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「ネコ……?」
「うん、またで悪いんだけど預かってくれない? 週末の土日、家族と出かけるもんでさ」
 授業が終わって放課後になり、部活に向かうとしていた梓を、純が引き留めた。
 要約すると、祖父の実家に行くらしい。

 梓は、ちょっとだけ考えた。週末は特になかったはず。今週末は親がライブだかなんだかでいない日だし。
「まあ、特に予定はないからいいよ」
「ありがと! じゃあ土曜日連れて行くから!」
 というやいなや、ばたばたと教室を出て行ってしまった。

「ネコ……ね」
 初めて子ネコを預かったときは、不安で仕方なかった。
 何せ、初めて動物と一緒の時間を過ごしたのだ。
 最初はふれ合うことも怖かったが、子ネコも気を許してくれたし、ふれ合うのも楽しかったし。

 荷物をまとめ、ムスタングを肩に掛けて教室をでる。

 久しぶりの再会。
(楽しみだなぁ……あずにゃん二号……)

 音楽室への階段を上る。

「梓!」
「に゙ゃっ!? み、澪先輩、驚かせないでください……」
「?」




 どようび!


 早朝、ドタバタと出て行く親を見送りつつ朝ご飯を食べ、ぼーっとしてたらインターホンが鳴った。
(たぶん純だ)
 玄関まで飛んで鍵を開け、扉を開けると、予想通り純がいた。
「はい! ネコ!」
 と言うと共に、キャリーバックを差し出した。
「……なんか言うことは?」
「よろしくお願いします」
「わかった。今度なんかおごってよ」
「うい」
 純から子ネコの入ったをキャリーバッグを受け取った。
 バタン。
 玄関を閉めて鍵を掛けてリビングへと急いだ。

 バッグをそっと床に置いて、鍵を開けた。
 中には一匹の子ネコ。
「ひさしぶり、あずにゃん2号」
「ニャ」
 子ネコ――あずにゃん2号を抱き上げた。


 昼下がり――。
「はい、ミルクだよー」
「にゃ」
 梓が深皿に入れて差し出したミルクを、ぺろぺろとなめる2号。
(かわいいなぁー……)

 ピンポーン。
 と、呼び鈴が鳴った。
「おとなしくしててね、あずにゃん2号」
 2号の頭をやさしく撫でる。
「にゃー」
「よしよし」

「梓、元気にしてたか?」
 玄関の扉を開けたら、そこには澪がいた。
(あ゛今日は澪先輩に勉強を教えてもらう約束をしていたんだったー!!)
 頭を抱えたくなった。
「?」
「あ、上がってください。親も今日はいませんから」
「お邪魔します」
 と、澪を家に上げた。




(澪先輩でもあずにゃん2号まで怖がったりしないよね……)
 などと思いつつ、リビングの扉を開けた。
 と、澪が突然声を上げた。
「ネコ!?」
 澪が怖がって梓の背中に隠れた。
(……ネコでも恐がるんですね)
「にゃぁ」
 梓にはあずにゃん2号が『しょうがないなぁ』と言っているように聞こえた。

 :
 :
 :

「ああ、純から預かってるのか」
「週末おじいちゃんの家に行くみたいです」
 ソファーに二人(+一匹)で腰掛け、とりあえずお茶を飲む。
 2号は梓のヒザの上で丸くなっていた。
 ふと、澪が2号をちらちら見ているのに気づいた。2号を見てはすぐに視線を外してまた見て――を何回か繰り返している。
「澪先輩? あずにゃん2号がどうかしたんですか?」
「ひっ! そ、そんなことないよ……」
(あ、素が出てる。“怖い”なんて聞いてないのに)
(うーん、仲良くする方法ないのかなぁ……。あ! この子頭撫でられるの好きだよね。じゃあ――)
「澪先輩? そんな怖がらなくてもあずにゃん2号は襲いませんから。頭撫でてやってください。喜びますよ」
 と言いつつ、2号を抱き上げて澪のヒザの上そっと降ろす。
「……」
 (本人にとっては)覚悟を決めて、2号の頭にそっと手を置く。
「みゃー」
 あずにゃん2号は嫌がりもせず、気持ちよさそうに喉を鳴らした。

 さわさわ。
 さわさわ。

 澪の顔から緊張の色が抜け、代わりに少々赤くなりつつあった。
「かわいい……」
「……」
(なんだろ……なんかモヤモヤする)
 澪のヒザの上で澪の暖かい手のひらで撫でられ、気持ちよさそうにまぶたを閉じてる2号が突然恨めしくなった。
(梓の前で“あずにゃん2号”って言いにくいなぁ……。何より“あずにゃん”って柄でもないし……)
 澪は澪で、ネコを名前で呼んであげたかったけど、本人の前でなかなか言い出せなかった。




「みゃ!」
 突然、ネコが澪のヒザの上を飛び出し、梓の前に飛び出す。
「あっ! あ……あずにゃん2号!」
(澪先輩が、あずにゃん2号って……)
「にゃ?」
 2号が澪に呼び止められて足を止め、来た道をまた戻って澪のヒザの上に飛び乗った。
「にゃー」

 むすっ。
 梓は内心穏やかではなかった。
「澪先輩、私には“あずにゃん”って呼んでくれないんですか?」
「え?」
 澪は素っ頓狂な声を上げた。
「えっ……だって、梓はあのあだ名で呼ばれるの嫌だって――」
「そんなことは言ってないです!」
(澪先輩にだったら呼ばれたいです)
 とは、言えなかった。

「にゃーにゃー」
 澪のお腹をふにふにと押してじゃれる2号。かまって欲しいのだろう。
(ぴきっ)
 『子ネコなんだから怒ったり嫉妬したりしたってしょうがない』というのは頭で理解してても、梓の感情とは乖離していた。
 ソファーから立ち上がり、澪の前に仁王立ちする。
「澪先輩? 呼んでくれないんですか?」
「……」
(え、なんで? そんなにあずにゃんって呼んで欲しいの……?)

 澪にとっては決死の覚悟で。
「あ、あず……にゃん」
 上目遣いで、モジモジされながら名前を呼ばれた。
 想像以上の破壊力に――。

 鮮血をまき散らして倒れた。

「あずさー!?」
「にゃー!!」

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「梓、体調悪かったのかな……」
 毛布は近くにあったが、枕が見当たらなかったので自分の膝を枕にして横に寝かせた。
 2号も梓が不安なのか、澪の膝から離れることはなかった。
「梓のこと、心配?」
「にゃー」
「心配してくれてるんだね」
 梓の頭を撫でてながら、うとうとし出して――。

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 柔らかくて暖かい手のひらの感触で目が覚めた。
(ああ、また鼻血出して倒れちゃった……。澪先輩には悪いことしたなぁ……)
 体を起こそうとしたが、なぜか立てない。
「にゃ!?」(え!?)

 それもそのはず。

「……寝ちゃった……。あれ? ネコが2匹? どこかに隠れてたの? 梓は……?」
「にゃー!!」(なんでー!?)

 澪のヒザの上には、子ネコが2匹丸くなっていた。

 つづく! ……たぶん。