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「唯っ、律っ! その、これは違うんだっ!」
「ちょっと待ってくださいっ、澪先輩」

我に返って後を追おうとした澪先輩の両手をつかみ、あわてて引き留める。
考えろ、考えるんだ私。この瞬間を逃したら、二度とチャンスは巡ってこないかもしれない。

「今すぐ追いかけても、あとで釈明しても、状況は変わんないです」
「それは、そうかも知れないけど」
「だったら続きしましょう、このまま」
「けど……」

先輩は迷ってる。この人を振り向かせるためには、生半可な言葉じゃダメ。何か決定的な言葉でないと。

だったら私には、もうこれしかない。

「好きです」

確かに見た。揺れ動いていた先輩の瞳に、驚愕の光が浮かぶのを。

「ずっと好きでした、先輩のコト。キレイで、努力家で、真面目で優しい先輩のコトが」

思いつくままに言葉を紡ぐ。見てください、聞いてください、私のコトを。

「だから私、先輩といっしょなら、たとえ地獄に落ちてもいいですっ!」

それだけ吐き出してからぎゅっと目をつぶった。なんて言われるだろう。引かれてしまっただろうか。もう怖くて先輩の顔なんかまともに見れない。

身を切られるような沈黙が続く。いったいどれほどの時間がたったのかもわからない。

「そんなことにはならないよ」

優しげな調子の言葉に誘われるように私は目を開く。すると視界いっぱいに、先輩の柔らかな笑顔が広がっていた。

「どうしてですか」
「だって……私が梓のコト、必ず助けるからさ。大好きな梓のコトを」

心臓が跳ね上がる。きっと私は耳まで真っ赤になっているに違いない。ちょうど今の澪先輩みたく。

「じゃあもう一度目をつむって。見つめられたままじゃ、私も恥ずかしいから」
「はい」

短く答え、言われる通りにする。陽射しが遮られたことを肌で感じる。

真夏の陽光、潮風の香り、打ち寄せる波の音、そして……柔らかな先輩の感触。
そんな夢の中みたいな光景を舞台にして。

先輩と私だけの饗宴が、静かに幕を開ける──。

(おしまい)




数日後、私は憂に誘われるまま、プールへと遊びに出かけた。

「あれえ、梓ちゃんってずいぶん綺麗に焼けてるねー。全然水着の跡がないんだけど」
「そ、それは……」

答えに詰まる私を見つめる憂の瞳に、唐突に理解の光がともった。

「あー、なるほど。そういうことかー。ふーん、澪さんとねー。へーえ」
「な、何でバレてるのーっ!!」

更衣室いっぱいに私の絶叫が響き渡ったのはいうまでもない。
ひょっとしてこれも一種の嬉しい悲鳴、というヤツなのだろうか──。

(ホントにおしまい(笑))