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 ――チュンチュン、チチチ……。

「ん……朝、か」

 外から聞こえる小鳥のさえずり、そしてカーテンの隙間からもれる朝の陽射しで目が覚めた。
 日はまだ昇ったばかりみたいで、外はまだほんの少し薄暗い。

 ――と、

「……む?」

 体を起こそうとしたところ、何だかやけに身体がスースーしている妙な感じに加え自分以外に温かくて柔らかな感触がすぐ傍にあるような。

 横に目をやると、

「うーん……むにゃ……」
「……あ」

 梓が、私の傍らでわずかに背を丸めて幸せそうに眠っている。
 おまけにお互い何も着ておらず、生まれた時のままの姿だった。

 ――そうだ、そうだった。

 昨日は一緒にお風呂に入って――お風呂に入ってる時もイチャイチャしたんだけど――上がってからそのまま一緒に布団に潜り込んで抱き合って……。

「(そのまま、眠っちゃったんだっけ)」

 とりあえず梓を起こさないよう慎重に布団から出て、服を着ると居間に移動。
 今日は私の方で早くから講義が入っているので、あまりゆっくりはしていられない。




 ――大学に入り一年が過ぎ、そして梓が同じ大学に無事に入学してからもう既に一ヶ月。
 現在、梓は私と同じ一緒の部屋で暮らしている。

 梓を一人暮らしさせるのが心配だったというのもあるけど、私自身が梓と一緒に暮らしたかったというのが一番の理由だった。

 ……単なる私のわがままといえばそれまでだが、そんな私のわがままに最初は躊躇していただが最終的には、

「そ、その……ふつつか者ですけど、よろしくお願いします、澪先輩」

 ……と、顔を真っ赤にしながらも受け入れてくれた。

 大学の仲間内からは「姉妹のように仲の良い二人」と思われているみたいで、実際の仲を知っているのは当人である私達とあとは……二年生に三人ほどいたりする。

 まあ、それはさておきとして。




 エプロンを付けて台所に向かい、朝ごはんの支度に取り掛かる。

「さて今日は……と」

 まずはご飯を炊いて、おみそ汁を作る。
 昨日は豆腐とワカメだったので、今日は玉ねぎとじゃがいものおみそ汁にした。

 それと同時に定番といえる、だし巻きたまごを作ると余り物のこんにゃくをおかか煮にして準備オーケー。
 あとは鮭にさっと塩をかけ、火に入れて焼き上がるのを待つだけだ。

「よし、こんなとこかな」

 ――この一年の間に、私の料理の腕もそれなりに上達した。

 大学に入った当初は生活に慣れるのに大変で食事はコンビニの弁当などで済ませることも多かったが、それでは栄養も偏り体によくないので生活に慣れてくると次第に自分で自炊するようになった。

 よく実家のママに作り方やレシピを教わったかいもあり、人前には料理が上手くなった気がする。
 作れるのが専ら和食なのはまあ、洋食だとカロリーを取りすぎそうなきらいがあったからだ。

「けど梓の分も作るようになって大変かと思ったけど、作りがいがあるから一人分だけ作るより味が良くなった気がするな……」
「え、本当ですか?」
「うん。料理は愛情って言うけど、やっぱり好きな人に食事を作るとなると自然に愛情が込もるから、それだけ味が良くなるんだろうな。
 私から梓への愛情ということなら、尚更だ……って、え?」

 慌てて後ろを振り返る。

「あ、梓!?」
「お、おはようございます澪先輩」

 そこには、朝から顔を赤くした――服はちゃんと着てきている――梓がいた。

「い、いつからいたんだ?」
「つい、さっきからです」
「そ、そっか。
 でも梓の方は今日講義がお昼近くからだからまだ寝てても大丈夫だぞ?
 朝ごはんならちゃんと作って置いとくからさ」

 今日は私の方で早くから講義があるが、梓は昼頃からなので無理に私に合わせて起きてくることはない。

 ――しかし、




「そんなのいやです」

 梓は何やら、むっとした様子で言葉を返してきた。

「? どうしてさ?」

 理由をたずねると梓は目を伏せながら、

「だって……起きた時に先輩がいなくなってたら、いやです。寂しいじゃないですか」

 そんな、かわいいコトを口にしていた。
 赤い顔をしながらそんなコトを言うのは反則だよ、梓。

「梓」
「あっ……」

 思わず手が伸びて、梓を自分の腕の中に抱きしめる。
 いつ抱きしめても小さくて華奢ながら、あたたかくてすごく抱き心地が良い。

「大丈夫さ。
 梓を置いて勝手にどこかになんて、行ったりしないよ。
 私達、ずっと一緒だろ?」

 ――そう、決めたんだ。
 私は梓の傍にずっと一緒にいるって。
 梓の傍で、梓の笑顔を見ていたいから。そしてその梓の笑顔を守っていこうと。

 私自身の手でずっと――。

「……はい。ずっと一緒です、私達」

 梓もそっと腕を私の背に回し、抱き返してくれた。
 朝からなんだか幸せすぎて、頭がぼうっとしてくる。

「……あ、先輩、焼いてる鮭大丈夫ですか?」
「え? わわっ!」

 振り返りコンロに入っている鮭に目をやると、もう充分に焼き上がっており慌てて火を止めた。

「ふう……危なかった。もう少し遅れてたら、見事なコゲ魚になってたな」
「ご、ごめんなさい」
「いや、梓のせいじゃないよ。
 朝から梓に夢中になってしまった私のミスさ」
「!? せ、先輩っ!」

 ますます顔を赤くする梓を尻目に、テーブルに朝食を並べていく。

「さ、せっかく起きたんだし一緒に朝ごはん食べよ?」
「もう……先輩ったら」
「ほら、冷めないうちに」
「は、はい」

 いや、何はともあれ、調理中に梓と甘々なモードになるのは禁物だな。




「じゃあ先に行ってくる。戸締まりよろしくな、梓」
「はいっ」

 朝ごはんを食べ終え二人で食器の片付けを済ませると、私は先に大学へ向かうため支度を整えた所で玄関に出る。

 ――と、

「あ、先輩」
「ん、なん――」

 振り向いた瞬間、梓の顔が目の前にあり唇に柔らかな感触が走る。

「……いってらっしゃいです、澪先輩」

 唇が離れると、梓は暖かな笑みを浮かべながら私を真っすぐに見つめていた。
 朝の陽射しに負けないほどに、その笑顔と瞳は輝いていた。

「ああ、いってきます」
「んっ……」

 今度は私の方からそっと梓と唇を合わせにいく。
 出かける間際にキスなんてなんだか新婚夫婦みたいだな、とそんなコトを考えたり。

「昼休みになったら梓の所にいくから、一緒に昼ごはん食べような」
「はいっ!」

 そうして、愛する人の見送りを受けて一足先に玄関を後にした。




 ――時間が経つに連れ、様々なものが変わっていく。周りの環境、そして自分自身。

 だがこの想いだけは未来永劫、決して変わることはない。絶対に。

 こうして今も、そしてこれからもずっと。
 梓と心を繋ぎ、いつか見た蒼空の下を歩き続けていく――

(FIN)