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「んまいっ!」
「まったくだ、授業終わりに飲むムギのお茶はやっぱ最高だぜ!」
「うふふ、ありがとう」

 今日もまたいつも通りの放課後を迎え、部室にてムギ先輩のいれてくれたお茶をありがたく頂いている。
 確かに律先輩の言うように、授業を終えた後こうしてムギ先輩のお茶を飲むと少し疲れた体にしみ渡ってより美味しく感じる気がするな。

「今日のもまた香りがすごく良いな、このバラの香りが鼻に抜けていくのが爽やかで……」
「味も甘味や酸味、渋味とすべての釣り合いが絶妙です」
「そして飲んだあとの後味がさわやかで甘くて、いつまでも香りが口から鼻に抜けて気持ちが浮き立つような感じになるよ」

 実際、今日のムギ先輩のいれてくれたお茶もまたすごく美味しくて。
 澪先輩と一緒にちょっとした味の感想を……って言っても大半は私ではなく澪先輩が言っちゃっているけどね。

「まあ、うれしいわ! 二人ともそこまで分かってくれて」
「ああいや、いつもムギには美味しいお茶を飲ませてもらってるから少しは言えるようになったみたいでさ。な、梓」
「そ、そうです。大したことじゃ……」
「なにおー! それは私達に対しての当てつけか黒髪姉妹ども!」
「そうだそうだー! この体格差萌えめー!」
「おい、当てつけなんてそんなこと言ってないって……」
「そうですよ……っていうか、私と澪先輩の体格差を言うのは私にとって地味に禁句ですっ!」

 やや過剰反応気味に苦言を呈す律先輩と唯先輩。
 何気に唯先輩の言う「黒髪姉妹」というところを澪先輩が特に否定しなかったのは、少し嬉しかったりもするけど……。

「ちょっと、お手洗いに行ってきますね」
「おお~あずにゃん、行ける時に行っといれ~」
「唯、さりげなくオヤジギャグ含むのはやめとけ」
「梓、私も練習前にお手洗い行っておきたいから一緒に行こっか」
「あ、はいっ」

 お茶のお代わりも頂いてしまって結構飲んだからか、尿意を感じてお手洗いに行こうとしたところ澪先輩も一緒にお手洗いに行くことに。

 ただお手洗いに行くだけなんだけど、澪先輩と二人きりというのは嬉しく思っちゃうな。






「うーっ、冷たいです……」
「がまん、がまん。寒い季節なんだから仕方ないよ」

 用を終えて、澪先輩と一緒にぱしゃぱしゃとお手洗いの水道の蛇口から流れる水で手を洗う音を聞く。
 やっぱり寒い時期の水道の水は冷たくって苦手だな……。

 そうして手を拭き終えて廊下に出ようとしたところ、

「梓」
「澪先輩?」

 澪先輩の呼ぶ声に振り返ると、先輩は私の体に腕を回し、

「え?」

 そのまま柔らかく、抱き寄せられた。
 ぽふん、といきなり澪先輩の柔らかい感触を全身に感じて軽く脳が沸騰しかける。

「みっ、澪先輩!? あ、あの……!?」
「梓……」

 困惑する私の耳元で澪先輩の落ち着きのある大人びた声が聞こえて、ますますドキドキしてしまう。
 心の中で何度も落ち着け、落ち着けーと自分に言い聞かせながら先輩にたずねる。

「どっ、どうしたんですか?」

 すると、

「せっかく梓と二人きりだから……唯じゃないけど、今のうちに梓分を補給しとこうかなと思ってさ」
「え……」
「嫌かな?」

 そう言うと澪先輩は少し悲しげな表情で私を見つめる。
 そんな悲しそうな顔をしなくたって、

「ま、まさか! 嫌なわけないです! 澪先輩にぎゅってされて嫌なわけなんてないですよ!」

 元より澪先輩から抱きしめられて私は嫌がったりなんてしないし、それこそ澪先輩ならいつでもどんとこい、というものだ。

「ん、そうか……よかった」
「なら、私も澪先輩分をいっぱい補給しますからねっ」

 一方的に抱きしめられていた私も負けじと澪先輩の背に腕を回し、ぎゅっと澪先輩を感じる。

「ふふっ、じゃあお互い今のうちに補給し合わないとな」
「はいっ」

 こうして学校で澪先輩と二人きりになる機会はなかなか出来ないし。
 お互い補充出来る時に補充しないと、ね。

「ほら、見てみなよ鏡のほう」
「え?」
「私と梓が鏡に写ってるぞ」

 トイレのに備え付けられている鏡を見ると、私と澪先輩が抱き合っている姿が映っていて。
 それを見て、なんだかまた顔に熱が集中してきてしまった。

「どうした?」
「あっ、その……何だか鏡で澪先輩と抱き合ってるのを実際に見てみて、ちょっと恥ずかしくなったっていうか……」
「ふふっ、なるほどな」
「せ、先輩は恥ずかしくなりませんか?」

 澪先輩に聞いてみたところ、

「んー……確かにこうして鏡で見るとちょっと恥ずかしいけど……」
「けど?」
「それ以上に私の腕の中に梓がいるっていうことがが実感出来て、嬉しさとか喜びのほうが大きい……かな」

 それこそ嬉しそうに、穏やかに微笑みながら。
 澪先輩は私にそう答えてくれていた。

「な、なんだか恐れ多いです、私なんかにそこまで言ってもらえて……」
「何言ってるんだ、梓だからここまで言えるんだぞ?」
「ふあっ」

 ちょっと強く、ぎゅーっと抱きしめられながら澪先輩に頭を撫でられて、ちょっとした夢心地気分。
 このままずっと甘えていたい……そう思っちゃうとこだけれど、

「さて、そろそろ戻ろっか? あまり長い間戻らないと怪しまれそうだし」
「そ、そうですね……」

 あまり戻らないと、他の先輩達に怪しまれそうだし――特にムギ先輩はこういったことに対しての反応や直感は鋭いものがある――そろそろ戻ったほうがいいだろう。
 けど、

「も、戻る前に……」
「ん?」
「えっと……その……」

 戻る前に澪先輩としたいことがあるのだけど、中々うまく口に出てこない。

 そんな私に澪先輩はきょとんと目を丸くしていたが、ふと何か思い至ったかのように笑みを浮かべた。

「キス、しよっか?」
「えっ? どうして……」

「どうしてキスしたいって分かったんですか?」と口に出そうとしたところ、

「だって、梓の顔にそう書いてあるから」
「ええっ!?」
「それだけ今の梓、顔が真っ赤で分かりやすかったってことだよ」

 い、今の私ってそんなに分かりやすかったかな……何だか恥ずかしい。

「じゃあ目閉じて、少し顔上げて?」
「は、はい」

 澪先輩に言われる通りに目を閉じて、少し顔を上げる。
 こうしたキスされる直前って、どうにも心臓が異様にドキドキしてしまって慣れなかったりする……。

 そうして私の頬に澪先輩の両手の感触を感じたかと思うと、

「んっ……」

 ――私の唇に、澪先輩の唇がゆっくりと触れた。

 澪先輩の唇はやっぱり柔らかくって、あったかくって、甘い。
 そして何よりこの上ない幸せを感じる――

「……うふふ」
「……えへへ」

 唇を離し、顔を見合わせ、特に理由もなく澪先輩と微笑み合う。
 それが何だか、すごく嬉しい。

「さ、部室に戻ろっか?」
「はいっ!」

 キスを終えて互いにたっぷり補給しあった私達は、他の先輩達からある程度の詰問をされることを覚悟しながら部室へと急ぐのだった。

(FIN)