「んっ、涼しい……」
――現在、時刻は深夜0時半。
居間の窓を開け外に出ると、緩やかな風が私の髪を揺らす。
雲はほとんど出ていないみたいで空には満天の星空が広がっており、綺麗でどこか幻想的に見え、夢のようにも思える。
雲はほとんど出ていないみたいで空には満天の星空が広がっており、綺麗でどこか幻想的に見え、夢のようにも思える。
何をするでもなくベランダに座っていると、ほんの少し前まであった喧騒がまるでなかったかのように、今はすごく静かに感じられた。
「……けどちゃんと現実にあったし、楽しかったし嬉しかったな」
――もう日付は変わってしまったが、ほんの少し前までの11月11日……私の誕生日だった。
学校が終わってから、先輩方が私の家に集まってみんなで誕生日会を開いてお祝いしてくれて――ネコ耳だけでなく尻尾まで付けられちゃったりしたのはあんまり思い出したくないけど。
次の日は土曜で休みということもあって、皆さんには客間の方を使って私の家にお泊りしてもらい……というか、唯先輩と律先輩の「せっかく次の日休みだしお泊りしたーい!」という要望にムギ先輩の「私、梓ちゃんのお家にお泊りするの夢だったの~」という意見などによりやや強引に泊まったというべきかもしれない。
「盛り上がりすぎて疲れちゃったのか、皆さんすぐに眠って静かになったのはよかったかな」
「何が静かになったって?」
「ひゃっ!?」
「何が静かになったって?」
「ひゃっ!?」
いきなり後ろから声をかけられ思わず軽く飛び上がりそうになりながら振り返ると、そこには澪先輩が立っていて、優しげな顔でこちらを見ていた。
「眠れないのか、梓?」
「澪先輩も……ですか?」
「澪先輩も……ですか?」
ちょっと失礼ながら質問に質問で返すが、澪先輩は気にすることなくこくりと頷く。
「となり、いい?」
「はい、もちろんです」
「はい、もちろんです」
そうして、澪先輩は私の隣にそっと腰を下ろした。
肩が触れる距離、澪先輩がすぐ傍にいるということで私の胸の鼓動が少しばかり早くなる。
肩が触れる距離、澪先輩がすぐ傍にいるということで私の胸の鼓動が少しばかり早くなる。
「今日はすごかったな、あんなに盛り上がってさ」
「唯先輩と律先輩なんて、私より遥かに盛り上がってましたよ」
「はは……けどそれだけお祝いしてあげたかったんだよ、梓の誕生日を」
「そうですか?」
「まあ、単にはしゃぎたかったとこがあったのは否定出来ないかもしれないけどさ」
「唯先輩と律先輩なんて、私より遥かに盛り上がってましたよ」
「はは……けどそれだけお祝いしてあげたかったんだよ、梓の誕生日を」
「そうですか?」
「まあ、単にはしゃぎたかったとこがあったのは否定出来ないかもしれないけどさ」
そう言って二人で少し呆れながら、くすくすと笑い合う。
「お父さんとお母さん……今日も仕事で?」
「はい」
「はい」
両親は二人とも私の誕生日にツアーが重なってしまったことで出かけており、家を空けている。
自分の誕生日に両親が不在というのは確かに少し悲しいものがあるけど、
自分の誕生日に両親が不在というのは確かに少し悲しいものがあるけど、
「でも今日、誕生日に家にいてあげられなくてごめんって両親から電話もらいましたし……日曜日には二人とも帰ってきて、その時にお祝いしてくれるって言ってましたから」
「そっか」
「はい、それに今日は皆さんがいっぱい祝ってくださいましたし何より……」
「そっか」
「はい、それに今日は皆さんがいっぱい祝ってくださいましたし何より……」
言いながら、私はそっと澪先輩の腕に抱きつく。
「こうして澪先輩が傍にいてくれていますから、すごく嬉しいです」
「梓……」
「梓……」
澪先輩もまた、そっと私の肩を抱いてくれた。
やっぱり私にとって、澪先輩がすぐ傍にいてくれることは何よりも嬉しい。ただ傍にいてくれるだけで、嬉しいんだって思う。
「今からでも……」
「ん?」
「今からでも、甘えていいですか?」
「ん?」
「今からでも、甘えていいですか?」
もう日付は変わって誕生日は終わってしまっていたが、それでも誕生日会の時は他の先輩方の目もあって澪先輩に甘えることが出来なかったので。
その甘えられなかった分をせめて今、ここで埋めたかった。
その甘えられなかった分をせめて今、ここで埋めたかった。
既に誕生日も過ぎてしまったそんな私の身勝手なお願いに、
「ふふっ、もう甘えてきてくれてるじゃないか」
「あっ……」
「あっ……」
澪先輩は私を抱き上げるとそのまま自分の膝の上に下ろして、ぎゅーっと抱きしめてくれた。
すごくあったかくって、そして柔らかい澪先輩の感触に半ば恍惚となりかけてしまうぐらい、心地好い。
すごくあったかくって、そして柔らかい澪先輩の感触に半ば恍惚となりかけてしまうぐらい、心地好い。
「梓」
「はい」
「キス、してもいいかな」
「はっ……はい、お願いします」
「はい」
「キス、してもいいかな」
「はっ……はい、お願いします」
お互い顔が目の鼻の距離、吐息を感じるぐらい近づいている状態で、静かに私は目を閉じる。
――そうして、
「んっ……」
そっといたわるように、澪先輩の唇が私の唇に優しく重ねられた。
ぷるんとした澪先輩の唇を通して先輩の想いや優しさ、様々な感情が伝わってくるような……そんな気がした。
唇が離れると、澪先輩と再び目と鼻の先で見つめ合う。
「大好きだよ、梓」
「私も大好きです、澪先輩」
「私も大好きです、澪先輩」
私の言葉に澪先輩はまた柔らかく微笑む。
「先輩、もう一回……」
「ん……」
「ん……」
「おーい二人ともー、まだかー?」
「早く行かないとマックスバーガーの朝マックス、終わっちゃうよー!」
「うふふ、二人ともあわてないあわてない」
「早く行かないとマックスバーガーの朝マックス、終わっちゃうよー!」
「うふふ、二人ともあわてないあわてない」
玄関口の方から律先輩と唯先輩の急かす声、それをなだめるムギ先輩の声が聞こえてくる。
「もうっ、唯先輩がなかなか起きなかった上にクセ毛を直すのに手間取ってたから、私達が洗面台で髪を梳かせなかったんじゃないですか」
「まあまあ、幸い私達はクセ毛は余りないから髪を梳かすのにそんなに時間かからないからさ」
「まあまあ、幸い私達はクセ毛は余りないから髪を梳かすのにそんなに時間かからないからさ」
先に髪を梳かし終えた澪先輩はぼやく私をなだめながら、私の髪を梳かしてくれている。
いつもは自分でやっているドライヤーとブラシで髪を梳かす感触が、今日はなんだかすごく心地好い。
やっぱり、これも澪先輩がやってくれているからかな。
やっぱり、これも澪先輩がやってくれているからかな。
「これでよしっと……後は結ぶだけだな」
「あ……澪先輩、あのっ」
「あ……澪先輩、あのっ」
「お、お待たせみんな」
「すいません、お待たせしました」
「よっし、じゃあみんな行くとす……む?」
「はれ?」
「あら♪」
「すいません、お待たせしました」
「よっし、じゃあみんな行くとす……む?」
「はれ?」
「あら♪」
髪を梳かし、結び終えて玄関まで澪先輩と一緒にやってくると、待っていた先輩方はちょっと驚きの表情になる。
「あ、ああ。梓のヘアゴム借りてポニテにしたんだけどさ。どうかな」
「澪先輩にひとつヘアゴムを貸したので、私も今日はポニテです」
「澪先輩にひとつヘアゴムを貸したので、私も今日はポニテです」
髪を結ぶ時になって、ふと澪先輩と一緒の髪型にしたいなと思ったのだけどそのまま結ばないというのもありきたりかなと思い。
そこで澪先輩にお願いして私のヘアゴムを使っていただき、一緒のポニーテールにしていただいたのだった。
そこで澪先輩にお願いして私のヘアゴムを使っていただき、一緒のポニーテールにしていただいたのだった。
「ほほーう、二人してお揃いのポニテとは……朝から見せつけてくれんじゃないか」
「ええ、単に梓ちゃんが髪を下ろすよりも、姉妹のように見えてすごくいいわ~」
「うん、澪ちゃんもあずにゃんもかわいいよ!」
「ええ、単に梓ちゃんが髪を下ろすよりも、姉妹のように見えてすごくいいわ~」
「うん、澪ちゃんもあずにゃんもかわいいよ!」
どこか苦笑いする律先輩、うっとりとするムギ先輩、純粋に褒めてくれる唯先輩と三者三様の反応を見せる中、澪先輩は少し気恥ずかしそうにしながらも嬉しそうに笑みを浮かべてくれていた。
恐らく、私も澪先輩と同じような顔をしてるんだろうなって思う。
恐らく、私も澪先輩と同じような顔をしてるんだろうなって思う。
「じゃ、朝マックス食べにみんな出撃するぞー!」
「了解であります、りっちゃん隊長!」
「朝マックス……楽しみだわ~」
「ふふっ、朝から元気だなみんな」
「ほんとですね……ふふっ」
「了解であります、りっちゃん隊長!」
「朝マックス……楽しみだわ~」
「ふふっ、朝から元気だなみんな」
「ほんとですね……ふふっ」
元気いっぱいに玄関を出ていく先輩達を見て、今日もまた騒がしくなりそうだと思いながらも、それと同時になんだか胸がわくわくしている。
「さ、私達も行くか!」
「はい!」
「はい!」
差し出してくれた手を取り、私と澪先輩も置いてかれまいと、朝の陽射しが降り注ぐ中を駆け出す。
細くて長い手で、優しくも確かな力で私の手を握ってくれる、澪先輩の感触を感じながら――
(FIN)