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そろそろ定刻か。今日は澪先輩、ちゃんと部室に顔出してくれるかなぁ。
昨日は律先輩のウソで冬コミ初日に強制参加させられて、散々な目にあったはずだし。
もし尾を引いてるようだったら、どうやって慰めよう。
などと考えてると、勢いよく部室のドアが開けられた。

「おはよう、梓っ」
「おはようございます、澪先輩……って、ずいぶんご機嫌みたいですね」
「え……いや、全然そんなことないよ。だいたい昨日は律のせいで酷い目にあったし」
「そうですか」

内心でため息をつく。まったく、つくづく澪先輩って、ウソつくの下手だなあ。

「ところで先輩。ビッグサイトではなんにも収穫なかったんですよね」
「そ、そりゃそうだよ。ギターなんか全然売ってなくて、かわりにヘンな本ばっかで……」
「たとえば?」
「へ……?」

私の質問に、澪先輩の表情が凍りつく。

「たとえば、具体的に、どんな風にヘンな本だったんですか?」
「そ、それは……」
「まさかとは思いますが、男性同士の恋愛を扱った本……とか」
「ナイ。絶対ナイ。そんな本見たことも聞いたことも買ったことも、ナイ」

ブンブンと強く左右に首を振りながら、たちまち先輩が耳まで紅くなる。しかも声まで上ずってるし。

「そうですか、よくわかりました」

そう言いながら私は自分の携帯を取り出し、簡潔な内容のメールを飛ばす。

「あ、あの、梓?」

呼びかけを無視して部室のドアに歩み寄り、私はガチャリと鍵をかけた。

「な……なななななななんなんだよ、いったい。どうして鍵をかけたりする……」
「黙りなさい」

ひっ、と先輩が小さな悲鳴を上げる。何かのアニメの一シーンみたいだけど、とりあえず気にしないことにする。

「買ったんですね?」
「だ、だから、何を……」
「買ったんですね?」
「いや、その……ほんの何冊か、だけ……」

まるでイタズラがばれた子どものように、澪先輩はビクビクしながら目を逸らした。




「先輩は今、人生の重大な岐路に立っています。でも大丈夫、ちゃんと私が助けますから」
「いったい……何を言ってるんだ、梓は」
「簡単ですよ。BL的妄想なんかより、三次元の方がずっといいんだってコトです」
「え、と、梓サン。意味がわからないんだけど。それにどうして服、脱ぎ始めてるの……かな?」
「ですから私がこの身体で、澪先輩に教育してあげます。三次元のすばらしさを」
「ちょっと待て、落ち着け。もうすぐみんな来るぞ……ほら、ムギとか……」
「誰も来ませんよ、今日は」

手にした携帯を澪先輩に突きつける。

「さっき関係者全員にメールしました。澪先輩がBLのダークサイドに落ち込みそうだから、私が今日一日かけてまっとうな人の道を叩き込むって」
「まさか、そんな……」

みるみるうちに、澪先輩の顔から血の気が引いていく。

「だから今日は誰も部室には来ないんです。大丈夫です。最初はちょっとアレですけど、すぐに気持ちよくなりますから」
「ひ、ひいっ!!」

ガタガタと身体を震わせ、あからさまな恐怖の表情を浮かべる澪先輩の両頬を、私はそっと手の平で挟み込む。
ああ、もう。なんてカワイらしいんだろう。

「助けて……私が悪かったよ……もう二度と、あんな本に手を出さないって誓うから……」
「もちろん助けます。そして教えてあげます。あんなモノより三次元の方がずっといいんだってコト。その身体に刻み込んであげますから。一生忘れられないように、これからタップリと」

そして私は、怯える先輩の──。

(おしまい)