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 ――チッ、チッ、チッ……カリカリカリ……。

 時計の針の進む音、それに机でペンを走らせる音だけが部屋に静かに響いていた。

「んー……疲れたぁ……」

 ようやく試験勉強が一区切りつき、少し椅子を机から離して大きく伸びをする。

 部屋の外がずっと静かからか、あるいはずっと机に向かい集中していたからなんだろうか。
 まるでこの自分の部屋だけが、世界から断絶されたように感じるくらいだった。

 ――と、

「梓、入っていい?」

 部屋をノックする音と共に、外からお姉ちゃんの声が。

「うん、いいよ澪お姉ちゃん。入って」

 私の声に応じて部屋のドアが開き、お姉ちゃんがゆっくりと部屋に入る。

「ごめん、まだ勉強中だった?」
「ううん、ちょうど今ひと息付いたところだよ」
「ホットミルク入れてきたんだけど、飲まないか?」
「あっ、ありがとう澪お姉ちゃん。いただきます」

 お姉ちゃんからカップを受け取り、少しずつ飲むと程よくあったかい牛乳が食道を通っていき、試験勉強で疲れた体にしみ渡っていく。

「ん、あったかくておいしい……」
「熱すぎない? あまり熱くなりすぎないようにはしたつもりだけど……」
「ううん、丁度いいあったかさだよ」

 猫舌で熱い食べ物や飲み物が苦手な私に気を遣って、熱さを調節してくれたお姉ちゃんの気配りがまた嬉しい。
 こういうお姉ちゃんの優しいところ、ほんとに好きだなあ……。

「そっか、よかった」
「澪お姉ちゃんも今までずっと試験勉強?」
「ああ。今度の期末はどの教科も範囲が広くて大変だよ」

 お姉ちゃん、三年生に上がって今年は受験生だし、やっぱり勉強も今まで以上に大変なんだろうな……私も来年は覚悟しておかないと。

「とても痛み入ります、澪お姉ちゃん」
「ん、なんだ? その武士言葉」
「えへ、今ちょうど歴史のとこ勉強してたから」
「ふふっ、なんか梓が言うと可愛いな」

 そう言ってお姉ちゃんはクスリと笑いながら、私の頭を撫でてくれた。

「えへへ」
「よしよし、梓は可愛いなあ」

 お姉ちゃんに頭を撫でられて嬉しくなっちゃうなんて子供だなあ、と思いつつもやっぱり嬉しいものは嬉しい。
 可愛いなんて言ってくれながらであれば、なおさら嬉しくなっちゃう。

「梓はまだ勉強するのか?」
「うーん……」

 時計を見ると、もう深夜1時を回ろうというところ。
 明日も――もう今日になっちゃってるけど――学校があることだしここまでにして、床についたほうがよさそうかな。

「ううん、今日はここまでにして寝ることにするよ」
「ん、そうだな。明日も学校があることだし……私も部屋に戻ったら寝るよ」
「あったかい牛乳入れてくれてありがと、お姉ちゃん。美味しかったよ」
「どういたしまして。じゃあカップは私が台所に持っていくから」

 そうして飲み終えたカップを受け取り、部屋を出ようとするお姉ちゃんにおやすみなさいと言おうとしたところ、

「……と、その前に」
「ふえ?」
「んっ」

 お姉ちゃんの顔がスッと近づき、頬っぺたにちゅっ、と柔らかい感触がして――すぐに離れる。

「おやすみ、梓」

 そうしてお姉ちゃんは何事もなかったかのように、柔らかい微笑みを残して部屋を出ていった。

「――――」

 お姉ちゃんが部屋を出ていってしばらくして、ようやく我に返って気づく。
 わたし今、お姉ちゃんからキス……されたんだ。

「お姉ちゃんとキス……澪お姉ちゃんとキス……きゃーっ!」

 できれば頬っぺたではなく口にしてくれたら最高だったかなあ、なんて思っちゃったけど流石にそれはゼイタクってものだし、ちょっといけないことだよね。

「なんだか今日はぐっすり眠れそう……えへへ」

 しかしその後、ベッドに横になってから頬っぺたにしてくれたキスの感触を思い出しキャーキャー騒いでしまって、再び部屋にやってきたお姉ちゃんに「うるさいから静かにしなさい」と怒られたのは、ナイショ。

 お姉ちゃんの唇がとても柔らかいということ、私は今度の試験に出そうな問題よりも忘れずに覚えておこう――

(FIN)