べたべた

THE IDOLM@STER 創作発表まとめWiki内検索 / 「べたべた」で検索した結果

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  • 島原薫◆DqcSfilCKg氏作品
    ... お元気で! 2 べたべた 2 愛の人 2 もしも春香以外がGSになったら 3 cicada 3 青春ミンミキミキミキ 3 おひさま 3 とりあえず何か食べよう 3 おかえりただいま 3 赤頭巾ちゃん改めバカリボンちゃん改めヘタレ狼ちひゃーちゃん 4 partiality 4 TENGAさん万能説 4 ちーちゃん 4 花は降り降り 6 聞いてマダオリーナ 名前 コメント
  • Secrets On Parade
    「ねえ、キスしていい?」 何気なく発した言葉は、静かな事務所の中に張本人である自分でも少し驚くくらいに良く響いた。 この空間に居るのは私、渋谷凛とあとは男の人が一人だけ。 一応アイドルなんて仕事をしている私の担当プロデューサーだ。 「一応聞くけど……誰とだ?」 「今ここには私達二人しか居ないよ」 「だから一応聞いてみた」 そう言ったきり、プロデューサーは腕組みをして考え込んでしまった。 私のプロデューサーは何の変哲も無い普通の人だと思う。 「凛はどうしたい?」 そう言って私の希望を聞いたと思ったらいつの間にか仕事を取ってきて、 いつの間にか順調に私のランクが上がっている事を考えると仕事は有能と言って良いのだろうけれど。 ただ、笑うときはいつもどこか困ったような顔をしながらだったり、 あるいは苦笑だったりで心の底から笑う...
  • やよいの食事手帳
    ※このノートに今日いつ、何を食べたかを大体でよいので全て記録する事  どんな状況で食べたかも書いて貰えると助かる プロデューサーより 2009年11月6日 金よう日 午前7時半くらい 家族みんなで朝ごはん!メニューはアジの干物と豆腐のおみそ汁に昨日の残りの肉じゃがが少し 今日は調子が良かったからご飯を2回もおかわりしちゃいました! 午前9時くらい 朝礼が終わった後に小鳥さんにキャラメルを貰いました! 大きめのキャラメルで甘くて美味しかったです! 小鳥さんが「孫に飴をあげてるお婆ちゃんみたいね……」と乾いた笑いをしてたのが気になりますー 午前10時くらい 響さんからちんこすう?を貰いました(ちんすこうでした!恥ずかしいですー!) 全部食べて良いって言われたから小さい袋を一袋全部食べちゃいました、おいしかったです! 響さんは毎日色...
  • 風船のお家
     日の傾き始めたテーマパーク。オレンジ色に染まり始めた空の下、金髪をなびかせる美希の隣で俺は手元の メモ帳で訪れた客の数を確認していた。数は上々。テーマパークのステージの上で行われた美希のライブイベ ントには多くの人が訪れ、ライブ後のサイン会にも長い列ができていた。まだメジャーアイドルとまではいか ずとも、今日のイベントで美希の知名度も上がってくれたことだろう。 「疲れたか、美希?」 「うん、もうヘトヘト……早くおウチに帰ってゆっくり寝たいの……あふぅ」 「ははっ、頑張ってたもんな、今日は」  のんべんだらりとしていることの多い美希だが、今日は客の目が多かったこともあって、気を抜かずに頑張 っていてくれた。今日の客層に、自分よりも幼い子どもが多かったせいもあったのかもしれない。 「……ん?」 「あっ……」  俺の耳が子どもの泣き声を拾ったことに気...
  • 翔太風邪ひいた
    「っくしっ!くしょんっ!」  ふぁ、しまった。予感はしたけど、止めることができなかった。打ち合わせが終わって、社長の いなくなった夕方の会議室で、時間つぶしの雑談をしていたときのこと。 「おいおい、カゼか?そんな寒そうなカッコしてっから」 「ここんとこ寒い日が多かったからねえ。オコサマにはこたえたかい」  冬馬くんと北斗くんが、ここぞとばかりにニヤニヤ笑いを浮かべた。 「ふんだ、きっとかわいいファンの子が僕の噂でもしてるんだよ」 「くしゃみ二つは悪い噂だって言うねェ」 「二人でいい噂してくれてるのかもよ?」  憎まれ口をきいてみるものの、出てしまったものは引っ込められない。黒井社長がいたら 同じく、自己管理がなってないと言われちゃうだろう。  確かに、ここのところは忙しかった。もともと予定されていたツアーの仕上げ期間だったし、 狙っていたとは...
  • cicada
    夕立でも来るのだろうか、僅かに鼻に残る雨の匂いに私は空を見上げていた。 「すいません。わざわざ連れて来てしまって」 「いいのよぉ、私が行きたいとワガママを言ったんだから」 墓前から腰を上げた千早ちゃんは桶を手に取ると、「では戻りましょう」と促す。 私もそうね、と踵を返すけれど、千早ちゃんから手を掴まれ足を止めた。 「そっちは違いますよ、あずささん」 少し脱力した笑みを見せる彼女に、少しだけ安堵したのは私だけの秘密。 今はもう、いつ切れてもおかしくない、張り詰めた糸のような危なっかしさを感じなくなっていた。 千早ちゃんに引っ張られるままに歩き出すと、足で何かを蹴る感触がして視線を落とす。 羽化に失敗した蝉。 ほどなくして夕立がやってきた。 「ありがとうございます。私的なことで車まで出してもらって」 事務所に戻る途中、助手席に姿勢正しく収ま...
  • helium/0.138
    「はい。これならもう、飛ばされることはないわ」 そんな千早の声を聞きながら、空を見上げていた。 雲ひとつ無い、美しい夕焼け。忙しくて、ずっと見ていなかった景色。 そこに溶けていく青は、ずっと彼の手の中にある筈だった青。 0.138の比重は、天然ゴム製の洋梨形を押し上げていくヘリウム。 彼とは誰だ。あの子か、俺か。球体は、赤に溶けゆく。 じゃあね、と声が聞こえる。ばいばいと声が響く。 さよならの挨拶に意識を戻せば、隣には彼女の姿があった。 「ただいま戻りました、プロデューサー」 「ああ」 珍しいなと思う。歌うことが全てだと言っていたこの娘が。そう思ってすぐに、考えを改める。これはこの娘の成長だろう。ならばそれは、喜ぶべきことだ。 千早は成長していく。その姿はあの風船のようで、ふと空を見上げた。真っ赤な空、夕暮れ。あった筈の青は、どこへ行ったの...
  • 『wafer girl』
    「懐かしいな、こういうの」  四角い駄菓子を片手に持って、しげしげと眺めた。  『765エンジェルウエハース』と書かれたそれは新発売となる、765プロのアイドルたちのトレーディングカードを封入したスナック菓子だ。  デスクの俺に視線を合わせてかがむやよいは、不思議そうに俺の顔と駄菓子を見比べて言う。 「プロデューサーも、こういうの食べてたんですか?」 「おーよ、俺たちの時代にはものすごいブームだったんだぞ。あん時はおまけがシールでな、たくさん持ってる奴が一番えらかったんだ」 「へー、そうなんですか。そうしたらすごいお金持ちじゃないとダメだったんですねっ」  あの当時の騒ぎは、子供心にも記憶が残っている。シール欲しさに食い物を粗末にした者もいた、なんて話をしたら、やよいにこってり叱られるのは俺の方だろう。 「でも今は少しやり方が違うよな。友達と、ダブったやつ交...
  • ふたりの食卓
    「そうなんだ。それでどうなったの?響」  フライパンの温度を探り探りしながら、ソファにあぐらをかいてる響に訊ねる。響がボクの家に来るのももう3度目か4度目で、勝手知ったるなんとやらって感じ。 「いやー危機一髪だったさー。ねこ吉が気づいてくれて、こっち帰ってきてくれたんだ」 「そう、よかったぁ」  今日は二人でスポーツ特番の収録だった。まだまだ駆け出しのアイドルとなると収録現場もなかなかハードで、なんかめちゃくちゃお腹へったねって話になって。  ちょうどボクの家のほうが近くて、父さんも母さんもいなかったから都合いいやって思って、誘ってみた。 「まったくさー。ネコのくせに落ちて怪我でもしたら一大事だったよ」 「ボクが言ってるのは響のことだよ」 「え、自分?」 「きみのネコ吉ももちろん心配だけど、響が怪我したらそれこそ大変じゃない」 「え……真、きみ自分の...
  • ちーちゃん
     女同士なんて気持ち悪いと思った、のに。 更衣室ではいつも隅で身を縮こませながら着替えていたのが普通だった千早が、人並みに振舞えるようになったことに春香は内心、喜んでいた。 コンプレックスからか、人と一緒に着替えることさえ拒んでいた千早がここまで変わってくれるなんて。 まるで保護者のような感慨に浸りながら、当時のことを思い浮かべてはニヤニヤとした笑みを浮かべる春香。 そんな彼女にも、千早の視線が外れることはなかった。 ブラウスのボタンがひとつ、またひとつと外れていく度に千早の心はざわつく。 少し赤みがかった肌と白のブラジャーとの稜線が目に映るともう釘づけで、それでも片端に残った良心でもってチラチラと、 春香に気づかれないように観察を続けた。 無いものねだりだと、自分の胸を見て千早自身はそう片付けたつもりだった。 けれど、目に映る景色の中心には...
  • 冬の足音
     季節の変わり目とは色々厄介なもので、急激に変化する気温や湿度についていけず体調を崩す人が、古今東 西を問わず後を絶たない。世間の人々が上着を羽織り始める頃になってしばらく経つ。どうやら俺も、変化に ついて行けなかった人の仲間入りを果たしてしまったようだ。喉のひりつく痛みとツンと来る鼻の痛みに日々 頭を悩ませていた。発熱が無いのが唯一の救いだが、垂れてくる洟をどうにかすべくティッシュの持ち運びは 欠かせないし、担当アイドルに風邪を移しては一大事なのでマスクの着用も必須だ。鼻が痛いと頭も一緒に痛 くなるので、それが辛かった。  「よし、じゃあ今日はここまでだ。二人ともお疲れさん」  いつもよりも長く感じた一日もようやく終わり、頭一つ分低い所から俺を見上げる双子に声をかけて、右手 を挙げた。ブラインドに阻まれて外の様子は見えないが、きっと冷たい風が木々の落ちかけ...
  • とあるダメダメプロデューサーのおはなし
    あるところに、いつまでもトップアイドルになれない雪歩がいました。 雪歩は、事務所でいちばん臆病でへなちょこで弱虫なアイドル。 ろくにランクも上がれないので、プロデューサーは数週間単位で変わってばかりです。 雪歩を目にした審査員は、雪歩を静かにさとします。 『君は多分、アイドルじゃない道のほうが、歩きやすい女の子なのかもしれないな。  トップアイドルのステージなんて、普通の女の子なら縁が薄い場所だからね』 アイドルに向いていないと言われた雪歩は、やっぱりトップアイドルになれませんでした。 ある日雪歩は、ピンときた社長に声をかけられました。 不在のプロデューサーに代わって、アイドル候補生を担当してくれないかと言うのです。 気がつけば、小さな事務所は、前よりずいぶんボロボロになっていました。 資金も底を尽きかけてお...
  • SP貴音
    「逢い引き、なのでしょうか」  対面に座る四条貴音が、ハーブティーを飲みながらそう呟いた。霧雨のような昼下がりの日 差しがカフェ――珍しくも彼女が選んできた店だ――の窓際の席に落ちる。それは貴音の触れ れば溶けて消えてしまいそうな銀髪に絡み、拡散して空間にそっと輝く。これは決して俺の錯 覚なのではなく、実際にこの場を支配しているのだ。店内にいる店員や客が、常に彼女の存在 を意識しているのがわかる。これが持って生まれてきたアイドル性、というものだろうか。  しかし、彼女はそんな事には気づきもせず――いや、気づいていて、それでも気にしていな い胆力の持ち主なのか――また悠然と小生意気に小洒落たカップをそのガラス細工のような口 元へと持っていく。 「やはり、逢い引きなのでしょうか」 「何がだよ」  音を立てながらエスプレッソをすする。高そうな豆っ...
  • 美希曜日よりの使者
     久しぶりにオフとなった日曜日は、あっという間に過ぎてしまった。もともとこの業界に潜り込んでは いたものの、ひょんなことからプロデューサーなどという職業について数ヶ月、まだ手の指で数え られるほどの暦通りの休日である。  時はすでに夕刻、アパートの築年数に似合いのインターホンが死にそうな音を出した時、俺は 晩飯でも食いに出ようか、それとも自炊に挑戦しようかと思案しているところだった。 「ん、なんだ?……はい」 「書留なのっ……です」  ドアの向こうからはこんな声がする。 「……ええっと?なんですって?」 「書留ですのー」  この世に生まれて二十数年、俺の知る限りこういう言葉遣いの郵便局員は記憶にないし、そもそも いくら民営化したとは言えローティーンギャルが書留を配達するサービスがあるとは到底思えない。 俺は足音を忍ばせてドアに近づき、そっとノ...
  • 留守電
     携帯を開いて、もう目をつぶっても出来る操作。短縮→001→CALL。すこしの時間のあと、 呼び出しメロディが聞こえる。  あ、夢子ちゃん、新曲に変えたんだ。僕はそこから、ゆっくり秒数を数え始めた。1、2、3……。  今は、もう彼女とはいい関係を保っている。ときどき二人でごはん食べたり、この間は映画を 見に行った。なんていうのかな、うん、そう、『親友』、って言ってもいいと思う。そのくらいの仲良しだ。  先週だって一緒だった収録の時、いろいろアドバイスを貰った。バラエティのトーク番組だった んだけど、僕の話題のキッカケを読み違えて焦ってたら、すぐ後ろに座っていた夢子ちゃんが 割り込んできてうまく流れを作ってくれた。別にあんたのためじゃない、とかおどけ役までして くれて収録も盛り上がったし、いつも感謝してる。  そういえばそれ以来かな?最近二人の...
  • お元気で!
    「あ、雪歩ー。こっちなのこっち」 人でごった返す駅前で、目の前を過ぎていく人の波の中から見覚えのある少女がこちらに手を上げる。 あんまりに無遠慮な声で雪歩はギクリと周囲を見渡すが、こちらを向く人はいなかった。 いくら変装をしているとはいえ、お互いに名の売れた芸能人であることは変わりない。 雪歩は美希の前まで行きその手を取ると、その場を離れようとさっさと歩き出した。 「けっこーゴーインなんだね雪歩って」 もうちょっと自分が強く言えるタイプならなあ、と運ばれてきたカプチーノを口にしながら、雪歩は苦笑する。 今は社長が紹介してくれた、人通りから少し外れた喫茶店でこうして二人でいる。 店内では棚の上のテレビに夢中なおじさんがカウンターに一人立ってるだけで、テレビから聞こえる音とコーヒーの香りが自然と心を落ち着かせてくれた。 そもそもなんでこんなことになった...
  • ジェイ・ケー
     女子高生は、恋をする生き物だ。  なんたって身体の7割は恋で出来ている。嘘じゃない。疑うなら、どうぞ私を解剖してみれ ばいい。メスが私の肌に触れたとたん、そこから恋が日曜の午後の噴水のようにあふれてくる。 心臓のどくんどくんという動きに合わせて、その七色の輝きは雲の上まで突き抜けるのだ。け れど、その噴水は決して枯れる事はない。あふれればあふれるほど、私の中から新たな恋が生 産されていくのだ。ほら、空を見渡してみよう。あっちこっちに無数の綺麗な恋の虹が見えるでしょう?  嘘じゃないってば。本当。女子高生はみんな知っている話。  だから、なんにもお仕事が入っていない休日の午後、事務所のソファでうんうんと唸ってい る千早ちゃんを見つけたのは、偶然でも何でもない事だ。  頭のリボンの位置を手早く整えた私は、小さく深呼吸をしてからバスケットをよいし...
  • Merry Christmas
    「メリー・クリスマスか…」  12月23日の午後、会社の用事で外へ出た音無小鳥は、雑踏の中をぼんやりと考え事を しながら歩いていた。今日は一般的には祝日のはずだが、アイドルをたくさんかかえた 事務所には、この暮れの忙しい時期に、休みなどあろうはずもない。  先週の日曜日、小鳥は友人と一緒に買い物に行った。買い物はお昼過ぎで終わり、さて、 お茶でも飲みに行こうかという時、友人がビルの看板を指さし、「私、あそこで占ってほしい」 と言い出したため、勢いで小鳥も一緒に占ってもらうはめになってしまった。あとから わかったのだが、そこは割合有名な店らしく、小鳥たちが行ったときも、前に何人か並んで 順番を待っていた。  友人もシングルだったため、「二人とも恋愛運をお願いします!」と先に言われてしまった。 女性の占い師は、友人に、これこれこういうことをすれば運気がアップします、とか、家...
  • 勇気
     ギラギラと照りつける太陽。空には大きな入道雲。まさしく夏の空だ。そんな夏の空の下、川沿いの土手で PVの撮影を終えた真と俺は、目と鼻の先を流れる川へ立ち寄った。市街地から少し離れた場所にあるこの川に は、石の転がる川原がある。 「プロデューサーっ」  両手でメガホンを作りながら、真が俺を呼んだ。真の立っているすぐ側には、石が小さな山を作っていた。 近寄って見てみると、集められた石はそのほとんどが──全てと言ってもいい──平たいものだった。 「水切りか」 「ええ、プロデューサーもやりませんか?」  今日の撮影は上手くいった。その結果が、真の笑顔を一層爽やかなものにさせていた。 「よし、いいだろう。となると、もうちょっと石を集めないとな」  遠めに見える鉄橋の上を、電車が猛スピードでかけていく。きっと、快速か特急か何かだろう。あの電車の 乗客にとっ...
  • BAD COMMUNICATION
    ガチャリと、金属が回る音。 「お邪魔します」という二つの声と足音がして、買い物袋を手に提げた春香と美希が部屋に入って来る。 社長から事前に知らせがあって、家の鍵を二人に貸したとの事。俺の住いは社宅で、事務所からそう遠くない。 プロデューサーの俺が風邪でダウンした事で、彼女達の活動はあまり動きの無い、雑誌の取材等軽い物に絞っているらしい。 今日も仕事が早く終わって、俺のお見舞いに来てくれたのだ。 まぁそれでもちゃんと回転してる辺り、765も立派になったとしみじみ。 「プロデューサー、少し見ない間に老けたね」 美希は冗談を言わない。見たまま感じたままを口にする娘だ。 だからきっと今の俺の心境が映した顔を的確に捉えた発言なのだろう。開口一番にそんな言葉が出てくるのもご愛嬌。 「いや、こう家でじっとしてる...
  • 気づいてほしい
     音無小鳥はたった今閉まったばかりのドアを見ていた。アイドルを何人も担当しているせいで、 あんなに忙しいというのに、プロデューサーである彼は一日に何度も会社に戻ってくる。 だがその滞在時間はごくわずかで、今しがたちらりと姿を見かけたと思ったら、もういなくなっている、 そんなすれ違いのようなコンタクトばかり。ずっと以前のように、仕事もそんなになかったころなら、 へたをすると一日中会社で彼と一緒だったこともあったのに。小鳥は会社の繁盛と、しじゅう彼の顔を 見られることを天秤にかけたらどっちが重いだろうと、ボールペンを片手に持ったまま考えた。  でも彼はどうしてそんなに頻繁に会社に帰ってくるんだろう。どう考えても、現場から現場へ 移動した方が便利で早いはずなのに、わざわざ遠回りをしてまで、会社を経由して行くことが非常に多い。 何か理由でもあるんだろうか…たとえば、...
  • 幸福Children
     “June bride”という言葉がある。  由来は、6月はローマ神話の女神の月で、  この月に結婚した女性は幸せになれると伝えられているから。  梅雨も明け、本格的な夏の始まりを予感させるセミの声が耳につくこの頃。  なのにいまさら、そんな事が頭をもたげるのは――。 「お。ちょうど発走か。これはいいタイミングだな」 「あ、社長。お疲れ様です。珍しいですね……休みの日に」  自分以外事務所に居ないと思っていたプロデューサーは、  不意を突いて現れた社長――高木の声に少しばかり驚き、焦った。  というのも、机の上にだらしなく足を乗せて、くつろいでテレビの競馬中継など観てたりしたものだから。  おまけに、鼻の下にペンを乗っけるという、ワンポイントまでキメて。  慌てて姿勢を正し、高木に振り返り挨拶をするプロ...
  • とりあえず何か食べよう
    だから違うって言ってるじゃない。 もう時計の針が頂点を過ぎそうなことにも気づいてないのか、目の前の千早ちゃんは私に厳しい目を送っていた。 レッスンルームに入ってかれこれ五時間超。そんな見つめられましてもぉ、なんて言おうものならどうなるか。 講師の先生も戸惑うぐらいの剣幕を浮かべる千早ちゃんに、私は力なく笑って誤魔化そうとする。 まあその、ダメでした。 事務所に戻り、ソファに突っ伏しているプロデューサーさんを起こさないように着替えを済ませると千早ちゃんが謝ってきた。 最終電車を逃すことはとうに分かっていたし、こういう仕事をしている以上これぐらい慣れっこだし。 「なにより明日は休みだしね」 私としては自然に言えたつもりなんだけど、千早ちゃんの顔はどうにも暗いまま。 いくら時間を押そうが気にしない以前に比べたらマシなんだろうけど、これはこれで春香さんは困っちゃ...
  • ばんそこ
     今日のイベントは大成功と言っていいだろう。駆け出しアイドル・天海春香としては 充分すぎるほどの客入りだったし、参加した子供たちは正真正銘大喜びだったからだ。  とある遊園地での握手会である。デビュー曲『Go My Way!!』と事務所の先輩のカバー曲 を猛練習した成果もあり、春香も歌やパフォーマンスに磨きがかかってきた。この調子 なら来月にエントリーを考えているオーディションでも充分戦えそうだ。 「春香、お疲れ様」 「おつかれさまでしたっ、プロデューサーさん!」  着替えた彼女がこちらに駆けてくる。 「大丈夫か?思った以上にギャラリーが集まったからな。手とか、痛くないか?」 「はい、大丈夫ですっ」  にこにこと笑いながら、右手を顔の前で振ってみせる。 「いっぱいお客さん来てくれたんだから、文句なんか言ったらバチが当たりますよ。50人 くらい...
  • You Make Me Smile
    四条貴音。 長い手足を活かしたダンスであったり、 日本人離れした容姿であったり、 大抵の曲は歌いこなせる安定感のある歌声であったり、 端的に言ってしまえば極めて高い水準でバランスの取れたアイドルと言えるだろう。 そんな貴音に最近増えてきた仕事として、グルメ番組のリポーターがある。 最初の頃は本人の好物でもあるラーメン関係のオファーがたまに来る程度だったのだが、 ある時貴音の評価を大きく上げる出来事が起きた。 グルメ番組なんてのは料理が運ばれて来たらまず薀蓄やら御託を並べるのが通例となっているのだが、 その時の貴音は料理が出された瞬間間髪入れず食べ始めてしまった。 当然慌てた番組スタッフが打ち合わせと違うと止めに入ろうとした所を逆に、 「風味の損なわれぬ内に食す事こそ料理人に対する礼儀と知りなさい!」 と一喝。しかも生放...
  • 金色のHEARTACHE
     同級生の星井が……星井美希が髪を切ってきたときのクラスの動揺といったら、 並大抵のものではなかった。  その朝、星井のいつもと同じ「おっはよーなの」という声に返されたのは おおよそひとクラス分の「ええええっ!?」というどよめきだった。おおよそ、 と言ったのは、僕を含めてひと声も出せなかった奴らがいたからだ。  いつもと同じに始業ギリギリでやってきたので彼女に質問をする時間はまったく なく、10秒後に始業のチャイムと一緒にホームルームを始めようと入ってきた 担任が一瞬の絶句のあと、「おぉ、すっきりしたな、星井」と言い、「えへへ 先生、似合う?」と答えたのが唯一のプライベートトークだった。ホームルームの あとの休み時間はもちろん女子による囲み取材で、星井の左斜め後ろの席にいる 僕は気弱でバカ正直な自分の習慣にこっそり感謝しつつ、次の現国の予習を ...
  • Sometimes
    腕時計に目を落として時間を確認する。只今の時刻午前10時半。予定の時間を大幅に過ぎているが未だ待ち人来たらず。 レッスンスタジオの前で待ちぼうけを食らっていたプロデューサーははて、と首を傾げる。 今日ここに来るはずだった雪歩はどれだけ気の進まない仕事であったとしても体調不良以外で休んだことは無いし、 仮に休まなければならない事情があった場合は必ず連絡を入れてきたのだからその疑問は当然でもある。 考えたくはないが連絡の入れられない状況にあるのだろうか、事故にでも会ったのだろうかと不安が頭をよぎり、 何か知っていることはないかと事務所に居る音無小鳥嬢へと電話をかけた。 「すみません小鳥さん。まだ雪歩がこっちに来ないんですが何か連絡は来てませんか?」 「ああそのことでしたら昨日の夜に雪歩ちゃんから電話がありまして」 「ええ」 「今日のレッスンはドタキャンするそ...
  • コーヒーをいれたから
    少し鼻を通過していっただけでそれと分かる独特の苦味を含んだ香りと、ゴリゴリと豆が砕けていく心地良 い音を愉しみながら、昼下がりのオフィスで俺はコーヒーミルのハンドルをぐるぐると回していた。給湯室の ポットの前に陣取った傍らには、コーヒーサーバーに自分用のマグカップをセット済みだ。  スーツを着て働くようになって以来、食後にコーヒーを飲むことが習慣になっていた。つい先日、一人でオ フを取ってのんびりしようと思っていたがどうにも落ち着かずデパートへ出かけた際に福引をしたのだが、こ のコーヒーミルが当たったのだ。  どうせ自宅に置いておいた所で使う時間も無いだろうと職場へ持って来て見たが、これが中々楽しい。つい ついコーヒー豆なんぞを自分で買ってみたりと、給湯室の中にこっそり豆の種類が増えていたりもする。  少し豆の量が足りなかったかな、と思って足そうとした所で、...
  • 無題97
    「また泊まったんですか?」 「え、ええ」彼はばつが悪そうに、音無小鳥の質問に答えた。クリーニングから帰っ てきたばかりで、ぴしっと折り目のついたスラックスを穿き、糊の効いたワイシャツ を無頓着に腕まくりして着ている姿は、いつもの彼そのものだった。起きたばかりと はいえ、靴下をはかずに素足にスリッパというのが、ずぼらな彼らしくもあった。  だが、バイタリティ溢れるその見かけとはうらはらに、どこか青年らしさを欠いた 疲労の色があるのを小鳥は感じていた。無理もない。アイドルを数人抱えているにも かかわらず、この会社には彼しかプロデューサーがいないのだ。若いエネルギーに だって限界はある。 「会社は宿泊所じゃありませんよ。ちゃんとご自分の部屋へ帰って、きちんと睡眠を とってください。日中だって、それほど休憩時間があるわけじゃないでしょう。そん なことをし...
  • 青春ミンミキミキミキ
    人の惚気話ほどつまらないものはない、とはよく言われるもので。 「それでね。ミキが抱きつくと、千早さん顔真っ赤にして。だからカッワイーって言ったらね」 おまけにそれが好きな、というか気になる人間からの話だったらなおのこと。 キーボードを叩く指が僅かに強くなっていくのを、冬月律自身も気づいてないようだった。 「それでそれでー」 うるさいっ! 面と向かってそう言えたらなんと楽なことか。 コロコロと楽しそうに表情を変える星井美希に律はそっぽを向くことしか出来ない。 この意気地なしめっ。 そっぽを向いた先、窓に映る自分の顔はお世辞にも良いものじゃなかった。 恋には何種類もある、ということを冬月青年は理解してるつもりだった。 それこそ音無小鳥嬢が趣味の一環として楽しんでいるアレやソレも、性倒錯とは古来より人間、特に日本人は寛容に接してきたわけで云々。と...
  • half and half
     クリスマスの夜、プロデューサーはしたたかに酔っぱらっていた。普段の彼からすれば、 こんなに酔った姿を人前にさらすのは珍しい。今日はいつもお世話になっているテレビ局の パーティで、大きなスタジオを片づけた会場には、局の人間や関係者、いろいろな番組の 出演者などがひっきりなしに入ったり出たりしていた。 「メリー・クリスマス」プロデューサーはオリーブの入ったカクテルグラスを目の高さに上げ、 局の若い女性ディレクターに半目開きのままあいさつをした。 「メリー・クリスマス。どうしたんです、今日はそんなに酔って。普段のプロデューサーさん らしくありませんね」彼女は困ったような、面白がっているような、そんな表情だ。 「今日はもう、昼間からパーティやら忘年会やらで、もうここが三軒目…じゃなくて 三か所目なんですよ。この不景気に『来年もがんばってくれ』とか『今年はよくが...
  • ユメノナカヘ 三話
    美希と私の初顔合わせの翌日。  ……いったい、「彼」は何を考えてるのだろう?  私、秋月律子を何度もそう自問させる「彼」の態度は、この日も変わら なかった。 「来週は、オーディションを受けようと思う」  あっさり言い放つ「彼」。  きょとんとしている美希。  唖然としている、私。  そんな午後の事務所。 「ち……ちょ、ちょっと、どういうつもりなんですか?! 私はともかく、  美希はまだ未経験の新人じゃないですか! まずはユニット内の意思疎  通を図るとか、レッスンに費やすとか、他にやることがあるんじゃない  ですか?!」  机を叩いて「彼」に詰め寄る私。  そんな私に、「彼」はあっさり言い放つ。 「これ、美希のデモテープ。で、美希、こっちが律子のデモテープ。衣装  は事務所の好きに使って...
  • もしも春香以外がGSになったら
    「ハァ……ハァ……」 私こと天海春香は今、事務所に向かって走っている。 久しぶりに休日一日使ってのレッスンが待っているのに、せっかくプロデューサーさん一緒にいられるのに初っ端から寝坊。 ああなんてバカでダメダメな私なんだろう。 そもそも、そもそもあの夢が悪いんだと、振り返る人も気にせずに横断歩道を駆け抜ける。 どんな夢だったかも分からないけど、とにかくなんだかよく分からないけどあの夢のせいにして私は走った。 見えてきた事務所に一層、足に力を込める。 意外と走れるもんだなあって自分でも感心しながら、私は事務所に繋がる居酒屋横の階段を駆け上った。 「お、遅れましたぁ!」 ドタドタと階段を駆け上り、事務所のドアを開ける。 膝に手をついて乱れている息を整えていると「どうぞ」と、頭上からタオルが差し出される。 風邪でも引いたのかな、なんて思いながらそれを受...
  • くのいち雪歩・忍び穴後編
     一方こちらは高木一朗斎の長屋。高木老人が読み物をしながら茶を飲んでいると床下から 声が聞こえる。 「頭領、頭領」  高木は眉を動かしただけで視線を遣ろうともしない。声の主を心得ているのだ。 「雪歩か」 「申し訳ありません。伊織ちゃんを攫われてしまいました」  雪歩、と呼ばれた相手は、声を潜め、状況を説明する。 「武術大会にみんなで行く約束をしていたのですが、伊織ちゃんが先に屋敷を出てしまって。 少し高をくくってしまいました。まさか功徳新報がそこまで手が早いとは」 「催しがある時は人の波も心の波も乱れがちだ。少々気の短い輩がいたのだろう」 「いきなり殺すということはないと思います。手遅れにならないうちに探して、助けてきます」 「うむ、そうだね。伊織お嬢さんは可愛らしい娘さんだ、まだ日が高いとは言え見境の つかない奴がいないとも限らない」 ...
  • her definition
    「おまえ、ずいぶん大人しくなったな」  沖縄の実家へ今年二度目の帰省をした我那覇響は、晩ご飯が済んだ後で、兄にそう言われた。 にこにこしながら頭をぽんぽんと軽くたたく兄に、響は反発しようとしたが、どうにも調子が狂って 思うようにいかない。少し前までなら、「なにすんだよー、このー!」と言っては、取っ組み合いに近い 兄妹ゲンカになっていたはずなのに。響はこのおせっかいな兄がどうも苦手、というよりうっとうしかった。  勉強はとにかくも、小中学校と、こと身体能力に関しては、響にかなう生徒はいなかったし、割と 背の高い彼女は、一年上のクラスからも一目置かれるような存在だった。だが、ちょっと年の離れた兄は、 ずうっと響のことを子供扱いしてきた。先に生まれてきたというだけで、兄はいつでもえらそうにしている、 響にはそんな風に見えた。  961プロから765プロに移籍し...
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     冬本番、暖房の効いた車の中でさえ、窓は冷気を放っている。  助手席から眺める東京の街は、今日も忙しい。日も落ちてシャッターを下ろす準備をする店も中にはあるが、 まだまだ道も明るく、歩道を行く人の表情に疲労感はあまり見えない。一般的な企業の終業時刻は過ぎている。  信号待ちをしているあの人は、隣の人と楽しそうに談笑している。きっと、あの後アフター5でお酒でも飲 みに行くんだろう。見知らぬ人ながら、いい表情をしていると思った。  一方私はといえば……体が声にならない悲鳴をあげている。前腕や太もも、ふくらはぎの辺りがミシミシ言 っているようだ。それも、今日一日を振り返ってみれば、無理も無いことだろう。  元々予定では午前中にダンスレッスン、午後に歌詞レッスンを入れてあったのだが、トレーナーの都合で午 後のレッスンがキャンセル。ダンスのスタジオの方も予約が入ってお...
  • たてせん
     三浦あずさが事務所に着くと、応接セットのソファに先客がいるのを見つけた。タレント仲間の高槻やよいである。  いつもならドアを開けて挨拶をすればまっさきに元気な声を聞かせてくれる可愛らしい同僚であるが、今日はなにやら他のことに気を取られているようだ。深く腰かけて前屈みになり、束ねたプリントアウトに見入っている。  きわめつけは眉間のシワである。やよいの両の眉の間に、見事な縦線が刻まれているのだ。  あずさはつとめて明るく、話しかけながら向かいのソファに腰を下ろした。 「おはようございます、やよいちゃん。外はいいお天気ね」 「はわっ、あずささん!おはようございますっ」  声を聞いてようやく気付いてくれたようだ。バネ仕掛けのおもちゃのように飛び上がると席を立ち、深々と頭を下げてくれた。 「ごめんなさいね、驚かせちゃった?ずいぶん夢中だったのね」 「あ……すみませんあずささん。来...
  • TOWもどきim@s異聞~第一章~ 春香編3
     それまで単なる辺境の小国家とばかり思っていた自分の生まれ故郷が、『ある側面』では特別であり幸運な国なのだということを、 風聞として知ったのはそれなりに幼い日のことだった。けど、実際それは彼にとってそんなに大した意味があるとは思えない。  屈折したプライドを持った一部の上流貴族の中には、世界樹の麓で生きているという事実だけで他国への妙な優越感を抱いている者も いるのだから、呆れるより他ない話だ。 「自分が生き仏にでもなったつもりかしら」―――と、同じ貴族達のそんな風潮を、嘆くようにそう呟いていたその少女の顔は、 会ったのが一度きりだったというのもあり細かい輪郭ももう思い出せないが、妙に疲れきっていたのを覚えている。 あと、眩しいを通り越して痛い位に自己主張してくるあの額とか。 閑話休題。 そんな『一応』特別な国ヴォルフィアナの北端に位置する、フロランタ...
  • ボクノメガミ前編
     それは、僕が中学2年になって少し経った、初夏の夕方のことだった。  梅雨入り宣言はまだだったけれど、今日は朝からひどく胡散臭い天気が広がっていた。授業が 終わり、部活もないので帰ろうと校門を出たあたりで空は真っ黒になり、帰り道の半分を小走りで 行き過ぎたところで水を貯め込んだ雨雲がついに決壊した。  これはいけないと目前まで来ていたショッピングモールに飛び込み、僕はしばらく雨やどりを することにした。 「うわあ、傘もって来ておけばよかったなあ」  モールの出入り口、似たような境遇のたくさんの人に紛れて小さく悪態をついた。あんな空模様 だったけど降水確率は10%だったのだ。モールの雑貨店はあわただしく雨傘のワゴンを店先に 並べ始めて、サラリーマンの人が諦めたようにそれを買いに歩き出すけれど、当然僕にはそんな 余裕はない。  天気予報を信じるなら、...
  • 無題7-295
    上田鈴帆というアイドルを担当している俺は今、ある問題に直面していた。 彼女は元気で素直な良い娘で、仕事もパワフルにこなして着実にファン層を広げている。 しかし彼女にはバラエティ番組の仕事ばかり入ってきて、歌やダンス関係の仕事は一切来ない。 俺は彼女に歌って欲しくてスカウトしたのだが、未だにその目的を果たせていなかった。 原因はまだDランクに上がったばかりの頃にある。その時彼女は某テレビ番組の特番に出た。 正月番組でタレントを集めてワイワイするだけの番組だったが 鈴帆のランクを考えると、まず来ないビックネームの仕事だ。 俺はどういったアピールをするべきか迷ったが ここはインパクトを重視して着ぐるみで出演させることにした。 正月に相応しい鏡餅の着ぐるみを来た鈴帆が登場すると、番組は笑いに湧いた。 お茶の間からの反響も大きく、あれから鈴帆の名前は一気に知れ...
  • 二つの距離
    瞳に焼きついたのは――。  流れ行く人の波。街頭の四角い窓から流れる流行のメロディ。  誰の心を映したのか――空は蒼く。今にも降り出しそうな雨は誰のモノなのか――。  俺は探していた。朝も夜ともつかない曖昧な世界で、ただその姿を。  見えない線に導かれる様に、その姿を雑踏の中に見つける。  揺れるトレードマークのリボン。笑顔の彼女と――  知らない男の笑顔。  二つ並んで、消えて行く――。  呼吸が止まる。視界が壊れて、その破片が体を刺したのか、斬りつけられた様に体が痛む。  痛む――悲鳴を出し、泣き出しそうなくらい痛いのに、どうしてか、何処が痛むのか分からない。  それで楽になる訳でも無いが、俺は膝と手を地べたについた。  麻痺、というより消失。感覚が無い。粒が濡らし濃くなった地面の点で、自分が泣いている事を知る。  内から広がる空の...
  • FIVE DOORS
    「みんな、おはよう。だいたい揃ってるわね」 「えっ?」 「り、律子!」  朝から今しがたまで飛び回っていて、部屋らしい部屋でひとところに落ち着く チャンスがなかった。  ある意味本日一枚目となる、招待客控え室のドアを開けると、アイドル仲間 たちが一斉にこちらを見た。みんなそれぞれにおめかしをして、ふだん事務所で 見るより何歳か大人びて見える。  私はここに現れない……そうみんな思っていたみたいで、全員の目が丸く なるのに少しだけ複雑な満足感を覚えた。 「……律子あなた、ここでなにをしているの?」 「なにって千早、そんなの決まってるでしょ?」  どんな顔をしていいかわからないという表情のまま質問された。 「私はプロデューサーなんですからね、『うちのプロデューサー殿の結婚式』の。 参列者の状況を確認しにきたのよ」 「プロデュースって…...
  • あわてんぼうのサンタクロース
     12月も後半にさしかかったある夜のことです。  エントランスのドアが開いた時、私はちょうどロッカールームから戻って 来たところでした。事務室は非常口を除くと出入り口が一つしかなくて、制服を 着替えて退勤するときも自分の持ち場を通り抜けなければなりません。  誰かと思ってそちらを見ると、亜美ちゃん真美ちゃんのプロデューサーさんが 立っていました。 「あれ、小鳥さん。お疲れ様です、いまお帰りですか」 「あ、プロデューサーさんお帰りなさい。早かったんですね」  プロデューサーさんは今日、担当している二人を連れてデパートのミニライブに 行っていました。壁のホワイトボードには『双子姫をエスコートしてから戻ります』 と書いてあったのを憶えています。几帳面な性質らしく、他の同僚が体言止めで 殴り書きをするような場所にも柔らかな筆跡の、ですます調が目立っていま...
  • オフライン
     爽やかに晴れ渡った初夏のある日。水谷絵理のこの日の営業は、室内での写真撮りだった。  PC用デュアルディスプレイの誌上広告。絵理のキャラクター性を余すところなく活用した、新製品のPR記事とその販促写真の撮影である。  ネットアイドルとしても動画投稿者としてもファンの多い彼女にとって得意分野の仕事で仕上がりもよく、スポンサーや雑誌編集部の高評価を得て撮影は予定より早く終了した。 「ありがとう、ございました」 「絵理、お疲れ様」  クライアントに挨拶を終えた頃、プロデューサーの尾崎玲子が彼女に歩み寄ってきた。 「いい仕事だったわ。モニターに映っていた方の表情なんか本当に電子世界の住人のよう」 「このシリーズ、私も使ってる。だから、感情移入?」 「それはラッキーだったわね。広報部のかたも満足してらしたわ、うまくすれば他の製品も引き受けさせてもらえるかも」 「ほんとですか」 ...
  • 第8話 かがみの国  ~春香さんがいっぱい!?~
    「うぬぬ、ウサギの奴め…」 暗い暗い、闇の中。 水晶玉を眺めながら、恐ろしい形相で何やら呟いている人影。厚いコートを身にまとったまま、いらいらと 歩き回っていました。 …これこそが、鏡の国を支配しようとしている女王でした。 その視線の先には、水晶玉に映ったウサギ、そしてやよいの姿が。 「ただでさえこのような体になって窮屈しておるのに、人間を連れてこの私に立ち向かうとは…」 女王のいらいらは、周りにいたトランプの兵隊達にもはっきりと伝わってきます。 「お前達、何としてもあの二人を捕らえて、首を刎ねてしまうのだ、よいな!」 「へ、へへー」 「…これが、鏡の国?」 「…そうです、もっとも今ではここも女王の支配下になってしまって、すっかり変わり果てた姿になってしまって ますが…」 やよいとウサギの二人は、そんな話をしながら目の前の光景を呆...
  • 無題36
     もうはっきりと陽射しは傾いたが、まだ夕暮れには早い。そんな時刻に、ときどき出会 える光景だった。蒸気は少なく、澄んだ空は深く透き通った独特の青みを見せ、ちぎれ雲 に反射する日の光がオレンジ色を帯びて何となく夕方の海を思わせる。  きれいだ、と雪歩は思った。車から降り、すぐに目が行った景色に、雪歩はしばし見と れていた。心底美しいと、――それ以外のことは忘れていた。 「きれいだなぁ」 「あっ、はい。……とっても、きれいです」  いつの間に三井が隣に来ていた。雪歩のプロデューサーである。雪歩は空を見上げるの を止めて三井の方を向いたが、それでも見上げることには変わりない。近くにいるときは 特にそうである。雪歩と同じように見とれた風のプロデューサーの横顔が見えた。  ――嬉しいな。  さきほどまでの感動はもう霞んでしまって、ひとつの共感を得た喜びが雪...
  • TOWもどきim@s異聞~第一章~ 春香編1
     見上げていると呼吸が詰まりそうな鈍く重苦しい空模様から、針のように細く鋭い雨が容赦なく地上に降り注いでくる。 あまりの勢いに、窓にガムテープ張りされた社名もペラリと剥がれそうだった。  ソファへと座った天海春香は、ともすれば猫背になりそうな背筋をピンと伸ばしながら、一台の携帯を親の仇の如く睨みつけ――― ―――ぱか。パタン。ぱか。ぱたん。 液晶に映った人名に目を通し、その度にため息混じりに再び閉じる。 ため息の数だけ幸せが逃げるぞー、などと、オーディションの失敗をちょっとおどけながら励ましてくれた プロデューサーの言葉が鮮やかに蘇る。 あの時は容赦なく『おじさん臭いですよー』なんて茶化していられたが、実際ため息を繰り返すその都度に、風船から抜ける空気みたいに エネルギーがどこかへ逃げていくような心地がした。 ・・・・・・ため息を止める方法な...
  • TOWもどきim@s異聞~第一章~春香編4
     愛想こそないけれど、「一見しただけでは」確かにごく普通のシスターだったのだ。 だが自分を始めとした仲間達数人は、それ以降の数日の旅路でそんな認識をたやすくひっくり返されることになる。 まず初日、戦闘終了後に回復の為と進呈されたグミによって、彼女はあっさり『いけすかない女』認定された。あれだけ舌を蹂躙する味でありながら しっかりTPが回復するというのはどうなのだろうか。 あまりの辛さにのたうつ自分達に、仕掛けた本人は特に大笑いすることもなく、ただ『知り合いの王女に教わった調合法だけどこんなに上手くいくなんてね』と、 感心しているのかそうでないのかわからない口調で平然とのたまった。  そして次、情報収集の為に立ち寄ったカジノで、よりにもよって自分達全員(の装備品)をチップにした非合法ブラックジャックなどというものに挑んだ時には、 (スリーセブンで圧勝したとはいえ)...
  • TOWもどきim@s異聞~第一章~ 春香編2
     降りしきる雨の中を早足で急ぐ人の群れの中。 一瞬誰もがそこに目を留めては、とりあえず何事もなかったかのように行き過ぎていく。 一見しただけだと、花屋の軒先なこともあって、まるでラフレシアばりに大きな花が満開になっているようにも錯覚出来たことだろう。 路上にしゃがみ込んだ少女の体を覆い隠しているパステルピンクの傘が、クルクルと床屋のサインポールばりに回っているのだから。 「・・・・・・あの、これ下さい!」 店先でかれこれ五分、唸りながら座り込んで陳列された鉢植えを眺めた末に、彼女は店員にそう言って、 柔らかな花弁を開かせた数輪の、名も知らぬ青い花の鉢を手に取った。 『散歩でもして気分転換でもしてきなさい』と伊織によって事務所から強制的に叩き出され、傘をくるくる回しながら 近所をうろついていたのがつい先程までのこと。 雨の醸す湿気にも負けない後ろ向き...
  • New Life
     汗の記憶、肌の記憶、脳裏でその映像がめくるめくる煌く。バスタオルの下で生温かい熱が体を火照らす。 真夏の暑さは部屋にまで入り込み、浮き上がった汗で互いの体を濡らす。邪魔なタオルを蹴飛ばす。籠った余熱が解放される。 明け方の薄明かりが仄暗くセンパイの肢体を露にする。  酷く痩せた体の所々についた赤い斑紋。アタシがセンパイに残した痕。首筋のそれに深くキスする。 「んん、んっ」  センパイが僅かに反応する。浮き出る汗を吸うだけでなく、舌を出して舐め取る。もっと強く強く抱きしめたい。 自分の欲望が赴くまま穢してしまいたい。けれども、寝ているセンパイに手を出してしまうのはあまりフェアとは言えないだろう。 だから、センパイの味を感じるだけに留めよう。舞い上がった体を鎮めるために床を発つ。すると、腕が絡みついてきた。 「待って、サイネリア」 「センパイ」 「一人...
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