※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

「おはよー……って、やっぱり誰もいないか」

 朝の眩しい日差しが差し込んでいる自分の教室に入るが、やっぱりというべきか誰もいない。
 時刻が時刻なだけに当然といえば当然だけど、ね。

 ――今日は随分と早く六時前に目が覚めてしまい、いつも登校する時間までのんびりしてても良かったのだけど「早起きは三文の得」という言葉もあることだし。
 たまには早く登校してもいいかなと思い、こうして今までにない早さで学校にやってきていた。

 時刻はまだ七時になったばかり、ということで学校に来るまでの通学路に人気はほとんど見当たらなくて。
 自分の他には、部活で朝練をすると思われる生徒たちがのんびりと歩いてるぐらいだった。

「うちも朝練とかしたいけど……難しいかなあ。唯先輩や律先輩は寝ぼすけなほうだし」

 呟きながら自分の机に荷物を置いてとりあえず一息つこう……そう思ったところ、

「ん? この音……」

 何やら校舎のどこかから、楽器を奏でる音が聞こえてきた。
 気になった私は教室を出て、音のしてくる場所を辿っていく。

 最初はジャズ研が朝練でもしてるのかなとも思ったが、音が校舎の上の方から聞こえてくるとすぐにそれが違うと分かった。

(交差……ゆく……が… 求め…………弾け……)

 階段を上がっていくに連れ、やや控えめながら時に力強さを感じるベース音、そして共に聞こえる綺麗な歌声。
 もしかして、という予感が間違いない、という確信に変わっていく。

 そうして階段を上りきり、いつもの部室の中をそっとのぞき見る。

「BY FEELIN' YOUR LOVE 冷めた孤独な夜も
引き裂けない絆があるなら――」

 ――一心不乱にベースを弾きながら真剣な表情で力強く張り上げる歌声、揺れる艶やかな長い黒髪。

「JUST CALLIN' YOUR NAME 握り返した指を
離さないでこのまま RETURN TO HEART!」

 しばしの間、私は見とれていた……いや見惚れていた。
 それぐらい今の澪先輩は凛としていて、かっこよかったんだ。


「……ん? 誰!?」
「ひゃっ!?」

 歌い終わり私に気づいたのか、入口の方に振り返り声を上げた澪先輩に私は慌ててしまい、後ろに尻もちをついてしまった。
 部室から澪先輩が顔をのぞかせる。

「あ、梓?」
「いたた……お、おはようございます、澪先輩」





「朝練ですか、澪先輩?」
「ん、まあ一応そんなところかな」

 澪先輩に起こしてもらい部室に入った後、私が尋ねてみると、先輩はバツが悪そうに苦笑いを浮かべた。

 朝日が差し込んでいる部室はいつもとはまた異なる静かな雰囲気を醸し出しているように感じ、そんな部室に澪先輩と二人きりということで何だか胸がどきどきしている。

「家で練習しようとしても、夜は大きい音出すと近所迷惑になって練習出来ないからさ。
 だからこうして時々、早く学校に来て部室でちょっと練習したりしてるんだけど……」
「えっ、じゃあ今までも時々朝早く学校に来て練習してたんですか?」
「あ、ああ」

 ――すごい。やっぱり澪先輩はすごい。

 部活ではあまり練習出来ずに終わってしまうことが多い上、家では近所迷惑になりやすくあまり練習出来ないなど、練習環境に恵まれないからか。
 こうして朝早く学校にきて、一人朝練に取り組んでいるなんて。

「なんかまた恥ずかしいとこ、梓に見られちゃったな」
「そんなことないです! 朝早く学校に来て一人で練習してる澪先輩、かっこいいです! 私、惚れ直しました!」
「え……?」
「あっ……い、いや今のはっ」

 うわあっ、何言ってるの私!?
 咄嗟にとはいえ澪先輩への好意を口に出しちゃって、うっかり告白しちゃったんじゃ……ど、どうしよう……。

 そんなあたふた取り乱している私に、

「ありがとう、梓」
「ふえ?」

 先輩は照れくさそうに笑いながらそっと手を差し出し、私の頭を撫でてくれていた。

「梓に格好いいなんて言ってもらえてなんだか嬉しいよ、本当に」
「そ、その……えへへ」

 反応するべきとこはそこじゃないんですけど……とそう思いつつも、先輩がゆっくり頭を撫でてくれる感触にひたりきってしまっていた。
 なんだかゲンキンだなあ、私って。

「よかったら梓も一緒に練習しないか?」
「えっ、いいんですか?」
「二人だけじゃあまり練習にならないかもしれないけど……それでよかったら」
「いえ、喜んでです! やります!」

 断る理由なんてないし、朝のHRまでまだ時間はあるし。
 何より澪先輩と二人きりで練習なんてそうあることじゃない。

「よーし、じゃあ一緒にやろっか!」
「はい!」

~~♪





「ふう、そろそろ時間かな?」
「あ……そ、そうですね」

 気が付けば時刻は八時を迎えており、そろそろ教室に戻らないと朝のHRに間に合わなくなりそう。
 それと同時に澪先輩と二人きりで練習している時間がずっと続けばいいのに……そんなことを考えてしまって、そんな自分を心の中で強く恥じた。

「ところで先輩、私が部室に来た時に歌ってた曲はなんですか?」
「ああ、最近聞いた曲なんだけどすごくかっこいい曲だったからさ。
 声出しも兼ねてちょっと試しに歌ってみたら、何だか他人の曲じゃないぐらいにしっくり歌えた感じがしたよ」

 話をしながら部室をあとにして階段を降り、あとはお互い二年と三年、別々の教室に分かれるだけ。

「じゃあ梓、また放課後」
「あ、あのっ……」
「ん? どうかした?」

 自分の教室に向かおうとする澪先輩を、私はとっさに呼び止める。

「ま、また……私も澪先輩と一緒に朝練、付き合ってもいいですか?」

 私の言葉に先輩は一瞬きょとんとした表情をした後に、

「ふふっ、もちろんさ。梓となら大歓迎だよ」

 柔らかな笑みを浮かべて、そう言ってくれた。

「じゃ、また放課後にな」
「はっ、はい!」

 笑顔を残し自分の教室に向かっていく澪先輩を後ろからしばし見つめた後、私もギクシャクとしながら自分の教室に向かい始める。

 ――この顔のほてりをなんとか教室に戻るまでに収めないと、けど急がないと朝のHRが始まってしまうというジレンマを感じながら。

 私は改めて、澪先輩に抱く好意を自覚するのだった――

(FIN)