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「もう来てるかな……あっ」

 学校が終わり家の近くにある公園までやってくると、その一角にあるベンチで私の先輩にして……私の恋人が既に待っていた。

 まるで黒曜石でも溶かし込んだような艶やかで綺麗な黒い髪をたゆたわせ、暇を潰すかのように携帯を適当に操作していたが、私がやって来たことに気付くと携帯を懐にしまいこちらに顔を向け、柔らかく微笑んでくれた。

「おかえり、梓」
「す、すいません澪先輩、待たせちゃいましたか?」
「ううん、今来たところさ」

 以前よりも心なしか華麗さを感じるようになった澪先輩の瞳に見つめられ、何だか意味もなくどきどきしてしまう。

「じゃ、行こっか?」
「はいっ」

 澪先輩はベンチから立ち上がると、そっと私の手を取ってくれて。
 そのまま私達は一緒に歩きだした。

 ――今日は2月14日、今年もまたバレンタインデーを迎えて。

 当初は先輩達が大学に行ってしまい、それに加えて今年のバレンタインは平日にあるのでチョコを渡すのは難しいかなと思ったけれど。
 澪先輩が事前に講義を多く受け、今日この日は午前中いっぱいで講義を終えるようにしたことでこうして私の元にやって来てくれて、少し申し訳なく思いつつも……やっぱり嬉しかった。

「おじゃましまーす」
「そこのソファに座って下さい澪先輩。コーヒーと紅茶、どっちにします?」
「じゃあ紅茶で……あ、手伝おうか?」
「大丈夫です、澪先輩はお客なんですからくつろいでいて下さい」

 家に帰ってくると、先輩を居間にあるソファに座らせて、自分は台所の方でチョコを皿に移す。
 チョコは既に出来上がっているので、後は程よい大きさに切って皿に移すだけだ。

「どうぞ、澪先輩。食べてくれるとその……嬉しいです」
「おおっ」

 ――澪先輩のために私が作ったチョコは、澪先輩が好きなガトーショコラ。

 表面はさっくり、中はしっとりと出来上がっている……とは思うんだけど澪先輩の口に合うか、それがちょっと不安。

「ありがとう、梓! 今年も手作りで?」
「は、はい。頑張って作ったんですけど、先輩の口に合うかどうか……」
「ふふっ、私は味音痴じゃないから大丈夫だよ。
 それに大切なのは、どれだけ想いを込めて作ったか……だろ?」

 そうは言われても、やっぱり美味しく出来ることにこしたことはないし……やっぱり心から澪先輩に美味しいって言ってもらいたい。
 上手く出来てればいいんだけど……。

「じゃ、食べてもいいかな?」
「はっ、はい、どうぞ」
「いただきます、あー……んっ」
「ど、どうです?」

 ――期待と不安が半分ずつ、私の胸の内を支配する。

 普段なかなか会えないだけに、やっぱり自分でその……愛情込めて作って澪先輩にあげたほうが伝わると思ったのでこうして今年も自分で作ったわけだけど……もし美味しくなかったら……。

 ――と、

「うん、美味しい! すごく美味しいよ、梓!」
「えっ、あっ……ありがとうございます!」

 心から嬉しそうに美味しいと言う澪先輩の言葉で安堵した後、すごく嬉しい気持ちで胸がいっぱいになる。
 澪先輩のために作ったチョコを、澪先輩から心から美味しいと言ってもらえて、私も本当に嬉しい……!

「澪先輩っ!」
「うおっ、梓!?」

 堪らず私は澪先輩の胸に飛び込み、まるで子供が甘えるかのように思いっきり抱き着く。

「もう、甘えんぼうだな梓は……」
「バレンタインぐらい、思いっきり甘えたいんです」
「そっか……それもそうだな、ふふっ」
「えへへ」

 澪先輩からも私を抱きしめてくれて、そのままそっと頭を撫でてくれて。

「キス、しよっか」
「はい」

 静かに見つめ合い、そっと唇を重ねると、柔らかくってあったかくって、そして……とっても甘い味がして。

「愛してる、梓」
「はい、私も……」

 互いに想いを交わし伝え合い、何度も唇を重ね、その後は肌を重ね合わせ……。

 今年のバレンタインは澪先輩と一緒に、何よりも甘くて幸せな時間を過ごすことが出来たのだった。

(FIN)