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「あふぅ。今日もお掃除、お留守番、タイクツなの……」

 窓を拭く夢を見ながら、夢の中で美希は呟いた。

 ゲイノウ国のプリンス『プロデューサー』の『アイドル』を探すオーディション。
 その名も『アイドル・アルティメイト』。今日はその決勝戦がお城で行われている。

 “プロデューサーに選ばれたアイドルは、幸せな人生を送る事が出来る”
 ゲイノウ国にはそういう伝承があり、年頃の女の子はみな、プロデューサーのアイドルになる事を夢見た。

「ミキも行ってみたかったな……王子サマ、どんな人なんだろ」

 美希はアイドル候補生であり、アイドル・アルティメイトには美希の先輩達が何人か参加していた。
 だが美希だけは見学も許されず、いつものように事務所で一人、お留守番と雑用を命じられていた。

「ミキだって、ステキな王子サマにプロデュースしてほしいのに……」

 ゲイノウ国は、何故かどの代のプリンスもプリンセス(花嫁)を現役アイドルから選ぶ。
 いつからある伝統か定かではないが、巷では「王家はロリコンの血筋」という黒い噂まで流れている。
 したがってこの国で『アイドル』とは“未来のプリンセス”という意味も含まれているのだ。

 ぐぎゅるるるるる~~。 

「うう、夢の中とはいえお腹減ったの。そういえば今日、何も食べてないの……」

 空腹で目覚める。夜食にとっておいたおにぎりを取りに事務所の冷蔵庫を開ける。
 しかし、そこには――。

「あれあれ!? 無い……ミキのおにぎりが……ないっ!!」

 あるはずのおにぎりが無い。好物であるおにぎりに関して、美希は結構うるさい。
 研ぎ澄まされた思考が、その謎を解き始めた。

「そういえば……社長、出かけるとき、口にごはん粒と海苔がついてたの……」

 美希は己の境遇を嘆いた。アイドルとしてデビューさせてもらえないばかりか、さらにこんな酷い仕打ちを受けるなんて。
 保っていた心の線が切れた。美希は家出を決意し、事務所を飛び出した。

「ひどいよっ! ミキばっかりこんな……今頃みんな、会場のお城でご馳走をタラフク食べてるの!」

 夜も更け始めていた。寒空の中、美希はアテもなく孤独な夜を彷徨う。

「おやおや……何を泣いているのかな、子猫ちゃん……?」

 今居る場所も、自分がこの先どうなるかも分からない。
 走りつかれた美希がうずくまり泣いていると、美希の前に怪しげな男が現れる。

 それは、黒い魔法使いだった――。

「何を泣いているのかな、こんな場所で」
「おじさん、誰……?」
「お、おじさんでは無い! 私の名は黒井。魔法使いだ」
「黒い、魔法使い?」
「そうだ。キミはアイドルかね?」
「ううん。ミキはまだ、アイドルじゃないの……」
「まだ、というと?」
「事務所の社長さんがね、ミキはまだ心構えがどうの~とか言ってデビューさせてくれないの。
 それに、ミキに雑用ばっかりおしつけて、おにぎりも食べちゃったんだよ!?」
「ふーむ。それは酷い話だねぇ。それで、美希ちゃんは家出……をしてきたのかね?」

 美希は黒い魔法使いを探るような眼差しを向け、こくりと頷いた。

「ノン! それはいけない。私の見た限り、キミは『トップアイドル』になれる器だ。
 キミをデビューさせなかったのは、そのプロダクションの社長がボンクラだったのだよ」
「そ、そうかな? ジツは、美希もうすうすそう思ってたの」
「フフ。素直な子だね美希ちゃんは。だが逃げ出すのは頂けない。
 欲しいモノは、どんな手段を使ってでも手に入れなければ! 
 どうだね? 私は、キミの願いをかなえられるが。キミが望むなら、ね……。
 今からそいつらをぶっとばしに行かないかね?」

                  ☆★☆

「退屈だな」
「は、すみませんプロデューサー……今年はアイドル不作の年でして……。
 しかし、あの頭のリボンがトレードマークのアイドルはどうでしょう? なかなかいい表情をしますよ」
「あれはウラがありそうだ。嫁にしたら王家滅亡の予感がするぞ、大臣」

 大臣の必死のフォローをプロデューサーは一蹴する。
 それでも大臣はめげず、めぼしいアイドル達を指差し挙げていった。

「ではあのアイドルはどうでしょう。ダンスはいまいちですが、歌唱力とスタイルは図抜けています」
「ふむ……大臣、あのアイドルの名は?」
「は。三浦あずさ、20歳です。いいですな~癒し系お姉さん……!」
「大臣……20歳と申したか?」
「は。それが何か……?」
「残念だと、一言」

 やはり王家のロリコンの血筋は健在だ、と大臣は嘆いた。
 その後の大臣の必死の推挙もプロデューサーはつまらなそうに否定し、
 重い空気のまま、アイドル・アルティメイトは終焉を迎えようとしていた。

「愛してると言われると――まっすぐ過ぎて反吐が出るものね――」

 突如、沈殿した華を蹴り散らすように会場の扉が開かれ、
 アイドルの物とは思えぬ力のある歌と歌詞が、城内に響き渡る。

「なんだこれは、大臣! 余はこんな事聞いていないぞ!?」
「私も存じませぬ。オーディションに乱入……でしょうか、アイドルの」
「ほう。アイドルが乱入とはな……前代未聞だ――だが面白いぞ! そこなアイドル、名を何と申す!?」

 会場中の視線が飛び入りのアイドルに注がれ、
 さっきまでほぼカビていたプロデューサーの生気も復活し、眼に輝きが戻る。

 飛び入りアイドルはプロデューサーを指差し、ゆっくりと、大きくはないが力強い声で言った。

「――ミキの名前は星井美希――見つけたよ。ミキの王子サマ!」