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ギィー、という建て付けの悪い音と共に屋上の扉を開けて外に出る。

昼休みを迎え、今日この日は昼食もそこそこにして私は学校の屋上にやってきていた。

「やっぱり寒いな……」

春先や夏場なら他の生徒たちで賑わう屋上だが、今の冬の寒さの前には閑古鳥が鳴くのも仕方ない所だ。
そんな屋上で冷たい寒気の中にいる自分はなんとも変わり者というか、おかしな奴というか。

軽い自嘲を考えながら風の当たらない物陰のほうに移動して、さっと座る所を軽くはたいて腰を下ろす。

――と、その時。

ギィー、と入り口の方で自分の入ってきた時と同じように建て付けの悪い扉の開く音が。
私以外でいったい誰が?と思ったが、

「澪先輩? いるんですか?」

声を聞いて誰が屋上にやってきたのか、考えるまでもなく私には分かった。

「梓? 私ならこっちの方にいるよ」

小さい足音がこちらに近付き、姿が見える。
屋上にやってきたのは大事な後輩であり、恋人である梓だった。

「梓、どうしてこんな所に?」
「あ、あの、たまたま澪先輩が上に登っていくのが見えたんですけど、部室にはいなかったので屋上の方を覗きに来たら……」

どうやら、屋上に来る所を見られてたようでちょっぴり恥ずかしい。
けど追い返すのも何だし、もとより梓に対してそんな事する気はさらさらない。

「梓、こっち。入り口の方にいると風に当たるからさ」

私がいる所の物陰なら人がやって来てもすぐには見つからないし、強い風がきても当たることはない。
自分が座る時よりも念入りに梓の座る所のホコリをはたいておく。

「どうぞ、お姫様。汚らしい所ですがよろしければ」
「もう、からかわないで下さいよ」

風よけが出来る場所は限られているので必然的に梓はすぐ隣に座る。
肩が触れ合い、ドキドキしながらも何だか嬉しくなる。




「それで、先輩はどうして屋上に?」
「ああ、空を見に……な」
「空……ですか?」

――互いに空を見上げる。

今日は久しぶりに雲一つない快晴で、空には澄み切った蒼空が広がっていた。

「こういう凄く天気のいい日はたまに昼休みに屋上に来るんだ。冬は誰も来ないし……寒いけどね。
 蒼い空を見てると、心が洗われるような感じがしてさ。休みの日に家で考え事をしたり、詩を書いたりする時にもよく空を見上げたりしてる」

――蒼空を見上げるのは昔から好きだ。

透き通るような蒼い空を見上げていると穏やかな気分になり、何より落ち着く。
朝起きた時、蒼い空が広がっているとそれだけで何かいいことが起きそうな気がするぐらいだ。

「やっぱり変かな?」

だからといって寒い冬にわざわざこうして学校の屋上に空を見上げに来るのも結構な物好きだと自分でも思う。
だが、

「そんなことないですよ、澪先輩らしくて……何だかカッコいいです」
「いや、カッコよくなんて……」

なぜか喜色満面といった表情の梓にカッコいい、なんて言われ咄嗟に照れを隠すかのように明後日の方向を向いたりした。

「けど、やっぱりここは寒いですね」
「そうだな……」

私は制服の上にパーカーを着てきたので多少は平気だが、制服の上に特に羽織ってきていない梓には物陰にいても寒いだろう。

「よし、じゃあ」
「ふえっ?」

隣に座っている梓をひょいと持ち上げ、自分の膝の上に乗せる。

「せっ、先輩!?」
「いいじゃないか、ここなら誰も来ないしさ」

そしてぎゅっと、正面から抱きしめた。

「こうしてれば寒くないだろ? あったかいな、梓は」
「そ、そんな、先輩の方がずっとあったかいですよ」

最初はあたふたとする梓だったが、すぐに私の腕の中に柔らかくもたれ掛かってきてくれた。




梓を抱きしめながら蒼空を見上げ、ふと私は物思いにふける。

――私は、この子が何よりも愛おしい。

――だが、自分に何が出来るのか。

――不器用な自分に、彼女のために果たして何が出来るのか。

――それでも、不器用でも、守りたい一心と一途なこの想いで。

――何か彼女のために、出来る事を一つでも増やしていけるのなら――

「澪先輩?」

梓の声にハッとして、我に返る。

「どうしたんですか?」
「あ、ああ……ちょっと考え事してた」

目の前の、それも腕の中にいる恋人の事を考えていたとは言えず何だか少しバツが悪い。
そんな私に対し梓は、

「私が言えた事じゃないですけど……あまり考えすぎないで下さいね。
私は何があっても、澪先輩の味方ですから」

何か察してくれたのか、私が何を考えていたのか聞こうとはしてこなかった。
代わりに私の背に腕を回し、梓からも私をぎゅっと抱きしめてきてくれた。

「ありがとうな、梓」

優しく、そっと梓の頭を撫でてあげると梓は瞳を閉じながら幸せそうな表情を浮かべる。

「んっ……澪先輩……」
「梓……」

蒼空の下、互いに優しさと温もりを感じながらゆっくりと時間が流れていく――




――そうして、どれくらい時間が経ったのか。

「梓、そろそろ戻らないと」
「あ……そ、そうですね」

携帯を取り出し時間を確認すると、午後の授業開始5分前になろうとしている所。
名残惜しさを感じながらも体を離し、一緒に立ち上がる。

「と、戻る前に……」
「澪先輩?」
「もう少し、恋人らしい事しとこうかな」

フッと近づき、梓の頬に静かに唇を触れさせる。

「あっ……」

今の自分に出来る事といえば、せいぜい二人きりの時だけでも自分の心のまま正直に行動する事ぐらいだ。

「せ、先輩っ、キスするならするって言ってからにしてくださいっ」
「ああごめん、いきなりはびっくりするよな」

ぼふっ、と頬を紅く染めた梓に抗議されてしまったので、

「じゃ、もう一回してもいいかな?」
「え、ええっ!?」

ワンモアチャンスくれないかとばかりに、そう進言してみた。

「ダメか?」
「い……いえっ! ちゃんとなら、む、むしろ、してほしい、です」

梓はそう言うと、瞳を閉じてわずかに唇を突き出す。
やっぱり梓にとって、唇にしないとキスしたって感じにはならないらしい。

「ふふっ、了解」

そうして私は梓の頬を両手で包み込むように優しく触れながら、そっと唇を重ねた――

――改善は牛歩の如くかもしれない。

それでも、一歩ずつでも確実に梓のため、自分のため、私達の未来のために。私は強くなってみせる。

いつかきっと私は、弱い私自身を打ち倒す。必ず。

今日のような蒼空の下、いつまでも梓と一緒に居続けるために――

(FIN)