゃいました!」
「そう、良かった。あのとき私の緊張をとばしてくれたのも、やよいちゃんだったのよ」
「そうなんですか?」
「ええ。初めての大きなステージで、お客さんを泣かせてしまったんだもの。
 頭は真っ白。風船も空っぽ。どうしたらいいか全然わからなくって」
「すみません、私もちゃんと見てればよかったんですけど……」
「そしたらやよいちゃんが、すーっと飛んできて、すーっと緊張をつれてってくれたの」
「でもでも。私、弟が歌のお姉さん困らせちゃって、ヤバイー!って思っただけで」
「そのときに思ったのよ。この子はふわふわした、やさしい風船みたいな子なんだなって。
 だから、社長がやよいちゃんを連れてきたときは、心の底からおどろいたわ。
 どこかへ飛んでいった風船を、もう一度つかまえてきてくれたんだもの」
「私もびっくりしました! うーんとすごいアイドルさんだったんだって!」
「その、うーんとすごいアイドルが、すごいって思った子が、やよいちゃんなのよ。
 私をトップアイドルにしてくれたプロデューサーさんの、保障つきでもあるんだから」
「うぅ…でも私、あずささんみたく堂々と歌えないし、ダンスもまだまだヘタっぴで……」
「うふふ。私もそうだったわ。だってやよいちゃんは、全部見てたでしょう?」
「あ! えっと、えっと、……あずささんと、おそろいですね!」
「そうね。私たちはお揃いだわ。だから今日のステージも、きっと楽しいものになるわね」



「じゃあ、俺達は観客席に向かいましょうか、あずささん」
「あのっ。あずささん、あずささんのプロデューサーさん。これ!」
「風船?」
「まあ。やよいちゃんから、いただけるのかしら」
「はい! 今日はファンの皆さんにくばります。もらってください!」
「ありがとう、やよい。でも良いのか? 握手会はステージの後だろう?」
「プロデューサーにお願いしました。最初と最後に渡したい人がいるんですって」
「なんで俺達に2つもくれるんだ?……って、ちょっと、あずささん!?」
「あ、あらあら、大変。どうしましょう、私ったら――」


ふわりふわりと浮かびあがった風船を前に、あずささんは心配そうに空をみあげていました
「おそろいです!」と嬉しそうにやよいが言って、理解したPはそっと掌をひろげました

二つの風船が見下ろす地上に――泣いてる人はひとりもいませんでした