「まったく……あいつのせいかな、調子がよくないのは……」
私はぶつぶつ言いながら制服に着替え、学校への支度を確認する。
いつも通りの平日の朝……なのだが、今日の朝はどうにもいつになく身体がだるかった。
――多分、その原因は昨日の夜。
明日の準備を済ませて寝ようとしていた所、律から急に携帯に電話が掛かってきて何やら弟の聡と久々に格闘ゲームで対戦した所、こてんこてんにやられたって事で長々と愚痴を聞かされたのだ。
「(それでさあ、遠距離からチマチマと一方的に牽制してきてさ……こっちの使ってるキャラは遠距離戦は何も出来ないってのに)
「(はあ……)」
「(んで、そっから容赦なくコンボに持ち込んでくるんだから。全く、少しは姉を敬えってーのっ!)」
「(そ、そうか……)」
「(はあ……)」
「(んで、そっから容赦なくコンボに持ち込んでくるんだから。全く、少しは姉を敬えってーのっ!)」
「(そ、そうか……)」
寝る直前にそんな事があったおかげか、どうにも昨日は寝付けなかったのだった。
「まあ結局最後まで聞いている辺り、こっちも甘いんだけど……ふあ」
それでも何とか起床時間に起きれたものの寝覚めはやはりというべきか、お世辞にも良くない。
頭にも体にも血がまともに巡っていないのか、体がだるく感じていた。
頭にも体にも血がまともに巡っていないのか、体がだるく感じていた。
支度を確認し終え、眠気覚ましに朝食でコーヒーをぐいっと飲み、ささっと髪を梳かした所でだるさの残る身体に鞭を打ち、家を出る。
「行ってきまーす……」
何とか学校まで歩いている間に本調子になればいいんだけど……難しいかなあ。
背中にエリザベスを担ぎながらも、俯き加減な状態で学校へと向かう。
背中にエリザベスを担ぎながらも、俯き加減な状態で学校へと向かう。
――と、
「澪先輩っ」
「え?」
「え?」
しばらくして後ろから声がした。
丁寧に、私なんかには恐れ多いほどの、心からの敬意を込めて呼んでくれるその響き。
丁寧に、私なんかには恐れ多いほどの、心からの敬意を込めて呼んでくれるその響き。
その声に振り向く。
「おはようございますっ! 澪先輩っ!」
そこには、朝から柔らかな笑みを浮かべて、元気いっぱいな梓の姿があった。
「お、おはよう梓。今日は随分と早いんだな」
私と梓では、私の方が三十分近く登校する時間が早いので朝方に会う事はそうない筈だが……。
「今日はちょっと早く目が覚めたのでたまには早めに学校に行くのもいいかな、と思って。
そしたら朝から澪先輩に会えるなんて、何だか嬉しいです」
そしたら朝から澪先輩に会えるなんて、何だか嬉しいです」
それこそニコニコと嬉しそうに笑う梓。
「――――」
――いや、やられた。
梓の裏表のない純粋な笑顔、楽しげに話す梓の言葉。
それでがつんと、だるさの残る身体と憂鬱気味だった心が綺麗さっぱり洗われていた。
それでがつんと、だるさの残る身体と憂鬱気味だった心が綺麗さっぱり洗われていた。
「ふふっ、そうだな」
「ふえっ?」
「私も朝から会えて嬉しいぞ、梓」
「ふえっ?」
「私も朝から会えて嬉しいぞ、梓」
私は感謝の意を表したくて、思わずそっと梓の頭を撫でていた。
「あ、朝から澪先輩に会えるだけじゃなくって撫でてもらえるなんて……えへへ……」
「朝からありがとうな、梓」
「先輩?」
「ああいや、こっちの話さ」
「朝からありがとうな、梓」
「先輩?」
「ああいや、こっちの話さ」
俯き加減で歩いていて気付かなかったが、そこでようやく見上げた空は一面の快晴だった。
深呼吸をすると、冷たくも気持ちのいい空気が肺を満たしてくれる。
深呼吸をすると、冷たくも気持ちのいい空気が肺を満たしてくれる。
そして――
「よしっ、今日も一日頑張っていくか、梓!」
「はいっ!」
「はいっ!」
眩い朝の陽射しの中、微笑む梓と共に登校を再開した。
――梓の笑顔、梓の存在にいつだって私は励まされ、助けられている。
何を返せるわけでもないが、せめて彼女の笑顔には私も笑顔で返していきたい。
さあ、笑顔を忘れずに今日もまた、梓と一緒に新たな日常の軌跡を描き出そう――
(FIN)