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その日、ライブを終えた澪は不機嫌そのものだった。

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mioazu

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その日、ライブを終えた澪は不機嫌そのものだった。

 澪はずっと深刻な顔のまま黙り込んでいた。

梓が話を振ると一応は返事をするのだが、どう見てもその心は上の空、といったところだ。

そして、澪は突然ベースを片手に飛び出してしまったのだ。

あまりに唐突な澪の行動に、唯達は呆然としている。

「ちょっと私見てきます」

 こんな状態の澪は放っておけない。遅れて梓も澪の後を追って部屋を出ていった。

外はもう完全に日が沈んで、外は漆黒の世界だ。

居るとしたら近くの夜間照明が設置されている公園しか無い。

「……あ」

 そして、その場所に澪はいた。

 駆け足で此処へ向かったのか、既に澪は練習に取り組んでいる。その表情には

鬼気迫るものがあり、いつもの澪とは違う。梓はしばらく物陰から様子を伺う事にした。

「どうして……」

 もう、ベースの音は聞こえない。他に人影の無い公園で、澪は膝を抱えたまま小さく肩を震わせていたのだ。

 嗚咽の混じった、か細い声。

 そこに、普段のクールな少女の姿は無い。そして梓は知っている。

こんな時の澪は、情けない自分の姿を誰にも見せたくないという事を。

 でも、それは無理な相談というもの。

 大好きな人の泣いている姿を見てしまっては、梓が自重出来る筈も無かった――

「澪先輩……」

 背後から声を掛けられ、澪はビクリと反応する。しかし、振り返るより早く梓は澪の背中を抱きしめた。

 普段の澪なら恥ずかしがり梓に離れろと言うだろう。

しかし、それを許さないまでに澪の悔しさは一杯だったのだ。

「梓のいじわる……」

 ぼそりと澪が呟く。けれど、澪は梓の拘束から逃れようとはしないままだ。

梓は意を決して語り始めた。

「何でそんなに落ち込んでるのか分かりませんが私は、そんな澪先輩見たくないです……」

「……」

「……ライブで思うように弾け無くってな……」

「あれだけ練習してきたのに肝心なライブで……」

「う……」

 ピクリ、と澪は微かに震える。そして、ゆっくりと振り返った。涙で赤くなった目を隠そうともせずに、

申し訳無さそうな表情で。

「ごめんな……。梓には格好悪い所見せたくなかったから……」

 しゅん、と小さくなる澪に、梓はクスリと表情を緩ませた。それを見た澪は小さく安堵する。

「最近な、ちょっとスランプなんだよ。……」

 溜息をつきながら澪はベースを手に取る。

 しばらく澪は黙ってベースを弾いていた。いくらスランプとはいっても、澪の奏でるベースラインは悪くない。

「やっぱりメンタルの問題かなあ……」

 ふう、と大きく息を吐いて、澪は一旦手を休めた。

「メンタルですか……」

 梓も一緒になって悩んでみたものの、不意に笑みがこみ上げてきた。

「?」

澪がキョトンとしていると、

梓はキョロキョロと周りに人が居ないか確認し、

 ちゅっ。

 と、澪にキスをした。

「うわぁ、梓いきなり何する!?」

「えへへ、リラックス出来るおまじないです」

「リラックス?」

「澪先輩、気合い入りすぎ何じゃないですか?」

「…………え?」

「以前のようにライブ前にガチガチに緊張する事は無くなりましたけど、その代わり気合いが空回りしてますよ」

「そ、そうか?」

「澪先輩、もう一回弾いてみてくれます?」

「ああ」

澪はベースを弾き始める。

それは、今まで何度も聴いてきた記憶の中の澪が奏でる曲と同じ美しい響きだった。

「澪先輩、完璧!!」

「ありがと、梓――」

 そして、澪はそっと梓の身体を引き寄せ――

 ――ふわりと抱きしめた。

「へっ?澪先輩?」

 胸の中で呆気に取られながら見上げてくる梓に、澪は穏やかな笑顔で応える。

「今の感覚を忘れなければ、きっと私は大丈夫だから。梓のお陰で、久々に満足いく出来だよ」

「――はいっ!」

 我が事のように、梓は喜びを笑顔に変えて爆発させる。それは、澪にとっては一番の御褒美であった。

 大好きな人の、最高の笑顔。

 それは、なによりも澪の心を癒すもの。

「じゃあ、明日からもっと頑張りましょう 澪先輩ならもっともっと上達しますよ」

 その、最高の笑顔で梓が励ましてくれる。こんな幸せなことはない――

「よーし、明日からまた練習だ」

 そして、ようやく澪にいつもの笑顔が弾けたのであった――


 次のライブ当日



「梓、ライブが上手くいくようにおまじないしてくれるか?」

「もう、澪先輩ってば」


ちゅっ



お終い
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