芸能界鬼退治譚

「た、助けてくれー!!」
彼はピンチだった。
ピンチと言っても生易しいものではない。川の濁流に呑まれ、流されていた。文字通り生死の境である。
かろうじて、流されていたピンク色の物体に掴まり、その浮力の助けを得て顔を水面上に出してはいるが、
力尽きるのも時間の問題と思われた。

「君、大丈夫か!?これに掴まりたまえ!」
声がした。男は必死で、声のする方から伸びて来た竿に手を伸ばした。
ギリギリ、手がその竿に届いた。

「助かった・・・あ、ありがとうございます!」
「うむ、良かった。ほう・・・何といい面構えだ。」
「は?」
「ピーンと来た!君の様な人材を求めていたんだ!」
命の恩人の頼みとあれば、断れる人間などそうはいない。
彼は、助けてくれた男の芸能事務所で、プロデューサーとして働くこととなった。

「社長、元気がありませんね。どうかなさったのですか?」
ある日、男は命の恩人である社長が元気をなくしているのを見かねて、尋ねてみた。
「うむ。今、芸能界は、悪い961プロに、いい様に荒らされているのだ。何とかしなくてはいかんのだが、
いかんせん奴らは金の力が強く、誰も手を出せないのだよ。」
「わかりました。私が、みんなのために961プロを倒してみせます!」
「そうか、やってくれるか!では、早速よろしく頼むぞ。ついては、我が社にはアイドル候補生がいないので、
スカウトして来てくれ。この、事務員の彼女が作ってくれたキビダンゴを、好きなだけ使っていいぞ!」

男は、近くの公園に行った。すると、女の子が歌を歌っていた。
「あー。あー。ドレミレドー。」
「そこのリボンを付けた君、良かったらアイドルやってみないか?」
「え、あ、アイドルですか?」
「今我が社でアイドルデビューしてくれるなら、特典としてキビダンゴが付いてくる!どうだ?お得だろ?」
「わかりました!私、頑張ります!」

こうして、頼もしいアイドル候補生達が揃った。
「絶対勝ちましょう、プロデューサーさん!」
「兄(c)よろ→」
「歌える機会さえ与えて頂けるなら、私も全力を尽くします。」
「では、いざ、961退治に出発!」


戦いは熾烈を極めた。
そして・・・

『ドキドキするだろ?今回の合格者は・・・・・・・1番!おめでとう!』

「やった!やりましたよ!プロデューサーさん、私たち、勝ちました!」
「ああ、勝ったんだ!あの961プロに!」
「フン、くだらんな。たった一度勝ったくらいで、いい気になってもらっては困る。」
「そうは行くか!やい、黒井め!今まで悪辣な手段で巻き上げた有り金を残らず置いて行け!」
「な、何をバカな事を!」
「さらに、あのアイドルの女の子3人も、ウチの事務所にもらって行くぞ!それ!やっちまえ!」
「ひーっ!暴力反対ー!」

「これで、芸能界にも平和が訪れる・・・。」
「あの、貴方様、私どもを、悪い961プロから救って頂き、ありがとうございました。」
「いえいえ、当然のことをしたまでです。」
「お礼に、私どもの歌謡と舞踊を披露させて頂きます。それと、これは土産品の玉手箱でございます。」
「な、なんかいつの間にか違う話になってないか?」
「その箱は、絶対に開かないで下さいませ。」

「あ、兄(c)、兄(c)、この箱な→に→」
「もしかして、これも優勝商品かな?ちょっと開けて見ちゃおう!んふふ~。」
「こら!ダメだ、開けちゃ・・・くっ、間に合わない?!」

「ダメだよ、二人とも!これはプロデューサーさんが開けちゃダメだって!」
間一髪だった。リボンの彼女が、既に封の紐を解かれた箱を、双子から取り上げる事に成功した。
「え→?ケチ→!」
「ダーメ!じゃあ、プロデューサーさん、この箱はお返ししま・・・あああっ!?」
どんがらがっしゃーん
お約束通り、箱は美しい二次曲線を描いて宙を舞い、その曲線は男の頭部が存在する座標を含んでいた。
男の額に命中した箱は、そのはずみで蓋を開いた。
ぼわん
白い煙が男の周囲を包む。

「うわ→?!兄(c)が、じい(c)になっちゃった→!!」


その後

彼は、961プロから取り上げた資金を元に、芸能事務所を立ち上げた。
苦楽を共にしたアイドル達も、再び候補生に戻り、新たな面々も加えて彼の事務所の所属となった。
しかし、彼女達の記憶からは、彼とともに過ごした日々は存在しなかった。
彼は老いた己の姿を恥じたのか、常にシルエットでしか他人に姿を見せなくなった。
そして今日も、老いた自分に代わって、彼女達をプロデュースする人材を求め続けている。

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最終更新:2011年08月11日 00:31