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「……さ、…ずさ」

 ――誰かが私を呼んでいる。
 沈み込んでいた意識が、誰かからの私を呼ぶ声でゆっくりと浮上していく。

「ん……うう、ん……」

 ぼんやりとしながら目蓋を開くと、部屋の明かりが目に入り、それが眩しくて私はまたぎゅっと目蓋を閉じてしまう。

「梓、梓」
「ん、んん……?」

 と、何かが部屋の明かりを遮ったおかげで眩しさを感じなくなり、再び目蓋を開く。
 すると、

「ほら梓、起きないとキスするぞ?」

 ――私の視界いっぱいに、澪先輩の顔が映っていて。
 私がぼーっとしている間に、潤った桜色の唇が近づいて――

「にゃあっ!? あうっ!」
「うわっ!? あつっ!」

 驚いた私は飛び起きようとしてしまって、勢いよく澪先輩のおでこと私のおでこがごっつんこ。
 互いにおでこがぶつかった痛みにしばし悶絶してしまう。

「いったあ……何するんだよ、梓ぁ……」
「あうう……す、すいません……驚いて飛び起きようとしちゃいまして……」

 ずきずきと痛むおでこをさすりながら、澪先輩にぺこぺこと謝る。
 おかげですっかり目が覚めたのは正にケガの巧妙といったところかもしれないけれど……。

「全く……年越しの直前まで一眠りするから、その時になったら起こしてくれって言ったの梓だろ?」
「ご、ごめんなさい……」
「まあ、私の起こし方がちょっと悪かったのは認めるけどさ」

 そう言いながら澪先輩はおでこをさすりつつ、多少バツが悪そうに頬を掻く。

 ――今日は12月31日、大みそか。

 両親は大みそかは夜から地方のライブハウスで年越しライブを行うということで、泊まり込みで出かけてしまって年越しにかけて家には私一人に。

 数日前に大みそかはそうなることを澪先輩に話したところ、こうして当日は私の家にやってきてくれて、年が越すのを一緒に過ごしてくれていて。
 それと同時に年越し前まで少し眠りたいと先程私が澪先輩に無理を言って今まで澪先輩の膝の上で一眠りさせていただいていたこともようやく思い出した。

「大丈夫? たんこぶとか出来てないか?」
「わ、私なら大丈夫です。それより先輩の方が……」
「私? 私なら大丈夫さ。頑固者で頭は固いほうだからさ」

 心配する私に澪先輩は自虐を絡めながら心配ない、といった感じでひらひらと手を振る。
 しかし澪先輩が頑固で頭が固いというのは納得がいかないので、

「むっ、それなら私の方が頑固で頭固いですよ。 純から一度自分で言ったことは絶対に曲げない頑固者って言われたことあるんですから」
「いいや、私の方が梓よりずっと頑固者さ。
 律からは一度自分でやると決めたことは何がなんでもやろうとする強情っ張りなんて言われたことあるんだからさ」

 私の方が頑固だと言ったところ、澪先輩もまた自分の方が頑固だと反論してくる。

「いいえ、私の方が……!」
「いいや、私の方が……!」

 互いに譲る気なし、ずいっと顔を寄せて至近距離でにらみ合う。

「むう……」
「ぬう……」

 そのままの体勢で5秒……10秒。
 そして15秒ほど経とうというところで、

「ぷっ……あははっ!」
「ふふっ……はははっ!」

 お互い、ほぼ同時のタイミングで大笑いしてしまっていた。

「あはは……なんだかバカバカしくなっちゃいましたよ」
「ふふっ……梓も? 私もだよ、どっちが頑固かで互いに譲らずにらめっこなんてしちゃったりしてさ」
「ほんと、私達って似た者同士ですね……えへへ」

 ――私も澪先輩もお互いに生真面目で、頑固で、融通がきかなくて。

 けどそんな似た者同士だからこそ私達は深く分かりあうことが出来て、こうして恋人同士になれたんだよね……。

「……っと、いよいよ年越しみたいだな」
「あっ、そうみたいですね」

 先程から点いているテレビを見ると、いよいよ年越しまで残り1分を切ったようで画面隅ではテロップでカウントダウンが始まっていた。
 どうやら今見ている番組では生放送でどこかの大きいライブ会場にて、年越しライブを行っているみたい。

「やっぱり年が明ける直前って、すごくドキドキするな」
「はい、私もすごく今ドキドキしてます」

 澪先輩に肩を抱かれ、寄り添いながら、年が明ける瞬間を固唾をのんで待つ。
 ほんとはこうしてドキドキしてるのは年が明ける直前だけじゃなくて澪先輩が傍にいてくれているからなんだけど……ね。

「よし、10秒前から一緒にカウントダウンしよっか」
「はい、じゃあ年明けたら一緒にハッピーニューイヤーって言いましょうか」
「お、いいな。じゃあそれでいこう!」

 そう言っていると、いよいよ年明けまで残り10秒を切ろうというところまできていて。
 テレビの生放送でのカウントダウンに合わせて、澪先輩と一緒にカウントダウンを数えはじめる。

「10! 9! 8! 7! 6!」
「5! 4! 3! 2! 1!」

 ――そして、

「ハッピーニューイヤー!」
「ハッピーニューイヤー! ですっ!」

 年明けの瞬間、テレビの向こうでは派手な紙吹雪が舞い飛び、無事に年が明けたことをみんなで喜び合っている。
 もちろん、私達も――

「……ふふっ、明けましておめでとう、梓」
「えへへ……こちらこそ明けましておめでとうございます、澪先輩」

 新年のあいさつを返しながら私はぽふん、と澪先輩に抱きつく。

「ん、よしよし」

 そんな私を澪先輩は優しく、あったかく抱き返してくれる。

「今年もよろしくお願いします……澪先輩」
「うん……私の方からも今年もよろしくな、梓」

 そうして新年のあいさつを終えると互いに見つめ合い、静かに目を閉じ、唇を近付けて――

「ん……」

 数秒の後、重なり合った唇が離れ、目を開けると澪先輩は私の目の前で柔らかく微笑んでいた。

「今年最初のキス、だな」
「はいっ」

 私も微笑み返すと、今年最初のキスの感触をじっくりと味わうかのように、私達は再び唇を重ね合わせる。

 ――今年もきっと素晴らしい年になると思う。
 だって、澪先輩が傍に居てくれるから。

 今年だけじゃなく、来年も再来年も。
 ずっと私の傍に居てくださいね、澪先輩――。

(FIN)