ねずみの嫁入り


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 あるところに、ねずみのアイドルがおりました。名前をあずささんと言います。
 あずささんには願い事がありました。
「そうですか、あずささんは運命のひとを探しているのですね」
「ええ、この世のどこかにわたしの運命のひとがいる、わたしはそう思っているんです。ですから
わたしはそのためにアイドルになりました。わたしがトップアイドルになれば、運命のひとにきっと
見つけてもらえると思うんです」
「すばらしい考えです。小さな力ですが、俺はあなたをトップアイドルにするために手を尽くしましょう」
「ありだとうございますプロデューサーさん。わたし、頑張りますね」
 あずささんの担当になったプロデューサーはそんなあずささんをトップアイドルにすべく、
デュオユニットを組もうと考えました。
「あずささんあずささん、デュオユニットにすれば人気も倍になるに違いありません。世界一の
アイドルを探して、デュオを組んでもらえるようお願いしましょう」
「まあ、いい考えですねプロデューサーさん。ぜひぜひよろしくお願いします」
 プロデューサーは考えます。最高のアイドルとデュオを組めば、あずささんも最高のアイドルに
なれるだろうと。
「あずささん、世界を照らす太陽とデュオを組みましょう。あずささんの笑顔が太陽とともに降り
注げば、世界はもっと明るくなるに違いない」
「それは素敵ですねプロデューサーさん」
 プロデューサーはあずささんを連れて太陽のところに行きました。
「太陽さん太陽さん、あなたは世界を照らすことができる世界一のアイドルだ。ぜひあずささんと
デュオを組んでください」
「アンタねえ、仕事だからやるけどこんな配役しといて憶えときなさいよねっ!あー、こほん」
 太陽は言いました。
「そう言ってもらえて光栄ね、にひひっ♪そーよ、私こそがこの凸で世界を照らす……って違う
わよっ!」
「違うの?伊織ちゃん」
「太陽って言いなさいよっ!いい?私は確かに世界を明るく輝かせることができるけど、私にも
弱いものがあるの。それはね、雲よ」
「雲?」
「そ。私がいくら輝いても、雲がその前に広がってしまうと地上に光が届かないわ。最強の相方を
探そうって言うのなら雲のところへ行ってみるのね」
 そう言われ、プロデューサーはあずささんを連れて雲のところに行きました。
「雲さん雲さん、あなたは世界を照らす太陽さえ隠すことのできる世界一のアイドルだ。ぜひ
あずささんとデュオを組んでください」
「朝台本を渡されたきりだったので聞けませんでしたが、とりあえずなぜ私が雲の配役なのか
説明を求めます。内容によってはお説教ですよ?」
「だからそれ」
「え、それって?」
「なにかというとすぐカミナr(ry」
「そこに正座なさーいっ!」
 小一時間のち、雲はこう言いました。
「そりゃ確かに私は気候の一端を担っていると言えますよ、地上には雨も必要ですし。ただ、
最強かと言うとそうでもないと思うんです。私なんかは所詮水蒸気の集合でしかないわけで、
風のひと吹きで文字通り雲散霧消するあえない存在なんですから。あずささん、風のところへ
行くといいんじゃないでしょうか、実際才能はあるし私から聞いたと言えばNOとは言わない筈
です。雰囲気も似てるからいいデュオになると思いますよ」
 そう言われたプロデューサーは、今度はあずささんと一緒に風を訪ねました。
「風さん風さん、あなたは世界を照らす太陽を隠す雲さえ吹き飛ばす世界一のアイドルだ。
ぜひあずささんとデュオを組んでください」
「あふぅ」
「あ、それで風」
「わかりづらかったですかね」
「律子……さんからの、違った、雲さんからのメーレーならしかたないって思うけど」
 風はあずささんにこう言いました。
「でも、ミキが世界一って言うのはなんか違うと思うな。世界一のアイドルと言えば千早さんなの」
「美希ちゃん、千早ちゃんじゃなくて」
「あ、そーだった、ミキが起こす風なんかものともしないものが世の中にはあるの。それは壁」
「壁?」
「3匹のこぶたでも狼さんはいくら風を起こしても壁を壊すことはできなかったの。それでこぶた
さんたちは助かったんだよ、あずさ知ってた?」
「ええ、知っているわ」
「なんでお前はおとぎ話の中で他のおとぎ話を引き合いに出すんだ」
「だから壁さんのところに行くのがいいって思うな。せっかくきてくれて嬉しかったけど、ミキより
千早さんの方があずさも絶対トクだよ」
 そこでプロデューサーは、あずささんとともに壁のもとへ訪れました。
「壁さん壁さん、あなたは世界を照らす太陽を隠す雲を吹き飛ばす風にも耐える世界一の
アイドルだ。ぜひあずささんとデュオを組んでください」
「プロデューサー、この仕事が終わったら進退のご相談をしたいと」
「何を怒ってる、お前が適任だと思ったからこその壁の役だぞ」
「くっ」
「よく考えてみろ。物語のクライマックスで主人公に立ちふさがる実力の持ち主というキャラクター
だ、実力も知名度もあり、楽曲に対する真摯さを兼ね備えた人物となるとお前以外いないだろう?」
「まったく、あなたはいつもそうやって……もうっ。ええ、私のところへいらっしゃるのも道理。
太陽の光を覆う雲、その雲を払う風、その風を受けとめ微動だにせぬ壁、それが……くっ、なんて
やりづらい……私です」
「まあ壁さん、それでは壁さんが世界一なんですね」
「いいえ、それは違います」
「え?だって今」
「私の足元をご覧なさい、穴が開いているのが見えるでしょう?」
 あずささんは壁の足元を見ました。そこには確かに穴がひとつあります。
「頑丈な私の体にさえ、このように穴を開けてしまう者がいるのです」
「あらあら、こんどは雪歩ちゃんかしら?」
「ふええ?わっ、わたし今日はナレーターですよぅ」
「そうではなくてですね、あずささん。この穴を開けたのはねずみです」
 壁は言いました。
「あずささん、世界一の相手を探そうというお考えは素敵ですが、誰にでも弱点はあるものです。
完璧な相手を探そうというのではなく、その悩みをわかってくれて、ともに考え支え合い、導いて
くれる相手こそが運命のひとと言えるのではないでしょうか。あずささん、あなたと同じねずみの
中にこそ、その相手はいるのだと思いますよ」
「そうですか。壁さんありがとうございます、よく解りましたわ」
 あずささんとプロデューサーは壁のもとを後にしました。
「あずささん、申し訳ない。俺の考え方が根本的に違っていたようです」
 プロデューサーはあずささんに謝りました。
「確かに壁さんの言うとおりだ。太陽や雲や風や壁、それぞれに立派なところのある相手だが、
探してゆけば弱点も欠点もある。それは当然のことで、弱みのない完全な存在などこの世に
ありはしないからだ」
「わたしもそう思いました、プロデューサーさん」
「俺が探すべきは世界一あずささんと相性のよいパートナーであって、単に世界一上手い歌手
などではなかったのだ。あずささん、これからその相手を探してきますから、あなたはここで待って
いてください」
「いいえプロデューサーさん、それにはおよびません」
 すぐまた出かけようとするプロデューサーを、あずささんは引き止めました。
「なぜですかあずささん、それでは運命のひとが見つからない」
「そんなことはありません、プロデューサーさん」
 あずささんは首を振り、プロデューサーを見つめます。
「道を探しあぐねて悩んでいた私を手助けしてくれて、解決の方法を考え、そして世界を照らす
太陽さん、太陽を隠す雲さん、雲を飛ばす風さん、風を遮る壁さん、そんな素敵なみなさんの
もとに導いてくださったのはプロデューサーさん、あなたでした」
「……あずささん」
「プロデューサーさん、あなたがわたしの運命のひとだったんです。もうデュオパートナーは
必要ありません」
 あずささんは優しく微笑みました。
「ですからプロデューサーさん、ぜひあなたが私の人生のパートナーに――」



「ちょーっと待ったーっ!」



 舞台袖からたくさんの声が聞こえ、続いて人影が飛び出してきました。
「ちょっとあずさ!アンタなに勝手に結末変えて」
「ぷ、プロデューサーは原典では父親の役柄でっ」
「いくらあずさでもハニーは渡せないのー!」
「話が違います、主人公は誰か別のねずみを」
「な、なんだかわからないけど私も阻止ですぅ」
「わーっ、お、お前らちょっと待てっ」
「あ、ああっ、ちょっとみんな、そんなに押したら」

 舞台が震え、『**ようちえんおゆうぎかい とくべつゲスト・765プロのおねえさんたち』と書かれた
吊り看板が揺れました。体育館を埋め尽くした園児たちやお父さんたちは大喜びです。お母さん
たちはちょっと微妙な顔をしていますが。
 観客の後ろで、高木社長が隣の人物に言いました。
「……あー、園長先生、申し訳ない。脚本の段階ではよくできた話だったんだが」
「いいえ、みんな喜んでいるじゃない」
 園長先生は笑って返します。
「クラスメートのよしみでこんなことお願いして、申し訳なかったわね。こんなに豪華なお遊戯会は
初めてだわ」
「まあ、こちらもアイドルたちの宣伝込みで……む?あまり成功した気が……いいや気にするまい、
彼女らもおおいに楽しんでいるようだから」
 そう軽く苦笑すると、社長は立ち上がりました。
「でも、そろそろ幕を引いてくるとしよう。これでは収拾がつかないし、それに」
「それに?」
 問いかける園長先生に、社長はため息交じりで答えました。
「これでここの壁に穴が開いても、ねずみの仕業にはできないだろう?」





おわり