「……あ、いたっ!」
火花でも走ったかのような痛みを指先に感じてから一拍の後、傷口からぷくりと血がにじみ出る。
――最近だいぶベースの弦が傷んできていて、今日は放課後、先に部室に来ていたこともあったのでみんなが来る前に弦を新しく取り替えておこう――そう思い現在、古い弦を取り外し新しい弦に取り替えていたのだけど。
その最中、弦の先で指を切ってしまったのだった。
その最中、弦の先で指を切ってしまったのだった。
「いつつ……」
血を見るのは苦手なくせに、こうして自分自身の血を見るのはこれといって何も感じないのは果たして良いことなのか悪いことなのか……それはさておくとして。
「まいったな……絆創膏、持ってないし」
まあ、傷自体は浅いしなめとけばなんとかなるか。
そう思って傷口をなめようとした所、
そう思って傷口をなめようとした所、
「こんにちはー……あ、澪先輩!」
「お、梓。お疲れ」
「お、梓。お疲れ」
部室の戸が開き、やってきたのは梓だ。
梓は私の姿を見ると嬉しそうに微笑みながらとことこと近寄ってきた。
梓は私の姿を見ると嬉しそうに微笑みながらとことこと近寄ってきた。
「ベースの弦、張り替えてたんですか?」
「ああ」
「ああ」
と、私が指を怪我してるのを見て梓が表情を変える。
「あれ、血……? 先輩、指から血が出てますよ!?」
「ん、ちょっと弦を張り替えてる最中にドジってさ。けどツバでもつけとけば大丈夫だよ」
「ん、ちょっと弦を張り替えてる最中にドジってさ。けどツバでもつけとけば大丈夫だよ」
心配ないよ、という感じで梓に笑いかけるが、
「ダメですっ! ばい菌でも入ったらどうするんですか!」
「あ、梓?」
「立ってください! ちゃんと水で洗わないと!」
「わっ、ちょ、ちょっと引っ張らないでくれ梓」
「あ、梓?」
「立ってください! ちゃんと水で洗わないと!」
「わっ、ちょ、ちょっと引っ張らないでくれ梓」
半ば強引にソファから立たせられると、水道の蛇口の方まで引っ張られてしまった。
「蛇口の水、強すぎませんか?」
「あ、ああ大丈夫」
「少しの間、じっとしてて下さいね」
「あ、ああ大丈夫」
「少しの間、じっとしてて下さいね」
、梓の小さな手が私の手首を支えて、蛇口から流れる冷たい水が傷口を洗っていく。
その間、梓は真剣な表情そのものといった様子で、本気で私の身を案じているということを私は少なからず感じていた。
その間、梓は真剣な表情そのものといった様子で、本気で私の身を案じているということを私は少なからず感じていた。
「はい、絆創膏もはりましたしこれで大丈夫です」
傷口を洗い終わりソファに戻ると、梓は鞄の中から絆創膏を取り出し、丁寧に私の指先に巻いてくれた。
「梓、いつも絆創膏持ってるのか?」
「私もギターの弦を取り替える時に弦の先で指を切って怪我しちゃうことがたまにあるので、一応こうして絆創膏をいつも持ってるんです」
「そうなのか」
「おかげで、今日は澪先輩の助けが出来てなんだかその……嬉しいです」
「私もギターの弦を取り替える時に弦の先で指を切って怪我しちゃうことがたまにあるので、一応こうして絆創膏をいつも持ってるんです」
「そうなのか」
「おかげで、今日は澪先輩の助けが出来てなんだかその……嬉しいです」
そう言いながら、梓は幼さを残す顔に柔らかな笑みを浮かべ私をじっと見上げ、思わずドキリとする。
――梓は私をまるで実の姉のように慕ってくれている――というかこうして私のことを気づかい、困っている時はよく助けてくれたりフォローしてくれる辺り、どちらが先輩なのか姉なのか分からないとも言える。
「澪先輩?」
だからこそ私も梓に恥じない頼れる先輩でいたいし、梓のためにも強くなりたいって、いつからかそう思うようになったんだよな……。
そんなことを考えていると、
そんなことを考えていると、
「あっ……もしかして、ありがた迷惑……でしたか? す、すいません私、なんか強引に治療しちゃってたみたいで……」
私が黙っていたのを何か勘違いしたのか、梓は急にあたふたとしながら視線を泳がせていた。
そんな慌てる梓の様子はなんだかちょっと微笑ましい。
そんな慌てる梓の様子はなんだかちょっと微笑ましい。
「ふふっ、ありがた迷惑なんてそんなわけないだろ?」
「えっ?」
「えっ?」
私は梓を抱き寄せ、そっと耳元でささやく。
「ありがとう、梓。私なんかを大事に思ってくれて」
「先輩……あっ」
「先輩……あっ」
そのまま顔を寄せ、梓のほっぺたに優しくキスをする。
数秒の後、柔らかいほっぺたの感触から唇を離すと梓はしばし呆然とした後、ぼふっ、と両頬を真っ赤にして口をぱくぱくしていた。
「ふふっ、よしよし」
「ふあっ……澪先輩……」
「ふあっ……澪先輩……」
そんな梓を抱きしめながら、落ち着けるようにゆっくりと髪を撫でて上げる。
華奢で小さくも、あったかい梓の体はすごく抱き心地が良くて、何だかほわっとした気分になってくるな……。
華奢で小さくも、あったかい梓の体はすごく抱き心地が良くて、何だかほわっとした気分になってくるな……。
「澪先輩」
「ん?」
「ん?」
腕の中にいる梓が至近距離でこちらを見上げる。
こっちは平静を装ってはいるものの実際は心臓はドキドキしっぱなし、首から上は梓と同様に加熱している状態だ。
こっちは平静を装ってはいるものの実際は心臓はドキドキしっぱなし、首から上は梓と同様に加熱している状態だ。
「澪先輩がいつも私に優しくしてくれるから……私も澪先輩に優しくなれるんですよ?」
「梓……」
「だから私なんかに、とか言わないでください。
私は澪先輩のことがその……好き……なんですから……」
「梓……」
「だから私なんかに、とか言わないでください。
私は澪先輩のことがその……好き……なんですから……」
梓の小さな手が私の背中におずおずと回り、まるで子供がするかのようにしがみつく。
そして、
そして、
「だから、あの……私の傍にいてくださいっ!」
真剣に、半分泣き出しそうになりながら、精一杯の声で私に言ってくれた。
「ああ、もちろんだ」
梓の肩を掴み、ほんの少し引き離して涙の潤んだ紅い瞳をじっと見つめる。
返事は考えるまでもない。
返事は考えるまでもない。
「私、ずっと梓の傍にいるから……な?」
「はっ……はい!」
「はっ……はい!」
私の返事に梓は泣きたいのか笑いたいのか分からないような顔をして、私を見ていた。
きっと後になったら、この瞬間ほど梓が愛しくてたまらないことはないって思うだろうな……。
きっと後になったら、この瞬間ほど梓が愛しくてたまらないことはないって思うだろうな……。
「梓、愛してるよ」
「私もです……澪先輩」
「私もです……澪先輩」
そうして、抱き合いながらどちらからともなく目を閉じて唇を近付けて――
――いつもなにくれとなく私に気をつかって、そして愛してくれる梓に私もうんと優しく、そしていっぱい愛していきたい。
梓の笑顔と、優しい心を。
ずっと傍で守りたいと、支えてあげたいと思うから――
ずっと傍で守りたいと、支えてあげたいと思うから――
「ムギちゃん、もう行こうよ~、邪魔しちゃ悪いよ~」
「出歯亀はよくないぞ、ムギー」
「はっ! つい澪ちゃんと梓ちゃんの絡みに釘付けになっちゃったわ……」
「んも~」
「ともあれこれでまた私のマイリストに新たな1ページが追加されるわ……うふふ」
「なんだぁ……リストだぁ……いったいなんのリストだよムギ―――っ!!」
「り、りっちゃん隊長!?」
「出歯亀はよくないぞ、ムギー」
「はっ! つい澪ちゃんと梓ちゃんの絡みに釘付けになっちゃったわ……」
「んも~」
「ともあれこれでまた私のマイリストに新たな1ページが追加されるわ……うふふ」
「なんだぁ……リストだぁ……いったいなんのリストだよムギ―――っ!!」
「り、りっちゃん隊長!?」
(FIN)